——12月24日。クリスマス。
本来はキリスト教のお祭りらしいけど、そんなことを知ってる人間はほとんどいないと思う。
この日本という小さな島国には。
ましてやそれが。
「す、ず、が、なるー♪」
目の前で。
「出雲ー、とびっきりのプレゼント買ったからなー♪」
やかましいくらいに。
「じんぐるべーる♪」
浮かれまくっている。
「いやー。出雲といっしょにクリスマスを迎えるのは何年ぶりだろうか・・・・・・ぐふふ♪」
アカハナの変態親父ならばなおさらだ。
「あ——・・・・・・おやじー」
「なんだー出雲ー♪」
「オレ今日は友だちと遊ぶから、帰り遅くなる」
「おー、わかっ——・・・・・・え?」
Xmas rain
気がついたら今年も残すところ僅かとなった12月の終盤。
世間一般の企業戦士たちはいざ知らず、世間一般の高校生は楽しい楽しい冬休みの真っ最中なわけで。
そんな冬休み中の最大級イベントと言えば、もちろんクリスマスなわけで。
クリスマスといえば、巷に色とりどりのイルミネーションが煌めく世界のことをいう。
「おー・・・・・・ッ!!」
大きいクリスマスツリーを見上げると、まばゆく夜空が照らされている。ぽつぽつと色が入れ替わり、30分に一回、バーッと色彩のシャワーが降り注ぐ。
約束の時間よりも少しだけ早く来すぎたもんだから、ちょっと失敗したなーって思ってた。でも、こんなにきれいな光景が見られたんなら、むしろラッキーだったかも。
時刻は、3時53分・・・・・・そろそろ来る頃だと思うんだけど。
とかなんとか言ってるうちに、イルミネーションの向こう側にひょっこりと待ち人が現れた。
「わっ。もう来てたの? はやいねー」
びっくりしたように、伊織がオレを見つめてくる。
「そんな早くねーって」
そう言いつつ、実は30分以上も早く到着してたり。
ナンパしてくるヤローどものウザさにはがっかりきたけどな。何が悲しくてクリスマスに寂しい男どもからお誘いを受けなきゃなんねーんだよ。
——そういう俺たちも、ダチで遊びに出てくる寂しい男どもなんだよなぁ〜。
「そういえば出雲って、清良さんのところにいたときも、遅刻ってしなかったよね」
「まぁな。5分前行動って小さい頃から教えられてきたから」
主にあの破天荒な母親から。時間や約束っていうのにはことさら厳しい教育を受けてきた。
けど、それをいうなら伊織だって遅刻はしなかった。真面目なやつ。
ふっと伊織が頭上のツリーを見上げた。30分毎に電光がスパークするタイミングになっていた。
「こうやって見ると、クリスマスなんだなーって思う」
「これって昔からあったっけ?」
途中で引っ越した俺には、ぼんやりとした記憶しかない。
楽しげな雰囲気で、伊織はこくりと頷いた。
「ボクが小学生のころにはもうあったよ」
「ふーん」
「出雲って去年までは違う町にいたんだよね?」
「うん」
「懐かしい?」
と、伊織が小首をかしげながら尋ねてくる。
んーっと唇に人差し指を当てて考えてみると、懐かしいようなそうでもないような——はっきりしない感情が湧いてくる。
懐かしいような気もするけど、何分うろ覚えなところもあるし、うろ覚えだから余計に懐かしいと作家牛ているのかもしれないし。
自分自身でよくわからない。ただ、これを懐かしいとよんでいいのかはわからないけど・・・・・・
「ほっとするかな」
応えたときのオレの表情は少しだけはにかんでいたと思う。
——処かわり國崎邸。
「orz」← 変態親父
「お、おじさん・・・・・・」
「だめだ、完全に沈黙してる」
「結構楽しみにしてたからなぁ・・・・・・」
「出雲、今頃もうお友だちと遊んでるのかな」
「いぃずぅもぅおぉ〜」ドロドロ
「「「ひぃッ!?」」」
「末期」
とくに予定を組んでたわけじゃないから、なんとなく浮ついた雰囲気の街中を2人並んで歩いていく。
スピーカーから流れてくる軽快なポップスや、おなじみの定番と鳴ったジョン・レノンのクリスマスソング。
色は光と混ざって行き交い、たくさんの人たちの笑顔を飾っている。
「・・・・・・で、ハンバーガーなわけな」
「嫌だった?」
「いんや、別にそういうんじゃないけどさ」
「クリスマスチキン、おいしいよ」
「いや、うん、美味いな・・・・・・うん、美味いよ」
程よいスパイスの香りもたしかに最高だ。ファストフードだからって侮れない時代だなぁ。
けどちょっとだけ釈然としないものを感じる。せっかくだから、どこかちゃんとした店で料理を食べたかった。
なんでクリスマスにハンバーガー?
