プロローグ
破滅願望。
僕は、そう言ったものを昔から持っていた。
ノアの大洪水。ソドムとゴモラを焼いた天の火。マヤの予言。
そういった類の、人類の終焉と言うものを見てみたかった。
理由なんて然したるものじゃない。唯、興味があった。それだけの話。
方法は何だっていい。隕石が落ちた。地殻変動。大津波。大地震。あらゆる可能性を想像して、楽しんでいた。
僕自身にそんな事をする力は無い。だから、想像するだけで止まっていた。
苛めにあっても、僕には世界が崩壊する様が見えていた。何があっても、世界がいずれ崩壊するというのならこんな事で一々感情を乱すのも馬鹿らしいと思う様になった。
「お前、変わってるよな」
友人。傍から見たら親友の様な奴らしいが、僕自身は別段興味は無い。
指を動かし、ピアノを弾きながら、その友人の声を聞く。
「人類の終りが見たいとか、中二病じゃねえの? 高校生の癖に」
「別に。そうは思っていないし、現実問題として人間が滅ぶ要素は幾らでもある」
地球温暖化。隕石の落下。気候変動。
思いつく類としてはこんなものだろう。僕自身、近い時期にマヤの予言の日がある事もあって、生きる事は止めない。
得意な事は楽器を弾く事。苦手な事は他人と話す事。
友人と呼べるのも、近くにいるこいつだけだろうし。特に増やそうとも思えない。
「次はバイオリン弾いてくれよ。……お前、もう少しコミュニケーション能力高かったら人気者だろうに」
「興味無いよ。僕はただやりたい事をやるだけだ」
「そう言うのは出来る奴だけが言うセリフだっての」
千葉。と、どこかから声が聞こえた。友人の名を呼ぶのはクラスメイト。僕は呼ばれ無い。
「お前、また一緒にいたのかよ。あの根暗といて楽しいか? 確かに楽器弾く事に関しては一流だけどよ」
「良いだろ、別に。ダチなんだよ俺ら」
構う必要は無いのだけどね。僕は楽器を弾くだけで暇は潰せるし。
友人、千葉に対する興味も薄れてきた所で、帰る事にする。今日は誰もいない筈だ。夕食の準備をしなくちゃならない。
「帰るのか? 俺今から部活に顔出してくるわ」
「引退したのに、よくやるね」
口を吐いて出た言葉だが、千葉はそれを聞いて驚いていた。
「まあな。引退しても後輩の事は面倒見てやりてーのよ」
そう、笑いながら、手を振って何処かへ行く。
僕はまたマヤの予言の内容がどんなものか考えつつ、帰路につく。買い物も忘れない。
どうだっていい毎日。最後の日というのがあるのなら、僕はそれを見届けるまで死ぬわけにはいかないなぁ。等と考える。
だが、その願いは叶える事は出来なくなった。
それは突然。強盗が押し入って殺された。呆気なく、抵抗さえ出来ぬままに。
僕の心残りは唯一つ。『世界の終りが見れない事』だ。
本当に、無念でならない。もしかしたら、生きている内にマヤの予言と言う大災厄を見る事が出来たのかもしれない。
いつかの大地震の様な事が世界中で起きたかもしれない。ノアの大洪水の様な事が世界中で起きたかもしれない。
だが、今はもう無理だ。
それらはすべて、『かもしれない』。つまりはifの出来事。最早僕はそれを見る事は出来ない。
血みどろの視界。絶え絶えの息。薄らいでくる意識。全てが現実 で、全てが本当 だった。
最後に、僕は呟いた。
「ああ、世界の終りが見たい」
そして、意識は堕ちる。
僕の意識は、もう二度と戻る事は無い筈だった。当然だ、死んだのだから二度と目覚める筈がない。
『ならば、君がそれを叶えればいいだろう』
なのに、そんな声が聞こえた。
初めは何かの間違いだろうと思った。いや、思考が出来ている時点でおかしいと言うべきなのかな。
僕は、知らない間に何処かへ来ていた。其処は白よりも白く、何色にも染まっているようで、理解が追いつかない。そんな場所だ。
どんなものなのか分からない。知的好奇心を刺激され、僕はその『色』とも呼べぬ『色』を凝視し、理解しようとして。
いつの間にか、倒れていた。
其処で気付く。──何故、僕の肉体が無事なんだ? そして、目の前に立つ『僕』は? ──同時に、頭に走る強烈な痛み。
「ああ、私やこの世界の事を無理に理解しようとしなくていい。存在がイカれるよ」
『僕』は笑いながらそんな事を言う。
ドッペルゲンガーなんかはその人そっくりな姿になるらしいけど、この場合もそうなんだろうか。
目の前に鏡があるのかとも思うが、それだと倒れている僕と立っている『僕』の理由が説明できない。
「ああ、そう思っても構わない。取りあえずは喋らなくて良いよ。私は君の考えている事が分かるからね」
どうやら、目の前の『僕』は鏡なんかでも無い。確かな存在らしい。
「さて、君は願ったね。『世界の終りが見たい』と」
反応はしなくても考えが分かるらしいが、取りあえず座ったままコクンと頷く。
「よろしい。ならば、君にそれを叶えさせてあげよう」
…………え?
