「さあ最終兵器のお披露目だ!残念ながら彼女ではない!」
「わかったから早く出しなさい」
敵に囲まれていても横島はいつも通りで美神も緊張せずにいられる。
やはり前世の記憶の影響で数こそ多いものの格の違いで恐怖を感じない…のだが前世と違って技術はともかく霊力は月とスッポンほどの差があるので本当は危機的状況なのだが。
美神に言われたからではないが素早く懐から取り出したものは…
「藁人形?」
「ふっふっふ、我が家秘伝(嘘)を喰らえ!」
近くにあった木に藁人形を当てて釘を打つ。
カーンッと呪われたいい音が鳴り響く…すると何が起こったのか訳がわからないといった表情と苦痛の表情が混じった顔で親衛ザル達は胸を押さえて蹲る。
美神は驚いて横島に詰め寄る。
「す、凄いじゃない。まさか触媒もなしにそんな呪術が使えるな——「ぐふっ」——よ、横島クン?!」
なぜか横島自身も親衛ザル達と同じように胸を押さえている。
一体何が起こったのか訳がわからず困惑気味に横島を助け起こす。
「じ、実はこれ…相手に見られてたら自分にも呪いが襲い掛かるんすよ」
なんという自爆。
ちなみにさすが横島と言うべきかこの呪われた人形の対象が男性だった場合にしか効果はない…つまりオスのみで美神は対象外。
そして目の前にいる敵の中にメスが居ないのは不幸中の幸いである。
「そ、そんな事して大丈夫?」
「うっす カーンッ おふっ!お、俺の事はいいっすから、み、美神さんはボスザルを」
ダメージから回復して襲い掛かってきそうだったのでもう一発打ち込んで足を止める。
もちろん打つ本人にもダメージがやってくるが美神をここで更に霊力を消費させては致命的と判断しての行いなのだ…ならばやる事は一つ。
「…わかったわ。私があいつ倒すまで怪我してもいいけど死ぬんじゃないわよ!」
返事も聞かず既に逃げているボス子ザルを追いかけていった。
そして横島は一人になる。
「………早まったか俺?!良い格好しようとは思ったけどここまでする予定じゃなかったぞ…なんでか美神さんと居るとなんかこう…守らないと…て思うんだよな〜俺なんかがこんなことしたってどうせ…それによく考えたらここで活躍しても誰も見てくれてなかったら意味がない!って、てめぇ等何処いっとんのじゃ〜!」
自分の感情が制御できずない事への戸惑いと見守ってくれる女性もいない事を嘆いていると美神の後を追おうとするサル達を見かけ、もう一発釘を打つ。
やはりここにいる全員が膝を付く…もちろん自分も含めて。
「ウキー」
「だからってこっち来るんじゃねぇ〜!」
自分達の苦しみの原因が横島である事を理解したのかターゲットを横島に変えて襲い掛かろうとするが何度も何度も釘を打ち込んで足を止める。
だが、これには致命的な弱点があった。
それは藁人形に釘を打ちつけるためには横島自身が動けない事だ。
「くそ〜…美神さんヘル〜プ!」
さっきまでのシリアスな横島から一変して泣きながら助けを求める横島でだったがもちろん既にこの場に居ない美神に聞こえるはずもないし聞こえたとしても無視されるのが関の山だろう。
「寄ってくんじゃねぇ!」
大見得を切った馬鹿は早く美神がボスを倒してくれる事を願いながら独り、金槌と藁人形を持って奮闘する事となった。
「まさかボスザル倒してもお前等居たりせんよな?」
それは神のぞ知る。
「この、逃げるんじゃないわよ!やっと私の見せ場なんだから!」
もちろん言ったからといって逃げるのをやめる訳もなく、サラっとメタな発言しているところを見るとまだまだ余裕があるようだ。
枝から枝へと飛び移って移動しているボスザルに離されこそしないが縮まる事もない鬼ごっこをしている感じだ。
以前までの美神ならもう体力は限界だったろうが横島に体力負けしてから密かに金取れ…じゃなかった、筋トレ量を増やした事は無駄にならなかった。(筋肉が増えたのはいいが体重が少し増えた事に絶望したのは内緒)
横島と別れてから何度か木の上から引き摺り下ろそうと試みるも失敗、結局走りながら霊体ボウガンを撃つ事でなんとか逃亡する方向を変える事が出来ている程度だ。
「ウキッ!」
今まで前に向いてして移動しなかったボスザルが突然何かを避けるように飛び退く。
先ほどまでボスザルがいた枝が木っ端微塵になり、そして地面に何かが落ちた。
「いったい何…てお前か!」
そこに現れたのは合流すると言っていた黒い三連ボンノウの一人マッシだった…といっても美神には個体識別は出来ない。
