第十四夜:邂逅
エルファンハフトの宿。
ナギ達は痛々しい包帯を巻き、怪我の状態を確かめながら今後についてプリームム達と話す事にした。
「一応僕等の組織名を教えておくよ。『完全なる世界 』と、そう名乗っている」
「……お前等、これからどうするつもりなんだ?」
ナギの問いに、プリームムは一度頷いてから、
「これからエクソシストと合流して、AKUMAの討伐に向かう予定だ。再生核が無事だから、腕は直ぐにでも治る。アダドーがやられたのは痛手だけど、仕方がないね」
当初の予定はそれだけだったのだ。だが、千年伯爵を見つけた事で、それを推してでも戦うべきだと判断した。
少なくとも、伯爵が異常なまでに強いと言う事が分かっただけマシだろう。今まで、何の情報も掴めなかったのだから。
「俺達も怪我を治す必要がある。流石に包帯にグルグル巻きにされた状態であの人に会う訳にゃいかんだろうしな」
ガトウが煙草を吸いながら視線を動かす。
その視線の先には、ボロボロにやられている詠春とゼクト。ラカンは既に起き上がっていて動いている。
相変わらず丈夫な奴だよな。とガトウが呟き、バグキャラですから。とアルが言答えた。
当のバグキャラは外を見てくると言って出て行ったきりだ。しばらくすれば戻ってくるだろうと判断し。
「それで、君達にはとある場所に行って貰う必要がある」
「とある場所?」
「イノセンスが置いてある場所さ。連合にも存在するけど、帝国とアリアドネー、旧世界にもある」
「待ってください。我々が帝国に入ると不味い事になるのでは?」
アルがストップをかけ、プリームムに問いただす。
連合の虎の子であり、帝国からは恐れられる存在の『紅き翼』。それが帝国内部に現れたとなれば、パニックが起こるだろう。
「問題無いよ。上層部には黙っていれば問題無いし、彼らもそう思っているからね」
随分と反抗的な組織だが、アリアドネー以外の対アクマ組織は大体そんな物だ。
旧世界にも存在するが、ゲートを使って移動すれば必ずどこかに漏れる。それではむやみに混乱を起こすだけ。それは避けたい。
「君達には一度それらを確認して貰う。もしかすれば、イノセンスと適合できるかもしれないからね」
「そうだな。俺らも今まで魔法とかだけで戦ってたけど、やっぱりAKUMAとか伯爵と戦うにはイノセンスが必要だよな」
前々から考えていた事ではある。だが、イノセンスとシンクロ出来るか確かめる時間も無かったし、そもそも場所を知らなかった。
場所についてはクレアから聞けばいいのだろうが、結界で覆われていて見つけるのは難しいらしい。
「その辺については僕等の誰かが案内するよ。もしくはエクソシストの誰かに頼んでもいい」
「お前達は、どうするつもりなのだ?」
デュナミスの問いに、ガトウが答える。
「これから本国首都へ向かうつもりだ。戦争を終わらせる為に、な」
「ふむ。方法を聞きたいが、オスティアの姫を使うつもりだろう?」
「使う、とか人聞きの悪い事を言わないでくれ。頼られたんだ、助けない訳にはいかんだろう。それに、戦争を終わらせる事が出来るかもしれんしな」
当面の問題は、イノセンスに適合できるか調べる事と、AKUMAの破壊、戦争を終わらせる為に動く事。この三つ。
「オスティア王に関して言えば、我々の協力者だ。だが、どうにも信用できん。王女の方は全く関係が無いが、一応気を付けておけ」
デュナミスが顎に手を当てながらそう言う。
完全なる世界の協力者として、繋がってはいる。だが、明らかにそれでは説明の付かない行動が多い。
「戦争に関しては、悪役さえ仕立ててしまえばそれに全部丸投げ出来るのだろうけどね」
「まさか伯爵の事を世界にばらす訳にもいけませんしね……」
AKUMAの存在が露見してしまえば、経済が破綻する事は間違いないだろう。どうにかしてAKUMAと人間を見分ける事が出来るようにしたいものだ。
「……その役割を私達で負うならば。可能ではあるのだろうが」
