後日談です。
前回かっこいいシーンで終わってしまったせいか、今回主人公の出番が一度もありません。全部他の人目線です。難しい………。
十八話
Side 織斑一夏
「良い方でしたわね」
「そうだね、かっこよかったな。……一夏ほどじゃないけど」
「あいつ普段はもっとおちゃらけているやつよ?」
「そうだな、いつもはもっとふざけてる」
「そうか?戦場と日常の切り替えが出来ている強い男だと思ったぞ、私は。……まあ
セシリア、シャルル、鈴、箒、ラウラが口々にあいつの評価をする。皆かなりの高評価だ。ふざけてるなどと鈴や箒は言っているが、あいつを知っているが故の憎まれ口で、本気ではないのだろう。
少し嬉しく想い、胸を張って答えた。
「当たり前だろ、俺の親友なんだから」
近いうちにまた会おうぜ、カズ。
Side end
Side 織斑千冬
ナターシャ・ファイルスを回収した日の夜。
私はとある天
「…とある天才が大事な妹を晴れ舞台でデビューさせたいと考える。そこで用意するのは専用機と、そしてどこかのIS暴走事件だ」
だんまりか。まあ別にいい。
「暴走事件に際して、新型の高性能機を作戦に加える。そこで天才の妹は専用機持ちとして華々しくデビューするという訳だ」
「へえ、不思議なたとえ話。凄い天才がいたものだね」
「ああ、凄い天才がいたものだ。かつて、十二カ国の軍事コンピューターを同時にハッキングするという歴史的大事件を自作した、天才がな」
「でもさちーちゃん。そのたとえ話、
「………」
「その暴走したISにもう一人の天才が関わっていて、その天才が、自分が作った機体で暴走したISを止めに行こうとする。とある天才の方は妹のデビューのためにそれを必死で妨害する。けど、ISの暴走も同時にさせ続けなければならないからどうしてももう一人の天才を止められない。結果、華々しく天才の妹はデビューするものの、同時にもう一人の天才が作った機体もただでさえ浴びていた脚光をさらに浴びる事になり、天才の妹の影が薄くなってしまう」
別にもう、言葉を続ける必要はなかった。
「あのね、ちーちゃん。十二カ国の軍事コンピューターを同時にハッキングするという歴史的大事件を自作した十全な天才でも、出来ない事はあるんだよ」
「そうか」
それ以上答える必要はなかった。
「ねえ、ちーちゃん。今の世界は楽しい?」
Side end
Side 織斑一夏
IS及び専用装備の撤収作業が終わったあと、俺はぐったりしていた。
昨日から大変だった。
一時間近く追い回されたあげく旅館を抜け出たのがバレて千冬姉に大目玉。
睡眠時間は三時間強。それでいて、あの重労働だから、もう死にそうだ。
それなのに、ラウラもセシリアもシャルも箒もそんな事は全く関係ないと言わんばかりにナターシャさんの事を聞いてきた。二組の鈴がいないのはラッキーと見るべきなのだろうか。
「第二回モンド・グロッソの時に知り合ったカズの友達」ってことでなんとか納得したみたいだが、まだ不満そうだった。特にあの事件を詳しく知っているラウラが。
飲み物分けてもらおうと頼んでも、誰もくれない。紅(くれない)の椿が昨日活躍したからなのか、と考えていると箒からチョップが来た。なぜ解る。
勘弁してくれ…………。
「うー……しんど………」
「「「「い、一夏っ」」」」
「はい?」
振り返ると同時に、見知った女性が車内に入って来た。
こちらを見るなり、にこっと微笑む。
「久しぶりね、一夏君。ずいぶん大きくなったわね」
「はい、お久しぶりです」
「ふふ、前は私があなたを助けようと動く立場だったけど、今回はあなたが私を助けてくれたみたいね、ありがと」
「いえ、仲間とカズがいなければ無理でした」
「そう言うものではないわ。お礼は素直に受け取っておいた方が良いわよ?」
「は、はあ」
俺が戸惑っていると、頬にいきなり唇が触れた。
「ちゅっ……。これがお礼。ありがとう、一夏君」
「え、あ、う………じゃなくて!そういうのはカズにやってあげて下さいよ!あいつ今回の件で俺よりも必死だったんですから」
「わかってるわ。彼にはもっと甘いのをあげるつもり。じゃあ、またね。バーイ」
「は、はぁ……」
わからん、甘いのってなんだ?
ひらひらと手を振ってバスから降りるナターシャさんを手を振り返して見送りながら俺はそんな事を考えていたのだが。
………。あ〜、なんかイヤな予感がする。振り向くと、
「何だろう、お礼ってだけだってわかってるんだけどね」
「どうもな……」
「我慢なりませんわね」
「さて、どうしてくれようか」
すたすたと歩いてくる四人。十三階段を上るときの気分はこんな感じなんだろうか。
「「「「はい、どうぞ!」」」」
投げつけられるペットボトル×四。およそ二キロの重さによる投擲打撃。死ぬだろこれ。
Side end
Side ナターシャ・ファイルス
バスから降りて目的の人物を捜す。……見つけた。
「おいおい、余計な火種は残してくれるなよ。ガキの相手は大変なんだ」
「カズから聞いていたよりも、少しかっこ良くなっていましたから」
「やれやれ……。元気そうだな、昨日あいつらが怪我させないように戦ったと言っていたから、まあ納得はできるが」
「ええ。それに私はあの子に守られてもいましたから」
あの子………福音だ。
「やはり、そうなのか?」
「ええ、カズからの通信によると、コア・ネットワークからの強制介入だそうです。強引なセカンドシフトも、コア・ネットワークからの強制切断も。………あの子は私のために自分の世界を捨てたんです」
恐らくその暴走させる犯人が持つコア以外との接続を全て切らせたのだろう。方法まではさすがに特定できないが。
「だから、私は許さない。あの子の判断能力を奪い、カズにまで銃を向けさせた元凶を……必ず追って、報いを受けさせる」
もっとも、カズの推測が本当なら、それは相当難しいだろう。
カズが提出した詳細なレポートと対策、即時対応のおかげで、福音は、凍結処理は免れたものの、装備も一から組み直しとなった。
………「もっといいの考えるから」って、申し訳なさそうに言ってたわね。
「あまり無茶な事はするなよ、この後も査問委員会があるんだろ? しばらくはおとなしくしていた方がいい」
「それは忠告ですか、織斑教導官?」
そう言って、以前アメリカで彼女に教えられていた事を思い出し、少し苦笑する。もっとも、教えるというよりもアドバイスを受けるくらいしか無かったけど。彼女も以前の事を思い出したのか、微苦笑を浮かべていた。
「アドバイスさ、以前と同じく、ただのな」
「そうですか。それでは、おとなしくしていましょう。………しばらくは」
最後の一言と共に一度だけ鋭い視線を交わしあったあと、待っている政府の役人の元に行く事にする。
………またいずれ会いましょう、織斑教導官。
という訳で、これで三巻終了。
次から四巻……なんだけど主人公側から書くのが基本だからなー。少なくなりそうな気が。