「さて、今俺は露天風呂の覗きポイント探してるんだが…なんだこれは」
目の前には壁がある。
それはただの壁…ではなく崖が行く手を阻む。
「この上が女風呂か?」
覗き防止には確かにいいが…崖に温泉とは沸くものなのか?いや何処からか引いてきたのか…なんてちょっとだけ現実逃避。
「それにしても、男風呂…あまりにも狭すぎやしませんか?」
正方形1M、深さ20cm…これは風呂っていうのだろうか?。
「そういえば…」
ここに来る前に唐巣神父と会った時の会話を思い出す。
「横島クン、お風呂に行くんですか?」
「え、あ、はい」
「普通に入浴を楽しんできてください…普通に、ね?」
表情はこちらを向いていなかったのでどんな表情かは分からなかったが何処かの合金の名前の部隊に所属してる戦争漬けの高校生(仮)が温泉旅行に行った時のような雰囲気をかもし出している唐巣神父と横島がここに来てから警戒音が鳴り響くかのように霊感が反応する…つまりはいくなと何かが告げている。
「だがしかし!これぐらいの障害、我が煩悩の前には無に等しい!」
まあ、止まる分けないないのだが。
「死ならば諸共だ!行くぞ、オル!マッシ!」
無に等しいと言いながら死ならば諸共とはこれいかに?
『え〜』
『メンド〜美神様やエミ様に言い付けてやるか』
『いいね、それ』
「お、お前等」
しかもいきなり反旗を翻すオルにマッシ。
ちなみにボンノウレンジャーは最初からあちら(女性)の味方になっているのでここにはいない…のだがまさか黒い三連ボンノウまであちらの味方とは思ってもみなかった横島は問い詰める。
「お前ら人格なんて最低限しか用意してないのになんで主の俺に逆らうんじゃ〜!」
『甘い!某魔法という名のビームを乱射するリリカルな少女物語に出てくる艦長のお茶の飲み方ぐらい甘い!』
「そりゃまた甘いな…じゃなくてそんなネタ分かる人にしか分からんから止めろ!」
『『いやいや、あんたには言われたくない』』
「なんだと〜やるかこの!」
本来ならなんとも珍しい式神とその創造主の戦いが始まりそして…
「お、覚えてろよお前ら」
あ、と言う間に決着がついた。
創造主の負けという結果で。
大体常時回復して戦える状態のオルやマッシに比べ、最大の回復をもたらす睡眠をとっていない横島では負けて当然である。
そして報告に行こうとするオルとマッシを背後で動く気配。
やられた振りをしていた横島が一瞬にして間合いをつめ、来る前に倉庫らしき場所から拝借してきた呪縛ロープで縛り上げる。
「ふ、感謝しろよ。男(式神だが)を亀甲縛りするほど悪趣味じゃないぜ」
死んだ振りして不意打ちは悪趣味のうちじゃないのか?というかなぜそんな縛り方を中学生がマスターしているのか、という疑問はいまさらだろうか。
そしてオルとマッシとして不幸に、横島にとっては幸運、二人は声を出す事が出来ないため助けも呼べない。
「いざ逝けん極楽の地へ!」
その台詞は現実のものとしそうな横島はとりあえず崖に近寄った…瞬間、カチッと音が耳に入った。
「ま、まさか?」
先に出した足を動かさないよう慎重に屈み、土を退けるとそこには予想通りの物が埋まっていた。
最初からクライマックス。
「嘘だろ…銃どころかエアガンの改造ですら違法の日本に地雷かよ…こんな緊張感はおかんのお仕置きで馬鹿親父と無人島に放り込まれて飯の取り合いで喧嘩したとき以来だぜ」
横島の過去に一体何が…とりあえず手近にあった結構重たい石と地雷を踏んでいる足と入れ替えて無事解放される。
ちなみに百合子の折檻は『この程度ではない』と後に語るが…今は関係ない。
まあ、さらっと流してはいるがここは男風呂の中である。
その男風呂内に地雷があるというのは覗き防止以前に危ないだろとかそういうツッコミは…ないか。
「こりゃ気を引き締めていかないとさすがに怪我するかもしれん」
普通は死ぬんだがな。
一般人なら既にギブアップするようなこの状況でもなお挑む心は潰えない。
慎重に足を下ろす場所を選び5分ほど費やしてやっと崖の下まで来た。
「いきなりタイムロスしちまったな…まあ女性の風呂は長いって相場は決まってるからまだ大丈夫…と思いたい!」
美神の入浴時間は平均40分と長い上に除霊の後である。
