第一夜:降り立つ使徒
目の前は真っ暗だ。
いや、これは単に僕が眼を閉じているだけか。そう思って、静かに眼を開ける。
最初に視界に入ってきたのは、葉が揺れる度に見える光。木漏れ日だと気付くまで数秒の時間がいった。
ゆっくり上体を起こし、背中や尻に着いた土を払いながら立ち上がる。
どうやら、転生とは違うらしい。トリップという奴だろうか。赤ん坊からやり直すなんて御免だから丁度いいけれど。
姿はそのまま。黒髪黒眼で普遍的な顔。少しばかり高い身長と細身の体。
だが、違うのは力。実際、水面で自身の姿を見てみれば額に聖痕が浮かんでいるし、自分の意思で消せる。
さっきの神との会話はハッキリと覚えている。これは虚構や偽りでは無く、まぎれも無い現実。
フフ、と自然に笑いがこみ上げる。
この世界で、僕の願いが叶う。確か、『魔法先生ネギま』だったか。と考えを巡らせる。
原作は知っている。ある程度の知識は残っているから、忘れないうちに何かに残しておこう。そう思考し、『方舟』を呼び出す。
『奏者の証』を持っているから、操る事が出来る。どういう風にすれば良いかは知らないが、操作方法は頭の中に勝手に浮かび上がってきた。
ゲートを通って方舟へと入り、図書室の様な部屋で真っ白な本に自分の知っている知識をある限り書き込んでおく。この世界にトリップした時点で、使えるかどうかも分からない知識だが。
次は能力。
これは全部が使えるようだが、完全に使える訳ではないし、戦闘経験も無い様では駄目だ。
イメージする。
掌の上に現れるのは黒い球体。圧縮された力の塊。
解放と圧縮を繰り返し、力の加減を訓練する。方舟の中が練習でボロボロになるが、どうにもこの中は『奏者の証』を持った人物がピアノを弾けば、損傷さえも自由に操られるらしく、ボロボロになった場所も元に戻った。
食事は自分で作っている。得意料理はハンバーグ。何もここまで伯爵の様にならなくても良い気はするが、神のサービスという奴だろう。
前世では得意料理はカレーだった。簡単だったからね。
そう言えば、と。ふと思い出す。
僕は、名前が思い出せない。
神と出会ったときから、僕は名前を思い出す事が出来ない。理由は分からないが、自分の名前を忘れる様な馬鹿では無かった。
なら、この世界に来た時に消えたと考えるべきか。
それならそれで別に構わない。会う事の無くなった親に対して何も思わなくなり、名前を考える。
だが、特に必要な気はしない。名乗るのは『千年伯爵』で良いだろう。
漫画の知識から、『ネア』とでも名乗ってやろうかと考える。千年伯爵を殺そうとした14番目の名。
千年伯爵である僕からすれば、忌むべき名である気もするが、問題は無いだろうと思い。
親しい者には『ネア』と名乗ろうと決める。
●
方舟内で数年間。力を訓練し、魔術もある程度扱えるようになった所で、『守化縷 』を作る事にする。
千年伯爵は『導師』という存在でもあって、アクマの『生成工場 』はこれで守られている為、イノセンスでも破壊は出来ない。存在するかは知らないが。
身の回りを世話してくれるから便利だろう、と思っての事だ。何せ、方舟は広い。
『方舟』は知っている場所にしか現れる事が出来ない。つまり、否応無しに最初にトリップした場所にしか出てこれない。方舟の中で済ませていた為、特に外に出る必要性が無かったのだ。
まぁ、あまり関係無いし、世界を歩いて回ればどこでも行ける様になるだろうから問題など無いのだが。
それよりも、今一番気になるのは『イノセンス』の事だ。
『神の結晶』とまで言われる、この世に存在しない物質で構成された物体。『原石』と呼ばれる結晶の周りに、ニつの金色の歯車状の物が交差した形状の状態で発見されることが多い。