セクンドゥムが、ポツリと呟いた。
隠されていて、各国と繋がっていて、人材も資金もある組織。確かに適役ではあるのだろう。
「我が主に進言しておく。私達が悪役となっても、世界が救われるならばそれでいい筈だ」
壁に寄り掛かったまま、セクンドゥムは静かに言った。デュナミスはそれに賛成の様で、ベッドの上で頷いている。
「とにかく、僕等はもう行くよ。時間だ」
再生核のおかげか、治療を続けていたおかげか、失われていた腕は完治している。手の感覚に不備がない事を確認し、全員が部屋から出て行った。
「……ハァ、千年伯爵、かぁ」
ナギがベッドに寝転びながらそう呟く。
「とんでも無い敵だな。どうにかして、戦えるようにならねぇと」
「焦ってばかりではどうしようもありませんよ。ひとまずはガトウの言っていた人と会わなければ」
「そうだな。だが、道中AKUMAに襲われると面倒だ。キッチリ怪我を治しておかねぇとな」
伯爵はナギ達を見逃した様な形だ。次に襲ってくる可能性は低い。それでも、最低限の戦力は整えておく必要がある。
「そうですね……一週間。いえ、四日。それだけあれば、治療も完全に終わるでしょう」
「会う日を調整しなきゃな。あっちも暇じゃないだろうし」
「まずは休む事から、だな。疲れた。寝る」
ナギはそう言って、ベッドの上で眼を瞑る。
アル達は数分話した後、ベッドの上からは規則正しい寝息が聞こえてきた。
●
メガロメセンブリア首都。日は沈みかけており、その場所には人気は無いが人はいる。
ナギ達紅き翼は、ガトウの指示によってこの場所に集まっていた。
気分転換も兼ねて町の中を散策したりと遊んでいたが、準備が出来たとの事でこの場所へ集まった。
「で、ガトウ。俺達に会わせたい人って誰だよ? 態々ここまで来たんだ、何か重要な話なんだろ?」
「会って欲しい人がいる。協力者だ」
「協力者?」
詠春は回りを見渡し、一人の人物を見つける。白髪の老人、豪勢な服を着た男性だ。その姿を見つけるなり、詠春が驚きの声を出す。
「マクギル元老院議員!」
「いや、わしちゃう。主賓はあちらの御方だ」
マクギルの奥。フードをかぶったまま現れた女性。
青と緑のオッドアイ、腰まである金髪、白い肌。若く美しい女性だ。
「ウェスペルタティア王国……アリカ王女」
ガトウは静かにそう告げ、全員がその女性の方を向く。
「アリカ・アナルキア・エンテオフォシアじゃ」
「…………」
ナギは呆然としており、ラカンからすれば見とれているようにしか見えないらしく、笑いを堪えているのが分かる。
マクギルとガトウは今後の事もあるので、話し合いの為に一旦場所を移した。
「始めましてだな。俺様の名前はジャック・ラカンだ。何かあったら頼ってくれていいぞ」
「気安く話しかけるな。下衆が」
挨拶をしたがバッサリと切られ、ラカンは黙る。余計なこと言ったかな、と頭を悩ませているだけだが。
「えっと……ナギ・スプリングフィールドだ。よろしく」
「うむ。主が紅き翼のリーダーだな。今後助力を頼むと思うが、よろしく頼むぞ」
「ああ、まかせてくれ。俺達に出来る事があればやるからよ」
紅き翼のリーダーだからなのか、ナギにだけはある程度温和な態度を見せるアリカ。
それを見て、ラカンはまた面白いモノでも見たかのように口元をニヤけさせる。
●
「ワハハハハハ! 上手い事やりやがって、このガキャ!!」
ラカンがナギの背中をバンバンと叩きながら豪快に笑う。
「な、何がだよ!」
「何言ってやがる。あの姫さんとキャッキャウフフと話してたじゃねーか!」
「何がキャッキャウフフだ。必要な事話してただけだろーが!」
「俺なんて一言でバッサリ切られたんだぜ。マシな方だろ!」
ひとしきり笑い終えた後、ナギに問う。
「で、あの姫さん。姫子ちゃんの関係者だろ? 何か聞けたのか?」
「いや……姫子ちゃんの事は、何か話しにくいみたいだった」
「へぇ……アリカ姫、ね」
