第九夜:聖職者と魔法使い
ナギは目の前のAKUMAを見据え、杖を右手に構える。
左手にはあんちょこを持ち、姿勢を低く保っていつでも動ける様に準備をする。
AKUMAは構える事無く、腕をだらりとさせたまま、ナギを見る。
──そして、動いた。
一撃目は互いに高速で動いての近接攻撃。ナギは近づくと同時に『雷の斧』を使い、上から叩き潰す様に攻撃をする。
対するAKUMAは謎の現象で『雷の斧』を弾き、ナギへと拳を振るった。
ナギはそれを紙一重でかわし、身体強化した拳で殴りかかる。同時に、鉄でも殴ったかの様な鈍い音。
「──っ! 痛ってぇ!! 何だこの堅さ!」
「ワタシはLv3だぞ。生半可な攻撃が通用するとでも思ったのか?」
「あ、ついでに言うとLv2以上は固有の能力持ちだから。気を付ける様に」
「言うのが遅ぇ!!」
忘れてたとばかりに付けたすクレアを尻目に、ナギは距離を取ってAKUMAを見る。
「で、お前の能力は何だよ」
「教えるとでも思ったのか?」
地面を蹴り、ナギと肉薄する。殴りかかってはかわされ、殴りかかってくるのをかわす。当たっても素手では大したダメージにならないが、何が負けに直結するか分からない以上、攻撃は受けないに越した事はない。
そもそも、基礎的なスペックには差はそれほど無い。
ナギはバグキャラと言われるほどの身体能力や、魔法の扱いに長けている事が戦闘では長所として生きている。
だが、ほぼ全てのLv3のAKUMAの基礎性能 はナギとほぼ同等。魔力による身体能力が無くても固有の能力を使う事でカバーは可能だ。
そして、AKUMAはそれにプラスして、魔法の知識を大量に有している。
「『雷の暴風』!」
右腕から放たれる雷の奔流。膨大な魔力を込められたそれは、Lv3の装甲さえ貫けるだろう。
だが、甘い。
予備動作である詠唱と魔力を練るという段階で、既に強力な攻撃をしようとしていると言う事は分かっている。
なら話は早い。最も簡単なのは詠唱を止める事。次点で攻撃の範囲から外れる事。詠唱でどんな魔法か、大体判別が可能だからこそ出来る事だ。
当然、AKUMAは魔法の知識を有している。自身を破壊する可能性のあるモノを知らないと言う事は無い。
伯爵と繋がっているのだ。伯爵が魔法についての知識がある以上、破壊されない様に知識がそれぞれの個体に流れ込むのもまた道理でもあり。
放った後の技後硬直で一瞬動きが止まった所を、AKUMAに強烈な拳を入れられた。
「ご、あっ──!」
咄嗟に腕で庇ったが、それでも十数メートルをノーバウンドで飛ぶ。魔力による身体強化が無ければ死んでもおかしくない攻撃だ。
「くっ、そ。強ぇな、あいつ……」
あんちょこを見る為に眼を一瞬でも離せば、次の瞬間には殴られる。ナギとてそれ位は分かる。
しかも、一体一体別に固有の能力まで持っているらしい。随分とふざけたヤローだ、とナギは思う。
だが、それでも諦めるほどでは無い。十分に倒せる。魔力を練り上げ、重心を落として──地面を蹴った。
「魔法の射手 連弾・雷の十七矢!」
魔法の射手が飛ぶ。それはAKUMAには当たらず、地面へと直撃して土埃を上げる。
「こんなもので目くらましに出来るとでも──」
腕を振り、風を起こして土埃を払う。だが、視界の先にナギはいなかった。
「どこに──?」
「契約により 我に従え 高殿の王 来れ 巨神を滅ぼす 燃ゆる立つ雷霆」
声がしたのは、背後。膨大な魔力を練り上げ、広域殲滅魔法である『千の雷』の詠唱を行っている。
「させるかァッ!!」
足に強烈な"圧力"をかけ、解放して、一時的に巨大な斥力を得て、大きく跳ぶ。
このAKUMAの能力は"圧力"。部分的に圧力をかければ防御にも使えるし、同じ様に使って攻撃にも出来る、便利な能力だ。
それを、最大限活用して術の範囲外へと跳ぶ。
「百重千重と重なりて走れよ稲妻 『千の雷』!!!」
雷系最大呪文。魔力は「雷の暴風」の十倍以上が必要だが、それに見合った強大な広域殲滅用の魔法。一応対軍用の魔法なのだが、AKUMA個人に使って破壊をしようとした。
「……どうだ、クソ野郎」
凄まじい威力を誇る『千の雷』。それを、唯AKUMAを倒す為だけに、周りの事を考えないで放ったので、軽く地形が変わっている。気にもならないので大丈夫だろうとナギは判断する。
ダメージもあるし、魔力も使った。だが、まだ余裕がある。
詠春、アルの戦いはまだ終わっていない様なので手伝いに行こうとした瞬間、後ろを振り向いた。