とかオレは思うんだけど、反対に伊織は美味しそうにパンズをほお張っている。
——じつは昨日、梅樹と一緒に食べにきたとか、いえねーよな。
発言を躊躇するほど伊織の表情はほころんでいる。
「そんなに美味いか?」
食べなれているオレにはよくわかんない。そりゃ、新商品が出たら食べてみたいけど、こんなものはいつだって食べられるんだし。
オレがそう疑問に思うと、伊織はこくこくと頷いた。
「僕、こういうのあんまり食べたことないんだ」
「へえ、珍しい」
「学校が終わったらすぐに稽古や舞台があったから、友だちと一緒に遊んだこともあんまりないし、買い食いも出来なかったよ」
「き、厳しい家だな」
思わずうめき声を上げてしまった。あまりにも緩すぎる自分の家とは大違い過ぎる。
だけどよくよく思い返してみると、清良の実家もかなり厳しい家だった。刀で切られそうになったしな。
玄衛も小遣い減らされたって言ってたし。そのせいでミスコンに出るハメになったし。
紗英のところは・・・・・・紗英がそもそも『バカ』だから、想像すらできない。父親もキザでナルでたらしなんだろうか——?
「オレだったらそんな家はパスだなー。やっぱ遊びたいしさ」
「僕も。だから家を飛び出して、清良さんのところにはいったんだよ」
「あそこもいろんな意味で厳しかったけどな」
今だからこそ苦笑していられるけど、清良たちの陰湿なイジメに、よくも耐えられたなぁって思う。オレも伊織も。伊織は途中から流されまくって順応しちまったみたいだけど。
オレもすぐ側に気弱な伊織がいなかったら、すぐにブチギレてただろうしな。
「ま、学ぶこともあったよな」
バーガーの袋をくしゃくしゃに丸める。
「世の中にはいろんなやつがいるってわかった」
「僕もいろんなことを学ばせてもらったよ。家に帰ったらいっぱい怒られたけど、でも・・・・・・家出してよかったって思う」
そういった伊織の笑顔に釣られてオレも笑った。一緒の時間を過ごして、一緒に頑張ったオレたちだけの思い出に添えた笑顔だ。
それからオレと伊織は円卓テーブルを挟んで、とくに中身もない話題に花を咲かせ、とりとめもない世間の出来事で笑いを誘い、相槌をうって、トレーのゴミを屑篭へ放り込んでから電光鮮やかな大通りへと繰り出した。
「ゲーセンとかもあんま来ねーの?」
「たまにならあるんだけどね。長居は出来なかったな」
「じゃあさ、今日は遊び倒そうぜ! ゲーセンの遊び方をたっぷり教えてやる!」
「おー!」
さて、となると、どんなゲームが伊織にはあってるかなっと・・・・・・。
ちらっと伊織の横顔を覗き見してみる。そもそも来た回数も少ないことが丸わかりなほど、興味津々に周りを見回している。
格ゲーは100%カモられるよな。
シューティングも反応出来なさそう。
太鼓の達人・・・・・・
・・・・・・
「あ、出雲! これやってみようよ」
「・・・・・・え、これ?」
これって、おい・・・・・・
厚さ5センチほどの大きなプレートに、無数の丸が規則正しく並べられている。
「ツイスター・・・・・・だって」
いわゆるツイスター!
「こ、これやるのか?」
「えっと・・・・・・手と足を使って——」
だめだ聞いちゃいねぇ。
しかし、これはちょっとキツイぞ。少なくとも男2人が遊びにきてやるゲームではないと思う。いややらない。
しかもプレートの大きさを見るかぎり、明らかに3人以上用のサイズじゃないのか、これ。
「伊織、これ人ず・・・・・・」
「あっ、ちゃんと2人モードっていうのもあるんだー」
製作者ーーーッ!!
