かなーり遅れましたが最新話更新です。相変わらずのギャグです。
三十九話
そんなわけで今日も開発室に突撃。
簪(そう呼べと言われた。「さん」付けも不要らしい)の相談を受けつつ、高機動パッケージの開発を進める。
ただ、本体に比べれば発想はそこまで難しいものではない。要は、軽量化のために武装を減らした上でスラスターなどを増設するか、それとも単純に加速用の機構を増やすか。前者は速度は上がるものの、武装が薄いため戦闘でのリスクがある。後者の場合は武装は問題ないが、機体が重くなるため制御が難しく、エネルギー消費が激しいというリスクがある。
俺が選んだのは後者だ。元々打鉄弐式はどちらかといえば高機動型。元々されている軽量化よりも最大出力アップの方がいいだろう。簪も多分制御はあまり難しくないはずだ。更に、主武装はミサイル。使えば使うだけ軽くなっていくのは利点だろう。後ろに向かって撃てば作用反作用の関係である程度の速度上昇になるかもしれない。エネルギー配分上荷電粒子砲の出力を多少落とさなきゃいけなくなるけど、速射型だし弾数制限にした方がいいかもな。
機体の完成度によってそこらへんは調整するから、そこはあっち待ち。
でももう形は決まった。背部に増設スラスターをつけて、腰部のスカート部分に姿勢制御用バーニア。後はエネルギー配分によってはミサイルポッドの数を減らして速度増やしてエネルギー兵器増やすかもな。
……多分、これだけやっても『白式』よりも燃費がいいんだろうから、白式の燃費の悪さが際立っていることが本当によく理解できる。
しかし、それが終わっても俺がやることはまだ残っている。……いや、俺が提案したら諸手を上げて歓迎してくれただけなんだが。
高火力パックも作ることになった。
つまり、「ミサイルばらまいて火力で潰すぜヒャッハー!」が出来るということだ。
ククク……面白くなってきた。しかしそうなると今の武装じゃ足りないな。どこから持って来ようか………。
「まずは実験中の小型重量子砲を……いやいや、アレは危険すぎるか…?」
「さくらんー、もどってこ〜い」
不意に肩を揺さぶられた。のほほんさんか。
……どうやら簪が聞きたいことがあるらしい。
「………あの、桜井博士」
「博士呼ばわりせんでもいいって言ってるのに。で、どうした簪?」
「ちょっと…………飛行テストをしたいんだけど……その前に、見てほしい……」
「了解、見せてみー。コンソールの方だけでいいか?」
「う、うん……」
「これだとシールドバリアーが相互干渉を起こすな。えっと、これの解決法は………エーネ」
『機械に頼らず自分でなんとかしないとバカになりますよ』
「お前の仕事って俺のサポートだったはずだよな!?」
『やれやれ、しょうがない人ですね………』
「それはお前だ!」
言い争いつつも飛行におけるシステム上の問題点を次々と指摘していく俺達一人と一機に簪は目を白黒させた。
「いつも……こう、なの?」
「まあな、ストレス解消にはなるし、スペックはホントに高いからな」
『なんという自画自賛!』
「ツンデレも程々にしてくれ、疲れる。………まあこんなものか。システム上はこれで大丈夫なはずだ」
「あ、ありがと……」
常人が集団で数時間掛けてやる作業をわずか数分で済ませた。うん、チート乙。
「……やっぱり、凄いね」
「そんなことないさ。束さんに比べりゃな。あの人は多分指摘して修正してさらに二、三世代先のシステムを考案するとこまでこの時間で済ませそうだし」
『…流石にそれは無いと思いますが。人体の限界的な意味で』
「…やっぱり、そういうのは気になる? その、同じ天才でも束博士とどっちの方が凄い、とか…」
おずおずと聞いてきた簪に俺は即答した。
「いや、そういうのはあんまり。束さんがどうかは知らないけど、俺の場合はやりたいこと出来ればそれでいい。周りから比較されるのは仕方ないけど、多分あの人と俺じゃ目的も手段も違ってて、偶然技術が重なった……ってとこか。だから俺はあの人の技術を利用している。そんなとこか」
