長らくお待たせいたしました。家のごたごたも少しづつ収まってまいりました。
IS、10月も発売しないみたいですね……。結構大ピンチ。
様子見もあって更新は当面は二週に一回とかそんな感じになると思われます。
三十一話
一夏が波乱の同居生活を始めた次の日の朝。
俺は早起きして、波乱を巻き起こす女装生活を始めた。
会長の伝手を使って手にした女子の制服に袖を通し、いつも縛っている髪の毛をおろす。
制服のタイプとしては、上はネクタイとYシャツ、下はオルコットのようにふんわりとしたスカートではなく、着物を思わせるまっすぐのロングスカートだ。
派手過ぎないよう、自然な化粧をして、エーネを首にかけてから、鏡に向かって確認。
「問題、ないようですね」
声は能登麻美子さんで安定していることを確認し、鏡に向かって微笑みかけてから、静々と食堂へ向かった。
早めに食堂で一人で朝ごはんを食べている間、周りからはひそひそとした声が絶えなかった。
「あの子きれい……」
「でも見ない顔だね。何組の子かな」
「あれ、でもどっかで見たことあるような……?」
ふふ、計画通り……!
昨日の内に会長経由で許可を取ってあるので、織斑先生は苦い顔をしつつも何も言わない。
食べ終わって丁寧に「ご馳走様でした」と挨拶し、食器を片付けてから教室へと向かった。
教室に着いてからいつもの自分の席に着き、授業の準備をして、そのまま窓の向こう、空を眺めていると後ろから足音が聞こえた。
一気に振り返るのではなく、ゆっくりと静かに振り返る。
そこにいたのは箒のルームメイトにして、クラス一のしっかり者と一夏が評した鷹月さんだった。
「おはようございます、鷹月さん」
微笑みかけて挨拶をすると、しっかりしているはずの鷹月さんは珍しく戸惑ったようだった。まあ当然なのかもしれないが。
「え、ええ、おはよう。……失礼なこと聞くけど、あなた、ここのクラスの人? それにそこは桜井君の席のはずだけど……?」
「…あら」
やっぱわかってないみたいだな。声だけでなく、笑顔の感じ、歩き方、雰囲気とかいろんなところをがらりと変えているし。
俺は女装の手ごたえを感じて内心でガッツポーズをしつつも、微笑みを崩さずに煙に巻くような答えを返した。
「…ふふ。すぐに分かりますよ」
「そ、そう……」
鷹月さんはなんとなく頷いて、自分の席へと向かった。
Side 三人称
一方そのころ。
一夏はいつものメンバーとともに食堂で食事を取っていた。
更識楯無との同居の話を聞き女子の皆は不機嫌そうだったのだが、話題が変わって空気が妙な方向に変化した。
変化した先の話題はずばり、「桜井和人の女装」である。
「いやー、久しぶりに見たけど相変わらず凄かったな!」
一夏が楽天的に言う横で、箒は苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
「……ああ、そうだな」
その様子と、以前の経験からなんとなく悟った鈴はおそるおそる聞いた。
「……へし折られた?」
「……完璧に」
「何が」という部分をいうまでもなく理解した箒の即答によって、鈴も箒と似たような表情をした。
「…一夏」
「どうしたんだ、鈴? そんな暗い顔して」
「あたし、学園祭当日までしばらく一組には行かないことにする」
「……は? どうしてだよ」
「どうしてもよ」
言って、鈴は自らの突然の発言に固まっている三人……セシリア、シャルロット、ラウラに哀れむような視線を向けた。
「アンタ達には同情するわ。今あたし、初めて二組でよかったって本気で思ってる」
意味を理解できない三人は、目を白黒させて戸惑うことしかできなかった。
Side end
しばらくなんとなく空を眺め、日の心地よさに目を細めていると、またドアの方で音がした。
ゆっくりと振り返る。
「……あら、一夏さん。箒さんたちも、おはようございます」
ゆったりと微笑んでみせる。当の本人は口をパクパクさせつつも、言葉が見当たらないようだった。
箒は苦い顔でうつむき、オルコット、ボーデヴィッヒ、デュノアはわけが判らずお互いの顔を見合わせるばかり。
「……ど、どうしてここに…?」
悩んだ末に一夏が最初に発した質問はそれだった。
にこりと笑み、からかうように答える。
「あら、私はこのクラスの一員ですのに、『どうしてここに』とはおかしな質問をなさるのね」
「いや、そうじゃなくて! どうしてその格好でここにいるのかってことだよ!」
「おや、不自然ですか? 何か違和感でも?」
「いや違和感とか全然ないけどそうじゃなくて……!」
「織斑先生の許可ならいただいていますよ?」
「千冬姉、何だってんでそんな真似を……」
とうとう頭を抱え始めた一夏を見て眉根を寄せたセシリアが問う。
「あの、どちらさまですの? 初対面の方とお見受けしましたが……」
「……ひどいことをおっしゃるのね。もう何度も言葉を交わしたことがありますのに」
「え……!?」
戸惑うセシリアを見かねて、ため息をつきつつ箒が言ってきた。
「そのくらいにしておけ、か「のどかとお呼び下さいと申し上げたはずですが?」……のどか」
途中で声をかぶせてしまったので周りの人たちは分からなかったらしい。
と、そこにのんびりとツインテールの少女が入ってくる。
「あら、布仏さん。おはようございます」
のほほんさんは俺の挨拶に少しびっくりしたようだけど、すぐに微笑み返してきた。
「おはよー、さくらん〜。思ったとーり、似合ってるね〜」
「ふふ、ありがとうございます」
その会話の瞬間、クラスの空気が完全に凍りついた。
「あ、あの」
恐る恐る来る質問に平然と答える。
「何でしょう、デュノアさん?」
「君は桜井くん……桜井和人博士なの?」
「ええ。もっともこの格好をしているときは『のどか』と呼んでいただければ幸いです」
あっさりと頷いた俺の周りを一瞬沈黙が覆い、そして声が爆発した。
『ええええええええええええええええええええええええ!?』
その後皆微笑んでいる俺の顔やら格好やら振る舞いをじいっと見て、ガックリと項垂れた。
「ま、負けた…」
「男に負けるって…」
「女子のプライドが台無しに……」
山田先生もまたこの後に教室に入ってきた後に似たような反応をすることになる。
……ちなみにだがこの声の爆発とその後のどんよりとした空気はその日IS学園の各所で発生したらしい。
なんかもう、会長が一夏と同居することになったこと以上の大事件扱いだった。
余談だが、部屋の中では会長が、外では俺が波乱を巻き起こすせいで、一夏は学園祭直前までげっそりとすることになったらしい。自業自得なので知ったことではないが。
『それにしても、皆さん薄情です。誰も私の存在に気がつかないとは』
「いや、気づかないもんだなホントに」
『いつも軽快なトークをして皆さんを楽しませているというのに』
「……それ、本気で言ってる?」
『もちろん』
「……………そ、そう」
波乱の部分は一夏の部屋での出来事がかなり多いので別の部分で補完してみました。
さて次回はいよいよ学園祭当日……かと思いきやちょっとした舞台裏の話になります。