学園祭コメディ編はまだ続きます。
IS8巻、年内に出ることはないそうです……………。
二週に一回の更新でまだ当面は保つのですが、どこまで遅れるのか不安ですね……。
三十三話
俺がほぼ自分の勝利を確定させていると、新聞部の黛先輩が来た。
なんでも写真撮影をするらしい。
きっちりお客さんにサービスしてからそちらの方ヘ向かうと、黛先輩が少し固まっていた。
「…………これはまた……とんでもない逸材ねー。前にも取材したからわかってたことだけど」
硬直から回復しつつそんなことを呟く黛先輩に俺は笑顔で確認。
「見たところツーショットのようですが、私も一夏さんと撮るのですか?」
「ええ、絵になるわ。男同士なのになんででしょうね……」
「ふふ、ここにいるどの方よりも長い付き合いですから。ね、一夏さん?」
「あ、ああ……」
刺すような視線を一切気にせずに一夏に問いかけると、一夏は少々戸惑いながらも首を縦に振った。助けを求めるように辺りを見回しているようだが安心しろ、ここに貴様の味方は一人もいない。
「一夏さん、前を向いて、右腕は肘を90度に曲げて柔らかくこぶしを作り、左腕は気をつけの状態から少し力を抜いた状態でお願いします」
「こ、こうか?」
てきぱきと一夏の姿勢を指摘。こういうところでは手を抜かないのだ。
「ええ、背筋をピンと伸ばして、そして唇には微笑みを。………作ったような感じだといけませんね。一夏さん、今、楽しいですか?」
「お、おう」
「ならその思いを表情に出して下さいな。……はい、いい感じですね。それでは黛先輩、よろしくお願いします」
そして手を握るでもなく、微笑を浮かべて隣に立つ。まるで、寄り添うように。
「じゃ、撮るわよー」
小さな音がして写真がとられる。
「うん、最後のとかメイドと執事のコンビとしては最高の写真だったわね………両方男なのに」
それは言わないお約束。なぜなら普通のメイドさんに何かが突き刺さるから。
………この写真が新聞に載ったせいで、IS学園中にある
その後、楯無さんが一夏の代わりに手伝いで入ることになり、一夏は少し休憩だそうだ。
ちょっと、羨ましい。
「あの、会長? 私の分は……」
言い掛けたところで冷え切った声が後ろからかかった。
「……ほう、勝ち逃げをすると」
「まだ勝負は終わっていませんわよ?」
「敵前逃亡は銃殺ものだな」
「まさか逃げるなんて言わないよね?」
なんだろう、ちょっと後悔し始めた気がしなくもない。「後悔なんてあるわけない」なんて言葉、もう一生使わないようにしよう。いつどこで後悔するかわかったもんじゃない。会長助けて。
「ごめん、無理」
『自業自得だと思いますが』
元はお前がそそのかしてきたんだけどな!
今メイドのままだからそんな突っ込みも入れられない。
そんなところに。
「か………和、ちゃん?」
俺達が背を向けているドアの辺りから声が聞こえた。
世界が、凍りつく。
「こ、この声は……!」
「まさか貴様招待したのか、
「え、ええ、まあ。呼ぶ方もいませんでしたし」
振り向くこともなく箒ががたがた震えだし、ボーデヴィッヒが血相を変えて俺を問い詰める。
たじたじになりながらも俺は答えた。
「なんてことを……!」
「お、織斑先生にIS使用の許可を貰わなきゃ……!」
オルコットもデュノアも
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「「「「「あっ」」」」」
そんなカオスの中、会長はそれに………女性の姿をした
「あら、ありがとう」
「指名制となっていますが、どちらの者がよろしいですか?」
「そうね、あそこで背を向けている黒髪の子にしようかしら」
「………あら、お呼びですよ、箒さん。票をゲットするチャンスです。張り切って行かれてはいかがですか?」
「馬鹿を言うな、どう見てもお前だろう! というか、仮に私だったとしても、票が手に入るとしても、絶対にあれだけはいやだ!」
背中に冷や汗を掻きつつ、笑顔で箒に提案してみたがにべもなく却下。
女のプライドと身の危険を秤にかけて、即座に女のプライドを棄てたらしい。
しょうがないので、ため息をつきつつそちらに向かう。
「お久しぶりです、
とりあえず微笑みかけるとうちの母は目がキランキランしていた。
「きれいね、素晴らしいわ。さすが我が息子……いや娘!」
元ので合ってるってば。なぜ子供の性別を訂正する。
そして手をわきわきさせるな。仮に胸が多少豊かに見えるとしてもそれはただの
「あら、やっぱりそういう関係なのね」
会長の言葉に頷く。
「ええ、そうなります」
「それにしても……いいわねー。やっぱり若い果実って最高だわ……!」
熟れきって木から落ちた果実が何かを言った。
「ふふ、ここは桃源郷……!」
「お母様、ここはお母様が想像なさっているようなサービスはやっていませんよ?」
