「よ〜し、今日こそは…今日こそは成功させるぞ〜!!」
GジャンにGパンを着て頭に巻いたバンダナを強く締める少年はやる気(今は周りに誰も気づく者がいないが霊力)を漲(みなぎ)らせ、玄関を飛び出していく。
「こら!忠夫!ドアを閉めていきなさい!」
人類最強ではないかと疑っている母の怒った声が耳に入り、慌てて戻りドアを閉めて再び出陣。
彼は横島忠夫、ちょっと(?)煩悩が強い中学二年生だ。
数々のナンパを繰り返し、そして敗北数はナンパ数=、つまり0%。
だが、そんな逆境にもめげず、ひたすらナンパの日々を送っている…たまに警察との鬼ごっこも…
そして今日こそ今日こそは!と意気込んでいる。…どうせ無駄なのだが。
「そっこのおねえ———!!」
街へと辿り着き、1分もしないうちにターゲットをロック、そして走りながら声を掛けようとするが途中で横顔が目に入った瞬間、急に自分自身が知らない情報が雪崩れ込み、頭が割れそうに痛いのを手で押さえて膝を地面につける。
「な、なんや…これ」
頭の中で明確に映し出される自分のようで自分ではない自分が陰陽師の姿をしていて、不真面目ながらも陰陽術の訓練を行う姿や数々の若い女に夜這いを遂行する後姿や西郷という名の悪友とじゃれ合う姿………そして
「ぐあ!うっ」
大事な事だと本能が告げているにも関わらず何かが押し止めるかのように映像が乱れ、そして唐突に途絶えてそこから先は何も起こらなくなる。
「ハァ、ハァ、ハァ…なんなんやいったい」
痛みの余韻はなく、苦しさも軽い呼吸困難だっただけで深呼吸する事で治った。
「陰陽師っていやぁ確か…映画で安部清明って奴がやってたアレか?」
そんな事考えとる場合やなかった!と慌ててさっきの女性を探すが見つからなかった。
「ちぇ…なんか色々視えるようになってるみたいやけど…どうせなら千里眼とか透視とか役に立ちそうなものよこせ!」
心の底からの絶叫。
「ねえお母さん、あの人—」
「あの年頃の男の子は毒電波を受信するものなのよ」
ナンパをしようとして邪魔をされ、そしてナンパに役に立ちそうにもない知識を手に入れ、そして通りがかった親子に妙な評価を貰ってしまった。
「まったく…」
記憶を視る事で肉体的に(本人は気づいていないが霊体的にも)疲れたので大事な、大事な、大事なナンパを中止して家で寝る事にした。
「そういえば、式神とか言ったっけ…ちょっと面白そうだよな」
頭の中では、代わりに学校行ってもらってその間にナンパを…とか考えている所はさすがだ。
「明日も祭日で休みだし早速作ってみるか」
自分でも凄く珍しいと言えるほどの集中力でとうとう完成した。
「よっしゃあぁ出来た!呪いの藁人形!」
…途中から何か予定とだいぶずれてないか?と思ったが、これも思いの形の一つである事は事実。
「これをもって我が宿敵(モテる美形)を討つべし!」
今までそんな事をしようものなら周りの女の子まで敵にしていまうので手が出せなかったが(周りからすれば十分手を出していたが)これなら自分がやっていると気づかれまい、と黒い何かを漏らして微笑んでいる。
…思ったのだがモテる美形が敵なら美女と野獣のような組み合わせの場合は怨む対象になるのだろうか?…なるんだろうなぁ。
「よし、早速テストに出かけ———」
「今日も綺麗だよ」
「ふふ、ありがとうございます」
なんて惚気が窓の外から聞こえる…まるでタイミングを計ったかのように獲物(美形のバカップル)が1組。
「おのれ〜!!顔なのか!やっぱり顔なんか!?早速成敗してくれる!」
いてまえやゴルァ〜と己の部屋の柱に藁人形を釘を打ち付ける。
その一撃は釘の頭まで沈めさせ、結果。
「はぐ!!」
胸を押さえて膝を突き、呼吸困難でも起こしたかのような症状が起こる…
自分に
「な、なんでや」
遠のく意識をギリギリで繋ぎとめながらなんと起き上がる。
実は対象が彼女がいるって言う嫉妬はあったが、男の方は美形とまでいかず、女の方も好みから若干外れていた事で煩悩パワー(霊力)が足りなかった結果呪詛返し(この場合自爆?)となって己の身に降り注いだのである。
知識を手に入れても正しい霊力の使い方意味がないのである。
5分ほどして痛みはなくなった。
「なんでこんなことに………ま、悩んでもしゃあないか、予定通り式神作ろ」
式神自体は結構簡単な物で人型に切り抜いた紙に術式を書くだけでいいのだが…
「あれ?霊力を籠めるってどうやってやるんだ?」
前世の記憶があろうが横島は横島なのだ。
いくら作者が最強orチートした主人公好きとはいえそんなに楽に強くする気はない。
「ん〜…お、あった」
前世の記憶の中で霊力の扱い方に関しての知識がないか探ってみた結果、見つけたのはいいが。
「って滝に打たれるとか肉抜き料理(精進料理)とかそんなん嫌じゃ〜!妙神山なんてのはもっと嫌じゃ〜!」
一般的に修行僧が行っている修行が霊力を高める行為であるのだが横島がそれをよしとする訳もなく、妙神山はあるという記憶だけがあり、修行の内容は何故かガチガチに封印されていてどういった修行をしていたのか分からないが漠然と『恐怖』だけは伝わった。
だが、ここで挫けないのが横島忠夫。
なんとか楽して霊力が使えるようにならんかと思考を巡らす…そして行き着いた先は。
「誰かにちょろっと教えてもらうか?ってGSの知り合いなんぞおらんしな〜」
居たとしても割りと危険が付き物の職業上簡単には教えてくれないだろう事ぐらい横島でも察しがつく。
「これじゃ『学校に式神を行かせてその間ナンパ大作戦』が失敗に終わってまうやないか〜!」
彼の頭の中ではナイスボディな姉ちゃんとウハウハな妄想…煩悩が展開されている。
ボン!