「面白そうだね。ね、やろ、出雲!」
にこにこと満面の笑顔の伊織。
國崎出雲に逃げ場なし。
——覚悟を決めるか。ここで逃げたら男がすたるぜ!
「は、ははっ・・・・・・よし、やってやる!」
オレは100円硬貨をスリットに挿入する。
ピロリンッ♪
モード選択、2人モード、プレイタイムはとりあえず5分っと。
ゲーム説明を真剣に聞いている伊織の横で、オレはこっそりとため息をこぼした。
なんだかんだ言って、伊織も世間知らずな梨園の御曹司なんだなー・・・・・・。
柚子葉も紗英も玄衛も世間知らずだもんなー。むしろ梅樹たちの方こそ世間的なところがある気がする。
物思いにふけっていると、耳にゲームスタートの合図が聞こえてきた。
「ちょっ、いお、伊織、そっち行け!」
「わー・・・・・・わわっ、とどかな、い」
「ぎゃーー! いててて、ほね、ほね折れるぅ!」
「く、苦しい・・・・・・」
「い・・・・・・『E』を押せ・・・・・・押して早く・・・・・・」
「もも、もうちょっ、とぉ・・・・・・!」
ぐらっ
「「わーっ」」
最後は声を合わせて大転倒。
『GAME OVER』
「はぁっ・・・・・・はぁっ・・・・・・」
「っテテ・・・・・・。お、おい、大丈夫か?」
「う、うん・・・・・・あははっ」
まともに返事もしないうちに、伊織が笑い声を上げだした。おかしくて仕方がないってくらいに、笑っている。
しばらく肩を震わせていた伊織が、目じりに涙をうかべたまま、「楽しいね!」とますます笑顔で言ってきた。
そんなに心底から言われると、オレもついつい楽しい気分になっちまう。伊織は素直で正直なやつだから、本当に楽しいんだろうな。
オレたちは互いに折り重なったまま、少しの間だけ笑いあった。
——ここがゲームセンターで、人のいる前で、重なったまま、だということを忘れて。
——処かわって國崎邸。
キュピーンッ
「こらー、出雲にナニしてるんだーッ!!」
「「「「ビクゥッ!?」」」」
「お、おじさん!? どーしたんスか!?」
「出雲からはなれろー!!」ギャーギャー
「おい、おじさんを取り押さえろー!」
「わ、わかった!」
「とうとう頭がおかしくなっちまったのか・・・・・・」
「最後」
「なんだろう・・・・・・。いま出雲がすっごく美味しいことになってる気がする」
「加賀斗ー、お前も手伝えー!」
「はーい」
「あー、楽しかったー」
「・・・・・・」
「? どうしたの?」
「・・・・・・別に」
こういうときでもお前はマイペースなのな。
こっちは、まさか周りからカップル扱いされた挙句に、走って逃げてきてヘトヘトだって言うのに・・・・・・。
てか、なんで息切れてないんだよ!?