「そっか…」
俺は人類を宇宙に進出させたい。
束さんはISを作りたい。
その差は実は結構大きいのではないかと思っていたりする。
「んー、別に他の事でも同じと思うけど。結局誰かと比較されるなんて何処でもある話だし、気にしないのが吉じゃないかなー」
「そう簡単に出来れば、苦労しない」
「まあそこは本人次第だしなー。……なんか抱えてるなら相談に乗るぞ?」
「……今は、いい」
「そか」
本人がそう言うなら何も言うまい。
そもそも原作でも一夏は相談に乗るみたいなことはなかったはずだ。会長と仲直りしたのも場の流れだった気がする。なら下手に藪をつついて蛇を出す必要もない。
「よし、ならもうほとんど完成したし、飛行テストやるか!」
「……うん」
「じゃあ私はコントロールルーム行くねー。データスキャナー使って支援するから〜」
『別に大丈夫ですよ、私が遠隔操作しますから』
「まあいつもの事だよなー」
「えっ」
「えっ」
「……………あれっ?」
空気が変な風に凍り付いた。
さて、ところ変わって第六アリーナ。
のほほんさんはデータを見ながら見学だそうである。
「じゃあ先行くぞー。ほとんど完成してるはずだから機体制御の調整をしつつ来てくれ」
「あ………うん」
言った通り先に飛び出し、IS学園の中央タワーの頂上部まで螺旋を描いて昇る。
「さって、どんな感じかなー」
『ハイパーセンサーとの連動など、色々確認しながら昇っているようですが……、あまりの調子の良さに目を白黒させてますね』
「なら大丈夫か……ん?」
簪の脚部ブースターの様子がおかしいように見える。ソフトの方で確認した時に問題ないのを確認して安心していたんだが……。
「エーネ、脚部ブースター解析」
『エネルギー異常発生。このままだとまずいです』
「やっぱりか………。おい簪、機体を止めろ」
「えっ……? あっ………!」
直後、右脚部ブースターが爆発を起こした。
「おいおい………!」
バランスを失い、そのまま投げ出されて中央タワーに激突しそうになるのが見えた。
瞬時加速の用意をしつつ、即座に展開したフォートレスの一つを先行させ、緩衝用にシールドを展開。
軌道を修正して、中央タワーからは逸れたものの空中に投げ出されたままの打鉄弐式に、ようやく追いついた。
「く………!」
そのまま身体を抱きしめ、衝撃を少しずつ押さえ込みながら空中で姿勢を整えて、ようやく俺は気の抜けた声を出した。
「ふぃー、危なかったな」
『誤算でしたね。恐らく配線ミスの類でしょう』
「僅かなミスが大怪我のもと………怖いねえ」
「……………ごめん、なさい」
「うん? 気にしなくていいさ、確認しなかった俺にも責任はある。タワーにもあんたにも怪我がなくて良かったよ」
始末書も回避出来るしな。冗談めかして笑ったら簪は顔を赤くした……ように見えた。
………いやいや、気のせいだ。
「マルチロックオンシステムはまたの機会にってとこだな」
「うん……」
大丈夫、目が少し潤んでるのもきっと気のせいさ!
「風邪かな? 心配だなー」
『白々しい事を。ナタルさんに報告しておかなければ』
「や・め・て!」
「うーん、姉妹丼ならぬ主従丼っていうのも手かな〜。前聞いたナタルさんに対抗するためにはアリかも」
「主従丼!? 何その危険な香りのする単語は!? ………ってあれ、本音さんいつの間に!?」
「さっきからずっといたよー?」
『なるほど、メイドとお嬢様のコンビですか。悪くないですね』
「お前が評価するのかよ!?」
「かんちゃんとは仲良くやって行きたいからねー」
「あれ、ひょっとして。逃げ場が、ない………? いやいや、大丈夫だ、更識簪はまだ恋に落ちていない」
『あなたがそう思うんならそうなんでしょうよ、あなたの中ではね』
「凄く引っかかる物言いを………!」
次話はもう書き終わりそうなので早めに更新出来るかと。