第八夜:知る者知らぬ者
「……どうしてこうなった」
赤い髪の少年は、項垂れたままそう呟いた。
〜遡る事三日前〜
首都メガロメセンブリアから南東へ二百キロ。其処にある一つの町、其処に三人の男達が居た。
一人は少年と形容すべき男。赤い髪が特徴的で、身長よりも大きな杖を持ち、目付きが悪い顔。
もう一人は黒髪で眼鏡をかけた青年。腰に刀を差しており、日本人独特の顔立ちをしている。
最後の一人は長い黒髪を一つにまとめた青年。魔法使いらしい白いローブを身に纏い、デフォルトで相手に笑顔を見せる美青年。
その三人は今、町で当ても無くぶらついていた。
この三人は『紅き翼 』という『悠久の風』に属している一団体だ。目的は戦争への介入。
赤毛の少年、ナギ・スプリングフィールドと黒髪の剣士、青山詠春は「腕試し」と「修行」の為。
黒髪の美青年、アルビレオ・イマは「ナギといると面白そうだから」と言う事でナギと共に旅をしている。
だが、当然ながらたった三人しかいない組織が大役を任せて貰える筈も無く、国境線ではあっても比較的治安の良いこの町に寄越された訳だ。
宿の中、アルは外へ情報収集へ行ったため、残っているのはナギと詠春のみ。
「……暇だ」
ナギは、テーブルに突っ伏したままそう呟く。
「今日何度目だ、その言葉」
刀の手入れをしながら、詠春は面倒臭そうに言う。
「だってよ、戦争が始まったのは去年だぜ? 今はまだどっちも余裕あるみたいだけどよ、そのうち俺らみたいなのに頼るしか無くなるって」
「それはアルの入れ知恵だろ? 確かに戦力は猫の手を借りたいほどともなれば、前線に出るのは難しくないだろうが」
「そこで活躍すれば、また前線に出してもらんだろ」
活躍=戦う機会が増える。という単純な方程式を考えているナギ。間違ってはいないのだろうが、其処まで行くのにどれだけ時間がかかるのかを分かっていない。
詠春はその事を言うが、ナギの反応はと言うと。
「ところがどっこい、そうでもねぇ。なんかしらねーけど、最近連合の軍がやたらと騒がしいらしい。悪魔が出たとか、そう言う話も聞くしよ。もし本当なら、俺らでそれを倒せば連合から認められると思うぜ」
「悪魔? 帝国が、か? というか、どこにいるかも知らないんだろ。どうやって探すつもりだ」
「よくはしらねーけどよ、町一つが壊滅してたりもするらしいぜ? だから、その辺辿って行けば分かるんじゃねーかな」
「その話が連合に行く度、例の十三機関が動いているみたいですけどね」
扉を開け、アルがいつも通り飄々とした様子で部屋に入ってくる。
ベッドの上に腰かけ、そのまま話し出す。
「悪魔退治専門の聖職者、俗に言うエクソシストですね」
「でもよー、悪魔倒すの位俺らでも出来るぜ?」
経験はともかく、魔力量と魔法を使う事に関してはナギはトップクラス。そこら辺の悪魔には負ける事は無いだろう。
それとも、爵位級の悪魔が出張ってきているのか、とも考えるが、アルはそれを首を横に振って否定した。
「この場合の悪魔は魔界にいる悪魔の事では無いんですよ」
「……それ以外に悪魔がいるのか?」
比喩的な意味で悪魔と呼ぶ事はあるだろうが、それ以外で悪魔という名称を使うのは魔界にいる存在くらいしかいないだろうと考える。
しかし、アルが言ったのは、それとは全くの別物だった。
「AKUMA、人類をターゲットにした悪性兵器。殺せば殺すほどその力は増していき、初期状態でも既に一般レベルの魔法使いでは歯が立たないという、人類史上最悪の兵器ですよ」
その言葉に、二人が眼を見開く。
「……それ、本当か?」
「人類をターゲットにした……兵器、だと?」
二人にとってその話は初耳だ。そもそも、そんな事があるなら情報として知られておくべき事の筈。情報を流さないと言う事は、敵の事を知らないまま戦えと言う様な物なのだから。
「ええ、AKUMAにはLv というモノがありまして、それが上がれば上がるほど手が付けられなくなります」
ゲームの様な話だが、事実なのだから仕方がない。
「何で連合は、それを公表しないんだ!?」
詠春が激昂した。初期状態で並の魔法使いが手も足も出無い。なら、最終段階までレベルが上がったAKUMAは一体どれだけの戦闘能力を誇るのか。
想像が及ばない。情報が無ければ対策も出来ないと言うのに、情報は統制されていて手に入らない。
理不尽過ぎる。連合は兵を殺したがっているとしか思えない。詠春にはそう思えた。
それをアルに告げれば、唯首を横に振るだけ。
「違うんですよ、詠春。それでは駄目なのです」