はぁッ——
「疲れたの?」
伊織が心配そうに見つめてくる。オレは言葉なく頷いた。
「じゃあ、ちょっと座ろうよ」
「あ、ああ」
並木道にそって設けられているベンチに腰をかけたオレの口から、盛大なため息がこぼれる。
その間に伊織は近くの自販機で暖かい飲み物を買ってきてくれた。
「ココアでいい?」
「なんでもいいや」
「はい」
「サンキュー」
じんわりと熱が手の平に伝わってくる。飲むのがもったいない。伊織もおんなじ気分なのか、手の平で転がしている。
まだ賑々しい雰囲気の街は、このまま夜中まで騒ぎ通しに騒いでいそうだ。
「遊び通せなかったなー・・・・・・」
ツイスターしかやってねぇし。
伊織の手をとって逃げてきたのはオレだから、なんだか悪い気がすると言うか、罪悪感がある。せっかく伊織を楽しませてやろうと思ったのに・・・・・・
「つぎどこ行く? 映画でも見に行くか?」
「うーん、そうだね。でも映画ってなにやってるのかな?」
「行ったらわかんじゃねーか? ・・・・・・もしかして、映画も初めてとか?」
「・・・・・・えへへ」
照れ隠しにはにかむ伊織の様子に、オレはもう一度気合を入れた。
「行こうぜ。大型スクリーンで見るアクションなんかド迫力だからな!」
「3Dの映画も見れるかな?」
「運がよけりゃ、見れると思うぞ」
「わあっ!」
嬉しそうに伊織が笑みを浮かべる。
そうと決まったら早くいかねーとな。開演しちまう。
「あれ——栂敷紗英くん?」
「ん? ——ああ、君は佐倉屋の」
映画館にくると、そこには紗英がいた。モデル顔負けのファッションでコーディネートした紗英を見かけた伊織が声をかけた。
紗英の両隣にはカワイイ女の子が侍っていて、明らかにデートの匂いを振りまいている。
「紗英様ー。この子だれ?」
「知り合い?」
「まぁ、そんなところかな。君たちが気にするほどの相手ではないさ」
さらりと失礼なことを言われたのに、伊織はとくに気にした様子もない。もとから鈍いのか、それとも清良のところで鍛えられたのか。
「しかし美しく清らかな聖夜に、君は男1人で映画かい? なんとも寂しいね」
「「ねー♪」」
「僕は・・・・・・」
「そういうお前は両手に花でいいご身分だな、おい」
「あ、出雲」
2人分のドリンクを持ってオレは伊織のすぐ後ろから紗英に嫌味を言った。呆れたといわんばかりに瞳を細めて、紗英の驚愕に染まりきった面を見上げる。
「く、く、國崎くんッ!?」
驚きに驚いて激しくどもる紗英を尻目に、ドリンクを伊織に手渡す。もうすぐ開演時間だ。
紗英がオレと伊織を交互に見つめてくる。オレと伊織のセットがそんなに以外だったのか?
「ど、どうして君が、佐倉屋と・・・・・・え? あれ?」
「おい、落ち着けって・・・・・・。隣の2人もビックリしてるじゃねーか」
「き、君、たしか今日はご実家で過ごすんじゃ・・・・・・」
だから僕は誘うのを諦めたのに・・・・・・と、ショックのあまりに打ちひしがれる紗英。
オレがなんて答えたもんかと迷っていると、横の伊織が、
「出雲、そろそろ始まる時間じゃない?」
「あっと、そうだった。行こうぜ」
「うん!」
「あ、國崎くんッ!?」
「お前もデート楽しめよな、紗英!」
「あっ・・・・・・」
後ろから紗英が何かを言いかけてやめたような声が聞こえた。だけどすべての音を防音扉が遮った。
映画館を出たあと、とくに何をするでもなくぶらぶらと店を冷やかしつつ、オレたちの足は待ち合わせ場所になったツリーへと向かっていた。
朝まで遊ぶつもりで家を出てきたけど、さすがにそういうわけにもいかない。オレはともかく伊織の方が心配だしな。オレのせいで家族から怒られるっているのも・・・・・・嫌だ。
だから、このままツリーの下まで行くと、あとは分かれるだけだ——そう思うとちょっとだけ名残惜しい。
「あー・・・・・・遊びたいけど疲れたなー」
「そうだねー・・・・・・。でも、初めてだよ。こんなにいっぱい遊んだの。だからすっごく楽しかった」
「そっか」
そういってくれると悪い気はしない。伊織はほんとうにいろんなことを真剣に楽しんでくれた。一緒にいるオレまでがウキウキするほど、その喜色に溢れた横顔は楽しそうだった。
やっぱり会話の中身そのものは空き缶のようにからっぽだ。だけど、なんだかそれすらも楽しく感じる。
もうすぐ別れの時間だから、よけいにそう感じるのかもしれない。
足はツリーの前でとまった。周りにいるのは相も変わらずカップルどもと、少しばかりの仲良しグループ。
