会長本格始動編。一夏は弄ばれまくりです。
二十八話
あの後、結果報告のため一夏が職員室に向かうのに何となくついていって、外で待っていると楯無さんが現れた。
「やあ、織斑一夏くんはこの中?」
「ええ。恐らく織斑先生に報告をしてますね」
「よし、ならしばらく待ってようかな」
「それが賢明ですね。そしてその後は………」
「「ふふふふふふふふふ………」」
お互いの顔を見合わせて含み笑い。横を通り過ぎる女子達が軽くひいていたが、そんなことは気にしたら負けだ。
っと、ドアが開いた。
「よお」
「やあ」
出てきた一夏に軽く挨拶すると、曰く言いがたい表情をして黙り込んだ。
「………何か?」
ぶっきらぼうに一夏は声を出す。それに対し楯無さんは軽く首を傾けてみせる。ややわざとらしかった。
「ん? どうしてそんなに警戒してるのかな?」
「それを言わせますか……」
やや恨めしげな表情で一夏は楯無さんを睨んだ。楯無さんは手をポンと打つ。
「ああ、最初の出会いでインパクトがないと忘れられるって、和人君が」
「またお前か!」
一夏が同じ形相のままこっちに視線を向けるのに対し俺は肩をすくめてみせた。
「いや、そうかな、と思って。話聞いたらみんな最初の出会いは相当インパクトあったんだろ?」
「なくたって忘れないっつーの!」
「じゃあのほほんさんの本名は?」
「え? あ、えっと………」
必死で思い出そうとする一夏に俺は大げさに手を振って嘆いてみせる。
「やれやれ。悲しいねえ、のほほんさん泣いちゃうぞ? やっぱインパクトなきゃダメじゃん」
「う、そ、そんなことは………。そ、それより、早く訓練行こうぜ、カズ!」
「話露骨に逸らしたわね」
「逸らしましたね」
楯無さんと頷きあう。
「そうそう、訓練って言うなら私、教えるわよ? 何せ生徒会長だし」
「え、生徒会長が何の関係があるんですか?」
きょとん、とした表情で訊いてくる一夏に俺と楯無さんは顔を見合わせる。
「………なんで入って数日の和人君が知ってて織斑一夏くんは知らないのかしら………?」
「世間知らずだからでしょう、多分」
「ちゃうわ!」
「じゃあなぜ?」
「………ごめんなさい」
その直後に襲撃があって、それを楯無さんが華麗に撃破しつつ、『生徒会長は最強』という言葉を物わかりの悪い一夏に理解させてから、俺達は生徒会室に向かった。
あれ、行き先がいつの間にか変わってる……。自然に誘導するとはさすが生徒会長、俺はまだまだ甘いな……。
『感心するところが違うと思いますけど』
やかましい。
と、生徒会室についた。
「ただいま」
「ただいまですー」
「おかえりなさい、会長、桜井君」
のほほんさん……布仏本音の姉、三年生でメガネかけてるけど山田先生とはキャラが被らなそうな布仏虚さんが出迎えてくれた。いや、
考えていたらそののほほんさんが顔を机の上から3センチほど上げていた。
「やっほーさくらんー………とついでにおりむー………」
「俺ついでか!?」
絶叫した一夏に対し、俺は冷めた目で見た。
「本名も覚えてないような人間は『ついで』でいいだろ」
「ぐっ!」
一夏は胸を押さえて膝をつく。
まあどうにか二人の自己紹介が終わった後、指導を受けるだの受けないだのという話になった。
「だいたいそれならカズはどうなんですか! こいつも男子でしかも弱いじゃないですか!」
うわ火の粉がこっち飛んできた。
「ISはともかく生身は鍛えてもらってるぞ。ISの方は通信教育があるからな」
ナタル達が作ってくれてるのだ。それ見て練習してる。
「だいたい、彼は弱いわけじゃないわ。むしろ技術的にはほとんど卓越している。VFの操縦に慣れすぎてISの応用辺りが少し引っかかってるだけ。それに私も教えるといろいろ恨み買いそうなのよねー………」
楯無さんは苦笑している。ああ、この人はロシア代表で、俺を教えてくれてる人の一人……イーリはアメリカ代表だからな。そこらへんもあるんだろ。
ちなみにイーリは「シャム猫みたいになに考えてるかわかんねえ奴」と楯無さんを評していた。
……横でナタルがため息つきながら「じゃああなたは
「じゃあ、勝負しましょう。俺が負けたら従います」
「うん、いいよ」
楯無さんはにっこり笑顔。俺はにやにやした。
俺達二人の反応を見てようやく気づいたらしい。
………「のせられて罠に引っかかった」と。
「にしても一夏よ、あの条件はなかったんじゃないか?『負けたら従う』って奴」
道場に向かう途中、俺は一夏に話しかけた。ムスッとした表情で答えてくる。
「しょうがないだろ、つい口から出てたんだ」
「……後で皆『じゃあ私とも勝負しろ』とか言うだろうな」
「………あー……」
しまったと言う表情で頭を抱える一夏。気づくの遅いぞ。
数分後、畳道場にて。
白道着紺袴と言う格好で一夏と楯無さんは向かい合っていた。
「エーネ、録画頼む。きっと一夏のラッキースケベが見られるぞ」
『御意』
「ないからな? ラッキースケベとか絶対ないからな!?」
一夏の叫びはスルーしてエーネは録画モードに入った。紅い光が点滅する。
……数分後、一夏はぶっ倒れていた。道着を掴んで楯無さんの下着を晒した代償に空中コンボを喰らって。
「やっぱりこうなったな」
『ええ、こうなりましたね』
と、一夏が目を覚まし、なにやら楯無さんと会話をしているとボーデヴィッヒが現れ、ヤンデレのような目をして一夏達に斬り掛かったが、容易く楯無さんに撃墜された。
「さて話もまとまったところで行こうか」
「へ? どこに……?」
ボケッとした顔で問う一夏に、楯無さんはにっこり笑って答えた。
「第三アリーナよ」
………なんだか今日の放課後は色んなところを歩くよなー。
『そろそろ疲れてきました』
「お前足ないのに何言ってんだ!?」
所変わって第三アリーナ。
オルコットとデュノアがISスーツ姿で立っていて、こっちに気づくと不思議そうな顔をした。
もともと若干刺々しい空気だったのだが、「これから一夏の専属コーチをする」という楯無さんの発言で一気に険悪なものへ向かった。
「これは、その、勝負の結果なんだ! うん!」
一夏の言い訳じみた言葉にくすっと笑みとともに楯無さんが言葉を継ぐ。
「負けたら言いなりっていう、ね」
さすが同士、上手い具合に一夏で遊ぶ方法を心得ている。
案の定、全員が勝負だと言い出した。ピンチになった一夏はこっちを見る。
(助けてくれ、カズ!)
……が、先ほどのメイドの恨みもあるのでにっこり笑って女子達に一言。
「さっきの二人の勝負の映像、録画したんだが……見る?」
「「「もちろん!」」」
その後結果を見た女子達に一夏はボコボコにされた。あれだな。『コンボがつながった!』って奴だ。
さらにその後一夏はマニュアル制御を覚えなければならないと楯無さんに言われたり、楯無さんにからかわれたり、一夏のために真面目に機動を見せてる時にそれを見たシャルとセシリアに怒られたりするのだが、…………まあ、うん。
俺には関係ないな!
いぃやったー!第一章ようやく終わったー!
次回は久々のVF開発編。更新は少し遅れるかもしれません。