と小さい爆発音と共に式神が起動する。
その姿は人型、成功か…と思われたが…
「おお!こ、これは!」
現れた式神は邪ま…じゃなくて横島の煩悩の影響を受け、理想的な顔立ちと体型を再現されていた。(邪まで間違ってないか)
「おっねえさ〜…てチョット待てよ?これって実は自慰行為と変わらんのか?………ま、いいや!気を取り直して、おっねえさ〜ん!」
もうSSでお馴染みのルパンダイブで自分の式神に飛び込む。
「ぎょべっ!」
本来の式神ならここは黙って抱きつかれてあんな事やこんな事をしても反応はない。
そこは横島クオリティ(お笑い道&非常識道)どんな間違え方をしたのか主に対して従順な式神ではなく簡易的ではあるが個として意思を持っていた(好き嫌い、気分が良い悪い程度に)、そして結果として拒まれ、空中にいる横島を地面に叩き落した。
「な、なんでや〜!なんでなんや!自分の式神にこないなことされなあかんねん!」
式神は『はぁ』と溜め息をついたように見え、そして顔を横に何回か振り『やれやれ』と言っている様だ。
「な、なんか式神に呆れられたような…」
頷いてそれを肯定する。
「やっぱ顔なんか!?やっぱ顔なんやな?!」
『いやいやそうじゃないって』と思うが式神は声を出す事は出来ないため相手に届く事はない。
「そういや、なんで式神がこんな綺麗なねーちゃんになったんだ?俺は自分そっくりな者を作るつもりだったのに…というかこの姿どっかで見たことがあるような」
先日ナンパしようとした女性と似ているのだが、主に体型を見て横顔を一瞬確認しただけの上、前世の記憶が蘇った時のインパクトが強すぎて気づけないのである。
「けどなぁ、エルフ耳の知り合いなんていないし…もしかしてロードス、ゴホゴホ…何だ、ゴホ、喉が…」
変な電波を受信するのはやめてください。
「それに…なんでこんなに胸が痛いんや…ついでに眉間も痛い」
まさか目の前の式神のせいで前世の思いと死因の痕であるとは前世の記憶であると分かってもいないのに分かるはずがない。
もっとも前世の記憶である事が分かっていても平行世界(原作)でカオスが現代で記憶が思い出せなかったのは横島達が過去に行き何をしたかを知っていては不都合だと宇宙意思が横島達自身が知るまで思い出させなかった…それと同じである。
(ところでこのおねーちゃんはどうしよう?今母さんに見つかったら)
後に「自分で血が引く音って初めて聴いた気がした」と事情を全くは説明せずに友人につぶやいて困らせたと言う。
顔色が悪いからか式神が肩を叩いて『大丈夫か?』と語っているようだ。
「ん?あれ?おまえ…なんか透けてるというか存在感薄くなってね?」
『そろそろ限界だからね』と頷いて肯定する。
いくら煩悩魔神の横島とは言え、煩悩で湧いた霊力が膨大でも式神に偶然漏れた程度の霊力で式神は長い間存在はしていられないのだ。
「あれ、なんでだ…なんで俺泣いてんだ」
消えていく式神を見て少し寂しく思うがこれほどぼろぼろと涙を流すほどではないと思うんだが…と首を捻るがとりあえず今は保留。
「じゃあな、短い時間だったけど…『また会おうな』」
ほとんど存在感がない式神の顔が微笑んだような気がした。
まだ止まらぬ涙をゴシゴシと袖で拭き収まるまで10分かかって目が真っ赤になり見事に腫れ上がっているので両親を誤魔化すのに苦労する事となる。
「…謎のシュガーナッツが割れて(覚醒して)から早一週間…なんの成果もあがっとらん…やっぱり誰かに弟子入りするかぁ?」
今回の電波は具体的ではないので誤魔化し無し。
霊符や式神の依り代などを作る事自体は簡単に出来始めた。
これは普通のGSを目指す者なら確かな成果かもしれないが横島にとってはナンパする間代わりに学校行ってくれる式神じゃないと意味なし!と言っているのを聞いたらなんて思うだろうか?