其処には、半身が焼けて融けておきながらも、未だ破壊されていないLv3の姿があった。
「おったまげー。まだ生きてたのかよ……」
いやでも機械だから生きてるって言うのか? 等と軽口を叩くナギ。
「フ、フフフ、フフハハハハハッハハハッハハハハハハハ!!」
大口を開け、AKUMAは笑った。響く様な声で、不気味に笑う。
「やるなぁ、人間。面白い、面白いぞ! もっとだ、もっと殺し合うぞ!!」
左腕が吹き飛び、頭部も半分が焼けて融けている。気持ち悪い外見のまま、笑って、ナギへと肉薄した。
そもそも、Lv3では『千の雷』級の魔法は防げない。威力にしてもそうだが、雷の生み出す膨大な熱によって装甲が融けてしまう為だ。
だが、このAKUMAの能力は"圧力"。膨大な圧力をかけると物質は融点が高くなる。その為、ギリギリ回避の途中で装甲が融けきる事無く範囲外に逃げる事が出来た。
とはいっても、完全に避けきれたかと言えばそうではないし、融点が多少高くなっただけで雷の熱はそれを優に超す。零コンマ数秒程度の時間を稼ぐ位しか出来ない。
しかし、それで充分過ぎた。現に生き残り、ナギの目の前に立っている。
左腕は消し飛んだが、壊れる事に比べれば安いものだ。
「……ハッ、上等だ。今度こそぶっ壊してやるよ!!」
ニヤリと笑う。そして、真正面からの殴り合い。
近接戦闘型として、性能はナギにも引けを取らない。だが、左腕が無いと言うのはかなりのハンデとなる。
バランス、攻撃の量等、ハンデにしてはかなり大きい。しかも頭部も半分融けている為、視界は今までの半分。ナギが完全に有利な状況になった。
だが、AKUMAは疲弊など無い。それだけは、唯一残ったアドバンテージだろう。
殴り合いが続き、AKUMAが殴り飛ばされる。
「オラァッ! 『雷の斧』!!」
雷撃がAKUMAへと直撃し、傷口を抉る。
「まだ……まだ壊れぬわァァァ!」
体の損傷は激しく、動いているのも驚くほど装甲は壊れている。その状態でも防げるのは、ひとえに能力による防御力の上昇のおかげだろう。
「頑丈なヤローめ……」
息こそ切らしているが、ナギもまだ余力がある。最後の一撃を決めようと、距離を取ってあんちょこを見る。
「来れ雷精 風の精 雷を纏いて 吹きすさべ 南洋の嵐 『雷の暴風』!!」
瞬動で距離を詰め、殴ると同時にその魔法を発動させる。
カウンターの要領でAKUMAもまた殴りかかるが、ナギはそれを避けていた。
『雷の暴風』はAKUMAの体を貫き、飲み込んで、完全に破壊された。
装甲がバラバラになったそれを確認し、今度こそ倒した事を悟って座りこむ。
「あー、AKUMA強ぇな。畜生」
未だ戦っている詠春達の方に目を向け、少し休んだら手伝おうと思って休みだした。
●
詠春は京都神鳴流という流派を扱う剣士だ。
その実力は相当なレベルだが、武者修行の為、ナギと共にこの魔法世界へとやってきた。
そこらの敵には負けない程度の力はあると自負していたし、実際それだけの力を使っていた。
だが、詠春は今、左腕に大きなけがを負っていた。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
乱れた息を整えつつ、刀を構える。左手は怪我で上手く動かせない為、主に右手で扱う事になる。
油断していた訳では無い。唯、相性が悪かっただけ。初撃で斬りかかった直後、手痛い反撃を喰らっただけだ。
「どうした? もう終わりか、人間」
目の前にいる、黒に赤みがかった装甲のAKUMA。右手を振ると、爆炎が巻き起こって詠春を襲う。威力は『紅き焔』程度だが、直撃すれば火傷では済まない。
瞬動と虚空瞬動を駆使して攻撃を避け、刀を振る。
「雷光剣!」
雷撃が同時に放たれた爆炎とぶつかり、辺りに衝撃をまき散らす。土埃が起こり、それに隠れる様に下がって身を隠す。
剣が通用しない。
正確に言えば、斬っても斬れないのだ。とんちの様な状況だが、事実なので仕方がない。
(だが、アレは……)
あの現象は、一度だけ見た事がある。戦争で帝国と戦闘した際、敵軍かは分からないが体を"雷化"させた誰か。アルから聞いていなければ分からなかっただろうが、そう言う事が出来る奴もいるらしい、と詠春は思考する。
白い髪を立てて白い服を着て、特定の誰かを殺している様だった。あれに似ている。
あのAKUMAは炎を使う。ならば、"炎化"か? と予想を付け、様子をうかがう。
