第五夜:そして聖戦は幕を開ける
世界は止まる事無く回り続ける。
命を散らし、残った者は死んだ者を呼ぼうと希 う。
全ての人間の命は平等だ。
例えどんなに地位が高くても、大国の大統領一人の命も、そこら辺のストリートチルドレン一人の命も、同じ一つの生命だ。代わりなど無い。掛け替えの無い命だ。
それは、亜人と人間にも言える。
種別など関係無い。種族など関係無い。全て等しく同じイノチだ。
「全て同じだ。ここが箱庭だとしても、これら全てが幻想だとしても」
「魂の定義とは難しい。だが、"魂の契約"である仮契約が出来ている以上、魂は確実に存在する」
ならば、亜人か人間かは関係無い。等しくすべて同じ、"AKUMAの材料"だ。
旧世界で言えば西暦1900年頃。伯爵はオスティアのとある貴族の家で、珈琲を飲んでいた。
「AKUMAを増やしながらの片手間でやった所為で三百年ほどかかったけど、問題は無くなったね」
「エヴァが手伝ってくれたからだろう? ワタシは魔法理論の深い所など分からんから、判断のしようがないがな」
方舟を元にした術式。方舟は、突き詰めれば魔法世界と同じ箱庭だ。今の魔法世界のエネルギーの供給元はAKUMAのダークマター。皮肉にも、世界を滅ぼす筈のAKUMAが、世界を存続するためのエネルギーとなっているのだ。
進化すればするほど、数が増えれば増えるほど、魔法世界には魔力が満ち溢れる。
魔術を用いた為、恐らく誰にもこの術式を解く事は出来ない。恐らくは造物主 でさえも。
火星そのものからエネルギーを供給させると言う案もあったが、こちらの方がいろいろと都合が良かったのだ。伯爵は倒れるべき悪。だが、倒れてAKUMAがいなくなれば、魔法世界は消滅する。
人質にも近い、ある種のストッパーの様なものだ。自身が住む世界を人質に。いや、住んでいる人々すべてが人質と言ってもいい。AKUMAは方舟にでも回収すればいいのだし、問題は無い。
尤も、造物主ならば新しく書き直す様な事もする可能性があるが。
ちなみに、亜人などはAKUMAになる際に暗黒物質 が何かしらの影響を及ぼしたのか、実体をもつようになっている。つまり、旧世界へと渡れるのだ。
ワイズリーが手元の珈琲を一口飲み、花が咲き誇る庭園を見る。
「……しかし、凄いな、ここは」
色取り取りの、多種多様な花。草木の生い茂るその庭園は、最早森とも呼べる場所となっている。
「先代と今代の当主が花好きでね。いろいろ集めて栽培した結果がこれだよ」
やり過ぎだろう、と小さく呟くワイズリー。ここまで花を大量に育てて、一体何をするつもりなのか。
それを傍目に、伯爵へと話を切りだす。
「所で、旧世界の事だが」
「ああ、世界大戦? あれもお膳立てはしてあげたけど、えらくあっさりいったね」
旧世界の時間軸でおよそ二週間前。1910年に開戦した。本来の歴史であれば、もう少し後だったと伯爵は記憶しているのだが、いろいろと手をまわした結果だろうと考えている。
国と国の間で起こる休戦協定や、平和宣言。それらをことごとくとまでは言わないが、邪魔して来た。
魔法世界でも、ちまちまとした紛争は断続的に続いている。何か大きな力に働かされているかのように、争いは止まらない。
「エヴァには苦労をかけるよ。変装して休戦協定の場で相手国の大臣を殺したり、操って殺させたり、情報操作もやって貰ってるし」
万物への変身。それは、使い方次第では政略に相当使える能力だ。
エヴァ自身が捕まる事は無く、火種が燻っている場所へ火を投下する。火に油を注ぐとは正にこの事だろうな、とワイズリーは考える。
エヴァはちまちました事はあまり好きではないが、偶に元の姿に戻り、町を歩いている間に襲ってくる人間達を虐殺する事で鬱憤を晴らしている。
彼らはノア。エヴァに至っては吸血鬼でもある。人間に対して慈悲を与える事など無い。
尤も、吸血鬼というだけで迫害されてきたのだ。ノアとなってその枷が外れただけ、という可能性もある。
「それもあるがな、バチカンの事だの」