『帝国』と『連合』の中間に位置する国である為、二つの巨大勢力に翻弄され続けた国の王女。
「王の方は、少なくとも戦争が続こうと続くまいと関係なさそうだった。一度会った時、民が無事ならそれで良いって言ってたしな」
ガトウが煙草をふかしながら言う。
「姫さんの方は戦争を終わらせようと、自らが調停役となって戦争を終わらせようとしたが、力及ばず俺達に力を求めてきたってわけか」
「そうなるな。俺達の目的とも一致するし、これは早めに何とかしなくちゃならん」
「千年伯爵、か。あの野郎、一体どういう手で国の政治にまで口出しできんだよ!」
拳を握りしめて、ナギが言う。
普通に考えれば、世界を滅ぼそうとする伯爵に力を貸そうとする人間がいるとは思えない。手を貸してしまえば、自分が死ぬ可能性が高まるだだというのに、だ。
操られているとしか思えないほど、首脳陣の行動は矛盾している。
「戦争やりたい奴等……やっぱ戦争があると儲かるマフィアとかも協力を取り付けてんのか?」
「だが、下手な事をすれば自分達が死ぬだけだぞ。そんな危険な奴に協力しようとするなら、それなりの理由がある筈だ」
命を対価にしても手に入れたい何か。それは一体何か。
「いや……もしかしたら、伯爵が出した条件は身の安全かも知れん」
「どういう事だ?」
「AKUMAに襲わせない様に言えば、自由に動き回れる。AKUMAの脅威に怯える必要が無いんだ。それどころか、利用価値があると判断されていれば、戦力として数える事も出来るかもしれんしな」
戦争をやる事で利益を得て、伯爵に荷担する事で身の安全を確保する。そういった手法ではないか、とガトウは言うのだ。
戦争が長引けばそれだけ伯爵のAKUMAは増え、利益と共に安全性も上がる。正に一石二鳥のボロ儲けだ。
但し、それは伯爵がどこかの組織と手を組んでいると言う事が念頭に置かれる。
例えば元老院や王族、各国の重要なポストにAKUMAが居る筈がないと、ガトウ達は先入観を持ってしまった。
ノアは知られていない為、アベルの事はバレる事は無い。が、いずれノアの存在も露見する。時間の問題だろう。
戦争を長引かせる為に国際マフィアなどと手を組む事は実際にやっている。だが、AKUMAの存在までばらすか否か。それは否だ。
態々擬態してバレる事の無い存在を、自分の手でバラす必要性が無い。
それを、ガトウ達は分かっていないのだ。
「……少なくとも、暫くは今まで通りAKUMAを狩る事と、戦線の無意味な拡大を止めさせることぐらいか」
「そうだな。また動く必要がある。プリームム達と連絡を取らないとな」
「少し休暇を取ってから、ですよ。流石に詠春はまだ完治して無いんですから」
一番深いダメージを受けた詠春は、服の下は未だ包帯で巻かれている。しばらくは休養が必要だ。
「ゆっくり、確実に追い詰めねぇとな」
逃がす事は出来ない。今は勝てなくても、次勝てればいいのだから。
●
「つーわけでお師匠。稽古付けてください」
「うむ。場所はダイオラマ魔法球を用意した。時間は現実時間と変わらんが、スペースを確保する為じゃな」
ゼクトの部屋を訪れ、早速土下座の勢いで修行を頼むナギ。
既に来ると予想していたのか、準備は完全に整えられている。
「お前の魔法は無駄が多い。ちゃんとした座学も受ければ伸びるじゃろう」
その言葉を聞き、ナギは今までで一番いやな顔をするが、ゼクトは気にもしない。
「さて、早速入るぞ」
「いや、お師匠。俺は戦いの修行を付けて貰いたいのであって、勉強とか死んでも拒否するいやホントちょっと待っ──」
ゴチャゴチャ言うナギを引っ張ってダイオラマ魔法球の中へ引き摺りこむゼクト。折角の機会だからキッチリ教え込もうとゼクトの目は光っていた。
後日。頭から煙を吹いているナギがゼクトの部屋で倒れているのが発見された。
あとがき
二話ほどUPしました。一応見直しして加筆してるので、前よりも表現が綿密になってるとイイナーと思う次第です。
本格的なノアの活躍はまだまだ後です。書いてる俺が待ち遠しい(え
