東の海の革命軍6
翌日。
ラフォント王国は打倒され、ラフォント民主王国となっていた。
変わっていないのでは?と名前だけ見れば思うかもしれないが、これには訳がある。
国王自身は処刑されたが、その孫の赤ん坊が名目上の王位にある。無論、実権などは欠片もなく、象徴としてのみ君臨している。周囲の人間も、あくまで赤ん坊の世話の為につけられた人材であり、将来的には共和制の感覚を持つべく、教育が施されていく事になるだろう。
面倒臭い話だが、これも世界政府に『あくまで王族同士による騒乱ですよ』と釈明する為の口実だ。
世界政府も分かってはいるが、名目は立ってるので多分、手は出せまい。
で、実権は、といえば、これは民衆によって構成される議会が握る。
「……って事になってる訳だ」
「…………」
サボが集めてきた情報に、たしぎはじっと俯いている。
一晩。
たった一晩で、それまで正義の側にあった王族貴族が悪に転落し、悪であった革命軍が正義になった。
昨晩の段階で、密かに革命軍の側に加わって、たしぎを探していたサボとゾロが、茫然自失となっていた彼女を発見して連れて帰って来てから、たしぎはどうも様子がおかしい。
ちなみに、エースが行かなかったのは、事前に受けた依頼通り騒然とする街中で子供達がゴロツキなどに絡まれたりしてるのを助けていたというのもあるが、彼の能力は目立つから、下手に革命軍に加わっている所を見られたりして、厄介な事になるのを避けた為だった。
「しかし、アスラが言ってた意味がやっと分ったな……」
世界政府と革命軍は表と裏。
確かにそうだ。
聞くのと目にするのでは、実感も異なるというものだ。
「うん?」
そんな時だった。
扉がノックされたのは。
ここは、町の宿の1つだ。とはいえ、たしぎが泊まっていた宿屋ではない。政府という支払い先がなくなった事から、正式に代金を要求する宿も増えた。
一時はそれで混乱したのだが、まあ、言ってる事はもっともだ。
多少形は違えど、雇い主が破産したのと同じという事もあり、割と素直に払った人間が多かった。中には素直でない人間もいたが……そういう奴に対しては、そういう対応方法がある、という事だ。
たしぎも同じように請求を受けた立場だが、彼女の性格からして文句を言うはずもなく、すんなり支払っていた。
ただ、さすがに政府に雇われていた、という状況は現状では余り嬉しい立場であるはずもなく……エース達の所に連れて来られていた。こちらは元々町の人間、ひいては革命軍に雇われていただけあって、何の問題もなかったからだ。
「誰だ?」
『ああ、すまない。先だって子供達を守ってくれとお願いをした者の使い、とでも言えばいいのかな?』
ああ、と納得した顔になったエース達の傍で、たしぎがその声に驚いたように顔を上げた。
そうして、開けられた扉の向こうにいた姿は……たしぎの想像通りの姿だった。
ワの国の羽織袴姿に、肩から衣をかけた格好。腰には業物「深海」。あの時、たしぎに王国の素顔をぶつけてきた当人だった。
向こうも気付いたのだろう。『おや?』という表情になった。
「彼女は?」
「ああ、俺達の仲間なんだがな……まあ、こいつだけは政府に雇われた側に入ってたからな……知り合いか?」
「昨晩の戦いの折に少々ね」
びくり、と震えるたしぎ。
ちらり、とその様子を他の3人が伺う。
実の所、サムライの腕の程は少なくとも、たしぎよりは確実に強い、と3人は判断していた。となれば、たしぎが無傷で帰ってきた時点で、相手の人柄は大体想像がつく。
血の匂いは消せない。
けれど、人斬りにまでは至っていない。
いや、目的を定め、誰かに剣を捧げた剣豪か、その辺だと見ていた。
「まあ、昨晩の様子から大体想像はつく。きっと彼女は疑わなかったんだろう?王国側が正しいと」