「……石箱 の事?」
「何だ、知っていたのか。いや、千年公なら知らない方がおかしいのか」
AKUMAを通じる事で、情報はいつでも手に入る。
石箱 とは、イノセンスの名だ。
他のイノセンスと違い、戦闘の能力を持たないし、かと言って戦闘に役立つサポートの能力を持つ訳でも無い。
だが、イノセンスと適合者のシンクロ率を測る事が出来たり、イノセンスを収納する事が出来たりするし、石箱 その物が情報の宝庫だ。
その他、シンクロ率が百%を超える存在、臨界者が現れると石箱 と共鳴して体に異常をきたしたりする。シンクロ率を測る際には、予言も出来るイノセンス。
「バチカンで発見されたらしいね」
「まぁ、魔法使いが連合に運んだらしいがのう」
現在、石箱 はメセンブリーナ連合が所有している。正確に言えば、メガロメセンブリアが、だ。
だが、イノセンスの情報自体は帝国にもアリアドネーにも流れている。協力する気の無いメガロにとって、石箱 が手に入ったのは僥倖というべきだろう。
「とうとうイノセンスの詳細が明るみに出た訳だ。ワタシ達も本格的に動かねばならないな」
探すのが大変という理由で、AKUMAを増やす事を優先してきた。AKUMAが増えると言う事は、必然的に伯爵の眼が増えると言う事。手数が増えるのだから、別段間違った方法とも言えない。
現に何度か戦闘を交わしている。大した数は破壊出来ていないが。
ハートを探す段階では、やはり黒の教団の様な物は使える。あちら側の存在で、尚且つ求めているならそれは監視となりえる。
ハートが目覚めるときまで待つ必要がある。伯爵達には探せない 。
「といっても、僕等もやる事はあまりない。今まで通りAKUMAを増やして、悲劇を広げるだけだ」
AKUMAは、進化する事自体 に意味がある。イノセンスの適合者達は、あれが進化する事がどういう意味を持つのか知らない。
知る事は無いのだろうが。
そんな事を考えている時だった。
「千年公、あの子 が待ちくたびれてるよ」
後ろからデザイアスがそう告げる。ゆったりとした服を着て、威厳のある風貌。短めの金髪とつり上がった目。細身ながらも筋肉質の肉体を高級そうな服の下に隠して、その人物は現れた。
現在のオスティア王 だ。
「デザイアス。お前仕事があったんじゃないのか?」
「堅い事を言わないで欲しい。偶には私にも休息は必要だ」
コーヒーカップにコーヒーを注ぎながら、デザイアスはぶっきらぼうにそう答える。
「彼ら は?」
「未だ動きは無い。……しかし、本当に世界を救う等と考える奴がいるのか?」
注いだコーヒーを一口飲みながら、伯爵へと質問をする。
「いるさ。僕等が世界を終焉へ導こうとしている様に、世界を楽園へ導こうと、救おうと動く者もいる筈だからね」
例えば、造物主 。
この世界の創造者。なら、この世界の亜人や人間をAKUMAへとかえる伯爵は、害虫のようにさえ思っているだろう。
本格的に動きだすのがいつかは、分からない。だからこそ、オスティア王を味方につけ、情報を探る。今はまだ目立つ時ではない。彼らもまた、影の様に動いて伯爵達に動きを悟らせない様にしているだろう。
イノセンスは最優先事項。メガロが作ったと言う対AKUMA専門部隊にイノセンスが集まるのを待つ。餌としては上々だ。
帝国にも、アリアドネーにも似た様な物はある。
いずれ現れるハートに対して、備えなければならない。
「ふむ。そんな物か。所で、あの子は待たせたままでいいのか? いつまでも来ないと大層ご立腹だったぞ、アスナ は」
アスナ。アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシア。"黄昏の姫御子"として生まれた少女。
伯爵の目の前にいるオスティア王の娘でもある。
だが、生まれた時に『魔法無効化能力 』を持つと判明し、ある程度肉体が育った所でオスティアの上の連中が薬を使って人格を抑え込み、肉体を成長させずに道具として扱われている。オスティア最奥の秘密だ。
