横島が唐巣神父の下で修行…というよりは勉強という程度…をするようになって一週間。
実質二日目には霊力を使えるようになった。(雀の涙ほどだが)
最近唐巣神父の霊感が警告を頻繁に鳴らすようになった。
それが横島に関してである事は分かるのだが…危険な類ではなく、あの親子や式神使いの親子の厄介事に巻き込まれる時のような感じの…
(おや?それは危険なものでは?)
「唐巣神父〜」
などと考えていたらドアを壊さんばかりに勢いで入ってきたのは『何か』あるだろう本人、横島。
「いらっしゃい。どうしました?そんなに急いで」
周りにいる常連、初対面の幽霊にそれぞれ挨拶しながらこちらに来る。
「やっと霊符使えたんすよ!見てもらえますか!」
まるで子供のようにはしゃいで報告する所を見ているとまだ中学生と実感する唐巣神父。
「わかりました」
最近購入したベルトポーチから自分で作ったであろう霊符を取り出して霊力を込める。
「みんな〜ちょっと外へ出てもらえるかな?」
『了解じゃ〜横っちに祓われるのはわし的には悪くないんじゃが祓う横っちが堪ったもんじゃなかろうて』
『ほれほれ、早く出ないさい』
この教室に通う幽霊の中でリーダー的存在のサーやんとキリちゃん(怪しい名前とか言わない!)が小さい子供達の幽霊を先導して外へ出て行く。
実は唐巣神父は横島に大変感心していた。
まだ二日目…初めて会ったあの日を含めると三日目…だと言うのに幽霊に対して恐れも畏怖もなく、無視したり受け入れなかったりしない。
むしろ人間と接するように普通の態度…そうあまりにも自然すぎる接し方…キリ○トの信者である自分もそこまで普通に接する事は出来る…が受け入れられるかは別である。
横島の場合はなぜか自然と受け入れられ、前回の授業の際に幽霊にとって最大の娯楽(?)はお線香だと教え、翌日には持ってきて焚きに授業でもないのに来たらしい。
本人から聞いた話では初めて会ったあの日の二日前から幽霊が視える…霊視が出来るようになったとの事だ。
「怖くないのかい?」と聞いてみたら「え?なんで怖がらないといけないんすか?ここに居る人達は皆、良い人じゃないっすか」と平然と言い、表情でそうでしょ?と言った。
確かにここに居るのは良い幽霊ばかりだが、幽霊を当たり前のように『人』扱いする横島に驚いたと共に感心した。
「では、始めてください」
「ういッス…全ての存在を封印せよ」
現代で言うと吸魔護符の原型となる符、『封印符』を起動が成功し目の前にあった机やイスなどを次々と符の中に収めていき、自然とそれが終わり「どうっすか?」と会心の出来でしたと笑顔で語る横島に唐巣神父は詰め寄る。
「よ、横島クン!君は物をその—」
「師匠によると封印符っていうらしいッスね。色々物が仕舞い込めて便利ですよね」
「ふ、封印符には物質も封じれるのかね?!」
「らしいっすね。俺も家で試してみた時は部屋を空にしちゃいまして片付けるのが一苦労でしたよ」
ハハハと苦笑いを浮かべる。
「だ、誰だね?!君にその符術を教えた者は!」
現代の吸魔護符は物質を吸引して封印するなんて芸当はできないというのはGSの常識。
その常識をひっくり返す符術が自分の目の前に起こったのだから若干ではあるが興奮するのは仕方ない事といえる。
「えっと…な、名前は言えないんすよ。名前言ったらもう教えてもらえないって言われてて…」
「そう…かね」
横島は焦り適当な言い訳をする。
GSの知識が少しついてきた横島だが未だに自分の記憶を誰かに話すのに抵抗があり、隠している。
しかも唐巣神父の反応を見て、更に厄介な事になりそうだと霊感が(本人は意識してないが)告げているので警戒を更に強めた。
自分は興奮している事に気づき、深呼吸してなんとか気持ち落ち着かせて改めて話を振る。
「君のその霊符…封印符は私にも使えるかね?」
「あ〜………どうなんすかね?やってみますか?」
と封印符を差し出し、使い方を教えて起動させてみる。
結果は失敗。
本来の術式ではなく自分に合わせてオリジナルの術式と相性が悪いのかもしれませんねと唐巣神父に伝えると少し安心したような表情を浮かべる。
「…横島クン」
「はい?」
「君が使っているその霊符…いや君が使っている術も全て私がいいというまで人前…特にGSの人間に見せないように」