エルファンハフトの宿。
ナギ達は痛々しい包帯を巻き、怪我の状態を確かめながら今後についてプリームム達と話す事にした。
「一応僕等の組織名を教えておくよ。『
「……お前等、これからどうするつもりなんだ?」
ナギの問いに、プリームムは一度頷いてから、
「これからエクソシストと合流して、AKUMAの討伐に向かう予定だ。再生核が無事だから、腕は直ぐにでも治る。アダドーがやられたのは痛手だけど、仕方がないね」
当初の予定はそれだけだったのだ。だが、千年伯爵を見つけた事で、それを推してでも戦うべきだと判断した。
少なくとも、伯爵が異常なまでに強いと言う事が分かっただけマシだろう。今まで、何の情報も掴めなかったのだから。
「俺達も怪我を治す必要がある。流石に包帯にグルグル巻きにされた状態であの人に会う訳にゃいかんだろうしな」
ガトウが煙草を吸いながら視線を動かす。
その視線の先には、ボロボロにやられている詠春とゼクト。ラカンは既に起き上がっていて動いている。
相変わらず丈夫な奴だよな。とガトウが呟き、バグキャラですから。とアルが言答えた。
当のバグキャラは外を見てくると言って出て行ったきりだ。しばらくすれば戻ってくるだろうと判断し。
「それで、君達にはとある場所に行って貰う必要がある」
「とある場所?」
「イノセンスが置いてある場所さ。連合にも存在するけど、帝国とアリアドネー、旧世界にもある」
「待ってください。我々が帝国に入ると不味い事になるのでは?」
アルがストップをかけ、プリームムに問いただす。
連合の虎の子であり、帝国からは恐れられる存在の『紅き翼』。それが帝国内部に現れたとなれば、パニックが起こるだろう。
「問題無いよ。上層部には黙っていれば問題無いし、彼らもそう思っているからね」
随分と反抗的な組織だが、アリアドネー以外の対アクマ組織は大体そんな物だ。
旧世界にも存在するが、ゲートを使って移動すれば必ずどこかに漏れる。それではむやみに混乱を起こすだけ。それは避けたい。
「君達には一度それらを確認して貰う。もしかすれば、イノセンスと適合できるかもしれないからね」
「そうだな。俺らも今まで魔法とかだけで戦ってたけど、やっぱりAKUMAとか伯爵と戦うにはイノセンスが必要だよな」
前々から考えていた事ではある。だが、イノセンスとシンクロ出来るか確かめる時間も無かったし、そもそも場所を知らなかった。
場所についてはクレアから聞けばいいのだろうが、結界で覆われていて見つけるのは難しいらしい。
「その辺については僕等の誰かが案内するよ。もしくはエクソシストの誰かに頼んでもいい」
「お前達は、どうするつもりなのだ?」
デュナミスの問いに、ガトウが答える。
「これから本国首都へ向かうつもりだ。戦争を終わらせる為に、な」
「ふむ。方法を聞きたいが、オスティアの姫を使うつもりだろう?」
「使う、とか人聞きの悪い事を言わないでくれ。頼られたんだ、助けない訳にはいかんだろう。それに、戦争を終わらせる事が出来るかもしれんしな」
当面の問題は、イノセンスに適合できるか調べる事と、AKUMAの破壊、戦争を終わらせる為に動く事。この三つ。
「オスティア王に関して言えば、我々の協力者だ。だが、どうにも信用できん。王女の方は全く関係が無いが、一応気を付けておけ」
デュナミスが顎に手を当てながらそう言う。
完全なる世界の協力者として、繋がってはいる。だが、明らかにそれでは説明の付かない行動が多い。
「戦争に関しては、悪役さえ仕立ててしまえばそれに全部丸投げ出来るのだろうけどね」
「まさか伯爵の事を世界にばらす訳にもいけませんしね……」
AKUMAの存在が露見してしまえば、経済が破綻する事は間違いないだろう。どうにかしてAKUMAと人間を見分ける事が出来るようにしたいものだ。
「……その役割を私達で負うならば。可能ではあるのだろうが」
セクンドゥムが、ポツリと呟いた。
