東の海の革命軍1
「もう、いいです!私だけでも行きます!」
そう言って、たしぎが勢いよく立ち上がると、肩をいからせて船から降りていった。
エースとサボはどこか困ったように、ゾロは深い溜息をついて、彼女を見送った。
そもそもの発端は、現在彼らの船が錨を降ろしている港のあるラフォント王国に到着し、酒場に繰り出した時に起った。
酒場は、元より彼らのような賞金稼ぎや船乗りが集まるような酒場だ。これは、情報収集という面もある。幾等何でも闇雲に探し回って、賞金首の海賊とバッタリ会える可能性は低い。
かと思えば、今の自分達では太刀打ち出来ない大海賊団……例えば、最近勢力を強めつつあるクリーク海賊団の船団などを相手にしたら、さすがに危険だ。
したがって、こうした酒場で噂を集め、場合によっては情報を買う。
どこそこの海賊団はどこを最近の縄張りとしているらしい、近海にこれこれこういう海賊団が目撃されたらしい、あの海賊はどうやらグランドラインに入ったらしい、などなど噂は様々だ。
何しろ、商人や普通の船乗りは下手に海賊に出くわしたら命の危険があるし、もし、命は助かっても船荷は奪われるのは確定だ。
自分達の命や生活がかかってるだけに、こうした情報は積極的に交換され、嘘もなしだ。何しろ、下手に嘘を言って陥れようものなら、そしてそれが知られたが最後、次からそいつにはまともな情報が来なくなる。
そして、こうした情報を求めて、賞金稼ぎらも集まる、という訳だ。
無論、船乗りは船乗りで耳寄りな情報があれば、酒の一杯や小銭と引き換えに更に詳しい話を聞かせてくれたりする訳だ。
この辺は一足先に賞金稼ぎらしき事を始めていたゾロが教えてくれた。
そうして、酒場で何時も通りのお仕事を始めた時、王国の人間と思われる小奇麗な服装の官吏と軍人と思われる連中が入ってきた。
「諸君!我々はラフォント王国の者だ。我々は現在……」
少々長くなるので割愛するが、要は最近、この付近で革命軍と見られる連中が確認されるようになった為、戦力強化を図っている。報酬を出すから雇われる気はないか、雇われる気があるのならどこそこへ来るように、との事だった。
報酬そのものは馬鹿高い訳ではないが、日給だし革命軍が実際に来るとは限らない。いい小遣い稼ぎとみて、参加するつもりな連中もそれなりにいるようだ。
……で、彼らの中では、たしぎが乗り気だった。
反面、エースもサボも乗り気ではなかった。
乗り気でない2人を、たしぎがむしろ責める口調だった。
彼女の言い分からすれば、革命軍は平和な所に戦争を起こす犯罪集団、という事らしい。
間違ってはいない。間違ってはいないのだが……それが全てでもない。
革命軍。
世界各地の海で、多数の王国で革命を起こし、打ち倒している武装集団である。
リーダーの名はドラゴン。
エースは知っているが、フルネームはモンキー・D・ドラゴン。ガープの息子であり、ルフィの父にあたる人物だ。
世界政府も各国政府も危険視しており、世界で最も危険な犯罪者として高額賞金首となっている。
当然、無駄なまでに正義感の強いたしぎは、革命軍を海賊と同レベルに見ており……奴らが来るなら戦わないといけない!と燃えていたのだが……エースもサボも、ゾロさえも乗ってこず、冒頭の発言に繋がる、という訳だった。
エースとサボにしてみれば、ゴア王国の時の記憶がある。
ゴア王国も革命軍に倒された訳だが、2人とも全く同情しなかった。むしろ、倒されて当然だと思っていた。
そうして、このラフォント王国は、と見れば……煌びやかな王宮、贅沢な格好をした貴族、それとは対照的にどこか薄汚れた街並み、道端にうずくまる痩せた子供達といった光景を見ていれば容易に想像がつくというものだ。
「そういえば、ゾロ、お前は何で行かなかったんだ?」
「ああ?いや、何かな、あの役人の奴気に食わない感じがしてな」