「え…なんでですか!せっかくできるようになったのに!」
「恐らく君が覚えた術全て現代のGS…オカルト業界を激震させるほどの物です」
「おお!そうなんすか?!でもじゃあなんで秘密にしないといけないんですか?」
よく分からん!と隠しもせず顔に出ているのをみて唐巣神父は優しく、そして厳しい言葉を放つ。
「あなたの教わったその技術、それは貴方にとって宝でもあり力でもある。しかしそれが元で最悪命が狙われる可能性があります」
「………ええ!なんでや!」
「人間がそれが自分の利となる場合は、それが罪深い事と知りつつ歩みを止めず求めるでしょう…あなたの意思とは関係なく」
「いやや〜!俺にはまだ達成せなあかんことがいっぱいあるんや!」
「ですからなるべくその術を使わないようにしなさい」
今現在は横島以外が使えないが将来誰でも使えるような霊符、封印符が出来れば間違いなくいやオカルトグッズを扱う企業はこぞってその技術を狙うだろう。
その利益から考えて犯罪行為で手に入れようとする輩が現れる可能性は高い。
「とりあえず、私が『普通』の霊符を教えて…いえ先生と資料を用意してあげますからそれまでは君の術を磨いておきなさい…念を押しますが決して人に…GSには見られない様にしてください」
「イエッサー!」
「さて、今からは横島クンがどんな術を使えるのかを教えてもらえますか?先ほどの霊符のような物でなければ普通に使ってもいい物もあるかもしれませんし」
「了解ッス…て言ってもかなりの数があるんすけど…」
「あ、もうこんな時間ですね横島クンはもう帰りなさい」
時間を見るともう6時半を過ぎている。
もう帰す時間を少し過ぎているので今日はここまでとなった。
「んじゃまた…」
「それと横島クン。明々後日は私の教会に来ませんか?横島クンに教える先生を紹介したいので」
「あ、そうッスね。じゃあ待ち合わせはここでいいッスか?」
「はい。では、お気をつけて」
「じゃあまたッス」
横島の姿が見えなくなり、浮遊霊達が中に入ってきて賑やかになる。
本来は横島の事はしばらく様子見た後に本人と相談してGSを目指すための本格的な訓練をするかどうかを本人と相談して決めるつもりだった唐巣神父だが今では次にあったら本格的にGSを目指すよう勧めようと思う。
「とりあえず令子君にはオカルトに関しての知識を教えてもらいましょう。人に教える事は良い勉強になるでしょう…良き師は弟子を育て、良き弟子は師を育てるとも言いますし」
そして、才能ある者が良き師になれるというわけもなく、弟子もまたしかり…つまり
「生まれる前から愛してました!」
今までなかった霊符を作りだし、これからが期待される生徒は先生候補へと飛び掛り
「何すんのよ!この変態!」
今は亡き美神美知恵の忘れ形見であり、唐巣神父の弟子ある彼女は拒絶という名の折檻で答える。
「べらぼへは」
「先生!何なんですかこいつ!」
「え…と、彼は横島忠夫君と言って——」
「確か先生が弟子にする奴の名前が…って…えぇ!こいつぅ!?」
「いや、まあ、私もこんな一面があるとは知らなかったんだですが」
これは早まったかもしれませんね(汗)
「なるほど、猫を被ってたのね」
いつの間にか神通棍を横島クンの喉元に突きつけている。
「別に隠してたわけじゃないっすよ!たまたまですよ、たまたま!」
「まあまあ横島クンもこう言っている事だし、とりあえず話を聞こうじゃないか」
令子君をなんとか宥めて席に座らせることに成功した。
「実はガクガクブルブル…じゃなくてカクガクシカジカでして」
「なるほど…で、どうするんです先生?どう考えてもこいつ、霊能を碌な事に使わないわよ。絶対」
「み、美神君。君はさっきので分かったのかね?」
「え?先生分からなかったんですか?「魅力的なお姉さまが現れたんでつい暴走してしてしまいました」って言ってるわ」
「そ、そうなのかね?」
どう聞いても横島が言っていた言葉はそうは聞こえず、問うと
「そうであります!サー」
と敬礼して肯定したのを見て、二人の初対面にしては妙なコミュニケーションが取れていることに不思議さと驚きとちょっと問題が発覚したがこれなら騒がしくはなるだろうが、根は優しく、幽霊すらも受け入れる器量を持つ少年と仲良くやっていけるだろうと判断して。