隠されていて、各国と繋がっていて、人材も資金もある組織。確かに適役ではあるのだろう。
「我が主に進言しておく。私達が悪役となっても、世界が救われるならばそれでいい筈だ」
壁に寄り掛かったまま、セクンドゥムは静かに言った。デュナミスはそれに賛成の様で、ベッドの上で頷いている。
「とにかく、僕等はもう行くよ。時間だ」
再生核のおかげか、治療を続けていたおかげか、失われていた腕は完治している。手の感覚に不備がない事を確認し、全員が部屋から出て行った。
「……ハァ、千年伯爵、かぁ」
ナギがベッドに寝転びながらそう呟く。
「とんでも無い敵だな。どうにかして、戦えるようにならねぇと」
「焦ってばかりではどうしようもありませんよ。ひとまずはガトウの言っていた人と会わなければ」
「そうだな。だが、道中AKUMAに襲われると面倒だ。キッチリ怪我を治しておかねぇとな」
伯爵はナギ達を見逃した様な形だ。次に襲ってくる可能性は低い。それでも、最低限の戦力は整えておく必要がある。
「そうですね……一週間。いえ、四日。それだけあれば、治療も完全に終わるでしょう」
「会う日を調整しなきゃな。あっちも暇じゃないだろうし」
「まずは休む事から、だな。疲れた。寝る」
ナギはそう言って、ベッドの上で眼を瞑る。
アル達は数分話した後、ベッドの上からは規則正しい寝息が聞こえてきた。
●
メガロメセンブリア首都。日は沈みかけており、その場所には人気は無いが人はいる。
ナギ達紅き翼は、ガトウの指示によってこの場所に集まっていた。
気分転換も兼ねて町の中を散策したりと遊んでいたが、準備が出来たとの事でこの場所へ集まった。
「で、ガトウ。俺達に会わせたい人って誰だよ? 態々ここまで来たんだ、何か重要な話なんだろ?」
「会って欲しい人がいる。協力者だ」
「協力者?」
詠春は回りを見渡し、一人の人物を見つける。白髪の老人、豪勢な服を着た男性だ。その姿を見つけるなり、詠春が驚きの声を出す。
「マクギル元老院議員!」
「いや、わしちゃう。主賓はあちらの御方だ」
マクギルの奥。フードをかぶったまま現れた女性。
青と緑のオッドアイ、腰まである金髪、白い肌。若く美しい女性だ。
「ウェスペルタティア王国……アリカ王女」
ガトウは静かにそう告げ、全員がその女性の方を向く。
「アリカ・アナルキア・エンテオフォシアじゃ」
「…………」
ナギは呆然としており、ラカンからすれば見とれているようにしか見えないらしく、笑いを堪えているのが分かる。
マクギルとガトウは今後の事もあるので、話し合いの為に一旦場所を移した。
「始めましてだな。俺様の名前はジャック・ラカンだ。何かあったら頼ってくれていいぞ」
「気安く話しかけるな。下衆が」
挨拶をしたがバッサリと切られ、ラカンは黙る。余計なこと言ったかな、と頭を悩ませているだけだが。
「えっと……ナギ・スプリングフィールドだ。よろしく」
「うむ。主が紅き翼のリーダーだな。今後助力を頼むと思うが、よろしく頼むぞ」
「ああ、まかせてくれ。俺達に出来る事があればやるからよ」
紅き翼のリーダーだからなのか、ナギにだけはある程度温和な態度を見せるアリカ。
それを見て、ラカンはまた面白いモノでも見たかのように口元をニヤけさせる。
●
「ワハハハハハ! 上手い事やりやがって、このガキャ!!」
ラカンがナギの背中をバンバンと叩きながら豪快に笑う。
「な、何がだよ!」
「何言ってやがる。あの姫さんとキャッキャウフフと話してたじゃねーか!」
「何がキャッキャウフフだ。必要な事話してただけだろーが!」
「俺なんて一言でバッサリ切られたんだぜ。マシな方だろ!」
ひとしきり笑い終えた後、ナギに問う。
「で、あの姫さん。姫子ちゃんの関係者だろ? 何か聞けたのか?」
「いや……姫子ちゃんの事は、何か話しにくいみたいだった」
「へぇ……アリカ姫、ね」
『帝国』と『連合』の中間に位置する国である為、二つの巨大勢力に翻弄され続けた国の王女。