だが、人間の手によってあるいは自身で様々な物体に変化しているものも存在する。総数は109個と決まっている為、全て破壊できれば僕等を邪魔する物はいないだろう。
何せ、ノアの一族と千年伯爵を打倒し得るのは、『イノセンス』の力だけなのだから。
外に出た時、日は高く昇っていて、生温い風が頬を打った。季節は分からないが、過ごしやすいだろう。
何時間ほど歩いただろうか。森を抜け、小さな村があった。
空を見れば、日は傾いて夕焼けが空を赤く染めている。千年前といえば年代的に見てギリシア・ローマの両教会が完全に分裂した辺りだろうか。等と無駄な事を考えてみたりする。
人を誘拐するのだし、暗くなってからが良いだろう。そう思って、夜まで待った。
月明かりに照らされた村。明かりは十分。周りを見渡せる。
村は完全に静まり返っている。不気味なほどに静かだ。
『守化縷 』は出来るだけ頭がいい方がいいらしい。出来の良い脳を持っている奴はこの辺にいるのだろうか。
●
時間をかけてこの村の人物全員の頭をテストしてみた。魔術でそう言うのが分かるらしい。
で、見つかったのは二人。いない可能性もあったから、上出来だと考えるべきだろう。
その二人は今僕の傍に寝ている訳だ。方舟の中に連れてきた。早速やってみようか。
「オン」
いきなり炎が巻き起こり、体が真っ黒に燃えて黒く炭の様になる。
悲鳴が響くが気にする事は無い。どうにも精神の方にも何か細工をされているようだ。僕はこんな事を出来るような性格じゃ無いと断言できただろう。昔ならば。
「a u m 導式改造 "起 "」
最後まで呪文を唱え終わると、ゆっくりと起き上がる。顔が骸骨だから『守化縷 』なのかな?
まぁ、どうでもいい事だ。もう一人もさっさと済ませよう。
取りあえず二人手に入れた訳だ。方舟の中の雑用はこいつらに任せるとして、僕は他にやる事がある。『守化縷 』を増やす事もだが、AKUMAを作らなきゃならない。
……別にもう少しの間修行してからがいいかな。力が十全に使えるようになってからがいい気もするし。
もしかしたら、イノセンスがこの世界にあるかもしれないのだ。ハートはそう簡単に見つかるとは思わないが、注意はしておいた方がいいだろう。
●
更に数年。AKUMAは未だ創っていない。プラントはあるから骨組みは創って溜めてあるのだけど。
守化縷 の数はこの数年で二ケタをゆうに超し、三ケタに迫る勢いだ。
雑用係は多いに越した事は無い。そう思っていろんな場所から誘拐している。守化縷 も魔術は使えるから、適当に攫ってくれば後は勝手に新人の教育もやってくれる。凄く便利。
「伯爵様。相変わらず物凄いですな」
「いや、まだまだだ」
守化縷 が感嘆したような声を出す。
僕の周りには、地形が変わっている地面。
隆起している場所もあれば、陥没している場所もある。強力な攻撃を放ちまくったから当然と言えば当然だろう。
「もう一度」
右手を前へと突き出す。
集中。イメージして掌の上に黒い球体を作り出す。膨大な力を一瞬で生成し、圧縮を開始。
数秒である程度の力が溜まり、一気に解放。
轟音。次いで、地面が割れる音。
『守化縷 』と僕には被害が行かない様に出来るらしい。これなら敵と味方が入り混じった戦場でも使えるだろう。
恐らくだが、AKUMAも巻き込まない様に出来る筈だ。
「次、連続生成からの圧縮」
次は両手を突き出す。同じ様にイメージし、いくつかの球体を作り上げる。
そして、そのうち二つを操作。腕をしならせ、一つは近くの隆起した岩に当て、もう一つは地面に着弾。
岩は完全に吹き飛び、地面は先ほどの比ではないが、大きく抉られる。
先ほどの攻撃より威力は下がるが、連続で放てる上に多少は誘導できる。そもそもの威力が異常なのだ。問題は無いだろう。