「そろそろ帰るか」
と、オレが切り出すと、伊織もこくんと頷いた。満足した表情だ。
「年の瀬はどうかな。遊べるかな」
と、また俺が聞くと、「わかんない」という答えが返ってきた。
「年の瀬は歌舞伎屋も年末年始で忙しいからね。遊ぶ暇はないかも」
「あー・・・・・・そうだなー」
たしかに年末年始はやることが多いだとかで、うちも慌しいな。加賀斗は振袖がどうとか言ってだけど・・・・・・着るつもりなんだろうな、あれは。
ということは、年末は紗英や松樹たちも忙しいって事か・・・・・・たぶんオレもその中の1人になるんだろうけど。
今年はゆっくりした年末はお預けかーって沈んでいると、いったい今日1日で何回みたかわからない、電飾のきれいなシャワーが降りそそいだ。
「明後日になったら、ツリーも撤去されちゃうなぁ」
「すぐに正月だもんな」
「うん・・・・・・ちょっと残念」
憂えた瞳で伊織が呟くのをしっかりとオレの耳は聞き拾った。すごく気持ちがわかる。祭りが終わった後の、後片付け。それに似たものを、オレたちは一緒に感じている。
どちらからともなく、「来年も遊ぼう」と口約束を交わし、伊織が「また競演できたらいいね」と笑いながら言ってきた。そのときは是非とも立役をやってみたいもんだ。
「じゃあね」
そういい残して伊織が一足先に帰っていった。結局、最初から最後までマイペースなやつだった。
まだ余韻が心を暖かく包み込む感覚がする。もう少しだけと、またツリーを見上げてみる。
ポケットに手を突っ込む。コツンッと何かが指先に触れる。ここにくる途中の店で伊織が買ってくれたプレゼント。万華鏡。
ふっと思いついて、包みから万華鏡を取り出して、スコープから煌びやかな光の世界を覗いてみる。
「わっ」
きらきらと姿を変える幻想的な世界に、思わず声を上げてしまった。でもそれ以上の言葉は出てこなかった。
「へへ・・・・・・」
身体を翻して周囲の景色も取り込む。意外と面白いぞ、これ。
人が、物が、上下左右に移り変わる。現実的ではないからこそ、魅入られてしまう。
——そしてカレイドスコープの中に、大量の紗英が発生した。
「ってうお!?」
びっくりして目からはずしたオレの視線の先には、肩を落としてがっくり項垂れている紗英が、死んだ魚のような目をしながらこっちに歩いてきている。
歌舞伎で鍛えた目力がどこにもない。まるで生ける屍だ。
「お、おい・・・・・・紗英?」
たまらず声をかけると、ビクッとものすごい勢いで紗英の肩が跳ね上がった。
「く、國崎くんッ!?」
「どうしたんだよ? なんか落ち込んでるっぽいけど」
「あ、その、ええっと・・・・・・さ、さっきのあれは違うんだ!!」
「——はぁ?」
なに言ってんだコイツ?
「さっきのって?」
「あ、あれはたまたまあの娘たちと道端で出会ったからちょっとお喋りして映画を見ようって話になってであの2人は友達同士で料金はボクが払って」
「落ち着け、バカ!」
オレが怒鳴ると、紗英は「だから」と言いかけて言葉をとめ、だけど勢いはとめられなかったのか、「それで」と続けてまた「だから」に戻った。
それにしてもなんという情けない姿だ。そして意味がわからない。
なおも口を開いて閉じて、それでもとうとう言葉が出てこなかったのか、がっくりと再び肩を落としてしまった。
こう、なんていうか・・・・・・見事なまでにテンパられると、言葉のかけようもないな。
ま、こいつのことだから・・・・・・まーた変な誤解に誤解を上乗せして、勝手に暴走してるんだろうけど。
お馴染みと言えば御馴染みだ。慣れたと言えば、まあ慣れた。
しょーがない。オレは苦笑して、紗英の肩を叩く。
「お前、暇か?」
紗英が顔を上げる。オレよりも長身のくせに、オレよりも小さく見えてそれがおかしい。
「まだ帰る気しねーからよ。暇ならどっかいこうぜ」
「! い、いいのかい!?」
「ただし、お前のおごりな?」
どさくさに厚かましいことを言うと、それでも紗英は輝きを取り戻したプリンス面で「もちろん!」と即答した。
途端にシャキッとした紗英が、軽い身のこなしで胸を張る。
「おごるとも! ボクがしっかりとエスコートしよう!」
「はいはい、いいから行くぞ」
騒ぎ出すとめんどくさい紗英の扱い方もお手の物ってな。
ついでに紗英にも、なにかプレゼントを買ってやろう。
紗英に導かれるまま、オレは紗英を隣において本日2度目のクリスマスを楽しむために歩き出した。