「王の方は、少なくとも戦争が続こうと続くまいと関係なさそうだった。一度会った時、民が無事ならそれで良いって言ってたしな」
ガトウが煙草をふかしながら言う。
「姫さんの方は戦争を終わらせようと、自らが調停役となって戦争を終わらせようとしたが、力及ばず俺達に力を求めてきたってわけか」
「そうなるな。俺達の目的とも一致するし、これは早めに何とかしなくちゃならん」
「千年伯爵、か。あの野郎、一体どういう手で国の政治にまで口出しできんだよ!」
拳を握りしめて、ナギが言う。
普通に考えれば、世界を滅ぼそうとする伯爵に力を貸そうとする人間がいるとは思えない。手を貸してしまえば、自分が死ぬ可能性が高まるだだというのに、だ。
操られているとしか思えないほど、首脳陣の行動は矛盾している。
「戦争やりたい奴等……やっぱ戦争があると儲かるマフィアとかも協力を取り付けてんのか?」
「だが、下手な事をすれば自分達が死ぬだけだぞ。そんな危険な奴に協力しようとするなら、それなりの理由がある筈だ」
命を対価にしても手に入れたい何か。それは一体何か。
「いや……もしかしたら、伯爵が出した条件は身の安全かも知れん」
「どういう事だ?」
「AKUMAに襲わせない様に言えば、自由に動き回れる。AKUMAの脅威に怯える必要が無いんだ。それどころか、利用価値があると判断されていれば、戦力として数える事も出来るかもしれんしな」
戦争をやる事で利益を得て、伯爵に荷担する事で身の安全を確保する。そういった手法ではないか、とガトウは言うのだ。
戦争が長引けばそれだけ伯爵のAKUMAは増え、利益と共に安全性も上がる。正に一石二鳥のボロ儲けだ。
但し、それは伯爵がどこかの組織と手を組んでいると言う事が念頭に置かれる。
例えば元老院や王族、各国の重要なポストにAKUMAが居る筈がないと、ガトウ達は先入観を持ってしまった。
ノアは知られていない為、アベルの事はバレる事は無い。が、いずれノアの存在も露見する。時間の問題だろう。
戦争を長引かせる為に国際マフィアなどと手を組む事は実際にやっている。だが、AKUMAの存在までばらすか否か。それは否だ。
態々擬態してバレる事の無い存在を、自分の手でバラす必要性が無い。
それを、ガトウ達は分かっていないのだ。
「……少なくとも、暫くは今まで通りAKUMAを狩る事と、戦線の無意味な拡大を止めさせることぐらいか」
「そうだな。また動く必要がある。プリームム達と連絡を取らないとな」
「少し休暇を取ってから、ですよ。流石に詠春はまだ完治して無いんですから」
一番深いダメージを受けた詠春は、服の下は未だ包帯で巻かれている。しばらくは休養が必要だ。
「ゆっくり、確実に追い詰めねぇとな」
逃がす事は出来ない。今は勝てなくても、次勝てればいいのだから。
●
「つーわけでお師匠。稽古付けてください」
「うむ。場所はダイオラマ魔法球を用意した。時間は現実時間と変わらんが、スペースを確保する為じゃな」
ゼクトの部屋を訪れ、早速土下座の勢いで修行を頼むナギ。
既に来ると予想していたのか、準備は完全に整えられている。
「お前の魔法は無駄が多い。ちゃんとした座学も受ければ伸びるじゃろう」
その言葉を聞き、ナギは今までで一番いやな顔をするが、ゼクトは気にもしない。
「さて、早速入るぞ」
「いや、お師匠。俺は戦いの修行を付けて貰いたいのであって、勉強とか死んでも拒否するいやホントちょっと待っ──」
ゴチャゴチャ言うナギを引っ張ってダイオラマ魔法球の中へ引き摺りこむゼクト。折角の機会だからキッチリ教え込もうとゼクトの目は光っていた。
後日。頭から煙を吹いているナギがゼクトの部屋で倒れているのが発見された。
あとがき
二話ほどUPしました。一応見直しして加筆してるので、前よりも表現が綿密になってるとイイナーと思う次第です。
本格的なノアの活躍はまだまだ後です。書いてる俺が待ち遠しい(え