日頃より長い可能性が高く、間に合うと信じて気合を入れる。
「よし、いくぞ!」
背負ってきたリュックから鉤縄を取り出し回して放り投げる。
崖に鉤が引っかかろうとした時、パシューンという発射音、そしてカーンッと鉤が弾かれた。
何処からかガサガサと草が揺れてギュイーンと機械音。
それを聞いた横島は正体を悟る。
「おいおい、地雷の次はセントリーガンかよ?!どんな旅館だ!」
なぜセントリーガンなんて物を知っているのか、そしてなぜセントリーガンと分かったのかはこの際放置する。
「くそっ結界符を全部使い切ったのが痛かった。あれがあればこれぐらいの障害!」
横島は知らないがセントリーガンから撃ち出されている弾は特殊な術式が刻まれていて横島が張る結界ぐらいなら撃ち破る威力を持っている。
更に隠行結界は人間や動物、霊などには効果があるが機械には『まだ』効果を発揮しないので捕捉されて撃墜されるのがオチである。
「…嘆いてても仕方ないか、でもどうしたらいいんかな〜………やっぱあれしかないか」
手首と足首を回し、おいっちにー、と屈伸運動。
一通り準備運動を終わらせ、崖にピタッと張り付く。
そして…
カサカサカサカサッ
家庭内害虫を己の身に宿したかのように時には放たれる弾丸が追いつかないほどの高速移動、時にはロックが追いきれないほどの高速旋回を駆使して崖を登ってゆく。
「フハハハハハハハハッ我が煩悩止めれる者なし!」
完全に調子に乗った横島はセントリーガンからの射撃が止んだのに気づきスピードを落とす。
煩悩によって一時的に高められた霊力だがちょっと無理な動きをした為もうそろそろ家庭内害虫の魂を降臨させておくのも限界だったのだ。
肉体的にはまだ余裕があるので崖に張り付いたまま少々休憩に入る。
「ここまでは何とかこれた…けど」
どうも自分が考えていたよりずっと険しい道である事を改めて実感した。
とはいえ、体は煩悩で出来ている横島。
ここでギブアップなどありえない。
「よし、霊力も回復したし…行く———かっ?!」
進路を定めようと上を向くと何やらパイナップルみたいな物が降ってきていた。
慌てて回避する。
そして数秒後、地面に落ちたのだろう。爆発が起きる。
手榴弾の爆発で地雷が誘爆したのだろうあっちこっちで火の手が上がる。
「ちょ、さすがにこれは重症もんだぞ!」
何度も言うが普通は死ぬんだって。
もう飽きてきたかもしれないのでダイジェストでお送りします。
「今度は硫酸?!」
「いや、ゴキブリとか平気だし」
「おお、これは発禁になったエロ本——ぐは!ブービートラップか!」
ここで少し戻り
「おお、こんなところにお金が…偽物か」
精神的に少しダメージを受けたりしながら何とか崖の終わりへと手をかける。
「よっしゃ〜これで——「「「待っていたぞ」」」——へ?」
そこに小さな影。
額に各々違うカラーのバンダナを付けた式神…つまりボンノウレンジャーがいた。
「読み通りだ」
「天は我に味方せり!」
「ここにいるぞ!」
某三国が大戦の伏兵台詞と共に登場。
「お前等は表と屋根裏と床下を警戒するんじゃなかったのか!」
事前に盗み聞きしてボンノウレンジャー達の行動を把握していたつもりだった横島からしてみれば不思議で仕方なかった。
「あれだけ」
「盛大に」
「罠に掛かってたら」
「誰だって」
「気づく」
「と思うぞ」
言われてみれば手榴弾+地雷の爆発で気づかない方がおかしい。
なぜ三人で分担して話しているのかは謎。
「という事は…」
「入浴中の」
「生徒は」
「もう上がっているぞ」
膝を折り曲げ、地面に手をつき、まさしくorz
希望が潰えた…かに思えた。
そこへガラガラガラッと音が聴こえ、そして声が聞こえた。
「今日は疲れた〜」
ピクッ
「そうね、先生から聞いたんだけどここ数年はあれほどの規模の悪霊はなかったそうよ」
ピクピクッ
「mjd?私達って運ねぇ」
ガバッと起き上がり、変態は立ち上がる。
あ、やべ、という言葉と共に迎撃に出る。
壁一つ隔てて事情を知らない生徒が平和な会話と入浴、そして変態vsボンノウレンジャーの戦いが始まった。
「■■■■■■■■■■■!!」
「バーサーカーモード」
「みたい」
「だな」