どうやら勘だったらしい。
とはいえ、結構役立つ勘だとエースもサボも内心感心していたが、実際、彼らもあの役人達に賞金稼ぎらを見下す空気があるのを感じていた。
「そういうお前らこそいいのかよ?お前ら、海軍のお偉いさんと関係があるんだろ?」
今度はゾロがそう聞いてきた。
まあ、その辺はローグタウンでの一件の後、詳しい事を話していた。あれを見せて、『全く何の関係も御座いません』と言って通じる筈もなかったからだ。
海軍に対して、ちょっと不信感が募っていた事もあり、下手に隠すと却ってこじれそうだった、というのもある。
「……アスラの言い方を借りれば、あいつら別に悪じゃないからなあ」
「はあ?悪じゃないって……確か、アスラって海軍本部の中将だよな?」
サボの呟きに、ゾロが何を言ってるんだ?という様子で聞いてきた。
まあ、確かに海軍本部中将が言う事ではなかろう。だが……。
「アスラの言葉を借りれば、革命軍ってのは『また別の正義』なんだとさ」
と、エースが告げる。
ドラゴンがルフィの父であり、ガープの息子であるという事をエースが知った事から始まった事だが、サボなら大丈夫だろうと後に伝えられた。
その際、悪党なのか、という問いにアスラが答えたのが先の回答に繋がる。
「世界政府と革命軍は表と裏だ、って言ってたな……」
「ああ。正義と悪は黒と白、並べてこそ、その違いが際立つ。革命軍はそうした意味では世界政府を写す鏡であり、表裏一体。そして、正義の反対は、また別の正義だ。そんな事言ってた」
「……何だそりゃ?」
「「よく分からん」」
回りくどい言い方をしたせいか、エースはもちろんサボもよく分からなかった。むしろ、きちんと言った事を覚えていただけサボが凄いとも言える。
ただ、1つだけはっきりしているのは……。
「少なくとも、アスラは革命軍を海賊と同列には見てない」
エースの言葉にサボもまた、うんうんと頷いた。
そう、事実アスラは革命軍を海賊と同じ集団とは見ていない。彼らはもっと危険な存在だ。
海賊は奪う存在だ。
白ひげや赤髪であっても、海賊である以上はそれは変わらない。
彼らが普通の海賊と違うのは、ただそれと引き換えに庇護を与える、という事だ。昔ながらのヤクザと同じだと考えればいい。ただ、名前のそれと知られた、大海賊でないとこの世界ではそんな事は出来ない訳だが……。
一方、革命軍とは置き換える存在だ。
支配する者と支配される者がいる。
その支配する者を打ち倒し、支配される者が支配する側になる。
前者の海賊は世界政府にとっては確かに厄介者だが、彼らには世界を変えようという意志はない。世界政府そのものをどうこうしようという意識はない。
だが、後者の革命軍は違う。
革命軍は世界を変えようとする意志がある。だからこそ、恐ろしい、だからこそ世界政府は危険視する。
両者は世界政府と敵対するという部分では同じでも、全く異なる存在なのだ。
「……いずれにせよ、たしぎを放っておくのも何か気が引けるしなあ……しばらく様子見だ」
原作で、ルフィに反抗したウソップと対応が違うと思うかもしれないが、あれとは全く異なる。
船長に反抗した、という意味合いではない。
エースが一応船長だが、彼はどうするかの決定を下していなかったからだ。
王国に味方するとも言っていない、味方するなとも言っていない。
これが、味方するな、と言ってそれに反抗しての事であれば、また対応を変えねばならなかった所だが……今回は違う。何故、エースが決められなかったかといえば、王族貴族に対する感情が、自分にせよサボにせよ個人的に悪印象を抱いているという自覚があったからだ。何より、自分達はこの王国の事を良く知らない。表面上だけを見て決めているかもしれない。
そう思うと決断を下せず……結局、逸早く決断した彼女は行ってしまった。
「何か、厄介な事になりそうだな……」
ゾロの呟きに、2人も黙って頷いた。