というのが、表の理由 。
実の所、アスナもまたノアなのだ。生まれつきの能力を知り、オスティア王が家族 にして欲しいと言う事もあって、ノアとなった。
資質もあり、能力もあり、ノアにする事が正しいとさえ思える程の才能あふれる少女。
所有するメモリーは"夢 "。
その為、移動しようと思えばいつでも移動は出来る筈なのだが。
「僕に自分から来て欲しい、ね」
「何処へでも移動できるといっても、あの子はまだ子供だ。肉体的成長は止まっているがな」
どうせだから肉体的成長を止めて長生きさせようと思った訳だ。伯爵としても、原作時に生きていて貰わねば何かしらのイレギュラーが発生する可能性が残っているのだし。
「甘えたい年頃なのだよ。という訳で千年公。直ぐに行ってやって」
「案外親馬鹿だのう、お主」
デザイアスの言葉に、呆れたようにワイズリーが呟く。
デザイアス本人は至極本気で言っているのだが、如何せん、話している話題の所為で真剣には思えないのが不思議だ。
「まぁ、家族だしね。それ位なら別に大丈夫だよ」
「悪いね。アスナも喜ぶだろう」
アスナの感情表現は豊かだ。同じノアの前で無ければ操られている様な振りをしている。そちらの方がいろいろと都合がいいのだ。
●
メガロメセンブリア。メガロ元老院。
先日メガロへと運ばれ、イノセンスの事を詳細に記してある石箱 を手に入れ、とある一人の少女が"適合者"となった。
とはいえ、イノセンスは魔法世界に存在しない。
ノアの大洪水が起きたのは旧世界であり、その頃には魔法世界は存在していなかったのだ。イノセンスがある筈がない。
造物主でさえ、未だ存在しない頃の話なのだから。
彼らは対AKUMA専門部隊を増設。知る者ぞ知る"存在しない部隊"として、聖職者 を名乗る者達を集め、AKUMAを倒す為の戦力を集め、戦う為の力を集め始めた。当然ながら、適合者を探す事も。
同時に、帝国やアリアドネーでも同じ動きがみられた。
本来、メガロはこの事は外部に漏らす事は無い。だが、事実として情報は漏れている。
何故かと言えば、これは『完全なる世界 』が裏で動いていた。
魔法でAKUMAを壊す事は可能。だが、その魂までは救えない。『造物主の鍵 』を使ったとしても、暗黒物質 の影響を受けた魂は、イノセンス以外では救えない。
石箱 の情報を手に入れ、造物主は千年伯爵に憎悪する。
滅ぼさせる事はしない。自身が作りだしたこの世界を、終焉に導かせてたまるかと、動きだす。伯爵の目的を阻止するために。
そして、魔法世界を救う為に。
まず、帝国は旧世界へと進出は出来ない。だが、あくまでも進出しにくいだけであって旧世界へと渡れる人間は存在する。絶対数が少ないだけだ。
同時に魔法による装備を整え、AKUMAに対しての戦力を整える。
メガロはいち早くイノセンスを見つけようと躍起になり、旧世界、新世界両方で一番の数のイノセンスを保有する事になる。
そして、アリアドネー。
人間も当然ながら存在し、AKUMAを研究して何かを得ようとする者もいたが、それらは全て不可能となった。あまりにもAKUMAを捕えることが難し過ぎる。
そして、仮に捕えたとしても何をどうやればどうなるかが全く分からない。どこから手を付ければいいのか分からない状況だ。
イノセンスもいくつか保有する事になり、対AKUMA勢力として三つが出来上がった。しかし、協力は出来ていない。百年の間で、全ての組織が動いていた。
イノセンス保有数が少ない分、魔法技術、鬼神や戦艦などでAKUMAに対抗しようとする帝国。
多くのイノセンスを保有し、適合者を探して聖職者 として連合の手足としようとするメガロ。
魔法技術・知識を多数保有し、なおかつイノセンスもある程度所有しているアリアドネー。
そして、裏で動く『完全なる世界 』。
それらの敵であり、倒すべき存在、『千年伯爵』
────こうして、聖戦は始まった。
あとがき
今回で第一章であり序章は終了……ここ、章分けとか出来るんでしょうか?