唐突過ぎて話についていけない。意味が分からない。
「ん? そうかそうか、君がここに来た理由を説明していなかったね」
忘れていたとばかりに何度か頷いて、二コリと微笑む。
自然過ぎるその動作に違和感など無く、むしろここにいる僕の方が偽物ではないかと言う錯覚まで浮かんでくる。
「理由は簡単。君を気に入ったからだ」
気に入ったから?
「そう。君の世界では二次創作と言うモノがあるのだろう? それは神が間違って殺して、なんて事がよくある。だが、今回は神である私の目に敵ったからこそ君は選ばれた」
どういう事?
「簡単だ。君を転生させよう。世界を動かす歯車を作った我々神が、その世界へと歯車を狂わせる為に」
……どういう意味?
「単純な話さ。君は、君のやりたい事をやる。私にとってはそれが利となるんだ」
……結局どうすればいいの?
「詰まる所、我々神の作りだした歯車をずらしてしまえばいいのだよ。私にはそれは出来ない。修正は出来ても介入はしない。否、出来ないというのが神だ」
なるほど。神の手を借りずに人為的に介入してしまえば、修正できない歪みを発生させれば世界は崩壊する。と言う事か。
「最悪の場合、『抑止力』が動く可能性がある。だが、君にはそれをどうにかするだけの力をあげよう」
抑止力って、Fateとかのアレ?
「そう、アレだ。君がやろうとしているのは人類と言う種の危機でもある。抑止が働かない筈がない」
なら、英霊なんかが動くの?
「それは分からない。守護者が動く場合もあれば、抑止力自体が何らかのアクションを起こす可能性もある。が、その辺は心配はいらないだろう。ある程度は私も抑えるつもりだ。後は君の力でどうにかなるだろうしな」
出来るの? というか、心配がいらないなら何で話したの?
「これでも神の一角だからな。本来神が世界へ対して何らかのアクションを起こす事は禁じられている。君がここにいる時点で、私はその決まりを破っているのだよ。どの道君が行く世界は『魔法先生ネギま!』という世界だ。漫画の世界、現実世界に影響は無い。いや、君にとっては其処が現実となるがね。もしかすれば、私と同じ様な事を考える者がいるかもしれない」
同じ様な事を考える……神?
「そうさ。なにも神は私一人では無い。私のやった事に対して、何らかのアクションを起こす神もいるかもしれない。私が押さえる抑止の代わりにな」
『僕』はククク、と笑いを堪える様に手を口元にやり、僕に尋ねる。
「さぁ、君の願いは君が叶えるんだ。お膳立てはしてやろう。十分な準備もしてやろう。自分の願いは自分で叶えろ」
そう言って、右手を差し出された。
僕は、迷うことなくその手を取る。
「力を選べ。世界を崩壊させるなら強力な力が良いか?」
いいや、違う。
「ほう? 誰も抵抗さえ出来ない力で世界を滅ぼすのではないのか?」
もちろんそう言った力を貰う。でも、一人で簡単に世界を潰す訳じゃない。
「なら、どんな力を選ぶんだ?」
僕の知っている漫画の中で、世界を終焉へと導く存在として最も的確だと思った者。『千年伯爵』の力。
AKUMA。『機械』と『魂』と『悲劇』を材料に作られる兵器。
正に、世界を破滅させる為に存在するモノだ。
AKUMAを造る為の骨組みを創るプラント。プラントが置いてある『方舟』とそれを操る『奏者の証』。
そして、仲間となる『ノアの一族』となる為の『ノアメモリーの譲渡権』を。誰でも、好きな人をノアに変えられるように。
これが、僕の選ぶ力。
世界を終焉へと導く力。
「強欲だな。だが、それもまた人間の性だ。良いだろう、存分に暴れるがいい」
但し、時間は原作の始まる千年前。そう告げられ、僕の意識はブラックアウトする。
そして、それらの力を持って僕は『魔法先生ネギま』の世界へ降り立った──
破滅願望。
僕は、そう言ったものを昔から持っていた。
ノアの大洪水。ソドムとゴモラを焼いた天の火。マヤの予言。
そういった類の、人類の終焉と言うものを見てみたかった。
理由なんて然したるものじゃない。唯、興味があった。それだけの話。
方法は何だっていい。隕石が落ちた。地殻変動。大津波。大地震。あらゆる可能性を想像して、楽しんでいた。
僕自身にそんな事をする力は無い。だから、想像するだけで止まっていた。