「もう、いいです!私だけでも行きます!」
そう言って、たしぎが勢いよく立ち上がると、肩をいからせて船から降りていった。
エースとサボはどこか困ったように、ゾロは深い溜息をついて、彼女を見送った。
そもそもの発端は、現在彼らの船が錨を降ろしている港のあるラフォント王国に到着し、酒場に繰り出した時に起った。
酒場は、元より彼らのような賞金稼ぎや船乗りが集まるような酒場だ。これは、情報収集という面もある。幾等何でも闇雲に探し回って、賞金首の海賊とバッタリ会える可能性は低い。
かと思えば、今の自分達では太刀打ち出来ない大海賊団……例えば、最近勢力を強めつつあるクリーク海賊団の船団などを相手にしたら、さすがに危険だ。
したがって、こうした酒場で噂を集め、場合によっては情報を買う。
どこそこの海賊団はどこを最近の縄張りとしているらしい、近海にこれこれこういう海賊団が目撃されたらしい、あの海賊はどうやらグランドラインに入ったらしい、などなど噂は様々だ。
何しろ、商人や普通の船乗りは下手に海賊に出くわしたら命の危険があるし、もし、命は助かっても船荷は奪われるのは確定だ。
自分達の命や生活がかかってるだけに、こうした情報は積極的に交換され、嘘もなしだ。何しろ、下手に嘘を言って陥れようものなら、そしてそれが知られたが最後、次からそいつにはまともな情報が来なくなる。
そして、こうした情報を求めて、賞金稼ぎらも集まる、という訳だ。
無論、船乗りは船乗りで耳寄りな情報があれば、酒の一杯や小銭と引き換えに更に詳しい話を聞かせてくれたりする訳だ。
この辺は一足先に賞金稼ぎらしき事を始めていたゾロが教えてくれた。
そうして、酒場で何時も通りのお仕事を始めた時、王国の人間と思われる小奇麗な服装の官吏と軍人と思われる連中が入ってきた。
「諸君!我々はラフォント王国の者だ。我々は現在……」
少々長くなるので割愛するが、要は最近、この付近で革命軍と見られる連中が確認されるようになった為、戦力強化を図っている。報酬を出すから雇われる気はないか、雇われる気があるのならどこそこへ来るように、との事だった。
報酬そのものは馬鹿高い訳ではないが、日給だし革命軍が実際に来るとは限らない。いい小遣い稼ぎとみて、参加するつもりな連中もそれなりにいるようだ。
……で、彼らの中では、たしぎが乗り気だった。
反面、エースもサボも乗り気ではなかった。
乗り気でない2人を、たしぎがむしろ責める口調だった。
彼女の言い分からすれば、革命軍は平和な所に戦争を起こす犯罪集団、という事らしい。
間違ってはいない。間違ってはいないのだが……それが全てでもない。
革命軍。
世界各地の海で、多数の王国で革命を起こし、打ち倒している武装集団である。
リーダーの名はドラゴン。
エースは知っているが、フルネームはモンキー・D・ドラゴン。ガープの息子であり、ルフィの父にあたる人物だ。
世界政府も各国政府も危険視しており、世界で最も危険な犯罪者として高額賞金首となっている。
当然、無駄なまでに正義感の強いたしぎは、革命軍を海賊と同レベルに見ており……奴らが来るなら戦わないといけない!と燃えていたのだが……エースもサボも、ゾロさえも乗ってこず、冒頭の発言に繋がる、という訳だった。
エースとサボにしてみれば、ゴア王国の時の記憶がある。
ゴア王国も革命軍に倒された訳だが、2人とも全く同情しなかった。むしろ、倒されて当然だと思っていた。
そうして、このラフォント王国は、と見れば……煌びやかな王宮、贅沢な格好をした貴族、それとは対照的にどこか薄汚れた街並み、道端にうずくまる痩せた子供達といった光景を見ていれば容易に想像がつくというものだ。
「そういえば、ゾロ、お前は何で行かなかったんだ?」
「ああ?いや、何かな、あの役人の奴気に食わない感じがしてな」
どうやら勘だったらしい。