とりあえず走るとは止めるわけにはいかず、走る。
「私の事はいいからあんたの主人助けに行きなさい」
いくら自分がボスザルを相手しているとはいえ、横島はまだ素人に毛が生えた程度の霊能力者…しかも盛大な自爆で足止めをしているのでいくら日頃の恨みがあるからと言って死なれたら夢見が悪い。
それを聞いて何処かのお湯被ったらオヤジになるパンダっぽい木の板にキュキュッと水性ペンを走らせ、書き終わり美神に見せた。
『大丈夫。早く倒さないマスター危ない』
言葉が喋れなくて性格が簡略化されているがコミュニケーションは取れる。
しかもなぜか達筆だ…達筆過ぎて読み辛いのは秘密だ。
「まあ、あんたが大丈夫って言うならそうなんでしょうけど…ならとっとと片付けるとしますか!」
横島と三連ボンノウ達とは繋がっているはずなので状況を見ての返事のはずなので美神は安心してボスザルを追いかける。
二人は分かれて挟み撃ちを行ってみたり、不意打ちなどを仕掛けてみたりしたが結局無駄に体力を消耗しただけで終わり、いまだに鬼ごっこが続いている。
「仕方ないわね。こうなったら癪だけど作戦通り追い込むわ。エミに連絡して」
またキュキュキュッと木の板に書いて提示する。
『聞いてない。説明も求む』
「説明するからとりあえずエミの近くにちゃんと式神いるわよね?」
『了解』
作戦概要は簡単で美神がボスザルを倒す(これは美神が単独で決めた事だがエミももちろん気づいている)かエミの射程距離まで追い込み、霊体撃滅波で止めを刺す事が本来の作戦なのだ。
『委細承知、任務移る』
そうとわかれば行動開始とばかりにスピードを上げてボスザルとの距離を詰めていき、軽く5メートルは頭上のボスザルへ向かって跳躍してドロップキックを放つ。
当てる事は出来なかったが、ボスザルもさすがにここまで跳んでくるとは思っていなかったようで慌てて次の木へ飛び移る。
ドロップキックを避けられたが木の枝の乗る事には成功し、ボスザルと同じように飛び移って追いかける。
「…確かに飛ぶ事は出来ないかもしれないけど、跳ぶ事は出来るのね」
横島が言っていた最初の式神、ボンノウレンジャーよりスペックの高いというのは本当だったようでボンノウレンジャーが生徒達とコミュニケーションを取り、チームワークで自分達の欠点である攻撃の制限を補っているのに対してこちらはそんな制限がない、もしくはサイクルが早いだけなのはまだわからないが、連続して攻撃している。
まあ、現在美神にはそんな事は重要なことではなく、問題は
「あんたまで私の出番減らす気か〜!」
という事であった。
別に美神ヘイトのSSではありません…むしろ作者は割と美神が好きです。
「で、やっとワタシの出番なワケ」
多くの生徒に守られて陣内で踊っている。
すでに放つ準備は出来ていて後は合図を待つばかりである。
生徒達の奮闘、もちろんボンレンジャーの三体も戦っている…やられた二体が生徒によってやられたのに微妙な気分になりながらではあるが…
黒い三連ボンノウ、ガイは最終防衛ラインと連絡役としてエミの傍に待機している。
「最初はどうなるかと思ったけどどうにかなりそうなワケ」
圧倒的な数の敵にもう何度目かの実習なのに怯えて役に立たない所か足手まといの同級生に、教える立場のはずなのにボンクラな教師達(教える事はうまいからと言って実戦で戦えるかは別物という証明)のおかげで死が視えていたが今ではある変体にして変態の式神の働きによってそれも霞んで視える程度になっている事にホッと思うと同時に改めて気合を入れなおすように眼つきが鋭くして周りにいる同級生に激励を送る。
「こういう時が一番危ないワケ。油断なんかしたら死ぬワケ!」
近くに教師がいるにも関わらず、自分の事で手一杯で指示を出す余裕がなく、美神と並んで優秀とされているエミが指示している。
ちなみに今回の除霊は毎年行われる物と比べると難易度はアリと象ぐらいに違う為(本来はある程度結界で強力な妖怪や悪霊を近寄らせないようにしている)余計に慌ててしまうのは無理も無いかもしれないが…今回の事で教師が何人か解雇される事になったのは合宿が終わった後の話である。
唐巣神父は本来横島が張っている結界の中で休憩もしくは治療をするべきなのだが定員がオーバーしてしまって溢れてしまった生徒を守るのでいっぱいいっぱいで余裕が無い。
なんというか…これでいいのか六道女学院!
