さあいよいよ5巻シリアス編ラストです!
三十六話
砲撃を止め、コンクリートの粉塵によって見えにくくなっている標的の方を見る。
そこには、かろうじて原形をとどめたアラクネが存在していた。
「ちっくしょうが………!」
オータムとか言うクソ女から漏れる声など気にしない。
本来ならば、シールドエネルギーを零にしているはずなのだが、そうはなってない。
なぜなら、わざと俺は狙いを甘くしたからだ。
狙いを甘くしたのは……
「がっは………。まだだ、まだ終わってねぇぞ………」
「いいや、終わりだよ。だろ、一夏?」
右腕をつかみ、意識を集中させている親友を一瞥する。
「……こい、白式!」
その全身が光に包まれ、そして………
ISが展開される。
「とどめは任せたぞ」
「ああ、任された!」
俺の言葉に力強い返事を返して、一夏はオータムに向かって突撃する。
大上段に振り上げた『雪片弐型』が白く輝く。
「なあぁっ!? てめえ、一体どうやって」
「知るか! 食らえ!!」
「ぐぅぅっ!」
オータムは残っていた装甲脚を全て防御に回すが、それごと一夏はアラクネを叩き斬り、さらにスラスターで加速された蹴りを入れる。
「ぐえっ!」
どうやらその蹴りは相当な威力だったらしく壁の一部に穴があいていた。
……っておいバカ、敵の逃走経路を用意してんじゃねえ!
「おい一夏、そいつ取っ捕まえろ!」
「わかった!」
「く、くそ……ここまでか……!」
圧縮された空気が排出されるような……もっと言うと炭酸飲料の栓を開けた時の音を大きくした音を響かせて、アラクネがオータム本体から離れる。
ち、自爆か。
「な…!」
「ボーッとすんな一夏!」
フォートレスの一つを一夏の正面に送り、偏向防御を展開。
爆発から一夏の身を守った。
「よし、無事だな」
「助かったよ、カズ。…あの女は?」
「ああ、逃げたが。ISの装備と装甲だけ爆散させて」
うーん、白式のコア壊さないように狙いを甘くしたのは失敗だったかな。
「なにのんびりしてんだ! 追わないと!」
「……だいじょーぶだよ〜」
後ろからの声に一夏は振り返った。
「のほほんさん……どうして」
「つーかお前よく考えろ。なんで最強の会長がここにいないのか、とかな」
「………あ」
俺の言葉に硬直する一夏。気づくのが遅すぎだろ。
「多分他の専用機持ちの数名も連れて行ってるだろう。それにこっちは俺はともかくお前はだいぶ疲弊気味、行っても足手まとい……というかもう終わらせてるんじゃないか」
「……そっか」
「ところで、これを偶然入手してしまった訳だが」
王冠を見せてみる。
「……ん? ああ、取れちまったのか」
「これをゲットしたらお前と一緒に暮らせるっていう素敵アイテムなんだとよ。よかったな一夏、俺がゲットして」
「は!? じゃあ女子が必死になってたのって……。ああ、でもよかったよ、同じ男同士で」
安心し切った一夏に黒い笑みを浮かべて首を傾げてみせる。
「は? 何言ってるんだ? 部屋の中ではメイド服だぞ俺」
「本気でやめてくれ! いろいろ耐えられなくなる!」
「冗談だ。まあ、またよろしくな一夏」
「………ああ……なんかもういいや」
一夏は疲れ切った声を出して背中から倒れた。
「無茶しやがって………」
「………別に死んでないぞ」
Side 三人称
IS学園から少し離れた、とある公園。
そこで一人の女………オータムがISを展開したラウラ・ボーデヴィッヒと更識楯無に包囲されていた。
「洗いざらい吐いてもらおうか、貴様らの組織について」
「私もちょっと興味あるなー、アメリカの第二世代型、「どこから」じゃなくて「どうやって」手に入れたのかが」
「言うわけねーだろうが!」
その言葉に対し笑みを浮かべた楯無が告げる。
「じゃあ、尋問ね。長くなると嫌だなー」
「私も多少の心得がある。手伝おう」
そう言ってラウラがオータムに近づこうとした時、プライベート・チャネルから遠距離にいた狙撃手……セシリアの声が響いた。
「離れ……いいえ、全力で回避して! 一機来ますわ! 」
「な……!」
ラウラ達は言葉に弾かれたように反応し、緊急回避する。
直後一瞬前まで二人がいた所に凄まじい弾雨が降り注いだ。
弾道から飛来位置を割り出すまでもなくその機体は現れた。
「あれは………VF!?」
セシリアが狙撃を試みるが、全てピンポイントバリアで逸らされてしまう。
「くっ……!」
さらに追尾型のミサイルを発射し、楯無とラウラを近づけさせない。
公園の中央でガウォーク状態になった直後、キャノピーが開く。
そこから出てきた少女の武装にセシリアは目を疑った。
(あれは、イギリスのBT二号機、サイレント・ゼフィルス………!)