それはともかく、次回から第二章:大戦編が始まります。所々修正したり加筆したりするかもしれないので、遅れる可能性がありますが、よろしくお願いします 。
世界は止まる事無く回り続ける。
命を散らし、残った者は死んだ者を呼ぼうと
全ての人間の命は平等だ。
例えどんなに地位が高くても、大国の大統領一人の命も、そこら辺のストリートチルドレン一人の命も、同じ一つの生命だ。代わりなど無い。掛け替えの無い命だ。
それは、亜人と人間にも言える。
種別など関係無い。種族など関係無い。全て等しく同じイノチだ。
「全て同じだ。ここが箱庭だとしても、これら全てが幻想だとしても」
「魂の定義とは難しい。だが、"魂の契約"である仮契約が出来ている以上、魂は確実に存在する」
ならば、亜人か人間かは関係無い。等しくすべて同じ、"AKUMAの材料"だ。
旧世界で言えば西暦1900年頃。伯爵はオスティアのとある貴族の家で、珈琲を飲んでいた。
「AKUMAを増やしながらの片手間でやった所為で三百年ほどかかったけど、問題は無くなったね」
「エヴァが手伝ってくれたからだろう? ワタシは魔法理論の深い所など分からんから、判断のしようがないがな」
方舟を元にした術式。方舟は、突き詰めれば魔法世界と同じ箱庭だ。今の魔法世界のエネルギーの供給元はAKUMAのダークマター。皮肉にも、世界を滅ぼす筈のAKUMAが、世界を存続するためのエネルギーとなっているのだ。
進化すればするほど、数が増えれば増えるほど、魔法世界には魔力が満ち溢れる。
魔術を用いた為、恐らく誰にもこの術式を解く事は出来ない。恐らくは
火星そのものからエネルギーを供給させると言う案もあったが、こちらの方がいろいろと都合が良かったのだ。伯爵は倒れるべき悪。だが、倒れてAKUMAがいなくなれば、魔法世界は消滅する。
人質にも近い、ある種のストッパーの様なものだ。自身が住む世界を人質に。いや、住んでいる人々すべてが人質と言ってもいい。AKUMAは方舟にでも回収すればいいのだし、問題は無い。
尤も、造物主ならば新しく書き直す様な事もする可能性があるが。
ちなみに、亜人などはAKUMAになる際に
ワイズリーが手元の珈琲を一口飲み、花が咲き誇る庭園を見る。
「……しかし、凄いな、ここは」
色取り取りの、多種多様な花。草木の生い茂るその庭園は、最早森とも呼べる場所となっている。
「先代と今代の当主が花好きでね。いろいろ集めて栽培した結果がこれだよ」
やり過ぎだろう、と小さく呟くワイズリー。ここまで花を大量に育てて、一体何をするつもりなのか。
それを傍目に、伯爵へと話を切りだす。
「所で、旧世界の事だが」
「ああ、世界大戦? あれもお膳立てはしてあげたけど、えらくあっさりいったね」
旧世界の時間軸でおよそ二週間前。1910年に開戦した。本来の歴史であれば、もう少し後だったと伯爵は記憶しているのだが、いろいろと手をまわした結果だろうと考えている。
国と国の間で起こる休戦協定や、平和宣言。それらをことごとくとまでは言わないが、邪魔して来た。
魔法世界でも、ちまちまとした紛争は断続的に続いている。何か大きな力に働かされているかのように、争いは止まらない。
「エヴァには苦労をかけるよ。変装して休戦協定の場で相手国の大臣を殺したり、操って殺させたり、情報操作もやって貰ってるし」
万物への変身。それは、使い方次第では政略に相当使える能力だ。
エヴァ自身が捕まる事は無く、火種が燻っている場所へ火を投下する。火に油を注ぐとは正にこの事だろうな、とワイズリーは考える。
