お待たせしました。待ってくださっている方がいらっしゃるといいのですが(戦々恐々)
四十一話
ちょうどキャノンボールファストの5日前、9月22日の火曜日。
昨日、簪の機体はマルチロックオンシステムを含め無事完成、俺の作った高機動パッケージもきっちりとはまり、高い性能を発揮した。あとは簪が機体の習熟に努めるだけだ。
俺がそれに付き合って真面目に訓練している一方で、我が親友は疲れを癒すべく、シャルロットと五反田蘭嬢……つまり弾の妹と、両手に花でデートをしてみたり、レンタルイチカとなってセシリアの尻を揉んで一夜を過ごしたりしていた訳だが。
さすがに邪魔をすると馬、じゃない女子に蹴り飛ばされる。なのでプチネウス達を利用した録画で我慢しておいた。
売ったりタイミングよくバラしたりすればそれなりに面白いことになると思うので、画像はしっかり保存してある。
朝食の際に大公開しても良かったんだけど、流石に織斑先生の目が怖かった。
でもって今は高速機動実習の真っ最中。山田先生の胸をガン見している一夏を激写中。こうして弱みは増えていくのだ。
ちなみに俺の高機動パッケージは説明すると極めて簡単。
腰にフォートレスを二基大型スラスターとして取り付けて最適化し、背部にスラスターを増設する。
ついでに重力制御を使って前に引っ張られるように加速しようかな、と思ってたけど、重力制御を移動に用いるためのデータがまだ揃ってないから今回は見送った。
そのうちテレポートを使えるようになって「スタートしたと思ったら、もうゴールしてたんだぜ」って言ってみたい。
考えた自分でも不思議だけどなんというキングクリムゾン。セコいというかチート臭いから止められそうだけど。
それにしてもやることがない。アメリカにいる時に高速機動の練習はやったし、VFの最大速度を考えるとこの程度の速度域ならなんとでもなる。
「高機動パッケージの調整も終わってるしなー」
「ならお前も一緒にどうだ。今から私とシャルロットは調整も兼ねて一周するが」
「よしついてく。エーネ、フルシンクロ用意」
『大人げないと思いますが』
「知らん、真面目にやらない方が失礼だろう」
フルシンクロという言葉にシャルロットとラウラは首を傾げていたが、そこは公開してからのお楽しみだ。
と、ニヤニヤしている所に一夏がきた。
「なあ、カズの視点も見せてくれよ」
「………まあ、いいか。チャンネルは306にしとくぞ」
「おう、参考にさせてもらうぜ」
やめといた方がいい、と言いそうになったがこらえる。
後の反応を見た方が楽しそうだからな。
ただ、参考にならないのは間違いない。
ハイパーセンサーと俺の頭、更にエーネの演算能力まで|完全同調《フルシンクロ》させて、弾道、気流、エネルギー配分その他諸々全てを解析した上で未来予測をし続け、機動の最適解を叩き出すなんて真似、一夏に出来るとは思えない。というか出来る方がおかしい。
可能性があるとしたらナノマシンを瞳に埋め込んだラウラくらいだけど、脳が耐えられるかは微妙だ。多分、確実に出来るのはこの世で俺と束さんだけだろう。
という訳で飛び出したんだが(ラウラと一夏のラブコメは無論スルー)。
一位を取れた。いや、競争してた訳じゃないんだけど、かなりの高スピードで一周した。
もとの位置に戻って一息つくと、ラウラとシャルロットが歩いて来た。
感心しつつ呆れたような感じで俺の機動を分析する。
「理にかなってはいるが、無茶苦茶な加減速の仕方だ。減速から加速への切り替えをより流動的にしてロスを減らすために、スラスターからの噴射量を落とさないまま減速しているのか」
「推力偏向ノズルの使い方が上手なんだ。減速するときはベクトルの計算をしてエネルギーの相殺を図るように噴射口の角度をそれぞれ変えて、加速するときはまたベクトル計算をして最適な角度に戻す。しかも、多分こっちの機動とか風にあわせて微妙に角度調整し続けてなかった?」
「こういう解析とか最適化とかは俺の得意分野だからな」
「いや、それどころの話じゃないだろ……」
見学してただけのはずなのに一夏がものすごく疲れていた。
「何なんだ、あのハイパーセンサーの映像? 未来予測による最適機動解析とか、そのためのノズルの角度変更ってことか? 大量に数式が出てきた時点で頭がパンクしたぞ」
「大体あってる。細かい所だと流体力学関連とか、ベクトル計算とか、空気の粒子に関するカオス理論とか、まあそんなところ」
「そりゃ流石に無理だ………」
がっくりと一夏は肩を落とした。
そのあとはひたすら箒と一夏の質問を受け続けた。
「展開装甲をマニュアル操作にすれば?」
「それはかなり難しいぞ?」
「不可能じゃないだろ? 勝ちたきゃこれ以外ないと思うけど。絢爛舞踏を任意発動出来るようになるまでは」
「ぐぬぬ……」
「雪片封印するのはいいけど、武器最低限一個は持っとけ。雪羅の方だけ展開しておけば、遠・中・近どの距離でも対応は出来るだろ」
「じゃあ雪羅の扱いに慣れた方がいいのか」
「それよりも複数人数との戦いにもつれ込まないように立ち位置考えといた方がいいんじゃないか? 武器一つしかないんだから」
「なるほど、わかった。山田先生とかにもそれは聞いてみる」
で、大会前日。
打鉄弐式の高機動パッケージ『飛燕』の調整も完了し、簪のキャノンボール・ファストの出場準備はもはや万全だった。