試験的にシールドビットを搭載した機体だ。
『イギリスの最新ISに、VFまで……一体どんだけ大きな組織なのかしら、ね!』
そう言いつつ楯無がランスで攻撃を仕掛けるが避けられ、さらに反撃を次々と浴びせられる。元々近接寄りなので、近づくことが出来なければ防ぐ以外にない。その間にあっさりとAICをピンク色のナイフで切り裂き、オータムを自由にする。
「迎えにきたぞ、早く乗れ、オータム」
「てめえ……私を呼び捨てにするんじゃねえ!」
言いつつもオータムは先ほどまで少女が乗っていたVFのガウォークの手の部分に飛び乗った。
『セシリア、あの女を止めろ! 撃て!』
「わかってますわ!」
引き金を絞る……が、割り込んできたシールドビットに容易く防がれてしまう。
ならばとレーザーライフルをサイレント・ゼフィルスの方へ向けるがそちらもシールドビットで防がれ、さらには直後に出したビットも狙撃で撃ち落とされる。
「それなら!」
ミサイルビットを相手の死角に回り込ませて攻撃する。
これならば必中とセシリアが確信した直後、信じられないことが起きた。
「なっ………!?」
ビームが弧を描いて曲がり、ミサイルビットを撃ち落としたのだ。
BT兵器の高稼働時に可能な偏向制御射撃。BT適性が最高値の自分が実行できないそれを、襲撃者が易々とやってのけたという事実にセシリアは思わず棒立ちになってしまう。
「何をしている! 回避しろ、セシリア!」
ラウラがセシリアを突き飛ばして、ビットのレーザー射撃からかばった。その代償としてシュヴァルツェア・レーゲンは被弾し装甲の一部が飛散してしまう。
楯無も応援に行こうとするが一番強くマークされている………終始六機のビットに牽制され、時折レーザーライフルで射撃されているので近づくことが出来ない。
同時にVFのキャノピーが閉じた。即座に楯無に向かってガンポッドとレーザー機銃を浴びせかける。
それを確認した襲撃者は振り返る。
「ふん、この程度か、ドイツの
その声には嘲笑が込められていた。
「貴様、なぜそれを」
「言う必要はないな」
そこにオータムの恨みのこもった声が響いた。
『てめえら……潰す………!』
「やめておけ、応援がくると厄介だ。退くぞ」
『チッ………!』
舌打ちの音と同時にホバリング、上昇して機首を変更する。
「ではな」
その一言とともに、ISとVFは飛来した方向へと飛び去っていく。
「会長、追跡を!」
「やめておいた方がいいわ。VFの速度にはISでは追いつけない。それにISの方を捕捉しても間違いなく苦戦するでしょうし、さらにあっちの応援が来ても厄介だもの。………それにしても」
飛び去った方向を見て、楯無は目を細める。
「亡国機業、いずれまた会うことになるでしょうね………」
その目には、いつになく真剣な光が宿っていた。
Side end
うーん、最後の描写、ちょっとエムを強くしすぎたかな?
会長とどっちが強いか直接対決がなかったからいまいち微妙なんですよね……。
兵装の相性ということにしましたけども。
という訳で次回は後日談です。ええ、ネタ全開です。
そうそう、活動報告で書いた通り、友人が千冬のネコミミメイドを書いてくれるそうです! カラーなので相当時間がかかるとのことですが、また書き上がったと聞いたときにupされているサイトのURLと一緒に紹介させてもらいますね。