エヴァはちまちました事はあまり好きではないが、偶に元の姿に戻り、町を歩いている間に襲ってくる人間達を虐殺する事で鬱憤を晴らしている。
彼らはノア。エヴァに至っては吸血鬼でもある。人間に対して慈悲を与える事など無い。
尤も、吸血鬼というだけで迫害されてきたのだ。ノアとなってその枷が外れただけ、という可能性もある。
「それもあるがな、バチカンの事だの」
「……
「何だ、知っていたのか。いや、千年公なら知らない方がおかしいのか」
AKUMAを通じる事で、情報はいつでも手に入る。
他のイノセンスと違い、戦闘の能力を持たないし、かと言って戦闘に役立つサポートの能力を持つ訳でも無い。
だが、イノセンスと適合者のシンクロ率を測る事が出来たり、イノセンスを収納する事が出来たりするし、
その他、シンクロ率が百%を超える存在、臨界者が現れると
「バチカンで発見されたらしいね」
「まぁ、魔法使いが連合に運んだらしいがのう」
現在、
だが、イノセンスの情報自体は帝国にもアリアドネーにも流れている。協力する気の無いメガロにとって、
「とうとうイノセンスの詳細が明るみに出た訳だ。ワタシ達も本格的に動かねばならないな」
探すのが大変という理由で、AKUMAを増やす事を優先してきた。AKUMAが増えると言う事は、必然的に伯爵の眼が増えると言う事。手数が増えるのだから、別段間違った方法とも言えない。
現に何度か戦闘を交わしている。大した数は破壊出来ていないが。
ハートを探す段階では、やはり黒の教団の様な物は使える。あちら側の存在で、尚且つ求めているならそれは監視となりえる。
ハートが目覚めるときまで待つ必要がある。伯爵達には
「といっても、僕等もやる事はあまりない。今まで通りAKUMAを増やして、悲劇を広げるだけだ」
AKUMAは、
知る事は無いのだろうが。
そんな事を考えている時だった。
「千年公、
後ろからデザイアスがそう告げる。ゆったりとした服を着て、威厳のある風貌。短めの金髪とつり上がった目。細身ながらも筋肉質の肉体を高級そうな服の下に隠して、その人物は現れた。
現在の
「デザイアス。お前仕事があったんじゃないのか?」
「堅い事を言わないで欲しい。偶には私にも休息は必要だ」
コーヒーカップにコーヒーを注ぎながら、デザイアスはぶっきらぼうにそう答える。
「
「未だ動きは無い。……しかし、本当に世界を救う等と考える奴がいるのか?」
注いだコーヒーを一口飲みながら、伯爵へと質問をする。
「いるさ。僕等が世界を終焉へ導こうとしている様に、世界を楽園へ導こうと、救おうと動く者もいる筈だからね」
例えば、
この世界の創造者。なら、この世界の亜人や人間をAKUMAへとかえる伯爵は、害虫のようにさえ思っているだろう。
本格的に動きだすのがいつかは、分からない。だからこそ、オスティア王を味方につけ、情報を探る。今はまだ目立つ時ではない。彼らもまた、影の様に動いて伯爵達に動きを悟らせない様にしているだろう。
イノセンスは最優先事項。メガロが作ったと言う対AKUMA専門部隊にイノセンスが集まるのを待つ。餌としては上々だ。
帝国にも、アリアドネーにも似た様な物はある。
いずれ現れるハートに対して、備えなければならない。
「ふむ。そんな物か。所で、あの子は待たせたままでいいのか? いつまでも来ないと大層ご立腹だったぞ、
アスナ。アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシア。"黄昏の姫御子"として生まれた少女。
伯爵の目の前にいるオスティア王の娘でもある。
だが、生まれた時に『
