さて、いよいよ学園祭当日であります。ギャグもシリアスも結構入っていますが、とりあえず最初はギャグ全開です。
三十二話
いよいよやってきた……一部の者にとっては、「やってきてしまった」………学園祭当日。
一般開放はされていないものの、生徒達の中には、
「え!? 織斑くんだけじゃなくて桜井くんもご奉仕してくれるの!?」
「しかも桜井くんはメイドのエプロンドレス!」
「恥じらいながらのご奉仕がたまらないんだって! これはもう行くしかないわね!」
『男の娘最っ高!』
妙にテンションが高い者と、
「男に負けたとあっては、女として一生ものの恥………!」
「チェルシーに教わったメイドの奥義、見せて差し上げますわ……!」
「男の子より男っぽいのはやだなあ……」
「クラリッサの策、通用してくれるのか…………?」
『絶対に、桜井和人を一位にすることだけは許されない………!』
妙に
そんな中、我が一年一組の『ご奉仕喫茶』は大盛況、店内は客でごったがえしていた。
というか、俺と一夏が引っ張りだこな状態だった。他の連中は普通にしているのだが、ただならぬオーラが発せられているようで恐ろしいことこの上ない。
「いらっしゃいませ♪ こちらへどうぞ、お嬢様♪」
普段穏やかなキャラ筆頭であるデュノアも、笑顔の裏に龍か何かのオーラが隠されているようで怖くてしょうがないのだが、他の女子達は気づかないようだった。気づいていない振りをしているだけなのかもしれない。
接客兼コスプレ担当は俺と一夏といつものヒロインズ(鈴除く)の面々だった。
オルコットはここ数日で本家からメイドを呼んで、マジで作法について学習したらしい。
気品のある動作には時折ため息をつくものもいる。
ボーデヴィッヒは………なんとドイツ軍から大幅に改造されたメイド服を送られたらしい。
黒と白の編み上げドレスに、薄紫のバラの意匠のついた、黒のロングブーツ。それを着こなして無表情ながらも優雅にかつ完璧に仕事をこなしていた。時折擦り寄ってくるものに「寄らないでくださいますか、ゲスお嬢様?」なんて氷の笑顔で毒を吐き、「そういう連中」を悶えさせている。
箒とデュノアは本当に素で勝負することになったものの、箒の独特の凛とした雰囲気と、デュノアの人を穏やかにさせる空気という、もともとの武器でかなり戦えていた。
……しかし。
「……あら、先輩方。本日はご来店頂き、誠にありがとうございます。ふふ、学園で有名なコンビのお二人に来ていただけるとは光栄の至りですね」
「……あれ、すぐにわかったッスか? 確か入って間もないはずッスよね?」
「ええ、ですが専用機持ちの先輩方のことは尊敬しておりますし、もともと注目してましたから」
「へえ、嬉しいこと言ってくれるな。お世辞でも嬉しいよ」
にこり、と笑む。その笑顔の先にいるのは三年生のダリル・ケイシー先輩と二年生のフォルテ・サファイア先輩だ。
「ふふ、本音ですよ? ……とはいえ、ここで立ち話もなんですし、お席にご案内いたしますね、お嬢様方」
「お、おお、頼む」
ケイシー先輩が少し狼狽したのに何食わぬ顔で気づかぬ振りをして、席へと案内。
「さて、お相手はどなたがよろしいでしょうか?」
「「もちろん君」」
先輩方がハモった。
「ふふ、ありがとうございます。ご注文は何になさいますか?」
メニューを確認する先輩方二人に、笑顔で首を少しだけ傾げてみせる。
「『メイドにご褒美セット』一つ」
「あ、同じくッス」
「……あの、メニューの内容はご存知でいらっしゃいますか?」
上目遣いで一応確認。
「さっき後輩から聞いたよ」
「だからそれにするんじゃないッスか」
うん、俺にはあまりにもまぶしすぎる笑顔だった。
「あう……『メイドにご褒美セット』二つですね。かしこまりました、少々お待ちくださいませ」
丁寧にお辞儀をしてから、静かに、大股になり過ぎないように歩いてキッチンへ向かう。
「大人気ね。……セシリア達が不憫だわ」
そんな言葉と共にすぐさま『メイドにご褒美セット』が二つ渡される。知らん、自業自得だ。
くるりとターンする。もちろん早すぎたりしないように、スカートがふわりと上がるように、優雅に、だ。
そのままテーブルへと戻る。
「お待たせいたしました、お嬢様方」
「待ってたッスよー」
「早く座れって、な?」
「……はい」
言葉に従い二人の正面に座る。
『メイドにご褒美セット』。メイドに冷やされたポッキーを食べさせるという、なんとも奇妙なメニューである。俺を指名した人はたいていこのセットを所望する。
なぜなら……
「「はい、あーん」」
「あ、あーん……はむっ」
口を大きく開けすぎずに先端をかじる。もぐもぐと味わい、ごくりと嚥下する。……冷たくて美味しいんだが、そろそろマジで飽きてきた。
「えへへ……美味しいです。ありがとうございます、お嬢様方♪」
しかしそんな思考はおくびにも出さずに、食べ終わったあとに少しはにかんでみる。
「「うっ………!」」
先輩方の顔が赤い。こうかはばつぐんだ!
さらにダメ押し。
「もっと、下さいますか?」
ちょっと潤んだ感じの上目遣いで懇願するように言ってみる。
先輩方の目にはハートマークすら浮かんでいるように見えた。
「も、もちろんッスよ!」
「ちょっと待て、あたしが先だ!」
ふっ……落ちたな。計 画 通 り。
黒い笑みを心の中で浮かべつつ、俺は争う先輩方を諌めた。
「落ち着いてくださいませ、お嬢様方………」
……まあ、こんな感じで。
俺はメイドさん人気投票(一夏は執事なので入らない)の票のうち二分の一を独占し、首位を独走していた。
「……はあ、やっぱりね。こうなるんじゃないかとは思ってたわ」
「く、屈辱ですわ………」
「何とか挽回しなければ、部下の皆に申し訳が立たん……」
「く、男が女装していることのどこがいいのだ……!?」
「だ、大丈夫だよ。まだまだお客さんはいるんだからきっと挽回できるよ!」
「いや、無理でしょ」
『嫌なことを言うな(言わないでよ(ください))、
……ヒロインズの乙女心への多大なダメージを代償として。
RayStingerさん、ラウラのメイドアイデアありがとうございます。
さて次回もまだ学園祭のコメディは続きます。
一夏の中学時代の友達が現れ、そして再び"彼女"の影が………。
それとかなり紹介が遅れてしまいましたが、貴仁辺人さんの作品「IS〜インフィニット・ストラトス〜 -くらげんdays-」(http://ncode.syosetu.com/n3683v/)にてウチとのコラボが描かれております。いい感じに壊れたうちのキャラたちの下にあちらの主人公の海月君が乱入してます。あちらも面白いので、ぜひ読んでみてくださいね!