「……っ! どういう事だ?」
アルの冷静な態度に何か言いたそうにしたが、抑え込んで続きを促す。
「……私が話してもいいのですが、丁度その専門家が来ています。そちらに話を聞きに行きませんか?」
「専門家……って、さっき言ってたエクソシストか?」
「ええ、その中でも特に強い、トップレベルの実力を持つ『元帥』というクラスのエクソシストが、今この町にきています」
ナギの問いに答え、立ち上がる。扉の前まで行き、行こうと二人を促す。
二人は渋々ながらも立ち上がり、アルの後に続く。
●
宿屋の一室。ナギ達が止まっていたのとは違い、結構な広さがある洋風の部屋だ。
その先に、一人の女性がいた。
「やぁ、あなたがナギ・スプリングフィールド? その隣の人が青山詠春、でいいの? アルビレオ」
「アルで構いません、と前にも言った筈ですが」
「あ? 別にどうでもいいでしょ、そんな事。呼び方なんて好き好きだし、呼びたいように呼ばせて貰いたいわね」
随分と傍若無人な性格の女だなー、とナギと詠春は感想を抱く。纏めないで放ってある腰まである長い黒髪。つり目とスレンダーな体型、ジーパンと白いTシャツが特徴的な若い女性。
「私の名前はクレア・J・クロート。エクソシストよ」
クレアは気軽にそう言う。
だが、エクソシストの証であるローズクロスの付いたコートも無ければ、イノセンスも、今は持っていない。
「聞きたい事があるのよね。いいわ、私が知ってる範囲でいいなら、教えてあげるわよ」
ナギと詠春を中心に、円を描く様にして歩き始めた。反対側では、アルが同じ様に円を描く様に歩き始める。
「AKUMAって兵器なんだろ? 誰が作ってるんだ?」
「製造者? 製造者の名前は"千年伯爵"。人類終焉のシナリオを描く人類の敵よ。更に言えば、AKUMAは人間が元になって作られる兵器。人間がいて伯爵がいる限り、AKUMAは無尽蔵に作られ続けるわ」
ナギの質問に、すらすらとクレアは答える。
AKUMAは人間を使って作られる、それを聞いた時、ナギと詠春は怒りを覚えた。今を必死に生きている人達を、兵器にして利用する。それが正しい事の筈がない、と。
「なら次、何で連合はAKUMAの存在を隠しているのか、だ」
「ああ、簡単よ。AKUMAっていうのはね、擬態できるのよ。人間の皮をかぶって人間の社会に溶け込める。迂闊に情報を公表すれば、たちまちみんな疑心暗鬼になって経済が崩壊する事になるでしょうね」
なるほど、と詠春が納得する。
簡単に言えば、隣にいる者が明日も人間とは限らないと言う事。人間を元に作られる兵器である以上、人間に擬態できるのも理解が出来る。
そして、昨日は人間だったが、今も人間か。会ったときにそれが確かめる方法が無い。
背をむけば殺されるかもしれない。殺されるのは嫌だ。なら人と会わなければいい。思考は人と必要最低限の接触しか保とうとせず、経済はそれが原因で破綻するだろう。
そうなれば、どの道待っているのは人類の衰退だ。
「それと、何も隠しているのは連合だけでは無いわ。帝国も、アリアドネーも。大国と呼ばれる場所の上層部連中は知ってるわよ」
AKUMA対策も当然ながら用意している。面会には必ずその検査を受ける必要があり、上層部はAKUMAが自分達を殺しに来るかもしれないと危惧している。
残念ながら、それをやるほど価値のある人間がいないと言うので、未だ犠牲者は出ていないのだが。
「そして、そのAKUMAと戦っているのが、私達エクソシストよ」
「彼女達エクソシストは、必ず何かしらの武器を持っています。それが──」
「"イノセンス"。そう呼ばれる物質で作られた対アクマ武器。それを私達は所持しているの」
影から何かを取り出す。それは、純白に青色の装飾がなされている水瓶で、人間の頭ほどの大きさだ。
「AKUMAに対する唯一の武器。魔法でも破壊できない事は無いけど、イノセンスを使えばより簡単に破壊出来るわ」
相性の問題といっても過言では無い。ノアとイノセンスが対極に位置し、AKUMAはノア寄りの為、イノセンスで簡単に破壊が出来る。
イノセンス寄りのモノは今は存在しない。だから、AKUMAは人を殺すだけだ。それ以上でも、それ以下でも無い。
「じゃあよ、AKUMAってどうやって作られんだ?」
ナギは右手を上げ、先生に質問するかのように言う。
クレアは足を止める事無く、それにこたえる。
「AKUMAは"機械"と"魂"と"悲劇"を材料として作られる存在よ」
「"機械"と"魂"と"悲劇"?」