ギョロギョロと眼が回りを見て、詠春を探している。掌には炎を撒き起こしており、アレを使えば辺り一帯が焼け野原となるだろうと予測する。そもそも荒野なので植物など無いのだが。
刀を使う以上、一定圏内に入る必要がある。初撃は当てたものの、恐らくは体を"炎化"したのだろう。傷が入っていなかった。
今はあの炎の所為で近づけないが、次は斬る自信がある。
(……よし、後ろを向いた。今なら──)
ズズン……、と地面が揺れる。同時になった雷鳴や爆音なども考えれば、ナギが『千の雷』を放ったのだろうと予測できる。
同時に、それによって出来た土埃に乗じてAKUMAへと近づこうとする……が、その途中で足を止めて離れた。
瞬間、爆発。中心点は恐らくあのAKUMA。爆風が巻き起こり、土埃が掃われる。
(……爆発を使う事で、間接的に風を動かしているのか)
燃える為には助燃性の物質──即ち、酸素が必要だ。れっきとした科学現象であるが、魔力も使われているのは明白だ。
「いつまでかくれんぼをするつもりだ? いい加減焼き殺すぞ?」
体全体を"炎化"し、両手を上に掲げて巨大な炎の塊を作りだす。
「アレはまずいな……」
「そうですね。アレは少しばかり不味いかもしれません」
「ああ、どうにかして避けるかさっさとあのAKUMA、を……」
言葉が詰まり、隣を見れば、アルが考え込んだ様子で隣にいた。多少傷はあるが、詠春程では無い。
直ぐ様詠春は問い詰める。
「何故お前がここにいる!? 他のAKUMAと戦っていのではないのか!?」
「戦っていますよ。唯、こっちの相手と合流された様でして……それより、その傷治しましょうか?」
「それは厄介だ……頼む。刀が振り辛くてな」
直ぐに詠唱を唱え、詠春の腕を治療する。握っては開き、握っては開き、という動作を何度かして動きを確かめ、相手を見る。
先ほどのAKUMAと別のAKUMA。合流したようだが、どうするべきか。と考える詠春。
「詠春、あなたが戦っていた相手の能力は分かりますか?」
「恐らくは"炎化"だろう。攻撃が当たる瞬間、体が燃えて剣が当たらなかった。そっちは?」
「炎化ですか、厄介ですね。こちらも似た様なもので"木化"ですね」
「あの二体が同じ場所にいて大丈夫なのか?」
「火が燃え移ったりはしないでしょう、流石に。其処まで知らないので無いとは言い切れませんが」
詠春がなんとも微妙な顔をしてアルを見る。アルは相変わらず笑みを浮かべているだけだ。
「"木化"というのは、魔法世界にいる木霊を操る種族のモノと似ていますね。燃やす事の出来るモノを増やすでしょうから、厄介です」
「……どの道、あまり時間は無い。さっさと済ませるぞ」
「そうですね、ナギはもう終わった様ですし」
魔力の感覚、そして遠目にこちらを見ているのが分かる。
詠春は刀を構え、アルは回りに重力の塊を作りだす。
「では、行きましょうか」
「ああ」
そして、同時に地面をける。
同時に、AKUMAの知覚範囲へと入った事で攻撃が開始された。
「やっと出てきたか、もうそろそろこの辺り一帯焼け野原にしてやろうと思ったのになぁ!!」
AKUMAが叫び、腕を振るって爆炎を放つ。
威力自体はそれほど高い訳では無い。だが、数と長時間焼く事で人体を死に至らしめる。それが出来るのがこのAKUMAだ。
そもそも、威力だけでも普通の人間は簡単に焼き殺す事は可能だ。ふざけた程に範囲が広い為、本来は避けきる事も難しい。
「斬空閃!」
飛ぶ斬撃。炎を切り裂いて突き進み、AKUMAの体を切り裂く。
「無駄だと分からんか?」
もう一体のAKUMAが腕を振るい、辺りに木が生え、生物の様に蠢く。徐々に大きさを増し、爆炎に負けない様な巨木へと変化した。
木々が枝を槍の様にして突き出してくる。それをアルは重力の塊で押し潰し、辺りの木を沈めにかかる。
「神鳴流奥義──真・雷光剣!」
先ほどより一回り大きい雷撃が木々を破壊し、AKUMA達のいる場所への道を作り出す。
「無駄だと、何度言わせる!」
炎化しているAKUMAは詠春へと肉薄し、焼き殺そうと両手を伸ばす。刀を同時に振るうが、当たらないと確信して──。
──そして、AKUMAは両断された。炎化しているにも拘らず。
「何、故──」
「斬魔剣、弐の太刀」
それは、人を斬らず魔のみを斬る退魔の真骨頂とも呼べる力。神鳴流の宗家である青山家にしか受け継がれず、使い手と成り得る者さえ少ない。