というのが、
実の所、アスナもまたノアなのだ。生まれつきの能力を知り、オスティア王が
資質もあり、能力もあり、ノアにする事が正しいとさえ思える程の才能あふれる少女。
所有するメモリーは"
その為、移動しようと思えばいつでも移動は出来る筈なのだが。
「僕に自分から来て欲しい、ね」
「何処へでも移動できるといっても、あの子はまだ子供だ。肉体的成長は止まっているがな」
どうせだから肉体的成長を止めて長生きさせようと思った訳だ。伯爵としても、原作時に生きていて貰わねば何かしらのイレギュラーが発生する可能性が残っているのだし。
「甘えたい年頃なのだよ。という訳で千年公。直ぐに行ってやって」
「案外親馬鹿だのう、お主」
デザイアスの言葉に、呆れたようにワイズリーが呟く。
デザイアス本人は至極本気で言っているのだが、如何せん、話している話題の所為で真剣には思えないのが不思議だ。
「まぁ、家族だしね。それ位なら別に大丈夫だよ」
「悪いね。アスナも喜ぶだろう」
アスナの感情表現は豊かだ。同じノアの前で無ければ操られている様な振りをしている。そちらの方がいろいろと都合がいいのだ。
●
メガロメセンブリア。メガロ元老院。
先日メガロへと運ばれ、イノセンスの事を詳細に記してある
とはいえ、イノセンスは魔法世界に存在しない。
ノアの大洪水が起きたのは旧世界であり、その頃には魔法世界は存在していなかったのだ。イノセンスがある筈がない。
造物主でさえ、未だ存在しない頃の話なのだから。
彼らは対AKUMA専門部隊を増設。知る者ぞ知る"存在しない部隊"として、
同時に、帝国やアリアドネーでも同じ動きがみられた。
本来、メガロはこの事は外部に漏らす事は無い。だが、事実として情報は漏れている。
何故かと言えば、これは『
魔法でAKUMAを壊す事は可能。だが、その魂までは救えない。『
滅ぼさせる事はしない。自身が作りだしたこの世界を、終焉に導かせてたまるかと、動きだす。伯爵の目的を阻止するために。
そして、魔法世界を救う為に。
まず、帝国は旧世界へと進出は出来ない。だが、あくまでも進出しにくいだけであって旧世界へと渡れる人間は存在する。絶対数が少ないだけだ。
同時に魔法による装備を整え、AKUMAに対しての戦力を整える。
メガロはいち早くイノセンスを見つけようと躍起になり、旧世界、新世界両方で一番の数のイノセンスを保有する事になる。
そして、アリアドネー。
人間も当然ながら存在し、AKUMAを研究して何かを得ようとする者もいたが、それらは全て不可能となった。あまりにもAKUMAを捕えることが難し過ぎる。
そして、仮に捕えたとしても何をどうやればどうなるかが全く分からない。どこから手を付ければいいのか分からない状況だ。
イノセンスもいくつか保有する事になり、対AKUMA勢力として三つが出来上がった。しかし、協力は出来ていない。百年の間で、全ての組織が動いていた。
イノセンス保有数が少ない分、魔法技術、鬼神や戦艦などでAKUMAに対抗しようとする帝国。
多くのイノセンスを保有し、適合者を探して
魔法技術・知識を多数保有し、なおかつイノセンスもある程度所有しているアリアドネー。
そして、裏で動く『
それらの敵であり、倒すべき存在、『千年伯爵』
────こうして、聖戦は始まった。
あとがき
今回で第一章であり序章は終了……ここ、章分けとか出来るんでしょうか?
それはともかく、次回から第二章:大戦編が始まります。所々修正したり加筆したりするかもしれないので、遅れる可能性がありますが、よろしくお願いします 。