頭の上にハテナマークを浮かべながら、ナギが再度質問する。
「"機械"はAKUMAの骨組み。"魂"は人間の魂。"悲劇"は人間の悲哀の感情よ。──人は誰しも心の中に闇がある。その闇が"悲劇"となってより深くなった者の前に、<製造者>は現れるの」
「製造者……さっき言ってた、千年伯爵って奴か」
「そう、伯爵は悲劇が深くなった者の前に現れ、最も親しい人間の名を呼ばせる。これは死んだ人間に限るわ。生きている人間の魂はAKUMAに出来ない」
「……つまり、死者の魂を最も親しいものに呼ばせ、機械の中に封じて強制的に動かす。概ねそういった事です」
「錬金術の観点から言えば、"機械"は"肉体"を、"魂"はそのまま"魂"を、"悲劇"は二つを繋げる"精神"を表す事になるわね」
ナギと詠春の顔が歪む。
アルの告げた事が、それだけショックだったと言う事だ。死者の冒涜も甚だしい、侮蔑されるべき行為。
しかも、人を殺す度にその魂は悪化の一途をたどると言うのだから性質が悪い。
「それを破壊するのが、私達エクソシストよ」
クレアは足を止め、ナギと詠春の真正面に立つ。まっすぐに眼を見て、その話が真実だと告げる。
「……だが、それを私達に話して良かったのか? その話が本当なら、私達にも話す訳にはいかないんじゃ……」
「いいのよ、アルビレオが認めた実力者だし。AKUMAを破壊するの手伝ってくれるでしょ?」
「それは、まぁ、そうだが……」
若干ペースに乗せられていると言う気がしながら、詠春はそう答える。
「この戦争も、恐らくは彼らが始めたものでしょうしね」
「……悲劇を広めるため、か?」
「そうね。ソラリス元老院議員は彼らの手先か関係者。AKUMAの可能性だってあったわ」
「だが、ケルベラス渓谷に落とされて死んだのだろう?」
「AKUMAが唯の生物相手に負けるわけ無いでしょう。元々魔力も気も必要無いんだし」
「……じゃあよ、何で元老院の奴等はそいつを殺したんだ? AKUMAなら情報を奪えるかもしれないし、帝国とかはAKUMAがやった事だって説明すれば戦争は避けられただろ?」
ナギが頭を傾げながらそう言った。かなり頭を使ったのか、うんうん唸ってはいるが。
クレアとアルは示し合わせたように説明を始める。
「初期の状態では帝国は引き渡せと言っていたわ。自分たちの手で始末すると」
「ですが、元老院はそれを拒否。AKUMAだと確かめもせず、伯爵への手がかりになるかもしれないと言うのに、ケルベラス渓谷へと落とした」
それは、帝国から見れば伯爵のやった事を隠しているようだ。元老院からすれば、自分たちが利用されたと思いたく無かったからなのかもしれない。
だが、自分たちの手で碌に調べもせずに始末した所為で、連合は伯爵との関係を疑われてしまった。
「この一年で、三人ほど連合のエクソシストがアリアドネーと帝国の対アクマ機関へ移ったわ」
「更に、旧世界へと渡る者もいたようですね」
エクソシストであり、AKUMAを倒せる存在ならば、待遇は特別といってもいいほどに良い。
どこに行こうと、エクソシストは歓迎される存在だ。AKUMAがいる限りは。
「帝国は連合内部に伯爵との内通者がいると確信。連合は後始末を終えてなお無理矢理戦争を起こそうとする帝国を、伯爵と繋がっていると判断した」
どちらも勘違いしたまま和解する事は無く、戦争が始まった。始まってしまった。
「直接的なきっかけはソラリス元老院議員ですが、それを燃え盛らせたのは間違いなくその周りです。このまま戦争が長引けば、AKUMAはより数を増やし、より強大な勢力へとなっていくでしょうね」
「千年伯爵の力はどの程度か分からないけど、少なくともAKUMAよりは強いでしょうね」
戦闘をしたと言う者がいない為、客観的に判断できる要素が無い。
「新旧両世界に置いて、元帥と呼ばれるエクソシストは現在六人」
元帥とは、イノセンスとのシンクロ率が百%を超えたエクソシスト。"臨界者"とも呼ばれる存在。
実力は折り紙つきで、ノアと真正面から戦闘できる者が殆どだろう。実際に戦った事は無いのだろうが。
「……俺達でも、AKUMAとは実際にやってみなきゃ分からねーぞ。相当強いんだろ?」
「魔法でも破壊出来るってさっき言ったわよね。大体は強力な魔法を使えれば倒せるわよ」
真正面から当たれば、の話ではあるが。
AKUMAの機動力は人間とは比べ物にならない。エクソシストはイノセンスから加護を受ける事によって身体能力も上がっているからこそ、唯の身体強化の魔法でもAKUMAと肉薄できる。