事実その通りだったから、たしぎ以外の3人としては苦笑するしかない。
少し調べれば、王国がどんな国かは分かっただろう。
エースやサボはゴア王国での実体験があるから、素直にラフォント王国の言を信じられなかったが故に、自分達の目で確認しようと思い、その上で考え行動した。
実際、たしぎが帰ってきた時、彼女がスラムってのがあるんですか?と聞いてきたので、サボが「ある」と答えた所、たしぎはそのまま黙り込んでしまった。
とはいえ、サボからすれば、スラムも、嘗て住んでいたグレイターミナルも大差ない。
そして、スラムには互いに助け合う人の情があった。
……まあ、少し油断すれば、財布も何もかも消えてなくなるような場所ではあるが、そこは実地の経験者だ。巧みに相手の行動を逸らしていれば、見た目はともかく、すぐに相手もご同業と見て、手出しは止まっていた。
「さて、それじゃあんたは革命軍の人間か?」
「少なくとも、その使い程度の役割はあると思ってもらっても構わない」
ズバリ直球で尋ねたエースに対して、サムライは自分がそうだとは断言せず、けれど関係はあるとほのめかす。その答えにニヤリと、エースとサボ、それに——敢えてサムライとでも呼んでおくが——彼が笑う。
たしぎは未だどこか呆然としているし、ゾロはと言えば、自分には理解不能とばかりに完全に腕を組んで壁に寄りかかり傍観者となっている。
「で?俺らはあんたらのお眼鏡にかなったのかい?」
大体彼が接触してきた理由の想像はつく。
先だっての依頼の時の反応、更に昨晩の行動。
そのあたりから多少の検討はつけたのだろう。
「ふむ、想定済みか……やりにくいな」
サムライも苦笑している。
「では、こちらも率直に言おう。革命軍に手を貸して欲しい。世界政府の横暴を止め、民衆の手に世界を取り戻す為に」
翌日。
ラフォント王国は打倒され、ラフォント民主王国となっていた。
変わっていないのでは?と名前だけ見れば思うかもしれないが、これには訳がある。
国王自身は処刑されたが、その孫の赤ん坊が名目上の王位にある。無論、実権などは欠片もなく、象徴としてのみ君臨している。周囲の人間も、あくまで赤ん坊の世話の為につけられた人材であり、将来的には共和制の感覚を持つべく、教育が施されていく事になるだろう。
面倒臭い話だが、これも世界政府に『あくまで王族同士による騒乱ですよ』と釈明する為の口実だ。
世界政府も分かってはいるが、名目は立ってるので多分、手は出せまい。
で、実権は、といえば、これは民衆によって構成される議会が握る。
「……って事になってる訳だ」
「…………」
サボが集めてきた情報に、たしぎはじっと俯いている。
一晩。
たった一晩で、それまで正義の側にあった王族貴族が悪に転落し、悪であった革命軍が正義になった。
昨晩の段階で、密かに革命軍の側に加わって、たしぎを探していたサボとゾロが、茫然自失となっていた彼女を発見して連れて帰って来てから、たしぎはどうも様子がおかしい。
ちなみに、エースが行かなかったのは、事前に受けた依頼通り騒然とする街中で子供達がゴロツキなどに絡まれたりしてるのを助けていたというのもあるが、彼の能力は目立つから、下手に革命軍に加わっている所を見られたりして、厄介な事になるのを避けた為だった。
「しかし、アスラが言ってた意味がやっと分ったな……」
世界政府と革命軍は表と裏。
確かにそうだ。
聞くのと目にするのでは、実感も異なるというものだ。
「うん?」
そんな時だった。
扉がノックされたのは。
ここは、町の宿の1つだ。とはいえ、たしぎが泊まっていた宿屋ではない。政府という支払い先がなくなった事から、正式に代金を要求する宿も増えた。