その技を使う事で、本来攻撃の当たらない相手へと攻撃を加える事が出来た。
「詠春!」
「分かっている!」
もう一体のAKUMAに目をやれば、辺り一帯から生えた木の槍に切り裂かれながらも、重力で動きを止めているアルの姿があった。
瞬動で近づき、アルが重力魔法を解除すると同時に、切り裂く。
完全に破壊した事を確認して、木々を切り裂いてナギとの合流を目指す。
●
「スゲーな、アレ。AKUMAってあんな事も出来んのか」
一部森の様になっている場所を見て、ナギが面白そうだと声を上げる。
それを聞き、詠春は小さく溜息をついてナギへと言葉を返す。
「厄介な敵だったよ、全く」
「あの程度で厄介なんて言ってたら伯爵と戦えないわよ? アレよりよほど強いんだし」
「……戦った事あるんですか?」
「うん」
一度だけね、と続けるクレア。それ以上は話すつもりは無いらしい。
「でも、かなり強いわよ。少なくとも私よりはね」
「クレアの実力はどの位なんだよ。教えろよ」
ナギが駄々をこねる様にクレアへと質問を続け、クレアはそれを聞いて小さく笑う。
「それじゃ、アレは好都合かしらね」
クレアの指差す先には、数十体のAKUMA。Lv1や2もいれば、3もいる。大量のAKUMA達だ。恐らく、先ほどの騒ぎで集まってきたのだろうとクレアは考える。
その光景を見て、ナギ達が驚愕し、ぶつくさ言いながらも武器を構え始める。
「オイオイ、あんな数と戦うのは御免だぜ? 千の雷だって当たらなきゃ破壊出来ないんだしよ」
「大丈夫よ。私が全部破壊するから」
「え? いや、ホントLv3は強いんだって……」
「よりにもよってその専門家に言うんじゃないわよ。何度戦ったと思ってんの」
ナギ達を尻目に、AKUMA達の方を向き、手には水瓶を持って構える。
「イノセンス発動──行くわよ、『幸運の水瓶座 』」
発動すると同時、水瓶の中に大量の水が現出した。
水と言うモノは意外と重い。人間の頭大の大きさの水瓶となれば、中に全部水が入っていると結構な重さになる。
だが、クレアは重ささえ感じさせない軽い動きで中身を零す。零した水は空中で動きを止め、クレアの周りを浮遊し始める。
「……いや、ちょっと数多く無い?」
クレアが顔を上げると、先ほどの倍はいるであろうAKUMA。いつの間に増えたのよ。と愚痴をこぼすが、AKUMAをそれを聞いてさえいない。
空の一部が黒く見える。随分と大量のAKUMAがいるのねー。等と呟き、紅き翼の面々はクレアの楽観差に呆れた。ナギでさえも。
放たれる弾丸を浮遊している水で受け止め、防ぎきる。
「正直面倒臭いわね……『王の水瓶座 』」
そう呟くと、水瓶が形を変える。
純白に青色の装飾がなされている水瓶で、大きさは人間の頭ほどだった物が、人間大の巨大な水瓶へと変形した。
神秘的な輝きは失われず、その水瓶に溜まっている大量の水が溢れ出す。
「さぁ、一気に決めるとしましょう。『王の幸運 』
水瓶から溢れる水の量が増える。それはドンドンとかさを増し、膨大な量となって浮遊する。
その量にナギや詠春はぽかんと口を開け、驚きを隠せないでいた。
水は意志を持って形を成し、生物のように蠢いて何かを形作る。それはまるで生物の様な──というか、生物の外見を持ってAKUMAを攻撃し始めた。
それは伝説の生物、リヴァイアサンとでも呼ぶべき存在。水で出来ているが、動きはまるで空を泳ぐ龍。次々にAKUMAを喰らい殺し、破壊していく。
当然AKUMAも反抗するが、この巨大な生物の前にはなすすべなく壊れていく。
「喰らい殺せ」
その一言で、水は形を変える。リヴァイアサンの様な巨大な姿は、大量の竜の顎 へと形を変えてAKUMAを喰らう。
この水はクレアの意思一つでどこまでも操作できる。実体が水である以上、形を変える事など造作も無く、威力も相当なモノ。
あっという間にAKUMA達は喰い殺され、後に残るのは龍が暴れた後のみだ。
ハッキリ言って地形はかなり変わっており、大量のAKUMAの血はイノセンスの水──聖水によって浄化されている為、毒は無い。
「……ヤバ、やり過ぎた。元老院に見つかるかも」
うわぁ。とナギと詠春の二人はクレアをいろいろな感情が混ざった目で見ていた。
具体的には、二人が二人ともあり得ないモノでも見た様な顔をしながら。アルビレオは知っていた為、驚きは少ない様だが、それでも実際に目にしたのは初めてなのか、驚きは隠せていない。