どう見てもエロ親父の発想に近いナニカを想像しながら鼻血を垂れ流す母親に一応忠告する。
とたんに目に見えてウチの母は落ち込んだ。
「そう、なの……しょうがないわね、愛娘の晴れ姿と接客を見れただけでも満足だし」
だから息子だというに。
こうして、俺は母親に対してメイド服で接客するというシュールすぎる状況に陥りつつも、周りの子をうちの母親の魔手から守りきった。
それからしばらくして一夏が帰ってきた。また仕事が忙しくなるな、とため息をつきそうになるが、そういうのは決して客に見せない。
相も変わらず、少女たちの悲喜交々の絶叫をよそに俺は次々と票を勝ち取っていった。
しばらく同じように接客をこなしていると、赤い髪をヘアバンドでくくった男子が現れた。年齢は………俺と同じくらいだろうか。
「お帰りなさいませ、ご主人様。どなたをご指名ですか」
「え、じゃあ…………あな」
俺の微笑みに顔を赤らめながら答えようとしたところで一夏がその男子に呼びかけた。
「弾じゃないか! こっち来たのか?」
ああ、こいつが中学時代の友達っていう五反田弾か。
「おう、お前の様子を見にな。それでこの可愛らしい人はいったい…………」
「…………少し、外に出ようか」
直後、とんでもない驚愕の声と悲鳴が連続して聞こえた。
しばらくしてから、凄まじく落ち込んだ様子の五反田少年が店内に入ってきた。
なんかぼそぼそと呟いている。「世の中って理不尽だ………」「あの人と男を比べるとか………」
…………怖くなったのでそれ以上聞くのはやめた。
一夏の方に話しかける。確認のために答えが予測できる質問を投げかけてみた。
「あの、一夏さん。こちらの殿方にいったい何を?」
「…………真実って時として残酷だよな」
おっしゃる通り。もっともその真実が「俺の性別」だというのだから何もコメントはできないけど。
改めて席に着いて話をすると、彼はVFのファンだったらしい。
「変形とかのシステム一から組み上げるなんてすげぇよな!」
「いえ、本当にそこと後はエンジンだけですよ。それ以外はISの流用に近いですし」
兵器とかは口径大きくしたりしただけだし、自己成長プログラムとかは載せられなかったからな。
「謙遜すんなよ、本当にすごかったぜ。VFパイロットとかかっこいいんだろうな」
「凄まじい訓練のいる職業ですけどね………」
最終的に、試作はともかく、実機が運用されているところにいつか案内すると約束するほどに意気投合した。
………ようやく休憩時間ができた。
一夏と違っていろんな人と回る予定もないから、どうしようかと思っていると、
「さくらんー。ひょっとして暇〜?」
のほほんさんだった。
「まあね」
服装を戻していないとはいえ、仕事は一段落ついたので普段の口調に戻してしゃべる。
「じゃあ一緒に回ろ〜? やっと生徒会の方も一段落したしー」
「へえ、何やってたの?」
「武装整備とかいろいろー」
何をするつもりなんだ生徒会、と言いかけて思い出した。確か、シンデレラかなんかやるんだっけ。
………お姫様側の方が楽しそうだなー。
「それでー、どうするの〜?」
「よし、じゃあ一緒に回ろうか」
「やった〜」
万歳してゆるゆると喜ぶのほほんさん。
「じゃあ早速行こー」
「ちょっと待ってまだ着替えてない!」
「別に気にしないよー?」
「俺が気にする!」
「む〜」
むーじゃない。
必死で納得させ、着替えにいこうとしたところで、
「ぐっ!」
腹部に凄まじい激痛が走った。
しばらく悶絶した後、のほほんさんの心配の声も無視して着替える暇もなく急いでトイレにダッシュ。
………原因はわかっている。のほほんさんのゆるゆるした声でお腹がゆるゆる、ではなく、冷えたポッキーの食い過ぎだ。トイレ行く暇もなかったし、飲み物もあまり飲んでいなかったから気にしていなかったものがここで急にキたのだ。
しかし、トイレの直前に立ったところで俺は葛藤を味わうことになる。
(ど、どっちだ…………!?)
俺の現状=メイド服の男子。
もし男子トイレに行けば入ろうとする後ろ姿を見られたら………なんと言われるか想像もしたくない。
仮に女子トイレに入れば気づかれなければセーフ。バレたら織斑先生の出席簿によるダイレクトアタックで即死。
『選択肢は一つでしょう』
「どっち?」
『女子です』
「じゃあ男子で!」
おいそこ、舌打ちするな。お前機械だろ。
『仕様です』
俺はそんな仕様にした覚えはないんだが。
あわてて男子トイレに飛び込む。後ろから声が聞こえた。
「あれ、今メイドさんが男子トイレに入らなかった?」
「ひょ、ひょっとして織斑君に秘密のご奉仕…………とか?」
「これはスクープの気配………!」
……なんだろう。この喪失感。
『無様ですね』
「やかましいわ!」
不毛すぎる戦いはこれで一段落です。
さて、そろそろシリアスが入ってくるかな?