とはいえ、結構役立つ勘だとエースもサボも内心感心していたが、実際、彼らもあの役人達に賞金稼ぎらを見下す空気があるのを感じていた。
「そういうお前らこそいいのかよ?お前ら、海軍のお偉いさんと関係があるんだろ?」
今度はゾロがそう聞いてきた。
まあ、その辺はローグタウンでの一件の後、詳しい事を話していた。あれを見せて、『全く何の関係も御座いません』と言って通じる筈もなかったからだ。
海軍に対して、ちょっと不信感が募っていた事もあり、下手に隠すと却ってこじれそうだった、というのもある。
「……アスラの言い方を借りれば、あいつら別に悪じゃないからなあ」
「はあ?悪じゃないって……確か、アスラって海軍本部の中将だよな?」
サボの呟きに、ゾロが何を言ってるんだ?という様子で聞いてきた。
まあ、確かに海軍本部中将が言う事ではなかろう。だが……。
「アスラの言葉を借りれば、革命軍ってのは『また別の正義』なんだとさ」
と、エースが告げる。
ドラゴンがルフィの父であり、ガープの息子であるという事をエースが知った事から始まった事だが、サボなら大丈夫だろうと後に伝えられた。
その際、悪党なのか、という問いにアスラが答えたのが先の回答に繋がる。
「世界政府と革命軍は表と裏だ、って言ってたな……」
「ああ。正義と悪は黒と白、並べてこそ、その違いが際立つ。革命軍はそうした意味では世界政府を写す鏡であり、表裏一体。そして、正義の反対は、また別の正義だ。そんな事言ってた」
「……何だそりゃ?」
「「よく分からん」」
回りくどい言い方をしたせいか、エースはもちろんサボもよく分からなかった。むしろ、きちんと言った事を覚えていただけサボが凄いとも言える。
ただ、1つだけはっきりしているのは……。
「少なくとも、アスラは革命軍を海賊と同列には見てない」
エースの言葉にサボもまた、うんうんと頷いた。
そう、事実アスラは革命軍を海賊と同じ集団とは見ていない。彼らはもっと危険な存在だ。
海賊は奪う存在だ。
白ひげや赤髪であっても、海賊である以上はそれは変わらない。
彼らが普通の海賊と違うのは、ただそれと引き換えに庇護を与える、という事だ。昔ながらのヤクザと同じだと考えればいい。ただ、名前のそれと知られた、大海賊でないとこの世界ではそんな事は出来ない訳だが……。
一方、革命軍とは置き換える存在だ。
支配する者と支配される者がいる。
その支配する者を打ち倒し、支配される者が支配する側になる。
前者の海賊は世界政府にとっては確かに厄介者だが、彼らには世界を変えようという意志はない。世界政府そのものをどうこうしようという意識はない。
だが、後者の革命軍は違う。
革命軍は世界を変えようとする意志がある。だからこそ、恐ろしい、だからこそ世界政府は危険視する。
両者は世界政府と敵対するという部分では同じでも、全く異なる存在なのだ。
「……いずれにせよ、たしぎを放っておくのも何か気が引けるしなあ……しばらく様子見だ」
原作で、ルフィに反抗したウソップと対応が違うと思うかもしれないが、あれとは全く異なる。
船長に反抗した、という意味合いではない。
エースが一応船長だが、彼はどうするかの決定を下していなかったからだ。
王国に味方するとも言っていない、味方するなとも言っていない。
これが、味方するな、と言ってそれに反抗しての事であれば、また対応を変えねばならなかった所だが……今回は違う。何故、エースが決められなかったかといえば、王族貴族に対する感情が、自分にせよサボにせよ個人的に悪印象を抱いているという自覚があったからだ。何より、自分達はこの王国の事を良く知らない。表面上だけを見て決めているかもしれない。
そう思うと決断を下せず……結局、逸早く決断した彼女は行ってしまった。
「何か、厄介な事になりそうだな……」
ゾロの呟きに、2人も黙って頷いた。