その辺の魔法使いが同じ様にやった所で、結果まで同じとは限らない。
「取りあえず、戦ってみればわかるでしょ」
「戦うって……どこにいるか知ってるのか?」
「誘き出すのよ」
「ハァ?」
〜そして、現在〜
とまぁ、こういうやり取りがあり、現在ナギ一行+クレアは国境線沿いに歩いていた。
正確に言えば、帝国との境には海があるので国境線とは言えないのだが。
「一体、いつになればAKUMAは出てくるんだよ……」
この三日間、歩き通しで疲労もある。正直そろそろどっかで休みてーんだけど。等と思いつつも歩き続ける。
「男でしょうが。しゃんとしなさい」
女のくせに男よりも男らしいクレアは疲れた様子を見せる事無く歩き続ける。
顔にさえ疲労の色が無い。体力には自信がある方だが、流石に三日間歩き通しでは疲労はある。
「……本当、どうなってんだ」
「私は連合から追われてるのよ。行方くらましてるから。逃げるのに体力なくちゃ駄目でしょ?」
分からんでも無いが……、と詠春は呟く。殆ど休みなく歩き続けている。歩き続ける事に意味があるのか、疑問がどんどん出てくる。
クレアは金色で装飾されたコートを羽織り、黒い髪をなびかせてナギの前を歩いている女。このコートを着て歩いていれば、AKUMAが勝手に誘き寄せられると言う。餌付けしてるようなモンか、とはナギの談。
姉がいると聞いたが、それ以上は話そうとしない。興味も特に無いのでナギの頭からは既に抜け落ちているが。
「しかし、何でこんな早くに町を出たんだ?」
「え? そんなの足がつかない為に決まってるじゃない。そろそろあの町出ないとヤバいと思ってたのよね。足がつくと捜索範囲が限定されちゃうし」
「そんな理由かよ……」
ナギと詠春が呆れ、アルはクスクスと笑う。
そんな三人を尻目に、クレアは歩いている先を指差す。
「それより、見えて来たわよ」
「あの町に、AKUMAがいると言う情報が──っ!?」
四人が一斉にその場から離れる。直後、爆発が襲った。
そのまま留まっていれば、直撃を受けたであろう攻撃を放ったのは、前方に見える数体のAKUMA。
「アレがAKUMAか!?」
ボール状のAKUMAは聞いている。形状からして分かりやすい為、判断しやすいからだ。
クレアの言った通り、Lv1のAKUMAもいる。だが、別形態のAKUMAもいる様だ。
「あれは……Lv3も何体か混じってるみたいね」
甲冑を纏った大男のような姿で全体的に似た形状をしているが、細部の違いはLv1よりも顕著である。色彩や後ろにある翼などで判断が可能だ。
それが、三体。
「危なくなったら助けてあげるから、戦ってみなさい」
普通なら、いきなり戦わせるなよ。等とは言いそうなモノだが、この三人は違った。
特にナギ。歩き通しで疲れがたまり、鬱憤を晴らすかの如く魔法を放つ。
瞬動で近づき、Lv1の目の前にまで来る。その砲門から弾丸が放たれようとした瞬間、
「あ、その弾丸猛毒だから。当たったら死ぬわよ」
「先に言えッ!!」
体を捻って弾丸の射線上から外れ、簡単なモノの為、あんちょこを見らずに詠唱を開始する。
「来れ 虚空の雷 薙ぎ払え 『雷の斧』!!」
翼が薙ぎ払う様な動きで雷撃を放ち、AKUMAを両断する。中の上程度の威力だが、ナギはバカの様に魔力を込めるので普通よりも威力が高い。
その分魔力消費も激しいのだが、魔力の総量が多いナギは気にしない。
その横で、詠春はAKUMAを切り裂き、アルは重力で押しつぶしている。共に破壊されたAKUMAは爆発し、無残に散る。
「さぁ、後はお前らだ!」
ナギが瞬動で近づき、同じ様に『雷の斧』でLv3のAKUMAを壊そうとした。
だが、その攻撃はあっさりとかわされ、強烈な拳がナギを襲う。
咄嗟に体を捻り、急所への攻撃は避けた。だが、元の威力が大きい為、大きく吹き飛ばされる。
「ゲホッゲホッ! どうなってやがる、アイツだけ段違い に強ぇぞ!」
「アレはLv3ですからね。前に話しましたが、Lvが上がるごとにAKUMAはより強く脅威度が増します」
Lv2をすっ飛ばして、Lv3の相手をするのだ。段違いの実力があって当然だろう。
「オマエ、弱いなァ」
AKUMAが、笑った。
ゾッとするような笑顔を見せ、頭部の甲冑の様なモノの表面にある眼がカッ、と見開かれる。
「弱い弱い弱い!! 弱いぞ人間!! もっとワタシを楽しませろ!!」
慟哭する。もっと楽しませろと。実力を見せろと。
殺し合いを望む。
それに対し、ナギはニヤリと笑った。