某運命に出てきた狂人のような咆哮をあげ、横島は突撃開始。
それを三人合わせてのトリプルキックで迎えるが、さすがバーサーカーモード、Aランク以下の攻撃は無効らしく速度は落ちたがダメージはない。
ボンノウレンジャーを撥ねてそのまま壁へと向かう…が地面から爆発…つまり再び地雷ゾーンがあった訳だ。
もちろんボンノウレンジャー達は計算しての行動で見事それを成功させた。
「お〜ま〜え〜ら〜覚えてろよ〜!」
某勇気がリンリンに出てくる黴菌(ばいきん)人間のように星になった。
「よし」
「任務」
「完…了?おい、あっちって」
横島が飛んで行った方向を見て、ああ、主よ、我々に試練を…与えんな!と叫んだとか叫ばなかったとか。
「エミ洗顔替えたんだ。うわ、またこんな高い物を」
「そういう令子こそ珍しく結構良い奴使ってるワケ」
二人はどんなに優れた霊能力者でもその前に女性であり、やはり美容には気を使っている。
エミは学校には内緒で仕事を請けてそこそこの収入があるので普通の女学生よりおしゃれに気遣っている。
それに比べ、父親からの仕送りがあるが…父親の能力と口下手な所や別々に暮らしている事などが合間って嫌いとまではいかないが好きとも言えず、なんとなく世話になるのは美神自身が納得がいかないらしく仕送りは極力使わず、唐巣神父から貰っている給料で生活している。
…まあ、説明不要だと思いますが『唐巣神父』からの給料です。
そりゃもう雀の涙。
自分の家の分をやりくりしても生活出来ないので元である唐巣神父の財布を握り、食事は極力二人でとる事で光熱費節約(というか栄養失調で倒れられるのを防ぐ事が主)更には依頼料の設定も美神が行っている…以前は詐欺紛いな料金を要求していたが最近少し減ったので唐巣神父が喜んでいたらしい。
で、何でこの懐事情で美神が美容に金を掛けれているかというと…
「横島クンが霊符作ってくれてるおかげで一番高かった除霊道具の費用が半分以下になったのよ〜本当に役に立つ奴だわ」
誰にも言ってないが今回の除霊の際に学校から支給される霊符が切れたので断腸の思いで前もって横島から巻き上げた霊符を使っていたりする。
(どうやって学校側に請求してやろうかしら)
と考えたが下手な事すれば六道が横島の技術に目を付ける事を考えると一時的に金にはなるだろうが将来的に見るとマイナスだ、と結論に至り断念する。
「令子、いつまで考えに浸ってるワケ?」
ちなみにここは脱衣所、つまり漢のロマン溢れる場所。
二人は今から入浴しようとしている…つまり二人は裸。
そして割と近くで爆発音が聴こえて、首を傾げていると天井をブチ破り何かが床板を破壊した。
「ゴホゴホ…何なのよ、もう!今日は疲れて——」
埃が舞い上がり、咳き込む美神。
丁度美神とエミの間にクレーターができた。
落ちてきたのは…もちろん横島である。
そして地雷のダメージがあるはずの横島は本能からか、それとも女の匂いを嗅ぎつけたからか、飛び跳ねて起きて。
「みっっっかみさ〜〜〜ん!」
鼻血で飛んでいるかのような勢いで鼻血を噴出しながらのダイブ。
そして美神はただ黙って霊力を込めた拳を持って迎撃する。
再び地面に叩きつけて、やっと美神は言葉を発した。
ただ無表情に、告げる。
「消す」
いや、別に殺すって意味ではなく、記憶をって意味で。
ただそれを聞いた横島にそれを察しろと言うのは無理と言う物だ…殺気を放っている美神を見たら誰だってそう思うだろう。
ちなみにエミは横島の姿を確認した段階で既に風呂場へ逃げている。
「ちょ、美神さ——「問答無用」——服を、ぐえ、ごは、ぎょべ」
一応横島は服を着て…とフォローしようとしたが既に遅し。
裸である事を忘れて横島の記憶を奪わんと拳、蹴り、近くにあったイスなどで殴るなど…まあ、いじめ?虐待?何それ?そんな甘くないよ?的な折檻が続く。
結局横島は後で来たボンノウレンジャーが五分ほど傍観した後にさすがにこれ以上は美神のイメージに関わるということで正気に戻させ(うっかり消滅させられそうになったが)気絶している横島を引きずって退場する事でなんとか片がついた…一時的にだが。
ただ入浴を覗く事には失敗したものの美神のヌードが見れたので結果的に目的は達成されている事を考えると横島の一人勝ちか?