残りの球体を操作し、互いにぶつけて相殺し合う。衝撃で地面に軽く亀裂が入るが、問題は無い。
「レロ」
「はいレロ、伯爵タマ」
ハロウィンに使われる様な、かぼちゃの頭を付けた傘が話す。僕が作ったゴーレムの一つだ。
傘が開き、僕は持ち手の部分に手をかざす。すると、傘の持ち手が拳の柄へと変わる。そのまま掴んで剣を引き出し、高速で走って剣を振り、残った岩を切り裂く。
剣の形状は両刃で一メートル強の長さ。柄は黒く塗りつぶされており、剣本体の表面に十字架が白く刻まれている。
剣も大分自由自在に使える様になった。だが、黒い球体の方は油断すると暴発する。まだまだ訓練が必要だろう。
身体能力は昔とは比べ物にならないほどに上がっている。千年伯爵としての能力だろうか。数年鍛えた程度でここまで上がるのは信じられない。
「お見事ですなぁ、伯爵様」
「まだまだだ。戦闘中に暴発したら最悪だからな。訓練は怠る事は出来ない」
そもそも、ここまでの威力が出るのも黒い球体一つに集中できるからだ。戦闘になったらここまで完全に制御は出来ない。十分の一の力が出れば僥倖だろう。
それでも、十分な威力だとは思うが。
「ですが、何時間もやっていては疲れで倒れますぞ。休む時は休むべきです」
「……そうだな。ここは直して置く。食事の準備をしてくれ」
「畏まりました」
近くのドアを開け、方舟の『心臓』のある場所へと移動する。
真っ白なピアノが置いてあり、金色で赤子の様なモニュメントが視界に入ってくる。不快ではないが、気分が良くなる様な物でも無い。
カタン、と椅子を動かし、ピアノの前に座る。
そして、頭の中で詩 を紡ぐ。すると、僕の意思とは関係無く指が動きだした。
僕の指が鍵盤の上で踊り、綺麗な旋律が耳を撫でる。何度聞いてもこの音色は飽きないモノだと思う。
つい、口ずさんで歌ってしまうほどには、この曲が気に入っていた。
僕の望みを込めつつ、ピアノを弾き続ける。修復は一度弾いてしまえば十分可能だ。既に何度もやっている。
修復が終わり、守化縷 に頼んでおいた食事を食べる。
「……やはり、一人で食事というのも慣れるのは良いが、出来れば慣れたくは無いものだな」
「とはいえ、伯爵様は不死ですから。我々とて一生傍にいる事は出来ません」
守化縷 の寿命は大凡二百年程度。恐らく歳を取らないであろう僕とは比べ物にもならない。
歳を取らないと言うのも、この数年で体の状態が変わらないと気付いたからだし、この時代で朽ち果てても仕方がないと神が付けたのだろうと判断する。
何せ、原作でも千年伯爵は長生きしている様な節があったからね。
家族というならノアがいるのだが、未だメモリーは誰にも渡していない。どうなるか興味もあるし、家族がいるというのは良いものだと思う。
そろそろAKUMAを作る為に外に出てみるかな、と思考してみる。
ついでと言ってはなんだが、ノアを探すのはAKUMAを作りながらで良いだろう。家族となる者は自分で決められるのだ。出来れば個人的に気に入った人物が良い。
「家族を作る、か」
「家族ですか? 一体、どうするおつもりで」
「まだ分からない。だがいずれにせよ、家族は出来るさ」
世界を終焉へと導く聖戦はまだ始まっていない。開幕ベルはまだ鳴らない。
ノアはまだ後だ。まずはAKUMAを作ろう。
骨組みはプラントのある部屋に大量に並べられている。僕は適当にそれを一つ取り出し、観察してみる。
二メートルは有ろうかという骨組み。中々に大きい。
これの前で大切な人の名を呼ぶと、魂が縛られ、アクマになり、僕の兵器となる。
外道もいいところだろう。死者の冒涜どころの話では無い。死者それ自体をモノの様に縛って操っているのだ。イノセンスが正しいと言うのも十分に理解できる。