「上等だ!! ぶっ壊してやるよ、AKUMA!!」
瞬時に他の二人の場所に一体ずつAKUMAが現れ、戦闘を開始した──
「……どうしてこうなった」
赤い髪の少年は、項垂れたままそう呟いた。
〜遡る事三日前〜
首都メガロメセンブリアから南東へ二百キロ。其処にある一つの町、其処に三人の男達が居た。
一人は少年と形容すべき男。赤い髪が特徴的で、身長よりも大きな杖を持ち、目付きが悪い顔。
もう一人は黒髪で眼鏡をかけた青年。腰に刀を差しており、日本人独特の顔立ちをしている。
最後の一人は長い黒髪を一つにまとめた青年。魔法使いらしい白いローブを身に纏い、デフォルトで相手に笑顔を見せる美青年。
その三人は今、町で当ても無くぶらついていた。
この三人は『
赤毛の少年、ナギ・スプリングフィールドと黒髪の剣士、青山詠春は「腕試し」と「修行」の為。
黒髪の美青年、アルビレオ・イマは「ナギといると面白そうだから」と言う事でナギと共に旅をしている。
だが、当然ながらたった三人しかいない組織が大役を任せて貰える筈も無く、国境線ではあっても比較的治安の良いこの町に寄越された訳だ。
宿の中、アルは外へ情報収集へ行ったため、残っているのはナギと詠春のみ。
「……暇だ」
ナギは、テーブルに突っ伏したままそう呟く。
「今日何度目だ、その言葉」
刀の手入れをしながら、詠春は面倒臭そうに言う。
「だってよ、戦争が始まったのは去年だぜ? 今はまだどっちも余裕あるみたいだけどよ、そのうち俺らみたいなのに頼るしか無くなるって」
「それはアルの入れ知恵だろ? 確かに戦力は猫の手を借りたいほどともなれば、前線に出るのは難しくないだろうが」
「そこで活躍すれば、また前線に出してもらんだろ」
活躍=戦う機会が増える。という単純な方程式を考えているナギ。間違ってはいないのだろうが、其処まで行くのにどれだけ時間がかかるのかを分かっていない。
詠春はその事を言うが、ナギの反応はと言うと。
「ところがどっこい、そうでもねぇ。なんかしらねーけど、最近連合の軍がやたらと騒がしいらしい。悪魔が出たとか、そう言う話も聞くしよ。もし本当なら、俺らでそれを倒せば連合から認められると思うぜ」
「悪魔? 帝国が、か? というか、どこにいるかも知らないんだろ。どうやって探すつもりだ」
「よくはしらねーけどよ、町一つが壊滅してたりもするらしいぜ? だから、その辺辿って行けば分かるんじゃねーかな」
「その話が連合に行く度、例の十三機関が動いているみたいですけどね」
扉を開け、アルがいつも通り飄々とした様子で部屋に入ってくる。
ベッドの上に腰かけ、そのまま話し出す。
「悪魔退治専門の聖職者、俗に言うエクソシストですね」
「でもよー、悪魔倒すの位俺らでも出来るぜ?」
経験はともかく、魔力量と魔法を使う事に関してはナギはトップクラス。そこら辺の悪魔には負ける事は無いだろう。
それとも、爵位級の悪魔が出張ってきているのか、とも考えるが、アルはそれを首を横に振って否定した。
「この場合の悪魔は魔界にいる悪魔の事では無いんですよ」
「……それ以外に悪魔がいるのか?」
比喩的な意味で悪魔と呼ぶ事はあるだろうが、それ以外で悪魔という名称を使うのは魔界にいる存在くらいしかいないだろうと考える。
しかし、アルが言ったのは、それとは全くの別物だった。
「AKUMA、人類をターゲットにした悪性兵器。殺せば殺すほどその力は増していき、初期状態でも既に一般レベルの魔法使いでは歯が立たないという、人類史上最悪の兵器ですよ」
その言葉に、二人が眼を見開く。
「……それ、本当か?」
「人類をターゲットにした……兵器、だと?」
二人にとってその話は初耳だ。そもそも、そんな事があるなら情報として知られておくべき事の筈。情報を流さないと言う事は、敵の事を知らないまま戦えと言う様な物なのだから。
「ええ、AKUMAには
ゲームの様な話だが、事実なのだから仕方がない。
「何で連合は、それを公表しないんだ!?」
詠春が激昂した。初期状態で並の魔法使いが手も足も出無い。なら、最終段階までレベルが上がったAKUMAは一体どれだけの戦闘能力を誇るのか。
想像が及ばない。情報が無ければ対策も出来ないと言うのに、情報は統制されていて手に入らない。
理不尽過ぎる。連合は兵を殺したがっているとしか思えない。詠春にはそう思えた。
それをアルに告げれば、唯首を横に振るだけ。
「違うんですよ、詠春。それでは駄目なのです」
「……っ! どういう事だ?」
アルの冷静な態度に何か言いたそうにしたが、抑え込んで続きを促す。