これで倉持技研からの依頼は完了だな。
ちなみに、『飛燕』には部分的に展開装甲を載せてみたかったが、流石に断念した。
高機動パッケージの方が通常状態よりも圧倒的に強いとかいくら何でもマズいし、簪のためにならないからだ。
………未練は残ってるけど。今度ファング・クエイク魔改造してやろうかな……。
「これで、勝てるのかな………?」
「さあね。少なくとも最初は厳しいんじゃないか」
「さくらん………」
燦然と輝く機体を見上げながら呟く簪に対して、邪念を振り払った俺はバッサリと言い切った。
悲しそうな目を向けないでくれのほほんさん。話はまだ終わってないから。
「当然だろ。才能以前の問題として、会長はお前より早く生まれてきた。お前より早くから専用機に慣れ親しんだ。その時間を簡単に覆すことが出来るのは、天才、鬼才の類だけだ」
俺や束さんみたいなチート持ち、みたいな連中だな。戦闘技能では千冬さんもそれに当たるか。
「更に言えば、会長とお前じゃ性格や適性が違う。戦い方も細かい所は当然変わる。機体の相性もあるだろう。そう言った部分まできっちりと理解してようやく対等だ。会長の側でも簡単に抜かれたらたまったもんじゃないだろうよ」
みんな違ってみんないい、なんて詩人めいた言葉は使わない。それで納得出来ないから簪はこうして頑張っているんだろうし。けど、違いを理解して、武器を知り、短所を補うのは凄く大事だ。
「だから、出来る限り吸収して、機体と一緒に成長していけ。いつまでたっても絶対に勝てない、追いつけないって感じるのは、やれることをやりきってからにすればいいんじゃないか」
「うん。……ありがとう」
なんで厳しいこと言ったはずなのに感謝されるんだろう。
『ドMなんでしょうきっと』
「ああ、なるほど」
「ちょっ………違っ…………!」
焦ってわたわたし始める簪をのほほんさんがフォローする。
「もー、さくらんの意地悪。かんちゃんを思っての言葉だってかんちゃんが分かってるの、理解してるくせに」
「いや、いじり甲斐がありそうだから」
「………………もう」
怒った振りをしてみせる簪がちょっと可愛かった。
「さて、じゃあ寝とけ。明日のために体力残しとかないとな」
「うん。…………おやすみ」
手を振ってから、部屋に戻りつつ空間投影型ディスプレイを展開。
「……さて、研究所の様子でも見てみるか」
アメリカ某州某地の地下にある広大な俺の研究所。子供のよく夢見る秘密基地みたいな代物で、中には俺の試作品が大量に眠っている。日本の自宅の地下にも似たようなのを持っているけど流石に規模がかなり小さい。
そこには、アップル研究員達が掘ってきた巨大な岩塊が映っている。
『鍵の解析は完了して現在は実験と|対話《・・》、でしたか?』
「まあね。ISのコアの正体がなんなのか大まかな部分は掴めたとはいえ、『じゃあどうする』の答えも提示できなかったら科学者としてマズいだろ」
『こういう所だけみると難題に挑む科学者チックなんですがね……』
「何を言う、俺はいつだって探究心を持ち合わせているぞ、色んな意味で」
バカな会話をしつつも、画面に映るデータはきっちりと拾い上げていく。
俺だってキャノンボール・ファストが明日あるので、今日は長いことやるつもりは無かった。なので手早くデータの収集だけ行い、ベッドに潜り込んだ。
余談になるけど、寝る前にアメリカから通信がきた。
「あれ、どうしたんだイーリ?」
『さっき妙な寒気がしてな? 首傾げてたらナタルが「カズが変なことを企んでるんじゃないか」ってよ』
「失礼な。企んでたけど」
『企んでたんかい! すげえなナタル……さすがカズの嫁を名乗るだけのことはあるぜ』
「なあ、ちょっと聞き逃せない言葉が混ざった気がするんだけど」
『で、何企んでたんだ?』
「………まあいいや。ファング・クエイクに展開装甲を積んでみませんか? あとドリルとか」
『流石にそれはちょっと……、というかお前悪の科学者みたいな表情してるぞ』
「どんな顔かは知らないが、マッドサイエンティストとしては定評があります」
『そこは胸を張る所じゃないと思うんだ』
「で、ナタルの話なんだけど」
『あ、訓練再開だ。じゃーな!』
「おい待てコラ逃げるな………って切れた。」
『逃げられましたね、ナタルさんのお婿さん?』
「いや、それ俺は名乗った覚えないんだけど」
『なるほど、ナタルさんは二号さんですか』
「いや、そっちも違う」
『じゃあ本音さんと簪さんも入れてハーレムですか………ちっ、リア充死ねばいいのに』
「いやそのりくつもおかしいけど、そもそもAIにリア充とか非リア充とかあったっけか…………?」
子供作ることも出来なくはないし、男のAIだってやろうと思えば作れるけども。
さて、いよいよ次がキャノンボール・ファストの試合になりますね。
あと一つご報告が。
後々活動報告の方にも書きますが、実は4月から新人研修でしばらくの間だけ一人暮らしです。
つまり、資料を持っていくのはかなり難しいのです。設定は覚えていても、原作とかを参照しなきゃいけないことがかなり多いので。
ということで、申し訳ありませんがこの転可とノー禁は3月まで更新したあといったん更新が再び途絶えます。ViVi転はオリジナル展開なのでまだなんとでもなりますが………研修のあとに体力残っているといいなあ……。