エミは指示は出しているが今現在は待機中で自分に向かってくる攻撃のみ対応するばいいのだがサルの接近は同級生が食い止め、遠距離からの攻撃は…
『アタタタタタタタタタタッ』
「わざわざそんな事板に書かなくてもいいワケ」
器用に片手で木の看板にマジックで書きつつ、飛来物を叩き落しているのでエミは暇なのだ。
暇といっても霊体撃滅波をいつでも撃てるようにしているのに保つのは並の霊能力者ではこれほどの霊力をコントロールして待機させておく事は出来ない。
エミが呪術師としての才能が非凡さが窺える。
さすが滅多に他人を認めない美神が呪術師としては一流だと言っただけはある…よく考えればGSとしては二流だという隠れた棘があったりするのかもしれないが真実は原作の美神だけが知る。
もっとも陣を用いての呪術の為にろくに動く事が出来ないのでガイに助けられているのも事実である。
『アタッ』
また飛来物を叩き落した…訳ではなく、なぜか金だらいがガイの頭に直撃していた。
サル達が投げてきたのはいいとして金だらいは落ちてたのか、まさかとは思うが同級生の誰かが持ってきたのか…などとくだらない事を考えるエミだったが…とりあえず。
「なんで当たると分かってるのに避けずに板に書いて当たるワケ?」
『お笑い芸人の宿命なり』
「…あっそ」
製作者(横島)は人格が簡略してあるといっていたが…大阪人の血、じゃなくて霊力は受け継がれるものなのだろうか?と疑問に思う。
『連絡キター』
「方角と距離を教えるワケ」
『真東、200M』
「じゃあ150…いや100M切ったら報告するように言って欲しいワケ」
『了解ナリ〜』
「………」
ちょっと製作者に色々と言いたくなったエミだったが…あいつなら不自然ではないか?ととりあえずその思いを仕舞い込んだ。
『射程圏内に敵補足、座標変わらず』
「よし、霊体撃滅波!」
遠距離を狙うという事もあってエミのほとんどの霊力を注ぎ込んだ霊体撃滅波は木々を薙ぎ倒して真っ直ぐボスザルがいる方向へと突き進む。
『進路よ〜し、角度よ〜し、感度…あべし!』
進む方向に指を指し、高さも示し、そして最後のところでエミの胸へと突撃するが近くにいた生徒に叩き落される。
なぜ木の看板に書いているのにタイムラグ無しで自分が叩き落された時の声が書かれているのかが不思議である。
「よし!手応えありなワケ!」
自分の会心の攻撃に確かな手応えがありガッツポーズするエミ。
そして周りにいたサルの悪霊達もボスが倒された事によってしばらくウロウロしていたが徐々に消えていく。
それで安心した同級生達は背を木に預けたり者やその場に膝をついたりしている者までいる。
「安心するのはまだ早いワケ!油断は——「エミ君!」——ッ!」
敵を倒した後が一番の油断を生む、それは昔殺し屋をやっていた時に習ったエミだったが周りの同級生に注意する事に気を回し過ぎて気づかなかった…木の上から跳びかかって来た横島が相手をしていた親衛ザル。
反応が出来ずやられると思ったエミだったがそこに小さい影現る。
もちろんガイだ。
さすがに木の看板に書く余裕はなかったらしく無言(?)でサルの奇襲を阻止せんと体当たりするがサイズ的な問題もあり、体当たり自体は成功したが親衛ザルに片手で掴まれ、投げ飛ばされ木に衝突して地面に落ちる。
それと同時にエミは懐から吸引符を取り出し親衛ザルを吸引してまだ他にいないか警戒するがどうやらさっきのが最後の一匹だったらしい。
そこでやっと気づく。