「……私が話してもいいのですが、丁度その専門家が来ています。そちらに話を聞きに行きませんか?」
「専門家……って、さっき言ってたエクソシストか?」
「ええ、その中でも特に強い、トップレベルの実力を持つ『元帥』というクラスのエクソシストが、今この町にきています」
ナギの問いに答え、立ち上がる。扉の前まで行き、行こうと二人を促す。
二人は渋々ながらも立ち上がり、アルの後に続く。
●
宿屋の一室。ナギ達が止まっていたのとは違い、結構な広さがある洋風の部屋だ。
その先に、一人の女性がいた。
「やぁ、あなたがナギ・スプリングフィールド? その隣の人が青山詠春、でいいの? アルビレオ」
「アルで構いません、と前にも言った筈ですが」
「あ? 別にどうでもいいでしょ、そんな事。呼び方なんて好き好きだし、呼びたいように呼ばせて貰いたいわね」
随分と傍若無人な性格の女だなー、とナギと詠春は感想を抱く。纏めないで放ってある腰まである長い黒髪。つり目とスレンダーな体型、ジーパンと白いTシャツが特徴的な若い女性。
「私の名前はクレア・J・クロート。エクソシストよ」
クレアは気軽にそう言う。
だが、エクソシストの証であるローズクロスの付いたコートも無ければ、イノセンスも、今は持っていない。
「聞きたい事があるのよね。いいわ、私が知ってる範囲でいいなら、教えてあげるわよ」
ナギと詠春を中心に、円を描く様にして歩き始めた。反対側では、アルが同じ様に円を描く様に歩き始める。
「AKUMAって兵器なんだろ? 誰が作ってるんだ?」
「製造者? 製造者の名前は"千年伯爵"。人類終焉のシナリオを描く人類の敵よ。更に言えば、AKUMAは人間が元になって作られる兵器。人間がいて伯爵がいる限り、AKUMAは無尽蔵に作られ続けるわ」
ナギの質問に、すらすらとクレアは答える。
AKUMAは人間を使って作られる、それを聞いた時、ナギと詠春は怒りを覚えた。今を必死に生きている人達を、兵器にして利用する。それが正しい事の筈がない、と。
「なら次、何で連合はAKUMAの存在を隠しているのか、だ」
「ああ、簡単よ。AKUMAっていうのはね、擬態できるのよ。人間の皮をかぶって人間の社会に溶け込める。迂闊に情報を公表すれば、たちまちみんな疑心暗鬼になって経済が崩壊する事になるでしょうね」
なるほど、と詠春が納得する。
簡単に言えば、隣にいる者が明日も人間とは限らないと言う事。人間を元に作られる兵器である以上、人間に擬態できるのも理解が出来る。
そして、昨日は人間だったが、今も人間か。会ったときにそれが確かめる方法が無い。
背をむけば殺されるかもしれない。殺されるのは嫌だ。なら人と会わなければいい。思考は人と必要最低限の接触しか保とうとせず、経済はそれが原因で破綻するだろう。
そうなれば、どの道待っているのは人類の衰退だ。
「それと、何も隠しているのは連合だけでは無いわ。帝国も、アリアドネーも。大国と呼ばれる場所の上層部連中は知ってるわよ」
AKUMA対策も当然ながら用意している。面会には必ずその検査を受ける必要があり、上層部はAKUMAが自分達を殺しに来るかもしれないと危惧している。
残念ながら、それをやるほど価値のある人間がいないと言うので、未だ犠牲者は出ていないのだが。
「そして、そのAKUMAと戦っているのが、私達エクソシストよ」
「彼女達エクソシストは、必ず何かしらの武器を持っています。それが──」
「"イノセンス"。そう呼ばれる物質で作られた対アクマ武器。それを私達は所持しているの」
影から何かを取り出す。それは、純白に青色の装飾がなされている水瓶で、人間の頭ほどの大きさだ。
「AKUMAに対する唯一の武器。魔法でも破壊できない事は無いけど、イノセンスを使えばより簡単に破壊出来るわ」
相性の問題といっても過言では無い。ノアとイノセンスが対極に位置し、AKUMAはノア寄りの為、イノセンスで簡単に破壊が出来る。
イノセンス寄りのモノは今は存在しない。だから、AKUMAは人を殺すだけだ。それ以上でも、それ以下でも無い。
「じゃあよ、AKUMAってどうやって作られんだ?」
ナギは右手を上げ、先生に質問するかのように言う。
クレアは足を止める事無く、それにこたえる。
「AKUMAは"機械"と"魂"と"悲劇"を材料として作られる存在よ」
「"機械"と"魂"と"悲劇"?」
頭の上にハテナマークを浮かべながら、ナギが再度質問する。
