三巻突入です。
十五話
『なあ、箒の誕生日何送ればいいと思う?』
「湯のみとかでいいんじゃないか?」
初っ端からひどい返答かもしれないが、これが俺の箒に対する印象だ。和の心って奴か。
『いや、女の子にそれはないだろ』
「そうか?刀とか送ったら普通に使いそうな気がするんだが」
練習にである。人を斬るためにではない。というかそんな奴に刀とか持たせられない。
……後日、実際に箒は一夏に刀を振り下ろさんとするのだが、それは全く別の話である。
「うーん、というか男同士で「女の子が何をほしがるか」なんて考えても意味ないような気がしてきた」
『……確かに』
「そうだな、こっちで知り合いの女の人たちに聞いてみる」
『そうか、じゃあこっちも…』
「やめとけ、こういうのはサプライズってのも大事だからな。下手に聞いて回ったらバレるかもしれない」
『なるほど、じゃあ任せる』
「ん、明日また同じ時間に連絡する」
という訳で聞いてみる事にする。こういう場合はISの研究所に行くのが一番だろう。女性多いし。
勝手知ったる道を歩き、見慣れた場所へと行く。
と、眼鏡をかけた黒髪の女性が振り返った。
「あら、カズト。どうしたの?今日は福音の開発もないし、資料とか請求された覚えもないけど?」
ちなみに、資料請求のときには通信で頼み、受け取りはこっちから出向くというのが暗黙の了解となっている。
「あ、キリカさん。そういう訳じゃないです。ただちょっと個人的な相談が」
「もしかしてまたナタルのセクハラがひどいとか?ごめんね、後できつく言っておくから」
「いえ、そっちでもないです。最近はあの人自粛してますから」
「え、じゃあどういう用事?」
「えっと…」
すこし言葉を濁してしまいたくなるが、ここは直球勝負でいこう。
「女の子って誕生日に何をもらうと喜ぶんでしょうか?」
「え……」
「「「「「「ええええええええええええええええええ!!!???」」」」」」
なぜかそこにいる研究員(全員女性)がこっちを見て絶叫していた。びっくりしてると、たちまち皆詰め寄ってくる。
「ぷ、プレゼントって誰にあげるの?」
「もしかしてナタル?」
「ああ!そういえばナタル水着選んでもらったって喜んでた!」
「まさか二人はもうそういう関係?」
「羨ましい!」
わいわい、がやがや。取り敢えず俺は必死で否定。
「いや、違います!ナタルさんじゃないです!」
「いつの間に他の女の子を見つけたの?」
「そうじゃなくて、幼なじみですよ!友達くらいの付き合いです」
「ホントにー?」
「ホントです!つーかそいつが好きなのは俺じゃなくてもう一人の男の幼なじみですってば!」
「ふむ、まあ落ち着いて話を聞こうじゃないか、事情を説明してくれるかな?」
「いつの間に来たんですか所長……」
という事で事情を説明。
「なるほど、君の男の幼なじみ、仮にAとするが、彼から女の幼なじみBに何をプレゼントするべきか相談を受けたと」
「はい」
「そして君はBがAに好意を持っている事を知っている。だがAはBの気持ちに気づいていない、と」
「ええ」
「AにBが喜ぶようなプレゼントをさせ、なおかつBの恋路を応援するようなプレゼントを君からBにしたい。これであってるかな?」
「はい、それであってます」
無論一夏がAで箒がBだ。
「うーん、指輪とかだとBちゃんが勘違いしちゃって悲惨な事になるかも。ていうかそのA君ってどうして気づかないの?」
「Bが素直に気持ちを表に出せないっていうのもありますが、Aが極度の鈍感だからってことも大きいです」
「そんなに鈍いの、そのA君は?」
「一例を挙げますと…」
一夏から聞いたエピソードを思い出す。
「『付き合ってくれ』と言われて、AはあっさりBの言葉を承諾したんです」
「ほう!」
「それで!?」
「Aの返答がこれでした。『いいぞ、付き合ってやるさ。……買い物くらい』」
「……それは」
「なんていうか…」
「確かに極度の鈍感ね……」
全員が納得したところで話が戻る。
「じゃあ、消えもの以外で高くないものにするってことでいいんじゃないかな」
「腕輪とか、ネックレスとか」
「あ、そういえばあいつ、髪の毛リボンで縛ってポニーテールにしてました」
俺が思い出した箒の特徴に皆が目を輝かせる。
「じゃあリボンね!」
「そのBちゃんの髪の毛の色は?」
「黒です」
「じゃあリボンの色は明るい色…白でいいわね」
「あとはカズトがBちゃんに送るものか……」
「香水でいいんじゃない?『デートの時にでも使って』って」
「おお!キリカあったまいい!」
ということでプレゼントが決まった。
電話で一夏に伝えると、
『わかった、白いリボンだな?今度水着買いに外出るからその時に買う。サンキューな』
「いいって。箒とは俺も幼なじみだし。にしても、水着って海にでも行くのか?」
『ああ、臨海学校だってさ』
「そっか。水着姿の女子が大量にいるんだろうな。……なあ、カメラで写真とって送ってくれないか?」
『出来るか!そんなことしたら俺が千冬姉に殺される……!』
「ふーん。ま、いいや。楽しんでこいよ」
『おう!』
そして数日後。
俺はナタルさん達とともに、『銀の福音』の試験稼働のためにハワイへと行くための空港にいた。
「仕事が終わったらバカンスなんだろ?楽しんでこいよ!あ、出来たら土産買ってきてくれ」
と、見送りにきたイーリが笑顔で言った。ちなみにイーリはこの前『アラクネ』を降り、新しい第三世代機『ファング・クエイク』に乗り始めているそうだ。
「ええ、そうね。たっぷりカズと楽しんでくるわ」
カジュアルなサマースーツを着たナタルさんも笑顔で答えた。
「では、行ってきます」
俺は最後に締めくくって、飛行機へと向かった。
『今回私の出番が一度もありませんでしたね。どうにかしなければ。このままでは私も影の薄い巫女さんのようになってしまいます』
「お前はキャラ濃いからそう簡単に影薄くなったりはしねえよ。俺が保証してやる」
次はいよいよ、福音事件へ。
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