「とりあえず、町まで行きましょうか」
良い笑顔でそう言うクレアに、三人は従う以外選択肢が無かった。
ナギは目の前のAKUMAを見据え、杖を右手に構える。
左手にはあんちょこを持ち、姿勢を低く保っていつでも動ける様に準備をする。
AKUMAは構える事無く、腕をだらりとさせたまま、ナギを見る。
──そして、動いた。
一撃目は互いに高速で動いての近接攻撃。ナギは近づくと同時に『雷の斧』を使い、上から叩き潰す様に攻撃をする。
対するAKUMAは謎の現象で『雷の斧』を弾き、ナギへと拳を振るった。
ナギはそれを紙一重でかわし、身体強化した拳で殴りかかる。同時に、鉄でも殴ったかの様な鈍い音。
「──っ! 痛ってぇ!! 何だこの堅さ!」
「ワタシはLv3だぞ。生半可な攻撃が通用するとでも思ったのか?」
「あ、ついでに言うとLv2以上は固有の能力持ちだから。気を付ける様に」
「言うのが遅ぇ!!」
忘れてたとばかりに付けたすクレアを尻目に、ナギは距離を取ってAKUMAを見る。
「で、お前の能力は何だよ」
「教えるとでも思ったのか?」
地面を蹴り、ナギと肉薄する。殴りかかってはかわされ、殴りかかってくるのをかわす。当たっても素手では大したダメージにならないが、何が負けに直結するか分からない以上、攻撃は受けないに越した事はない。
そもそも、基礎的なスペックには差はそれほど無い。
ナギはバグキャラと言われるほどの身体能力や、魔法の扱いに長けている事が戦闘では長所として生きている。
だが、ほぼ全てのLv3のAKUMAの
そして、AKUMAはそれにプラスして、魔法の知識を大量に有している。
「『雷の暴風』!」
右腕から放たれる雷の奔流。膨大な魔力を込められたそれは、Lv3の装甲さえ貫けるだろう。
だが、甘い。
予備動作である詠唱と魔力を練るという段階で、既に強力な攻撃をしようとしていると言う事は分かっている。
なら話は早い。最も簡単なのは詠唱を止める事。次点で攻撃の範囲から外れる事。詠唱でどんな魔法か、大体判別が可能だからこそ出来る事だ。
当然、AKUMAは魔法の知識を有している。自身を破壊する可能性のあるモノを知らないと言う事は無い。
伯爵と繋がっているのだ。伯爵が魔法についての知識がある以上、破壊されない様に知識がそれぞれの個体に流れ込むのもまた道理でもあり。
放った後の技後硬直で一瞬動きが止まった所を、AKUMAに強烈な拳を入れられた。
「ご、あっ──!」
咄嗟に腕で庇ったが、それでも十数メートルをノーバウンドで飛ぶ。魔力による身体強化が無ければ死んでもおかしくない攻撃だ。
「くっ、そ。強ぇな、あいつ……」
あんちょこを見る為に眼を一瞬でも離せば、次の瞬間には殴られる。ナギとてそれ位は分かる。
しかも、一体一体別に固有の能力まで持っているらしい。随分とふざけたヤローだ、とナギは思う。
だが、それでも諦めるほどでは無い。十分に倒せる。魔力を練り上げ、重心を落として──地面を蹴った。
「魔法の射手 連弾・雷の十七矢!」
魔法の射手が飛ぶ。それはAKUMAには当たらず、地面へと直撃して土埃を上げる。
「こんなもので目くらましに出来るとでも──」
腕を振り、風を起こして土埃を払う。だが、視界の先にナギはいなかった。
「どこに──?」
「契約により 我に従え 高殿の王 来れ 巨神を滅ぼす 燃ゆる立つ雷霆」
声がしたのは、背後。膨大な魔力を練り上げ、広域殲滅魔法である『千の雷』の詠唱を行っている。
「させるかァッ!!」
足に強烈な"圧力"をかけ、解放して、一時的に巨大な斥力を得て、大きく跳ぶ。
このAKUMAの能力は"圧力"。部分的に圧力をかければ防御にも使えるし、同じ様に使って攻撃にも出来る、便利な能力だ。
それを、最大限活用して術の範囲外へと跳ぶ。
「百重千重と重なりて走れよ稲妻 『千の雷』!!!」
雷系最大呪文。魔力は「雷の暴風」の十倍以上が必要だが、それに見合った強大な広域殲滅用の魔法。一応対軍用の魔法なのだが、AKUMA個人に使って破壊をしようとした。
「……どうだ、クソ野郎」
凄まじい威力を誇る『千の雷』。それを、唯AKUMAを倒す為だけに、周りの事を考えないで放ったので、軽く地形が変わっている。気にもならないので大丈夫だろうとナギは判断する。
ダメージもあるし、魔力も使った。だが、まだ余裕がある。
詠春、アルの戦いはまだ終わっていない様なので手伝いに行こうとした瞬間、後ろを振り向いた。