だが、生憎と僕の望みはこれを使ってのもの。イノセンスがどれだけ力を持っていようと、神の結晶と呼ばれようと関係無い。
僕はノアだ。僕等には僕等の掲げる神がいる。
最後に勝つのは、僕だ。
あとがき
科学の方と違い、こちらは余り手を加えてません。と言うか、下手に弄ると伏線から崩れますので……w
手を加えたのは大戦編の辺りですので、それまでは一度読んだ方は真新しさが無い展開かなぁ、と思います。
目の前は真っ暗だ。
いや、これは単に僕が眼を閉じているだけか。そう思って、静かに眼を開ける。
最初に視界に入ってきたのは、葉が揺れる度に見える光。木漏れ日だと気付くまで数秒の時間がいった。
ゆっくり上体を起こし、背中や尻に着いた土を払いながら立ち上がる。
どうやら、転生とは違うらしい。トリップという奴だろうか。赤ん坊からやり直すなんて御免だから丁度いいけれど。
姿はそのまま。黒髪黒眼で普遍的な顔。少しばかり高い身長と細身の体。
だが、違うのは力。実際、水面で自身の姿を見てみれば額に聖痕が浮かんでいるし、自分の意思で消せる。
さっきの神との会話はハッキリと覚えている。これは虚構や偽りでは無く、まぎれも無い現実。
フフ、と自然に笑いがこみ上げる。
この世界で、僕の願いが叶う。確か、『魔法先生ネギま』だったか。と考えを巡らせる。
原作は知っている。ある程度の知識は残っているから、忘れないうちに何かに残しておこう。そう思考し、『方舟』を呼び出す。
『奏者の証』を持っているから、操る事が出来る。どういう風にすれば良いかは知らないが、操作方法は頭の中に勝手に浮かび上がってきた。
ゲートを通って方舟へと入り、図書室の様な部屋で真っ白な本に自分の知っている知識をある限り書き込んでおく。この世界にトリップした時点で、使えるかどうかも分からない知識だが。
次は能力。
これは全部が使えるようだが、完全に使える訳ではないし、戦闘経験も無い様では駄目だ。
イメージする。
掌の上に現れるのは黒い球体。圧縮された力の塊。
解放と圧縮を繰り返し、力の加減を訓練する。方舟の中が練習でボロボロになるが、どうにもこの中は『奏者の証』を持った人物がピアノを弾けば、損傷さえも自由に操られるらしく、ボロボロになった場所も元に戻った。
食事は自分で作っている。得意料理はハンバーグ。何もここまで伯爵の様にならなくても良い気はするが、神のサービスという奴だろう。
前世では得意料理はカレーだった。簡単だったからね。
そう言えば、と。ふと思い出す。
僕は、名前が思い出せない。
神と出会ったときから、僕は名前を思い出す事が出来ない。理由は分からないが、自分の名前を忘れる様な馬鹿では無かった。
なら、この世界に来た時に消えたと考えるべきか。
それならそれで別に構わない。会う事の無くなった親に対して何も思わなくなり、名前を考える。
だが、特に必要な気はしない。名乗るのは『千年伯爵』で良いだろう。
漫画の知識から、『ネア』とでも名乗ってやろうかと考える。千年伯爵を殺そうとした14番目の名。
千年伯爵である僕からすれば、忌むべき名である気もするが、問題は無いだろうと思い。
親しい者には『ネア』と名乗ろうと決める。
●
方舟内で数年間。力を訓練し、魔術もある程度扱えるようになった所で、『
千年伯爵は『導師』という存在でもあって、アクマの『
身の回りを世話してくれるから便利だろう、と思っての事だ。何せ、方舟は広い。
『方舟』は知っている場所にしか現れる事が出来ない。つまり、否応無しに最初にトリップした場所にしか出てこれない。方舟の中で済ませていた為、特に外に出る必要性が無かったのだ。
まぁ、あまり関係無いし、世界を歩いて回ればどこでも行ける様になるだろうから問題など無いのだが。