苛めにあっても、僕には世界が崩壊する様が見えていた。何があっても、世界がいずれ崩壊するというのならこんな事で一々感情を乱すのも馬鹿らしいと思う様になった。
「お前、変わってるよな」
友人。傍から見たら親友の様な奴らしいが、僕自身は別段興味は無い。
指を動かし、ピアノを弾きながら、その友人の声を聞く。
「人類の終りが見たいとか、中二病じゃねえの? 高校生の癖に」
「別に。そうは思っていないし、現実問題として人間が滅ぶ要素は幾らでもある」
地球温暖化。隕石の落下。気候変動。
思いつく類としてはこんなものだろう。僕自身、近い時期にマヤの予言の日がある事もあって、生きる事は止めない。
得意な事は楽器を弾く事。苦手な事は他人と話す事。
友人と呼べるのも、近くにいるこいつだけだろうし。特に増やそうとも思えない。
「次はバイオリン弾いてくれよ。……お前、もう少しコミュニケーション能力高かったら人気者だろうに」
「興味無いよ。僕はただやりたい事をやるだけだ」
「そう言うのは出来る奴だけが言うセリフだっての」
千葉。と、どこかから声が聞こえた。友人の名を呼ぶのはクラスメイト。僕は呼ばれ無い。
「お前、また一緒にいたのかよ。あの根暗といて楽しいか? 確かに楽器弾く事に関しては一流だけどよ」
「良いだろ、別に。ダチなんだよ俺ら」
構う必要は無いのだけどね。僕は楽器を弾くだけで暇は潰せるし。
友人、千葉に対する興味も薄れてきた所で、帰る事にする。今日は誰もいない筈だ。夕食の準備をしなくちゃならない。
「帰るのか? 俺今から部活に顔出してくるわ」
「引退したのに、よくやるね」
口を吐いて出た言葉だが、千葉はそれを聞いて驚いていた。
「まあな。引退しても後輩の事は面倒見てやりてーのよ」
そう、笑いながら、手を振って何処かへ行く。
僕はまたマヤの予言の内容がどんなものか考えつつ、帰路につく。買い物も忘れない。
どうだっていい毎日。最後の日というのがあるのなら、僕はそれを見届けるまで死ぬわけにはいかないなぁ。等と考える。
だが、その願いは叶える事は出来なくなった。
それは突然。強盗が押し入って殺された。呆気なく、抵抗さえ出来ぬままに。
僕の心残りは唯一つ。『世界の終りが見れない事』だ。
本当に、無念でならない。もしかしたら、生きている内にマヤの予言と言う大災厄を見る事が出来たのかもしれない。
いつかの大地震の様な事が世界中で起きたかもしれない。ノアの大洪水の様な事が世界中で起きたかもしれない。
だが、今はもう無理だ。
それらはすべて、『かもしれない』。つまりはifの出来事。最早僕はそれを見る事は出来ない。
血みどろの視界。絶え絶えの息。薄らいでくる意識。全てが
最後に、僕は呟いた。
「ああ、世界の終りが見たい」
そして、意識は堕ちる。
僕の意識は、もう二度と戻る事は無い筈だった。当然だ、死んだのだから二度と目覚める筈がない。
『ならば、君がそれを叶えればいいだろう』
なのに、そんな声が聞こえた。
初めは何かの間違いだろうと思った。いや、思考が出来ている時点でおかしいと言うべきなのかな。
僕は、知らない間に何処かへ来ていた。其処は白よりも白く、何色にも染まっているようで、理解が追いつかない。そんな場所だ。
どんなものなのか分からない。知的好奇心を刺激され、僕はその『色』とも呼べぬ『色』を凝視し、理解しようとして。
いつの間にか、倒れていた。
其処で気付く。──何故、僕の肉体が無事なんだ? そして、目の前に立つ『僕』は? ──同時に、頭に走る強烈な痛み。
「ああ、私やこの世界の事を無理に理解しようとしなくていい。存在がイカれるよ」
『僕』は笑いながらそんな事を言う。
ドッペルゲンガーなんかはその人そっくりな姿になるらしいけど、この場合もそうなんだろうか。
目の前に鏡があるのかとも思うが、それだと倒れている僕と立っている『僕』の理由が説明できない。
「ああ、そう思っても構わない。取りあえずは喋らなくて良いよ。私は君の考えている事が分かるからね」
どうやら、目の前の『僕』は鏡なんかでも無い。確かな存在らしい。
「さて、君は願ったね。『世界の終りが見たい』と」
反応はしなくても考えが分かるらしいが、取りあえず座ったままコクンと頷く。
「よろしい。ならば、君にそれを叶えさせてあげよう」
…………え?