其処には、半身が焼けて融けておきながらも、未だ破壊されていないLv3の姿があった。
「おったまげー。まだ生きてたのかよ……」
いやでも機械だから生きてるって言うのか? 等と軽口を叩くナギ。
「フ、フフフ、フフハハハハハッハハハッハハハハハハハ!!」
大口を開け、AKUMAは笑った。響く様な声で、不気味に笑う。
「やるなぁ、人間。面白い、面白いぞ! もっとだ、もっと殺し合うぞ!!」
左腕が吹き飛び、頭部も半分が焼けて融けている。気持ち悪い外見のまま、笑って、ナギへと肉薄した。
そもそも、Lv3では『千の雷』級の魔法は防げない。威力にしてもそうだが、雷の生み出す膨大な熱によって装甲が融けてしまう為だ。
だが、このAKUMAの能力は"圧力"。膨大な圧力をかけると物質は融点が高くなる。その為、ギリギリ回避の途中で装甲が融けきる事無く範囲外に逃げる事が出来た。
とはいっても、完全に避けきれたかと言えばそうではないし、融点が多少高くなっただけで雷の熱はそれを優に超す。零コンマ数秒程度の時間を稼ぐ位しか出来ない。
しかし、それで充分過ぎた。現に生き残り、ナギの目の前に立っている。
左腕は消し飛んだが、壊れる事に比べれば安いものだ。
「……ハッ、上等だ。今度こそぶっ壊してやるよ!!」
ニヤリと笑う。そして、真正面からの殴り合い。
近接戦闘型として、性能はナギにも引けを取らない。だが、左腕が無いと言うのはかなりのハンデとなる。
バランス、攻撃の量等、ハンデにしてはかなり大きい。しかも頭部も半分融けている為、視界は今までの半分。ナギが完全に有利な状況になった。
だが、AKUMAは疲弊など無い。それだけは、唯一残ったアドバンテージだろう。
殴り合いが続き、AKUMAが殴り飛ばされる。
「オラァッ! 『雷の斧』!!」
雷撃がAKUMAへと直撃し、傷口を抉る。
「まだ……まだ壊れぬわァァァ!」
体の損傷は激しく、動いているのも驚くほど装甲は壊れている。その状態でも防げるのは、ひとえに能力による防御力の上昇のおかげだろう。
「頑丈なヤローめ……」
息こそ切らしているが、ナギもまだ余力がある。最後の一撃を決めようと、距離を取ってあんちょこを見る。
「来れ雷精 風の精 雷を纏いて 吹きすさべ 南洋の嵐 『雷の暴風』!!」
瞬動で距離を詰め、殴ると同時にその魔法を発動させる。
カウンターの要領でAKUMAもまた殴りかかるが、ナギはそれを避けていた。
『雷の暴風』はAKUMAの体を貫き、飲み込んで、完全に破壊された。
装甲がバラバラになったそれを確認し、今度こそ倒した事を悟って座りこむ。
「あー、AKUMA強ぇな。畜生」
未だ戦っている詠春達の方に目を向け、少し休んだら手伝おうと思って休みだした。
●
詠春は京都神鳴流という流派を扱う剣士だ。
その実力は相当なレベルだが、武者修行の為、ナギと共にこの魔法世界へとやってきた。
そこらの敵には負けない程度の力はあると自負していたし、実際それだけの力を使っていた。
だが、詠春は今、左腕に大きなけがを負っていた。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
乱れた息を整えつつ、刀を構える。左手は怪我で上手く動かせない為、主に右手で扱う事になる。
油断していた訳では無い。唯、相性が悪かっただけ。初撃で斬りかかった直後、手痛い反撃を喰らっただけだ。
「どうした? もう終わりか、人間」
目の前にいる、黒に赤みがかった装甲のAKUMA。右手を振ると、爆炎が巻き起こって詠春を襲う。威力は『紅き焔』程度だが、直撃すれば火傷では済まない。
瞬動と虚空瞬動を駆使して攻撃を避け、刀を振る。
「雷光剣!」
雷撃が同時に放たれた爆炎とぶつかり、辺りに衝撃をまき散らす。土埃が起こり、それに隠れる様に下がって身を隠す。
剣が通用しない。
正確に言えば、斬っても斬れないのだ。とんちの様な状況だが、事実なので仕方がない。
(だが、アレは……)
あの現象は、一度だけ見た事がある。戦争で帝国と戦闘した際、敵軍かは分からないが体を"雷化"させた誰か。アルから聞いていなければ分からなかっただろうが、そう言う事が出来る奴もいるらしい、と詠春は思考する。
白い髪を立てて白い服を着て、特定の誰かを殺している様だった。あれに似ている。
あのAKUMAは炎を使う。ならば、"炎化"か? と予想を付け、様子をうかがう。