うまく作ったつもりでもどんなに頑張っても霊符はうんともすんとも言わず、何をどうすればいいのか思い悩んでいた。
「ん?そういえば近くにお人よしな一流GSがいる心霊現象相談所ってのがあったな」
昨日から近くのコンビニでGSが特集されている雑誌を立ち読みして仕入れた情報の中にそんな一文があった事を思い出す。
GSで大成するのには古く霊能力者が続く血脈や先祖返りなどで一般人がGSになる事は滅多にないがそれでも年に一人ぐらいはGSになり、十年に一人ぐらいが大成すると言われている。
そしてその入り口として一般的なのがGS協会が管理する心霊現象相談所である。
元々はGSがどういった職業なのかを説明したり、悪霊が現れたなどの場合はプロのGSに仲介をする事がメインなのだが、最近は霊能力に目覚めた人や霊感が強い人達が危険な霊に狙われないよう、GSになれるようにプロのGSを紹介したり教育したり自己防衛が出来る程度の手解きなどをしている。
横島はそれにお世話になろうと思ってはいたが正直暑苦しい男や記憶にあったような厳しい修行は遠慮願いたいのだ。
そしてそのお人よりな一流のGSは男ではあるが神父であり、貧しい人達の依頼は無料で受けたりしているとバッシング(GSの雑誌の為無料など持っての外なのでこう書かれている)されているぐらいなのであまり厳しい修行はさせないだろうと考えたのである。(実は霊感による直感だったりする)
「と思って来てみれば…なんだこりゃ?」
人はいる。
確かに人はいるのだ。
だが…
「なんで幽霊ばかりいるんだ?って袖引っ張らないでねお嬢ちゃん…いやいや憑きたいとか言われても困るよ俺」
「おや?何か相談事かな?」
「あ、はい。俺は横島忠夫といいます」
「私は唐巣といいます。少し離れた教会で神父をしております。今はここで講義しています」
「じゃあ先生なんですね。よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします…ところでなぜここに?」
「実は最近———」
ちょっと待て俺、と自分を静止させる。
ここで『妙な記憶というか知識と言うかを知ってしまって〜』なんて言ったら、ひょっとしたらオカルト系でも怪しいもの扱いで精神病院とか送られるかもしれないし、何かに憑かれてる〜なんて思われたら面倒くさい上に除霊って結構お金掛かるらしい事は横島でも知っていた。
「陰陽師のGSと変な縁がありまして、ただ霊符とか式神とかの作り方とか使い方は習ったんですが霊力云々を習う前に何処かに行ってしまって」
「なるほど…それで霊力の使い方を教えて欲しいと」
「はい」
「用件はわかりました…ですが、迂闊にオカルトには踏み込まない方がいいと思いますが」
「と言われても偶然だけど式神一回呼んじゃったんだよなぁ」
「式神ですか」
確かに初心者向けではあるが一般人では霊力をコントロールできているなら少し霊力が強い者なら起動する事は可能なので唐巣神父も(訓練もせずに式神を使うとなると才能があるのでしょう)と考えているが事実は市販されているような式神ケント紙のようなインスタントの式神ではなく、平安の時代に自分達より強い妖怪などと対等に闘うために創り出した本来の式神を呼び出したとは思いもしない。
「ま、本当に偶然でそれから何回も試したけど一回もうまくいかないッス」
「ふむ…とりあえず、横島クンの事を教えてくれますか?」
「あ、そうっすね」
自己紹介(横島的にはナンパは趣味でも何でもなく『日常』であるので話さず)をして、雑談を交えて話の区切りがついた所で頷いていう。
「あなたはGSになりたいのですか?」
「ん〜、その辺はまだ決めてないんです。自分がどの程度の力があるか判ってからにしようと思うんすけど…」
「そうですか…そうですね。時間はまだあります。そんなに慌てて決めるような事でもありませんからゆっくり考えなさい。もちろん私も相談に乗りましょう」
「ありがとうございます」
「今日はもう遅いですし帰りなさい」
「ういッス」
周りに幽霊…しかも妙齢の女性は居らず、老人か子供しかいない状況だった事が幸いし話はトントン拍子に進んでホッと肩を撫で下ろしして家へと足を向ける横島、それを見送る唐巣神父、この出会いが後に自分の神(髪)に色々なダメージを与えるようになるのだがそれはまだまだ先の話…ではないのかもしれない。