それよりも、今一番気になるのは『イノセンス』の事だ。
『神の結晶』とまで言われる、この世に存在しない物質で構成された物体。『原石』と呼ばれる結晶の周りに、ニつの金色の歯車状の物が交差した形状の状態で発見されることが多い。
だが、人間の手によってあるいは自身で様々な物体に変化しているものも存在する。総数は109個と決まっている為、全て破壊できれば僕等を邪魔する物はいないだろう。
何せ、ノアの一族と千年伯爵を打倒し得るのは、『イノセンス』の力だけなのだから。
外に出た時、日は高く昇っていて、生温い風が頬を打った。季節は分からないが、過ごしやすいだろう。
何時間ほど歩いただろうか。森を抜け、小さな村があった。
空を見れば、日は傾いて夕焼けが空を赤く染めている。千年前といえば年代的に見てギリシア・ローマの両教会が完全に分裂した辺りだろうか。等と無駄な事を考えてみたりする。
人を誘拐するのだし、暗くなってからが良いだろう。そう思って、夜まで待った。
月明かりに照らされた村。明かりは十分。周りを見渡せる。
村は完全に静まり返っている。不気味なほどに静かだ。
『
●
時間をかけてこの村の人物全員の頭をテストしてみた。魔術でそう言うのが分かるらしい。
で、見つかったのは二人。いない可能性もあったから、上出来だと考えるべきだろう。
その二人は今僕の傍に寝ている訳だ。方舟の中に連れてきた。早速やってみようか。
「オン」
いきなり炎が巻き起こり、体が真っ黒に燃えて黒く炭の様になる。
悲鳴が響くが気にする事は無い。どうにも精神の方にも何か細工をされているようだ。僕はこんな事を出来るような性格じゃ無いと断言できただろう。昔ならば。
「
最後まで呪文を唱え終わると、ゆっくりと起き上がる。顔が骸骨だから『
まぁ、どうでもいい事だ。もう一人もさっさと済ませよう。
取りあえず二人手に入れた訳だ。方舟の中の雑用はこいつらに任せるとして、僕は他にやる事がある。『
……別にもう少しの間修行してからがいいかな。力が十全に使えるようになってからがいい気もするし。
もしかしたら、イノセンスがこの世界にあるかもしれないのだ。ハートはそう簡単に見つかるとは思わないが、注意はしておいた方がいいだろう。
●
更に数年。AKUMAは未だ創っていない。プラントはあるから骨組みは創って溜めてあるのだけど。
雑用係は多いに越した事は無い。そう思っていろんな場所から誘拐している。
「伯爵様。相変わらず物凄いですな」
「いや、まだまだだ」
僕の周りには、地形が変わっている地面。
隆起している場所もあれば、陥没している場所もある。強力な攻撃を放ちまくったから当然と言えば当然だろう。
「もう一度」
右手を前へと突き出す。
集中。イメージして掌の上に黒い球体を作り出す。膨大な力を一瞬で生成し、圧縮を開始。
数秒である程度の力が溜まり、一気に解放。
轟音。次いで、地面が割れる音。
『
恐らくだが、AKUMAも巻き込まない様に出来る筈だ。
「次、連続生成からの圧縮」
次は両手を突き出す。同じ様にイメージし、いくつかの球体を作り上げる。
そして、そのうち二つを操作。腕をしならせ、一つは近くの隆起した岩に当て、もう一つは地面に着弾。
岩は完全に吹き飛び、地面は先ほどの比ではないが、大きく抉られる。
先ほどの攻撃より威力は下がるが、連続で放てる上に多少は誘導できる。そもそもの威力が異常なのだ。問題は無いだろう。
残りの球体を操作し、互いにぶつけて相殺し合う。衝撃で地面に軽く亀裂が入るが、問題は無い。
「レロ」
「はいレロ、伯爵タマ」
ハロウィンに使われる様な、かぼちゃの頭を付けた傘が話す。僕が作ったゴーレムの一つだ。