ギョロギョロと眼が回りを見て、詠春を探している。掌には炎を撒き起こしており、アレを使えば辺り一帯が焼け野原となるだろうと予測する。そもそも荒野なので植物など無いのだが。
刀を使う以上、一定圏内に入る必要がある。初撃は当てたものの、恐らくは体を"炎化"したのだろう。傷が入っていなかった。
今はあの炎の所為で近づけないが、次は斬る自信がある。
(……よし、後ろを向いた。今なら──)
ズズン……、と地面が揺れる。同時になった雷鳴や爆音なども考えれば、ナギが『千の雷』を放ったのだろうと予測できる。
同時に、それによって出来た土埃に乗じてAKUMAへと近づこうとする……が、その途中で足を止めて離れた。
瞬間、爆発。中心点は恐らくあのAKUMA。爆風が巻き起こり、土埃が掃われる。
(……爆発を使う事で、間接的に風を動かしているのか)
燃える為には助燃性の物質──即ち、酸素が必要だ。れっきとした科学現象であるが、魔力も使われているのは明白だ。
「いつまでかくれんぼをするつもりだ? いい加減焼き殺すぞ?」
体全体を"炎化"し、両手を上に掲げて巨大な炎の塊を作りだす。
「アレはまずいな……」
「そうですね。アレは少しばかり不味いかもしれません」
「ああ、どうにかして避けるかさっさとあのAKUMA、を……」
言葉が詰まり、隣を見れば、アルが考え込んだ様子で隣にいた。多少傷はあるが、詠春程では無い。
直ぐ様詠春は問い詰める。
「何故お前がここにいる!? 他のAKUMAと戦っていのではないのか!?」
「戦っていますよ。唯、こっちの相手と合流された様でして……それより、その傷治しましょうか?」
「それは厄介だ……頼む。刀が振り辛くてな」
直ぐに詠唱を唱え、詠春の腕を治療する。握っては開き、握っては開き、という動作を何度かして動きを確かめ、相手を見る。
先ほどのAKUMAと別のAKUMA。合流したようだが、どうするべきか。と考える詠春。
「詠春、あなたが戦っていた相手の能力は分かりますか?」
「恐らくは"炎化"だろう。攻撃が当たる瞬間、体が燃えて剣が当たらなかった。そっちは?」
「炎化ですか、厄介ですね。こちらも似た様なもので"木化"ですね」
「あの二体が同じ場所にいて大丈夫なのか?」
「火が燃え移ったりはしないでしょう、流石に。其処まで知らないので無いとは言い切れませんが」
詠春がなんとも微妙な顔をしてアルを見る。アルは相変わらず笑みを浮かべているだけだ。
「"木化"というのは、魔法世界にいる木霊を操る種族のモノと似ていますね。燃やす事の出来るモノを増やすでしょうから、厄介です」
「……どの道、あまり時間は無い。さっさと済ませるぞ」
「そうですね、ナギはもう終わった様ですし」
魔力の感覚、そして遠目にこちらを見ているのが分かる。
詠春は刀を構え、アルは回りに重力の塊を作りだす。
「では、行きましょうか」
「ああ」
そして、同時に地面をける。
同時に、AKUMAの知覚範囲へと入った事で攻撃が開始された。
「やっと出てきたか、もうそろそろこの辺り一帯焼け野原にしてやろうと思ったのになぁ!!」
AKUMAが叫び、腕を振るって爆炎を放つ。
威力自体はそれほど高い訳では無い。だが、数と長時間焼く事で人体を死に至らしめる。それが出来るのがこのAKUMAだ。
そもそも、威力だけでも普通の人間は簡単に焼き殺す事は可能だ。ふざけた程に範囲が広い為、本来は避けきる事も難しい。
「斬空閃!」
飛ぶ斬撃。炎を切り裂いて突き進み、AKUMAの体を切り裂く。
「無駄だと分からんか?」
もう一体のAKUMAが腕を振るい、辺りに木が生え、生物の様に蠢く。徐々に大きさを増し、爆炎に負けない様な巨木へと変化した。
木々が枝を槍の様にして突き出してくる。それをアルは重力の塊で押し潰し、辺りの木を沈めにかかる。
「神鳴流奥義──真・雷光剣!」
先ほどより一回り大きい雷撃が木々を破壊し、AKUMA達のいる場所への道を作り出す。
「無駄だと、何度言わせる!」
炎化しているAKUMAは詠春へと肉薄し、焼き殺そうと両手を伸ばす。刀を同時に振るうが、当たらないと確信して──。
──そして、AKUMAは両断された。炎化しているにも拘らず。
「何、故──」
「斬魔剣、弐の太刀」
それは、人を斬らず魔のみを斬る退魔の真骨頂とも呼べる力。神鳴流の宗家である青山家にしか受け継がれず、使い手と成り得る者さえ少ない。