「で、申し開きは?」
「いや、あの、一応偶然なん——「却下、死罪を申し渡す」——はや?!てか聞く意味ない!」
只今魔女裁判ならぬ痴漢裁判中。
まあ裁判官が女性ならその気持ちも分からなくもないが…
「え〜非常に言い難い事なんですが脱衣所にこの変態が飛んでいったのは本当に偶然でして」
珍しくボンノウレンジャーが横島を庇う。
「もっとも覗きをする気だったのは間違いないですが」
結局罪は逃れられないのだ。
「やっぱ死罪」
「それだけはご勘弁を!」
必死に土下座する横島だが美神の怒りは収まらない。
ここで救世主現る。
「まあまあ美神君」
唐巣神父が止めに入ってくれたようだ。
自分の弁護してくれる力強い味方が…
「この際去勢の方向で手を打ちましょう」
いや、救世主や強い味方などではなく、死刑執行人だったらしい。
「それも嫌〜〜〜〜!」
男としての死をアッサリ告げる唐巣神父に盛大に腰を引かせ、慌てて逃げようとドアに向かって走るが某運命ゲーの可憐なサディストで被虐霊媒体質な人が使う赤い布のように呪縛ロープが横島を捕らえる。
「誰が逃がすか!」
「くそ!ダンボールさえあれば!」
ダンボールをどうやって使ったら逃げれるのかは謎だ。
それからはあーでもないこーでもないと話し合われた(美神の行き過ぎを抑える唐巣神父にひたすら土下座する横島)が平行線を辿り、夕食の時間がやってきた。
「令子、そろそろ夕食なワケ」
「あら、もうそんな時間?とりあえず休憩にするわ」
そういって横島の縛りを解放される。
「よかった〜これから『外』に食べに行くんで時間が欲しかったんすよ」
「帰ってきたら裁判始めるから…逃げるんじゃないわよ」
ゴゴゴゴゴゴっとバックに背負う美神に、いやだな〜逃げるわけないじゃないっすか〜と帰してそそくさと退散していく横島。
「さて、行きましょうか」
「それにしても…身を清め、霊力を研ぎ澄ます為ってのは分かるけど…精進料理じゃイマイチ食べた気がしないわね」
「どうかんなワケ、あれだけ運動したんだからもうちょっと食べ応えがあるものにして欲しいワケ」
料理の味自体には文句はなかったがその内容に納得が出来なかった三人寄れば…を二人で行っている。
そこで美神がふと、窓の外を見ると山々を一望出来るのだが…ここからそんなに離れていない場所で煙が上がり、その下からは小さな火の明かりが見えた。
「焚き火…みたいね」
「こんな辺鄙にご苦労様なワケ」
「美神君、エミ君、横島クンを見かけなかったかね?」
「え、あいつは食事に行ったんじゃ」
「私もそう思ったんですが…よく考えるとこの近くに食事が出来る場所がないんですよ」
「そう言われてみれば」
自分達がここに来た道の風景を思い出してここは人里はなら離れた場所で近隣には飲食店所か民家すらもない事を思い出した。
「「じゃあもしかして」」
外でモクモクと上がっている煙に目をやる美神にエミ。
どこかで犬の遠吠えが聞こえて二人とも「まさかね」と思った…が
「先生、あそこで誰か焚き火してるみたいなのよ。でもしかして…ないとは思う…というか思いたいんだけど…で確認しに行こうと思うんですけど」
原作とは違って一学生な美神は今自分勝手に動く事はあまり出来ないため唐巣神父に同行を求める。
「わかりました。エミ君はどうしますか?」
「ワタシも行くワケ、どうせ部屋に戻っても暇で仕方ないワケ」
「…友達がいないのね。なんて寂しい根暗——痛いわね!何すんのよ!」
「令子には言われたくないワケ!」
美神はともかくエミは呪術師という職業柄、呪い殺したりする事がメインなので同業者からも嫌われている場合が多い…と言う事は自然と学校でも孤立する事が多いのだ。
美神的にはエミの呪いで不幸になったり呪い殺されるのが怖かったらGSにならなければいいし、エミなんかの呪いぐらい返してみせるわよ!ってな感じで特に気にしてない。
「はいはい、喧嘩はやめて早く行きますよ」
は〜い、返事だけは揃って返ってきた。
唐巣神父は二人にばれない様に溜め息を漏らした。
「横島クンといい、令子君達といい…」
なんでこんなに問題児が集まるんだろう?と少し思ってしまった〇〇歳にして髪の毛が…な唐巣神父の悩みは絶えない。