一時はそれで混乱したのだが、まあ、言ってる事はもっともだ。
多少形は違えど、雇い主が破産したのと同じという事もあり、割と素直に払った人間が多かった。中には素直でない人間もいたが……そういう奴に対しては、そういう対応方法がある、という事だ。
たしぎも同じように請求を受けた立場だが、彼女の性格からして文句を言うはずもなく、すんなり支払っていた。
ただ、さすがに政府に雇われていた、という状況は現状では余り嬉しい立場であるはずもなく……エース達の所に連れて来られていた。こちらは元々町の人間、ひいては革命軍に雇われていただけあって、何の問題もなかったからだ。
「誰だ?」
『ああ、すまない。先だって子供達を守ってくれとお願いをした者の使い、とでも言えばいいのかな?』
ああ、と納得した顔になったエース達の傍で、たしぎがその声に驚いたように顔を上げた。
そうして、開けられた扉の向こうにいた姿は……たしぎの想像通りの姿だった。
ワの国の羽織袴姿に、肩から衣をかけた格好。腰には業物「深海」。あの時、たしぎに王国の素顔をぶつけてきた当人だった。
向こうも気付いたのだろう。『おや?』という表情になった。
「彼女は?」
「ああ、俺達の仲間なんだがな……まあ、こいつだけは政府に雇われた側に入ってたからな……知り合いか?」
「昨晩の戦いの折に少々ね」
びくり、と震えるたしぎ。
ちらり、とその様子を他の3人が伺う。
実の所、サムライの腕の程は少なくとも、たしぎよりは確実に強い、と3人は判断していた。となれば、たしぎが無傷で帰ってきた時点で、相手の人柄は大体想像がつく。
血の匂いは消せない。
けれど、人斬りにまでは至っていない。
いや、目的を定め、誰かに剣を捧げた剣豪か、その辺だと見ていた。
「まあ、昨晩の様子から大体想像はつく。きっと彼女は疑わなかったんだろう?王国側が正しいと」
事実その通りだったから、たしぎ以外の3人としては苦笑するしかない。
少し調べれば、王国がどんな国かは分かっただろう。
エースやサボはゴア王国での実体験があるから、素直にラフォント王国の言を信じられなかったが故に、自分達の目で確認しようと思い、その上で考え行動した。
実際、たしぎが帰ってきた時、彼女がスラムってのがあるんですか?と聞いてきたので、サボが「ある」と答えた所、たしぎはそのまま黙り込んでしまった。
とはいえ、サボからすれば、スラムも、嘗て住んでいたグレイターミナルも大差ない。
そして、スラムには互いに助け合う人の情があった。
……まあ、少し油断すれば、財布も何もかも消えてなくなるような場所ではあるが、そこは実地の経験者だ。巧みに相手の行動を逸らしていれば、見た目はともかく、すぐに相手もご同業と見て、手出しは止まっていた。
「さて、それじゃあんたは革命軍の人間か?」
「少なくとも、その使い程度の役割はあると思ってもらっても構わない」
ズバリ直球で尋ねたエースに対して、サムライは自分がそうだとは断言せず、けれど関係はあるとほのめかす。その答えにニヤリと、エースとサボ、それに——敢えてサムライとでも呼んでおくが——彼が笑う。
たしぎは未だどこか呆然としているし、ゾロはと言えば、自分には理解不能とばかりに完全に腕を組んで壁に寄りかかり傍観者となっている。
「で?俺らはあんたらのお眼鏡にかなったのかい?」
大体彼が接触してきた理由の想像はつく。
先だっての依頼の時の反応、更に昨晩の行動。
そのあたりから多少の検討はつけたのだろう。
「ふむ、想定済みか……やりにくいな」
サムライも苦笑している。
「では、こちらも率直に言おう。革命軍に手を貸して欲しい。世界政府の横暴を止め、民衆の手に世界を取り戻す為に」