その技を使う事で、本来攻撃の当たらない相手へと攻撃を加える事が出来た。
「詠春!」
「分かっている!」
もう一体のAKUMAに目をやれば、辺り一帯から生えた木の槍に切り裂かれながらも、重力で動きを止めているアルの姿があった。
瞬動で近づき、アルが重力魔法を解除すると同時に、切り裂く。
完全に破壊した事を確認して、木々を切り裂いてナギとの合流を目指す。
●
「スゲーな、アレ。AKUMAってあんな事も出来んのか」
一部森の様になっている場所を見て、ナギが面白そうだと声を上げる。
それを聞き、詠春は小さく溜息をついてナギへと言葉を返す。
「厄介な敵だったよ、全く」
「あの程度で厄介なんて言ってたら伯爵と戦えないわよ? アレよりよほど強いんだし」
「……戦った事あるんですか?」
「うん」
一度だけね、と続けるクレア。それ以上は話すつもりは無いらしい。
「でも、かなり強いわよ。少なくとも私よりはね」
「クレアの実力はどの位なんだよ。教えろよ」
ナギが駄々をこねる様にクレアへと質問を続け、クレアはそれを聞いて小さく笑う。
「それじゃ、アレは好都合かしらね」
クレアの指差す先には、数十体のAKUMA。Lv1や2もいれば、3もいる。大量のAKUMA達だ。恐らく、先ほどの騒ぎで集まってきたのだろうとクレアは考える。
その光景を見て、ナギ達が驚愕し、ぶつくさ言いながらも武器を構え始める。
「オイオイ、あんな数と戦うのは御免だぜ? 千の雷だって当たらなきゃ破壊出来ないんだしよ」
「大丈夫よ。私が全部破壊するから」
「え? いや、ホントLv3は強いんだって……」
「よりにもよってその専門家に言うんじゃないわよ。何度戦ったと思ってんの」
ナギ達を尻目に、AKUMA達の方を向き、手には水瓶を持って構える。
「イノセンス発動──行くわよ、『
発動すると同時、水瓶の中に大量の水が現出した。
水と言うモノは意外と重い。人間の頭大の大きさの水瓶となれば、中に全部水が入っていると結構な重さになる。
だが、クレアは重ささえ感じさせない軽い動きで中身を零す。零した水は空中で動きを止め、クレアの周りを浮遊し始める。
「……いや、ちょっと数多く無い?」
クレアが顔を上げると、先ほどの倍はいるであろうAKUMA。いつの間に増えたのよ。と愚痴をこぼすが、AKUMAをそれを聞いてさえいない。
空の一部が黒く見える。随分と大量のAKUMAがいるのねー。等と呟き、紅き翼の面々はクレアの楽観差に呆れた。ナギでさえも。
放たれる弾丸を浮遊している水で受け止め、防ぎきる。
「正直面倒臭いわね……『
そう呟くと、水瓶が形を変える。
純白に青色の装飾がなされている水瓶で、大きさは人間の頭ほどだった物が、人間大の巨大な水瓶へと変形した。
神秘的な輝きは失われず、その水瓶に溜まっている大量の水が溢れ出す。
「さぁ、一気に決めるとしましょう。『
水瓶から溢れる水の量が増える。それはドンドンとかさを増し、膨大な量となって浮遊する。
その量にナギや詠春はぽかんと口を開け、驚きを隠せないでいた。
水は意志を持って形を成し、生物のように蠢いて何かを形作る。それはまるで生物の様な──というか、生物の外見を持ってAKUMAを攻撃し始めた。
それは伝説の生物、リヴァイアサンとでも呼ぶべき存在。水で出来ているが、動きはまるで空を泳ぐ龍。次々にAKUMAを喰らい殺し、破壊していく。
当然AKUMAも反抗するが、この巨大な生物の前にはなすすべなく壊れていく。
「喰らい殺せ」
その一言で、水は形を変える。リヴァイアサンの様な巨大な姿は、大量の竜の
この水はクレアの意思一つでどこまでも操作できる。実体が水である以上、形を変える事など造作も無く、威力も相当なモノ。
あっという間にAKUMA達は喰い殺され、後に残るのは龍が暴れた後のみだ。
ハッキリ言って地形はかなり変わっており、大量のAKUMAの血はイノセンスの水──聖水によって浄化されている為、毒は無い。
「……ヤバ、やり過ぎた。元老院に見つかるかも」
うわぁ。とナギと詠春の二人はクレアをいろいろな感情が混ざった目で見ていた。
具体的には、二人が二人ともあり得ないモノでも見た様な顔をしながら。アルビレオは知っていた為、驚きは少ない様だが、それでも実際に目にしたのは初めてなのか、驚きは隠せていない。
「とりあえず、町まで行きましょうか」
良い笑顔でそう言うクレアに、三人は従う以外選択肢が無かった。