傘が開き、僕は持ち手の部分に手をかざす。すると、傘の持ち手が拳の柄へと変わる。そのまま掴んで剣を引き出し、高速で走って剣を振り、残った岩を切り裂く。
剣の形状は両刃で一メートル強の長さ。柄は黒く塗りつぶされており、剣本体の表面に十字架が白く刻まれている。
剣も大分自由自在に使える様になった。だが、黒い球体の方は油断すると暴発する。まだまだ訓練が必要だろう。
身体能力は昔とは比べ物にならないほどに上がっている。千年伯爵としての能力だろうか。数年鍛えた程度でここまで上がるのは信じられない。
「お見事ですなぁ、伯爵様」
「まだまだだ。戦闘中に暴発したら最悪だからな。訓練は怠る事は出来ない」
そもそも、ここまでの威力が出るのも黒い球体一つに集中できるからだ。戦闘になったらここまで完全に制御は出来ない。十分の一の力が出れば僥倖だろう。
それでも、十分な威力だとは思うが。
「ですが、何時間もやっていては疲れで倒れますぞ。休む時は休むべきです」
「……そうだな。ここは直して置く。食事の準備をしてくれ」
「畏まりました」
近くのドアを開け、方舟の『心臓』のある場所へと移動する。
真っ白なピアノが置いてあり、金色で赤子の様なモニュメントが視界に入ってくる。不快ではないが、気分が良くなる様な物でも無い。
カタン、と椅子を動かし、ピアノの前に座る。
そして、頭の中で
僕の指が鍵盤の上で踊り、綺麗な旋律が耳を撫でる。何度聞いてもこの音色は飽きないモノだと思う。
つい、口ずさんで歌ってしまうほどには、この曲が気に入っていた。
僕の望みを込めつつ、ピアノを弾き続ける。修復は一度弾いてしまえば十分可能だ。既に何度もやっている。
修復が終わり、
「……やはり、一人で食事というのも慣れるのは良いが、出来れば慣れたくは無いものだな」
「とはいえ、伯爵様は不死ですから。我々とて一生傍にいる事は出来ません」
歳を取らないと言うのも、この数年で体の状態が変わらないと気付いたからだし、この時代で朽ち果てても仕方がないと神が付けたのだろうと判断する。
何せ、原作でも千年伯爵は長生きしている様な節があったからね。
家族というならノアがいるのだが、未だメモリーは誰にも渡していない。どうなるか興味もあるし、家族がいるというのは良いものだと思う。
そろそろAKUMAを作る為に外に出てみるかな、と思考してみる。
ついでと言ってはなんだが、ノアを探すのはAKUMAを作りながらで良いだろう。家族となる者は自分で決められるのだ。出来れば個人的に気に入った人物が良い。
「家族を作る、か」
「家族ですか? 一体、どうするおつもりで」
「まだ分からない。だがいずれにせよ、家族は出来るさ」
世界を終焉へと導く聖戦はまだ始まっていない。開幕ベルはまだ鳴らない。
ノアはまだ後だ。まずはAKUMAを作ろう。
骨組みはプラントのある部屋に大量に並べられている。僕は適当にそれを一つ取り出し、観察してみる。
二メートルは有ろうかという骨組み。中々に大きい。
これの前で大切な人の名を呼ぶと、魂が縛られ、アクマになり、僕の兵器となる。
外道もいいところだろう。死者の冒涜どころの話では無い。死者それ自体をモノの様に縛って操っているのだ。イノセンスが正しいと言うのも十分に理解できる。
だが、生憎と僕の望みはこれを使ってのもの。イノセンスがどれだけ力を持っていようと、神の結晶と呼ばれようと関係無い。
僕はノアだ。僕等には僕等の掲げる神がいる。
最後に勝つのは、僕だ。
あとがき
科学の方と違い、こちらは余り手を加えてません。と言うか、下手に弄ると伏線から崩れますので……w
手を加えたのは大戦編の辺りですので、それまでは一度読んだ方は真新しさが無い展開かなぁ、と思います。