みなさん大変長らくお待たせいたしました。ギャグ編……もとい、本編の再開でございます。
三十八話
「一夏の誕生日、か。すっかり忘れてた」
「そこは覚えとけよ一番の幼なじみだろうが!」
ぼそっと呟くと一夏が泣きそうな顔でツッコミを入れてきた。
寮での夕食の時、シャルの大声から始まった誕生日の話の時のことである。
「よし、じゃあ何か作るか」
「……常識の範囲内で頼む」
「お掃除ロボットとか」
「お前は去年のあれを再現するつもりか!? 『バクテリアはデストローイ』とか言って壁に向かってビーム放ってたのを!?」
「大丈夫だ、今度は上手くやる。荷電粒子砲に」
「悪化してるじゃねえか!」
全く、ジョークくらい上手く受け流してほしいものだ。
「お前、去年実際作った前科があるからな!?」
「よし、じゃあプチネウス……」
俺がそういいかけた瞬間、
『私今日誕生日だからプチネウスちょーだい!』
「皆さん物欲たっぷりですね!」
その場の女子ほぼ全員にツッコミを入れることになってしまった。
「で、お前んちに持ってけばいいんだな、メガネウスを」
「そうだけど………って、いつの間にか眼鏡着用して巨大化してないか!? 俺の家踏みつぶすなよ!? 弾が踏みつぶされた痕とか見たくない!」
「何時から?」
デュノアもこんな会話を普通に流すことが出来る程度には慣れたらしい。おっと、呼び方はデュノアじゃなくてシャルでいいってこの前言われたんだっけか。セシリアやラウラもそうだったし。
フラグが立ったとかそういうことは断じてない。一夏の過去を多分一番知っている俺を味方に付けたくてしょうがないらしい。
「……四時から。ほら、当日キャノンボール・ファストがあるし」
「ああ、だから高機動パッケージ作っといてーって言われたんだっけ。面倒だったな」
一夏の言葉に頷くと、また皆が妙な目で見てきた。
「『作っといてー』って誰に言われたの?」
「ウチの社長」
「それで、もう作ったのですか?」
「昨日には終わったよ。試運転まで全部」
自分で作ったISである。高機動パッケージなども作るのは全部自分なので逆に簡単だ。予め高機動と高火力のパッケージは設計してあったし。
ため息をつかれた。
「天才ってやつはこれだから……」
鈴の呻くような声に全員頷きやがった。
「おいおい、天才だっていいことばっかじゃないんだぞ」
束さんは逃亡生活。
俺は俺で仕事がたくさん。楽しいからいいんだけど……。
第三世代VFの量産型開発も例の
しかし、そのせいでさらに仕事を頼まれてしまった。
話はこの前、亡国機業の始末が一段落した後まで遡る。
今回は様々なデータが取れたであろうことが容易に予想がつくので、ほくほく顔で倉持技研のVF工廠へと向かった。
そしたら、予想通りデータは大量に取れたのはいいんだけど、なぜか帰り際に所長ではなく社長がやってきて、半ば土下座覚悟みたいな感じで、頼み事をしてきたのだ。
曰く………「未完成なまま代表候補生に渡してしまった第三世代IS、『打鉄弐式』の完成を手伝ってあげてほしい」
アメリカの本社の確認はとってあり、後は俺次第だそうなのだが………。
あれ、なんか時系列的におかしくないか?
もっと先で、しかも頼むのは会長、頼まれるのは一夏だったはずだ。
……まあいいか。倉持技研に負担をかけてるのは俺も一夏も変わらない……いや、VF全体のことを考えると俺の方が割合は大きい。それに原作ブレイクとか今更すぎるし。
「……やりたいようにやりますけどいいですか?」
「よろしくお願いします!」
そういうことになった。これでIS魔改造が出来る………!