ガイが地面に倒れ伏して起き上がらない事に。
「まさか——」
エミは嫌な予感がした。
そしてその通りとなる。
今のでガイの耐久力をオーバーして足から消えていく姿を目に入れる。
ボンノウレンジャーシリーズの攻撃が二分というインターバルが必要なのに対して黒いボンノウシリーズは常時同じ程度の攻撃が出来るのだが攻撃力がある変わりにデメリットとして耐久力が低いのだ。
そして消えていく身体で必死に手を動かし、最後の遺言を看板に書く。
『ジーク・ジオ○!』
「いろいろと台無しなワケ」
まったくである。
「でも助かったワケ、ありがとう」
ガイは満足そうに笑顔を浮かべて消えた。
「え?僕はジ○ンなんて名前ではないんですが」
「そんな事は分かっているが…どうしたんだいきなり」
「いえ、なんか呼ばれた気が…」
という魔界の兄弟の会話があったとかなかったとかは余談である。
「ふは〜疲れたわね〜」
ミネラルウォーターを飲みながら只今下山中の美神達。
何とかサル達を除霊したのはいいが体力、霊力、道具の消耗が激しく、これ以上の除霊は不可能と判断し、ろくに探すようなこともせず皆揃って宿への進路を取っている。
「イデデデデ、唐巣神父…もうちょっと揺れない様にしてくれません?」
「この山道でこれ以上は無理だよ。我慢しなさい」
(くそ〜なんでこんな髪の毛が全速後退してるおじさんに背おわれにゃあ——うぐぅ…もしかして」
「言ってたわね思いっきり…ていうか鯛焼き泥棒っ子に謝りなさい。あのゲームのファンは今でも多いのよ」
「鍵ファンの皆さんすみませんでしたorz」
痛い身体を動かしてとりあえず土下座、これで許してあげてください。
ちなみにその行動に疑問を持つ人間は周りにいない…ということになっている。
ボス子ザルが倒されて横島の嫌な予感はハズレて親衛ザルはいなくなり、大きな怪我こそないがボロボロになった横島が休んでいると心配そうな表情を浮かべた美神が合流して唐巣神父達と合流しようとしたのだが横島はボロボロで動けず、美神も結構な距離を走っていてスタミナも限界が近いのでエミに付けていたガイが消えているは分かっているのでマッシを伝令に向かわせて、救助がくるまで休憩する。
そして唐巣神父が美神達を発見され、今に至る。
実は横島が動けないのには「お礼は身体で〜」と緊張が解けたからか、疲労によってとち狂ったのか、それとも元々なのか…美神に跳びつこうとルパンダイブを行うがいくら疲れているとはいえ貞操の危機、素早く叩き落して折檻…さりげなくオルも参加(どうやら自分だけ台詞も見せ場もない事に納得がいかなかったらしい)そしてそれが止めとなって動けなくなり、唐巣神父に背負ってもらっていた訳だが…ちょっと(?)機嫌を損ねて落とされてしまった。
「それにしてもいつもならこれぐらいの怪我すぐ回復するのになんで今は回復しないんだ?」
そんな疑問を持つのももっともだがネタ的要素でいうとギャグで受けた傷ではないから、ちゃんとした設定では霊力が尽きかけているので回復力が低下しているからである。(美神へのダイブが成功していればまた別だっただろうが)
「はぁ、早く帰ってお風呂入りたいわね。確か露天風呂あったわよね?」
「当然なワケ!露天風呂がない旅館なんて願い下げなワケ!」
エミはともかくとして美神はいい加減学習すればいいものを…
「露天…露天…露天…」
耳が5倍ぐらい大きくして盗み聞きして小声で呟く横島に誰も気づかなかった。