「"機械"はAKUMAの骨組み。"魂"は人間の魂。"悲劇"は人間の悲哀の感情よ。──人は誰しも心の中に闇がある。その闇が"悲劇"となってより深くなった者の前に、<製造者>は現れるの」
「製造者……さっき言ってた、千年伯爵って奴か」
「そう、伯爵は悲劇が深くなった者の前に現れ、最も親しい人間の名を呼ばせる。これは死んだ人間に限るわ。生きている人間の魂はAKUMAに出来ない」
「……つまり、死者の魂を最も親しいものに呼ばせ、機械の中に封じて強制的に動かす。概ねそういった事です」
「錬金術の観点から言えば、"機械"は"肉体"を、"魂"はそのまま"魂"を、"悲劇"は二つを繋げる"精神"を表す事になるわね」
ナギと詠春の顔が歪む。
アルの告げた事が、それだけショックだったと言う事だ。死者の冒涜も甚だしい、侮蔑されるべき行為。
しかも、人を殺す度にその魂は悪化の一途をたどると言うのだから性質が悪い。
「それを破壊するのが、私達エクソシストよ」
クレアは足を止め、ナギと詠春の真正面に立つ。まっすぐに眼を見て、その話が真実だと告げる。
「……だが、それを私達に話して良かったのか? その話が本当なら、私達にも話す訳にはいかないんじゃ……」
「いいのよ、アルビレオが認めた実力者だし。AKUMAを破壊するの手伝ってくれるでしょ?」
「それは、まぁ、そうだが……」
若干ペースに乗せられていると言う気がしながら、詠春はそう答える。
「この戦争も、恐らくは彼らが始めたものでしょうしね」
「……悲劇を広めるため、か?」
「そうね。ソラリス元老院議員は彼らの手先か関係者。AKUMAの可能性だってあったわ」
「だが、ケルベラス渓谷に落とされて死んだのだろう?」
「AKUMAが唯の生物相手に負けるわけ無いでしょう。元々魔力も気も必要無いんだし」
「……じゃあよ、何で元老院の奴等はそいつを殺したんだ? AKUMAなら情報を奪えるかもしれないし、帝国とかはAKUMAがやった事だって説明すれば戦争は避けられただろ?」
ナギが頭を傾げながらそう言った。かなり頭を使ったのか、うんうん唸ってはいるが。
クレアとアルは示し合わせたように説明を始める。
「初期の状態では帝国は引き渡せと言っていたわ。自分たちの手で始末すると」
「ですが、元老院はそれを拒否。AKUMAだと確かめもせず、伯爵への手がかりになるかもしれないと言うのに、ケルベラス渓谷へと落とした」
それは、帝国から見れば伯爵のやった事を隠しているようだ。元老院からすれば、自分たちが利用されたと思いたく無かったからなのかもしれない。
だが、自分たちの手で碌に調べもせずに始末した所為で、連合は伯爵との関係を疑われてしまった。
「この一年で、三人ほど連合のエクソシストがアリアドネーと帝国の対アクマ機関へ移ったわ」
「更に、旧世界へと渡る者もいたようですね」
エクソシストであり、AKUMAを倒せる存在ならば、待遇は特別といってもいいほどに良い。
どこに行こうと、エクソシストは歓迎される存在だ。AKUMAがいる限りは。
「帝国は連合内部に伯爵との内通者がいると確信。連合は後始末を終えてなお無理矢理戦争を起こそうとする帝国を、伯爵と繋がっていると判断した」
どちらも勘違いしたまま和解する事は無く、戦争が始まった。始まってしまった。
「直接的なきっかけはソラリス元老院議員ですが、それを燃え盛らせたのは間違いなくその周りです。このまま戦争が長引けば、AKUMAはより数を増やし、より強大な勢力へとなっていくでしょうね」
「千年伯爵の力はどの程度か分からないけど、少なくともAKUMAよりは強いでしょうね」
戦闘をしたと言う者がいない為、客観的に判断できる要素が無い。
「新旧両世界に置いて、元帥と呼ばれるエクソシストは現在六人」
元帥とは、イノセンスとのシンクロ率が百%を超えたエクソシスト。"臨界者"とも呼ばれる存在。
実力は折り紙つきで、ノアと真正面から戦闘できる者が殆どだろう。実際に戦った事は無いのだろうが。
「……俺達でも、AKUMAとは実際にやってみなきゃ分からねーぞ。相当強いんだろ?」
「魔法でも破壊出来るってさっき言ったわよね。大体は強力な魔法を使えれば倒せるわよ」
真正面から当たれば、の話ではあるが。
AKUMAの機動力は人間とは比べ物にならない。エクソシストはイノセンスから加護を受ける事によって身体能力も上がっているからこそ、唯の身体強化の魔法でもAKUMAと肉薄できる。
その辺の魔法使いが同じ様にやった所で、結果まで同じとは限らない。