「ふ、フフフフフフフフフフフッハハハハハハ痛い!」
思い出し笑いをしてたら箒に叩かれた。皆さんドン引き。
翌日の休み時間。
そんなわけで。
「レッツゴー四組!」
「おー」
………なぜか隣にのほほんさん。
「……布仏さんや」
「な〜に?」
「なぜここに?」
「わたし、かんちゃんの友達だからー」
そもそもどうして俺が四組の
ともかくコネをゲット。これで勝つる。
「桜井君だ!」
「やっほー、一夏くんとの噂はホントなの?」
「どっちが攻めでどっちが受け!?」
教室入って2秒で切れることになるとは思わなかった。
「そんな事実はゼロだから帰れ腐女子! 布仏さん、『かんちゃん』はどこ?」
「そんな……」
「私たちの夢が……」
絶望しているようだけど、俺はそんな夢かなわなくていい。もうこの類の女子の対応これでいいんじゃないかな……。
「えと、あそこ〜」
指差す先では、空中投影ディスプレイを睨んでキーボードを叩く少女がいた。顔も髪もまあ会長に似てるな。若干会長より真面目そうだけど。跳ねた髪の向きが内側だからそう見えるんだろうか。
しかしそんなことはどうでもいい。
「へえ………」
その画面に展開されるプロトコルを遠くから見て思わずニヤリとする。
「エーネ」
『はい』
「……介入する。採点作業の始まりだ」
『相変わらずドSですね』
「お前よか幾分ましだ」
適当に会話をしつつ、空中投影ディスプレイとキーボードをその場で展開する。
学園の警備システムをあっさり突破し、彼女が行っている作業の全文面を眺め、一から提案付きの注釈を張り付けていく。
「すご………」
「これが、もう一人の天才……」
「画面は凄い勢いで流れてるし……」
「キータッチが早すぎて見えないよ………」
外野の呟きも無視してキーボードを叩き続ける。………追いついた。
「よし、っと」
最後の一文を書き終わらせて指を曲げ伸ばししてみる。……まだまだ余裕で行けるかな。
ガタン、と椅子を動かす音がした。普通びっくりして説明を求めてくるよな。
少女はディスプレイを閉じ、まっすぐこっちに歩いてくる。
「あなた、何を」
「更識簪さんだな?」
言葉を遮って問いかける。
「そ、そうだけど……」
「倉持技研の依頼により君の専用機、打鉄弐式の開発を手伝うことになった。まあ幼なじみの
「で、でも……」
戸惑いながらも拒絶しようとする少女に俺は囁きかける。
「キャノンボール・ファスト出たいだろ?」
「う………」
言葉に詰まったところでさらに提案を出す。交渉だって研究所では結構あったのだ。こういうのは俺の方に一日の長がある。
「いいか、本体の方は俺はあくまで教科書役……つまりマルチロックオンシステムの完成と荷電粒子砲の効率化、稼働データなどの全ての情報を与える『だけ』だ。アドバイスが欲しけりゃいつでも答えるし機体のチェックだってするしテストだって付き合うが、与えられた教科書を使用して完成させるのは君の仕事になる。しかしそれだと高機動パッケージを作る暇が君にはない、いや、あったとしてもキャノンボール・ファストに間に合わないか、最高のコンディションでは参加できない。だから、そっちの様子を見つつ俺が高機動パッケージを作る。これなら君は機体を完成させられるし、キャノンボール・ファストに参加できる。俺は依頼をきっちりこなしたことになる。どうだ?」
ったく、こんな長広舌、VFのプレゼンくらいでしか振るったことないぞ。
戸惑う簪さんの疑問は俺からすれば奇妙なものだった。
「………姉さんから頼まれたんじゃないの?」
「あん、会長か? 確かに気が合いはするが、一夏ならともかく俺はあの人に頼まれた
特にそういう他社への協力とは関係ない自分の趣味の研究開発は。
姉にコンプレックス持ってるんだったよな。……強さとかはともかく開発に関しては間違いなく会長より上の俺にどう反応するかは微妙な賭けなんだけど。
いつの間にか四組の全員が俺達の会話を聞こうとしていたため、教室の中は水を打ったように静かだった。
「それで、どうする?」
「………わかった。お願い」
「よかったね〜、かんちゃん」
こうして、開発がスタートした。
ちなみにチャイムが鳴ったのに気づかなかったせいで授業に遅刻した俺とのほほんさんは織斑先生の出席簿の餌食になりました。
『どうでもいいのですが』
「どうした、エーネ」
『コネとしてほとんど本音さんが機能していません』
「そゆこと言うなよ!? きっと明日から本気出すんだよ!」
『ニートですか。それに簪さんも悪魔の誘惑に乗ってしまいましたね』
「おーいお前を作った人を悪魔呼ばわりとかおかしくないですかー!」
『………なるほど、つまり私は魔女のようなものなのですね!』
「え、今更気づいたの?」
どんどん原作ブレイクが進んで行きます。いえ、今更過ぎますが。