唐突過ぎて話についていけない。意味が分からない。
「ん? そうかそうか、君がここに来た理由を説明していなかったね」
忘れていたとばかりに何度か頷いて、二コリと微笑む。
自然過ぎるその動作に違和感など無く、むしろここにいる僕の方が偽物ではないかと言う錯覚まで浮かんでくる。
「理由は簡単。君を気に入ったからだ」
気に入ったから?
「そう。君の世界では二次創作と言うモノがあるのだろう? それは神が間違って殺して、なんて事がよくある。だが、今回は神である私の目に敵ったからこそ君は選ばれた」
どういう事?
「簡単だ。君を転生させよう。世界を動かす歯車を作った我々神が、その世界へと歯車を狂わせる為に」
……どういう意味?
「単純な話さ。君は、君のやりたい事をやる。私にとってはそれが利となるんだ」
……結局どうすればいいの?
「詰まる所、我々神の作りだした歯車をずらしてしまえばいいのだよ。私にはそれは出来ない。修正は出来ても介入はしない。否、出来ないというのが神だ」
なるほど。神の手を借りずに人為的に介入してしまえば、修正できない歪みを発生させれば世界は崩壊する。と言う事か。
「最悪の場合、『抑止力』が動く可能性がある。だが、君にはそれをどうにかするだけの力をあげよう」
抑止力って、Fateとかのアレ?
「そう、アレだ。君がやろうとしているのは人類と言う種の危機でもある。抑止が働かない筈がない」
なら、英霊なんかが動くの?
「それは分からない。守護者が動く場合もあれば、抑止力自体が何らかのアクションを起こす可能性もある。が、その辺は心配はいらないだろう。ある程度は私も抑えるつもりだ。後は君の力でどうにかなるだろうしな」
出来るの? というか、心配がいらないなら何で話したの?
「これでも神の一角だからな。本来神が世界へ対して何らかのアクションを起こす事は禁じられている。君がここにいる時点で、私はその決まりを破っているのだよ。どの道君が行く世界は『魔法先生ネギま!』という世界だ。漫画の世界、現実世界に影響は無い。いや、君にとっては其処が現実となるがね。もしかすれば、私と同じ様な事を考える者がいるかもしれない」
同じ様な事を考える……神?
「そうさ。なにも神は私一人では無い。私のやった事に対して、何らかのアクションを起こす神もいるかもしれない。私が押さえる抑止の代わりにな」
『僕』はククク、と笑いを堪える様に手を口元にやり、僕に尋ねる。
「さぁ、君の願いは君が叶えるんだ。お膳立てはしてやろう。十分な準備もしてやろう。自分の願いは自分で叶えろ」
そう言って、右手を差し出された。
僕は、迷うことなくその手を取る。
「力を選べ。世界を崩壊させるなら強力な力が良いか?」
いいや、違う。
「ほう? 誰も抵抗さえ出来ない力で世界を滅ぼすのではないのか?」
もちろんそう言った力を貰う。でも、一人で簡単に世界を潰す訳じゃない。
「なら、どんな力を選ぶんだ?」
僕の知っている漫画の中で、世界を終焉へと導く存在として最も的確だと思った者。『千年伯爵』の力。
AKUMA。『機械』と『魂』と『悲劇』を材料に作られる兵器。
正に、世界を破滅させる為に存在するモノだ。
AKUMAを造る為の骨組みを創るプラント。プラントが置いてある『方舟』とそれを操る『奏者の証』。
そして、仲間となる『ノアの一族』となる為の『ノアメモリーの譲渡権』を。誰でも、好きな人をノアに変えられるように。
これが、僕の選ぶ力。
世界を終焉へと導く力。
「強欲だな。だが、それもまた人間の性だ。良いだろう、存分に暴れるがいい」
但し、時間は原作の始まる千年前。そう告げられ、僕の意識はブラックアウトする。
そして、それらの力を持って僕は『魔法先生ネギま』の世界へ降り立った──