「取りあえず、戦ってみればわかるでしょ」
「戦うって……どこにいるか知ってるのか?」
「誘き出すのよ」
「ハァ?」
〜そして、現在〜
とまぁ、こういうやり取りがあり、現在ナギ一行+クレアは国境線沿いに歩いていた。
正確に言えば、帝国との境には海があるので国境線とは言えないのだが。
「一体、いつになればAKUMAは出てくるんだよ……」
この三日間、歩き通しで疲労もある。正直そろそろどっかで休みてーんだけど。等と思いつつも歩き続ける。
「男でしょうが。しゃんとしなさい」
女のくせに男よりも男らしいクレアは疲れた様子を見せる事無く歩き続ける。
顔にさえ疲労の色が無い。体力には自信がある方だが、流石に三日間歩き通しでは疲労はある。
「……本当、どうなってんだ」
「私は連合から追われてるのよ。行方くらましてるから。逃げるのに体力なくちゃ駄目でしょ?」
分からんでも無いが……、と詠春は呟く。殆ど休みなく歩き続けている。歩き続ける事に意味があるのか、疑問がどんどん出てくる。
クレアは金色で装飾されたコートを羽織り、黒い髪をなびかせてナギの前を歩いている女。このコートを着て歩いていれば、AKUMAが勝手に誘き寄せられると言う。餌付けしてるようなモンか、とはナギの談。
姉がいると聞いたが、それ以上は話そうとしない。興味も特に無いのでナギの頭からは既に抜け落ちているが。
「しかし、何でこんな早くに町を出たんだ?」
「え? そんなの足がつかない為に決まってるじゃない。そろそろあの町出ないとヤバいと思ってたのよね。足がつくと捜索範囲が限定されちゃうし」
「そんな理由かよ……」
ナギと詠春が呆れ、アルはクスクスと笑う。
そんな三人を尻目に、クレアは歩いている先を指差す。
「それより、見えて来たわよ」
「あの町に、AKUMAがいると言う情報が──っ!?」
四人が一斉にその場から離れる。直後、爆発が襲った。
そのまま留まっていれば、直撃を受けたであろう攻撃を放ったのは、前方に見える数体のAKUMA。
「アレがAKUMAか!?」
ボール状のAKUMAは聞いている。形状からして分かりやすい為、判断しやすいからだ。
クレアの言った通り、Lv1のAKUMAもいる。だが、別形態のAKUMAもいる様だ。
「あれは……Lv3も何体か混じってるみたいね」
甲冑を纏った大男のような姿で全体的に似た形状をしているが、細部の違いはLv1よりも顕著である。色彩や後ろにある翼などで判断が可能だ。
それが、三体。
「危なくなったら助けてあげるから、戦ってみなさい」
普通なら、いきなり戦わせるなよ。等とは言いそうなモノだが、この三人は違った。
特にナギ。歩き通しで疲れがたまり、鬱憤を晴らすかの如く魔法を放つ。
瞬動で近づき、Lv1の目の前にまで来る。その砲門から弾丸が放たれようとした瞬間、
「あ、その弾丸猛毒だから。当たったら死ぬわよ」
「先に言えッ!!」
体を捻って弾丸の射線上から外れ、簡単なモノの為、あんちょこを見らずに詠唱を開始する。
「来れ 虚空の雷 薙ぎ払え 『雷の斧』!!」
翼が薙ぎ払う様な動きで雷撃を放ち、AKUMAを両断する。中の上程度の威力だが、ナギはバカの様に魔力を込めるので普通よりも威力が高い。
その分魔力消費も激しいのだが、魔力の総量が多いナギは気にしない。
その横で、詠春はAKUMAを切り裂き、アルは重力で押しつぶしている。共に破壊されたAKUMAは爆発し、無残に散る。
「さぁ、後はお前らだ!」
ナギが瞬動で近づき、同じ様に『雷の斧』でLv3のAKUMAを壊そうとした。
だが、その攻撃はあっさりとかわされ、強烈な拳がナギを襲う。
咄嗟に体を捻り、急所への攻撃は避けた。だが、元の威力が大きい為、大きく吹き飛ばされる。
「ゲホッゲホッ! どうなってやがる、アイツだけ
「アレはLv3ですからね。前に話しましたが、Lvが上がるごとにAKUMAはより強く脅威度が増します」
Lv2をすっ飛ばして、Lv3の相手をするのだ。段違いの実力があって当然だろう。
「オマエ、弱いなァ」
AKUMAが、笑った。
ゾッとするような笑顔を見せ、頭部の甲冑の様なモノの表面にある眼がカッ、と見開かれる。
「弱い弱い弱い!! 弱いぞ人間!! もっとワタシを楽しませろ!!」
慟哭する。もっと楽しませろと。実力を見せろと。
殺し合いを望む。
それに対し、ナギはニヤリと笑った。
「上等だ!! ぶっ壊してやるよ、AKUMA!!」
瞬時に他の二人の場所に一体ずつAKUMAが現れ、戦闘を開始した──