福音事件、前編。
PV50万、ユニーク5万突破。ありがたい限りです。
十六話
ハワイに到着した。
「青い空、青い海、輝く太陽!絶好のバカンス日和ね!」
「バカンスは仕事が終わってからです。我慢して下さいナタルさん」
「むー、カズは私の水着が見たくないの?」
不満げに言う。子供っぽく頬を膨らませるのが何故か似合っていた。
「それとこれとは関係ありません。俺は『仕事と私どっちが大事なの?』と聞かれたら迷わず『仕事』と答えます」
「そんな仕事人間は女の子に嫌われちゃうわよ?」
「ほう、では周りの皆に聞いてみましょうか。」
話に聞き耳を立てていた周りの女性陣に意見を求めてみた。
「大好きだよーカズト!」
「嫌ったりなんてしないよー」
「むしろナタル空気読もうよ」
振り返って笑顔でナタルさんに確認してみる。
あえていうなら、その表情はブルータスに裏切られたカエサルのようだった。いや、実際に見た事ないけど。
「ごめんなさい」
「わかればよろしい」
こうして試験稼働の準備が始まった。
……本当に、何もなしで済めばいいのだが。
そして、とうとう試験稼働の時がやって来た。
俺はナタルさんに声をかける。原作というものを知っているとどうにもこういう場面で不安になってしょうがないのだ。
「その、ナタルさん。気をつけて下さい」
一方そんな俺の悩みに気づかず、ナタルさんはからかうような笑みを見せた。
「なあに?そんなに私と離れるのは嫌なの?」
「そんなんじゃないです。ただ……嫌な胸騒ぎがするから、心配で」
真剣な表情をしている俺を見て、ナタルさんは笑みを消し真顔で俺の目を見た。
「大丈夫、試験稼働って言ってもほとんど危険はないんだし、いざとなってもISの絶対防御が守ってくれるわ。だから、そんな不安そうな顔しないで」
「……はい」
っていうかまだナタルさんなのね、しかも離れたくないとかじゃないってばっさり否定するしと呟いて、ナタルさんは銀の福音に近づいた。
そして、搭乗。
銀の福音は遥かな空へと羽ばたいていった。
それと同時に研究員達が計測を開始する。
『っ!何、これ……きゃああああああああああ!』
「ナタルさん?ナタルさん!?ナタルぅぅぅうううう!」
数分後、俺は嫌な胸騒ぎが当たった事を理解する事になった。
「操縦者の制御下を離れました!暴走しています!」
「操縦者の方は?」
「通信に応答しません!おそらく気を失っています!」
……どうする。
確か、これは束さんが仕組んだ意図的な暴走だという事が原作では示唆されていた。
ならどうする?原作通りになるのを祈って黙って見てろっていうのか?
……ってちょっと待て!
「なんでIS学園の方に暴走の情報が送られている!?」
このまま送られたらアメリカは暴走するISを作った国として馬鹿にされるのが目に見えている。
「っ!誰かに介入されて支援を要請させられたようです!ハッキングを受けているようです」
「くそっ、手の空いているものは出来る限り防御を!IS学園上層部には機密であるということをきっちり言っておけ!」
「はい!」
「原因の方は?」
「おそらく、コア・ネットワークから直接介入されました」
「となると、やっぱりあの人か……」
……これを説明すれば、封印処理は免れるかも。さて。
「大統領への回線は?」
「たった今繋がりました!通信出ます!」
ディスプレイが開き、険しい顔の大統領が現れた。
『大変な事になっているわね』
「ええ、おそらくはあの『生きた天災』によるものです。防御はいかなる者にも不可能であったかと」
言葉を理解した大統領は納得して頷く。
『ふむ、道理ね。それでこちらはどうしたら?』
「VFの出撃許可を。混乱しているこの状況でISを他国に回す訳にも行きませんし、IS学園の生徒達だけに任せたとなったら他国に間違いなく舐められます。せめてこちらも出来る事はやれる限りしたという態度を見せなければ」
『そうね。ええ、出撃を認めるわ。ただし』
「ただし?」
『今、連携運用のために後で送るつもりだったパッケージとオプションが届けられている最中だから、少し待ってほしいの』
「…わかりました」
早く来てほしいと願いつつ、同時に俺は友達の無事を祈っていた。
ナタルさん、一夏、箒、鈴。
みんな、無事でいてくれよ……!
Side 織斑一夏
「二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型の軍用IS『銀の福音』が制御下を離れて暴走。監視空域より離脱したとの連絡があった」
こういう特命任務が時折専用機持ちに与えられるらしい事は和人から聞いている。
それにしてもアメリカ……か。和人なら大丈夫だろうけど、やっぱり心配だ。それに……あの大会の時知り合った二人、確かIS操縦者だったはず。
「織斑先生」
「なんだ」
「その暴走による被害は?それと、操縦者はどうなっているんですか?」
「暴走による被害は今のところない。操縦者はISに乗ったまま意識不明のようだ。が、大きな怪我等も特にないはずだ」
「そう、ですか…」
なら、怪我を負わせないようにしっかりやんないとな。あの二人のどっちかが操縦者だったりしたら和人が悲しむ。
俺は決意も新たに、四人の相談に耳を傾け始めた。
Side end
アクシデントがあったのか少し遅れて、数時間後に到着したVFのオプション、三機の無人戦闘機ユニット『
二時間前、IS学園の専用機持ち達による作戦は失敗した。もし原作通りに事が進むなら、また数時間したら彼女達は出撃するだろう。それまでになんとか調整を終わらせなければ。
試験稼働もしていないものをぶっつけ本番でやらなければならない上、実弾での訓練は想定していたものの、それほど弾薬が多くなく、ペイント弾がかなり多かったのでそちらも変更しなければならない。
だが、それらを他の奴に任せて、俺とエーネはシミュレーターでの訓練を開始した。レゾナンスの操作はエーネに任せるつもりだったし、高機動パッケージは速度域が変わる。変化した機体性能を出来る限り使いこなせるようにならなければならなかった。
銀の福音に対してどう対抗するか、を考えながら。
「サクライさん!準備完了です!」
その声を聞いて俺達はシミュレーターを終了し、EX-ギアのパイロットスーツを着込んだまま、最後の休憩とブリーフィングを開始した。
『やはり、広域殲滅型、エネルギー弾の嵐が大変ですね。ピンポイントバリアの使いどころを良く見極めなければ』
「そうだな、最初はレゾナンスの牽制をいれた銃撃戦、そしてそれでケリがつかない場合はピンポイントバリアを用いて大きな一撃を叩き込む。フォローは任せるぞ」
『御意』
頼もしい返事を聞き、俺はキャノピーへと向かった。
機体に乗り込み、最後の発進準備を開始する。
「高機動戦闘パッケージ『アクセラレータ』、機体との完全同調確認。システムオールグリーン」
『無人戦闘機ユニット『レゾナンス』の掌握を開始。……掌握完了まで3、2、1…
「VF-3EX 『ストラーダ』、発進する……!」
暗い
本日のBGMは「オベリスク」でした。
間に合うのかどうか微妙なラインですし。
次回、一夏達との共闘になります。
感想誤字脱字等あればよろしくお願いします。