かなり長くなりました。ネタを詰め込みすぎたような気がしなくもない。
さて、皆さん処刑ソングを脳内でセットしましたか?
では千冬先生の狩猟教室、始まります。獲物は五人な!
閑話 影響5-2
もう一度舞台を始まりの地、1年1組の教室に戻そう。
そこでは少女一人と機械水晶一機が教卓の前にいた。少女の方は何ともいいがたい表情をしている。
まあもう一人いるにはいるのだが、幸せそうに船をこいでいるので彼女は脇に置く。
『さあとうとう始まりました、IS学園名物『逃亡中 〜ヴァルハラまで一直線〜』。実況は現在幸せ熟睡布仏さんに膝枕された状態で亡くなっている主の胸の上より、閑話のだいたいの黒幕ことエーネと』
「その亡くなった主、桜井和人の隣のクラスの鳳鈴音がお送り致します。……ってあんた、なんかさりげなくとんでもないことを暴露しなかった?」
ちなみになんで隣のクラスからやってきたかというと、突然の事態に担任が泡を吹いて気絶して授業が中断されて様子が気になったためだ。
『気のせいですよ。たった二人だけあの真実を知って生き残っているのですから仲良くしましょう』
「………そうね。あ、なおその『真実』については第一級秘匿事項とさせていただきます」
「ええー、そこが重要なんじゃないのー」
不満を漏らした新聞部部長に鈴が哀れみの眼を向ける。
「黛先輩。世界には、知るべきでないことがあるのですよ?」
「いや、それ中の人違うんじゃ………いえ何でもないわ」
その眼から何かを感じ取ったのか、さしもの新聞部部長も沈黙した。
それを見て安堵してから、鈴はディスプレイに書かれた原稿を読む。
「さて、解説はやまやこと山田先生を迎えており………あれ? いないわよ?」
『あ、先ほど織斑先生に首根っこ引っ掴まれて連れ去られてました。なのでこのままお送りします。………ご冥福をお祈り致します』
その言葉はいやに不吉だった。レールガンをぶっ放す黒猫くらい不吉だった。
『あ、最初の犠牲者が出そうですよ。モニターに映しますね』
「もう既に死亡はほぼ確定なのね………」
そのモニターに映った少女、セシリア・オルコットは防火扉の裏側……死角となる場所に身を潜めて震えていた。恐怖で歯の根が合わず、カチカチと歯の衝突音が鳴るのを彼女は必死に押さえ込もうとしていた。
(落ち着きなさい、落ち着くのです、セシリア・オルコット……!そう、Be KOOLです………!)
小声で自分に囁きかけるセシリア。何とも不気味である。
『それは落ち着いていませんね』
「というか大丈夫かしらイギリス人なのに………」
実況の言葉が聞こえるはずもなく、セシリアは自己暗示を続ける。
(逃げちゃだめですわ逃げちゃだめですわ逃げちゃだめですわ……………!)
そもそも逃げたら作戦の意味が無い。
(大丈夫、問題ありませんわセシリア・オルコット! あなたは「ちょろいさん」と一部で呼ばれているのです、ですからこの程度の難事、「ちょろい」と言ってクリアできるのですわ!)
………読者の方々にはご存知の方も居られようが、彼女が「ちょろいさん」と呼ばれているのはキャラクターを恋に落とすこと………ギャルゲーで言う攻略がちょろいことに由来する。
そんなことを知らないセシリアの認識は実に甘いと言えた。
むしろちょろ甘である。
いくら自己暗示をかけても失敗し、恐怖にがたがた震えるセシリアの近くに靴の音が。
それは十三階段を上る自分の靴の音のようにも思われたのだろうか。
必死で息を押し殺すセシリアの反対側、ちょうど防火扉の辺りで靴の音が止まる。
そして。
勢い良く扉が開かれ、扉に体重を預けていたセシリアは床に投げ出された。
「きゃあっ!」
悲鳴を上げつつも即座に振り返る。
今度は、恐怖で息が止まり、声も出なかった。まるでムンクの叫びみたいな表情になる。少女の顔面崩壊と言っても良かった。
無表情の織斑千冬がそこにいた。出席簿を武器のように手にし、全身から禍々しいオーラを発している。
「何か、言い残すことはあるか?」
もはや殺す気満々である。
「……どうして、スルーしませんでしたの?」
「私が自分の生徒のことに気づかないはずが無いだろう?」
感動的な台詞だった。この場で使わなければ、の話だが。
「そう、ですか………」
己の運命を受け入れてセシリアは瞑目した。
直後、その姿を台無しにするような断末魔の叫びを上げてセシリアは沈黙した。
『おおっと、これはご臨終のようですね………痛ましい』
「っていうかむしろ恐ろしいわよ! セシリア、ホントに生きてるのかしら………?」
『では音声を拾ってみましょう』
スピーカーの音声を上げると、
『ふふふ……ユニゾン・イン! なのですよー………………がくっ』
「訳が分からないわ………」
『精神が退化してバッテンチビになったのです』
「ますますわからなくなった………」
『あ、次の犠牲者の登場ですー』
「………ところでこの映像ってどこから?」
『隠しカメラです』
