予告通りVF編。バランス調節って難しいな………。
二十九話
次の日、俺は、楯無さんのしごきを受けている一夏の恨みがましい目をあっさりとスルーして、織斑先生から許可を得て外出。
行き先は倉持技研のVF工廠。俺が日本にいる間もVF開発に関わるために、そこで本社からデータを受け取りこちら側で作っている試作機にフィードバックさせ、そこに俺がいろいろ付け加えたり修正したりして、そのデータが本社にフィードバックされて……という方式でやることになっている。
取り敢えず、電車とバスを使って……と行動しようとしたら、本国からこの日のために来たと言う護衛に止められた。
「あなた自身はISもあるから大丈夫でしょうが、他の人を巻き込む可能性を意識してください」
だそうだ。ちなみに普段の外出については遠くから護衛するからここまでどうこう言ったりするつもりはないらしい。今回のように研究開発に関わるときが大事なんだそうな。
というわけで、
まさかのリムジンだった。なんというかめっちゃ長い。近くにいたIS学園の女子達がひそひそ囁きあうレベルだった。
「待てやコラ」
「なんでしょう?」
「俺そんなに偉くないし。護衛するんだったら目立たない方がいいし。防弾性能とかは兎も角空気読め」
「あなたがそうおっしゃるなら構いませんが……リムジンに乗るのがお好きと聞いていたもので」
「誰からだ!?」
「閣下からです」
閣下……と呼ばれる人はあの国で知ってる人の中では一人しかいない。
「あ・の・ク・ソ・バ・バ・ア…………!」
後で絶対文句言おう。というかちょっと嫌がらせしよう。プレゼントに自分で歩くパイを送るとか。むしろそれをホワイトハウスまで歩かせて「私を食べてくださーい!」と叫ばせるとか。
あの人のサプライズのレベルは度が過ぎていると思う。
『同族嫌悪ですね、わかります』
「ちっがーう!」
なんだかんだ言いつつも目的地に到着した。勿論、防弾ガラス等が施された普通の乗用車で。
取り敢えず、と研究所の所長に挨拶でも行こうと思って、研究所に入って俺が最初に見たのは、
「桜井和人様、よくいらしてくださいました。ようこそ倉持技研VF工廠へ!」
トップ以下全員がここに来て深々と頭を下げている光景だった。
……つくづく思うのだが、俺の扱いが凄いレベルになってる気がする。なんだろう、束さんが思いっきりやりたい放題やってるの見て俺も似たようなことになるのではと危惧してるんだろうか。
挨拶返しつつも今後はそんなこと気にしたりしなくていいと言ってから、とりあえず所長に挨拶。今日はデータチェックが目的だ。今後の方針の説明や意識の擦り合わせ、ここで働く人との顔合わせが主な仕事となる。
とりあえず研究所に行くと、凄い勢いで歓迎された。
「VFの生みの親にお会いすることが出来て本当に光栄です!」
「写真で見てはいましたが実際会ってみると本当にお若い……」
「………いやあ、それほどでも」
持ち上げられまくるとむしろ引きたくなるのは人として正しいと思う。
取り敢えずの方針だけここで説明をしておくことにする。
ミーティングルームに研究員やエンジニアを集め、エーネにディスプレイを操作してもらいつつ解説を始めた。
「第三世代の目標は継戦能力及び操作性の向上というのが大きいです。まず第一にエンジンの改良……熱核タービンエンジンシステムから熱核バースト・タービンエンジンシステムへと改良すること。これは大気圏外……宇宙空間での戦闘における継戦能力の向上を主眼としています」
宇宙空間での戦闘、その言葉に皆が息を詰めたような気がした。もともと今は宇宙進出の準備段階だからな。IS以外で宇宙での防衛戦力となりうるのはVFしかないはずだ。……そのうち空母とかも予算によっては作ることになるのかもしれないが。
エンジンの改良に必要な熱交換理論、発展させるのに結構時間かかったんだよな……。
「また、それによりエネルギーにある程度余裕ができるため、第二世代で搭載されたピンポイントバリアシステムの展開可能時間をある程度広げることと、エネルギー兵器の出力系統の調整及び改良も必要となります」
エネルギー兵器の運用を重視するのは実弾だと弾薬費がもったいないのと、デブリの増加を少しでも防ぐためだ。
「ここまでが基本的な継戦能力の向上についての話です。操作性の向上については語るべきことは三つです。一つ目、ハイパーセンサーの機能向上。二つ目、サポートAI及びイメージインターフェースシステムの発展。この二つはIS研究所との協力が不可欠となります。お互いの情報交換を欠かさないようにして頂きたいです。三つ目は………、これはISにはないVF特有の問題なのですが、キャノピーの内部で操作するので視界の制限がかなり大きいこと、ここを改善するためにキャノピーに置ける視界の拡大を目指したいと思います。ここら辺は先に挙げた二つとの兼ね合いになる部分も大きいですのでそちらがどこまでやれるかによって変わってきますが」
ちなみに以前俺が使った無人戦闘機の操作にもイメージインターフェースシステムは密接に関わってくる。エーネクラスのAIとか俺しか持ってないはずだし。
「また、ある程度完成の形が見えると同時にパッケージの開発も開始します。中身無しに外の部分を開発して調整が利かなかったら悲惨なので。……えーと、以上です」
パチパチパチパチパチパチ!
拍手の音がミーティングルームで満ちた。
……あー、緊張した。
帰る前に飛行場の方へ向かう。テストパイロットを務めることもあるだろうけど、こっちのテストパイロットにも挨拶しとかなきゃなんないし。
って、え?
「………女の人?」
待っていたのは男性のパイロット一人、女性のパイロット一人だった。二人とも二十代前半ぐらいだろうか。男性の方は全体的にやや優しそうな感じだ。それに対して女性の方は少しつんけんしているように見える。
「……女性がVFに乗ったらいけませんか」
つっけんどんに返された。横で男性が苦笑している。
「いや、別にいいですけど。女性って皆ISに乗りたがるものかと……」
「……父が、戦闘機乗りでしたので。ISよりもこういうものに憧れて育ちました」
なるほど、ね。
「まあ、これからよろしくお願いします。すこしお借りすることもあるかもしれませんが」
「構いません、最強と名高いVFパイロットの操縦が見られるというのは私達にとって勉強になります。………
「こちらこそ」
差し出された手を握る。と、横から手がもう一本差し出された。
「
一番最後の一言に桜野さんが目を剥いた。
「ちょ、何言ってるのあなた!」
食って掛かる桜野さんをまあ、まあと園宮さんは押しとどめる。
「いや、お前もほしがってただろ? VFパイロットにとっては憧れだしな」
「そりゃそうだけど、失礼でしょ!」
おや、顔が赤い。つんけんしてたのは緊張してたからってことか。
そう考えると自然と笑みが浮かんだ。
「いいですよ」
「「え!」」
「サイン、書くものがあればやりますけど。……あんまり慣れてないので不格好なものになってしまうと思いますが」
「「構いません、お願いします!」」
サインペンと色紙が差し出された。なんだかんだ言いつつ桜野さんも持ってきてたんかい。
快くサインしたあと、最敬礼で送られて、俺はIS学園に戻った。
……危うく門限に間に合わなくなるところだった。
『つまらないですね、ここで外泊せざるを得なくなって織斑先生にバレて阿鼻叫喚の地獄絵図……というのを読者の皆は期待してたと言うのに』
「読者とかメタなこと言うな! そしてそうなったらガチで死ぬ!」
次回から学園に戻ります。ついでに言うと最後の二人を出したのはいろいろ話に使えそうだったから。使わないかもしれないけど。