「こいつホントに変態ね! 私も蹴りくらいかまそうかしら……」
『あ、いえ。私が独自に秘密で』
プチネウスを持ってすれば容易いことである。
「あんたら主従そろってホントに最低ね!」
鈴の叫びをよそに、モニターは切り替わった。
切り替わった先で真っ先に眼を引くのは黒髪と銀髪である。
箒とラウラのペアだ。
「これからどうする?………どこかの教室で篭城するか?」
「いや、今の教官ならばいかなる障害をも粉砕するだろう。リスクが高すぎる」
千冬へ大喝采物の評価をラウラが下した所で、
後ろから人が走る音が、した。
恐怖から、ギギギ、と思わず振り返ると、
「二人とも止まってくださーい!」
追いかけてくるのは副担任の山田真耶である。
必死で走っているためか、首から下、腹より上にある二つの何かがたゆんたゆんと暴れ回っている。
「おのれあの乳お化けがァ…………!」
『鈴音さん、瘴気が漏れてます』
「や、山田先生、あなたも織斑先生の手羽先に……?」
箒が混乱して真耶がおいしい食べ物になった。
「………しょうがないじゃないですかぁ。すっごい怖い眼で『協力するな?』と言われて従わないわけにはいかないんですよっ! 副担任は担任に従うことを強いられているんですっ! っていうか手羽先じゃありません、手先です!」
箒の疑問に真耶は集中線付きで絶叫した。手先であることは否定しないらしい。
その言葉に箒はうめく。
「そんな………!」
「…………篠ノ之さん、ボーデヴィッヒさん。大人しく捕まってくれれば、織斑君との同室………考えてもいいですよ?」
「………それは本当か?」
ラウラが本気で交渉に入ろうとしているのを箒は必死に引き止めた。
「待て! 寮長があの織斑先生だぞ! 無理に決まっている!」
「ちっ、バレましたか………」
その言葉に必死さを読み取り、ラウラが表情を険しくする。
「く、私が相手をする! 箒は退路を確保だ!」
「わ、わかった!」
「退路? …………どこに逃げようと言うのだ?」
後ろからの言葉に今度こそ二人の背筋が凍った。
「作戦変更だ、山田先生を突破する!」
「了解した!」
二人して突撃しようとした所で襟首をつかまれた。
「な、いつの間に………!?」
「ふん、ひよっこに追いつけない訳がある物か」
直後二人の断末魔の叫びがあがる。
ぐったりと力を失った二人を見てから、千冬は冷えきった眼で真耶を見る。
「わ、私、きっちりお仕事を………」
真耶はもはや半泣きである。
それに対し千冬は笑みを浮かべてみせた。
「そうだな。足止め……きっちり仕事はこなした」
その言葉に安心した表情を浮かべて真耶は頷く。
「そうですよね! 私もうお役ごめ………」
「
その言葉に表情が固まる。
「『織斑と同室』などというネタを使って交渉しろと言った覚えは無いぞ?」
「あ、あ……………」
一転して再び無表情となった千冬の前で、真耶はがたがた震えだす。
「お仕置きだ」
「いやぁあああああああああ!」
断末魔の叫びがさらに追加された。
『さあ犠牲者がどんどん増えていきます』
「本当に2組で良かった………」
『では犠牲者達の散り際の一言をどうぞ』
モニターの映像を撮っているカメラがズームする先は、まずは箒だった。
『ふふふ………私は竹刀ではなくベースを持っていた方が人気が出るのだ………。………何? メロン? それは私ではなくあいつだろう。たしかイギリス代表候補生の…………誰だったか……………?』
『いろんな意味で大惨事ですね』
「セシリア、先生は大丈夫だったのに今度は仲間にまでスルーされるのね………」
次にカメラが向いた先は、銀髪が床に広がり、顔が見えなくなってホラーじみたことになっているラウラだった。
『ぴょんぴょん………ウサギは寂しいと死んじゃうんだぴょん………寂しくないのに死んでるぴょん……………友達が少ないせいで死んだ方がまだマシだったぴょん…………おのれ肉め……………!』
『なんか最後の台詞がおかしくありませんでした?』
「それ以前に完全にキャラが崩壊してるじゃないの!」
最後はとばっちりを食らった山田真耶先生である。
『わたし、将来はおじいちゃんみたいな冒険家になるのが夢だったんです………………それなのに蟲が……………蟲がぁ!』
『ドジを踏んで遺跡の中ではトラップ発動させまくるところしか予想できません』
「ていうか蟲がなんなのよ!」
視聴者がガクガクブルブルと震える中、ポンポンと調子良く会話をする二人。空気が読めていないのか、凄まじい精神能力を持っているのか、あるいは単に慣れか。三番めの選択肢が一番可能性が高そうだが。
『さてさて、早いもので残り二人となりました』
「いや、もうだめでしょ、これ」
諦めるのが早すぎるというべきか、あるいは妥当というべきかそれとも最初から諦めていれば良かったのか。
結局最後に残った諦めが悪く、運がいい二人…………織斑一夏とシャルロット・デュノアがモニターに映った。
「くそ、結局俺達だけになっちまったな」
一夏の嘆きに苦笑するシャルロット。
「うん、そうだね。………計画通り」
「は? なんか言ったか?」
「ううん、なんでもないよ!」
所々で腹の黒さを見せつけるシャルロット。実に黒い。
「皆、死ぬしかないのか………?」
一方、一夏は絶望のあまり若干年齢が後退して14歳の病気を発症しつつあった。
「君は死なないよ、僕が守るから」
このタイミングでそれを言うあたり、シャルロットは非常に日本文化を理解していると言えよう。
「ふん、未熟者が一端の口をきくか」
千冬の脚力はもはや超人じみているとしか言いようがない。
「ここは僕に任せて先に行って!」
典型的な死亡フラグの台詞をいただきました。
「そんな、俺、お前を見捨てるなんてこと………」
「早く!」
「……………くそおおおおお!」
涙をこらえて一夏は近くの階段を駆け下りていった。
「ふん、どのみちやられるというのに」
千冬がラスボスのような発言をした。
「…………僕も、このままやられるつもりはありませんよ?」
「何?」
言うが早いが、シャルロットは開いている窓めがけてダッシュ。そのまま飛び降りて逃亡を図ろうとした所で
「きゃうっ!」
左脚をつかまれた。そのまま吊るされ、さらに再び校舎の中へと放り込まれる。
腰を抜かしたのか立てないままぎこちなく後ずさるシャルロットを千冬は睥睨した。
「ISの展開をするつもりだったのか、それとも自力でどうにかするつもりがあったのかは知らんが………重大な規則違反だ。わかっているな?」
「…………いやああああああああ!」
『自業自得ですね』
「でも窓の外で逆さ吊りとかISがあっても怖すぎでしょ…………」
『では恒例の犠牲者の声をどうぞ』
その言葉に、モニターのカメラの向きが変わり、シャルロットをより大きく映す。
「…………僕、今度生まれ変わったらバスケをするんだ………相手を
『死亡フラグというか、勝負が決まってもう既に死んでいますね』
「人生を風とともに駆け抜けたのね。来世は年上好きになるのかしら……………ちょうど、4歳上くらいに惚れるんでしょうね」
そんなわけで最後の生き残りとなったのは我らが原作主人公、織斑一夏である。
彼は今、ある場所に向けてひた走っていた。
その場所とは、
(
女性が多く、男性の数が非常に少ないIS学園の中で、女性が入ってはならない場所の代表例として一番に挙がる場所である。
素早く飛び込む。と、見知った顔に出会った。
「あ、轡木さん」
「おや、織斑くん。廊下を走るのは感心しませんよ?」
『学園内の良心』と呼ばれるIS学園の用務員、轡木十蔵。IS学園の中にいる数少ない男性の一人だった。
「すみません、ちょっと色々あって!」
一言謝罪して一夏は個室へと飛び込んだ。
「ふうむ、大変ですね…………」
のんびりした声が遠ざかっていく。これで一安心だ。
(後は時間を稼ぐだけ…………)
安心し切った一夏はほとんど茫然自失の態で、迫る足音に気づかなかった。
さながらISで持つような巨大な戦鎚を壁に叩き付けたような轟音が響く。
「………………………え」
トイレの壁の成れの果てである破片がぱらぱらと降る中、気がつけば、目の前に自分の姉が立っていた。
気分は某恐竜映画一作目である。
「小便は……すませたな。神様にお祈り………ウチは無宗教だから問題ないな。部屋の隅だしガタガタ震えてもいる上に………」
「ち、千冬姉、ど、どうか、どうか命だけは……………!」
「命乞いもしている、と。完璧だな」
直後、男の聖域はとある女性によって阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
『壮絶な姉弟喧嘩ですねえ』
「片方が一方的にやられるのは喧嘩じゃなくて折檻じゃない………?」
最後に映像に映ったのは死にかけの昆虫よろしく体を弱々しく痙攣させる一夏の姿だけだった。
『…………お、お前の魂、頂く、ぜ……………』
もはや狩る側どころか狩られる側である。
『その前に自分の魂が抜けかけていますが』
「一夏…………可哀想に」
そう言いつつも助けにいかないあたりがポイントである。やはり自分の命は惜しいのだ。
『さて、残念ながら今回は全滅に終わってしまいました。亡くなられた方々のご冥福をお祈りいたします』
「いや、正確には死んでないからね?」
『ではまた次回お会いしましょう。さようならー』
「……………え、待って、次回あるの!?」
『さあ? そこは
声優ネタとか色々放り込みまくった結果がこれだよ!
ちなみに某恐竜映画のあれ、小学生のころに見たもので第一作ということすら忘れていたのになぜかあのシーンだけ今も鮮烈に記憶に焼き付いているんですよねー………。トラウマでもないのに。もしや私にドSの性癖が!?
……………考えてみると一夏達をいじることでそれは十分に発揮されてますね。
さて、次回も閑話。今度は小ネタだと思います。