「では、美神君」
「はい」
「これから横島クンに色々な知識を教えてもらえますか?私は霊力の高め方や練り方をサポートしますから」
「ちょ、ちょっと待ってください先生。こいつを私の弟子にしろって言うんですか?!まだ仮免(GS試験合格後の状態です)すら持ってないのに…それにこいつはいやです!」
横島に160㌔のデッドボール。
あまりに直接的に拒否されへこたれ、部屋の隅で体育座りして、のの字を書き始める。
美神もちょっと初対面の人に言い過ぎたか?と思ったがここで判断を誤れば間違いなく弟子になってしまうと分かる。
「確かに彼にはちょっと困った所もあるでしょう…ですがそれだけではありません。それにそのうち貴女の力になってくれるかもしれませんよ?」
「こいつがねぇ?………わ、わかりました、わかりました!引き受ければいいんでしょ!」
唐巣神父はお人よしで基本的には相手の意思を尊重するのだが、時々…本当に時々ではあるが自分を押し通す時がある。それが今であると美神が唐巣神父の瞳を見て何を言っても結果は決まっていると悟り、自分から早々に折れることにしたようだ。
「そうですか、よかった。では、改めて自己紹介を」
「美神令子、高1よ。これから私の弟子になるんだから妙なことをしたら折檻よ」
猛禽類の目のように鋭く刺すように相手に送る。
それを受け取った横島は苦笑と漫画汗を流してながらもとりあえず自己紹介をする。
「俺は横島忠夫、中1ッス。これから宜しくお願いします!」
「さて、早速これから授業に入りましょうか、美神君には当面はオカルトに関しての知識と霊符の作り方を教えてあげてください。昨日頼んだ物は…」
「色々持ってきたわよ。とりあえず日本神話とメジャーなところでインド、ケルト、北欧の資料と言われた通り家に倉庫から掘り出してきた陰陽寮出版の陰陽術の入門書だけど…何?彼、陰陽師目指してるの?」
また酔狂な、と呟く。
陰陽師といえば古くからある血筋や先祖返りなどがない限りは大成しないとされている。
エリートか偶然に因る物かなのである。
陰陽師を目指すぐらいなら二流のGSを目指すというのは常識なのだ。
「ええ、知り合いに陰陽師の方が居られたらしくてね。それの影響を受けたらしい」
「なるほどねぇ。それならその知り合いに弟子入りすればいいじゃない」
「それがどっかに行っちゃったんですよ。だから雑誌に載ってた神父が居るって言う相談所に相談に行ったんです」
「神父〜!またあんな安い仕事してたんですか?!それならちゃんと依頼料を貰ってください!」
「ははは、しかし困ってる方の手助けをだね…」
苦笑い、そして困った表情しているがそれでもやめる事がないのは美神も分かっている。
だが。
「この前も栄養失調になったばかりじゃない!そんな事してたら依頼人が迷惑するわ!」
「だからこうして…」
「私への支給品でほとんど消えてるじゃない!というかそれでも足りないんだから…」
師弟の終わりなき戦いは5分ほど過ぎたところで
「あの〜授業の方は…」
という言葉で終わりを迎えた。
「じゃあまず私から教えればいいんですね」
「ええ、お願いします。私は昨日あった依頼に関してちょっと調べてこないといけませんから」
おお、これで美神さんとマンツーマン!なんて考えていると、霊感なのかはたまた女の感なのか美神が睨みつける。
「妙な事したら…」
「や、やだなぁ。俺がそんな事するわけないじゃないっすか〜」
「どの口が言ってんだか」
横島に悪癖がある事を知らず、若い者同士、二人きりで話せば仲良くなるかな〜なんて思ってた唐巣神父だったが今では依頼先延ばしするべきか?と悩みながらもそれが叶わぬ事と分かっているので早々に準備を終わらせる。
「では、行って来る」
「「いってらっしゃ〜い」」
そうしてこの場から唐巣神父退場。
「で、何から教わりたい?知識面で順序なんてあんまり関係ないから希望があったらそれからやるわよ」
「あ、その前に霊符見せてくれませんか?」
自分が使う霊符と一般的に使われている霊符の違いがどれぐらいあるのか把握おく事にしたようだ。
「いいわよ。…えっとこの辺に確かあったはず…あ、あったあった」
ゲシ!
ちなみに引き出しから霊符を探しているのをチャンスと思うてかスカートを覗こうと試みる横島を踏みつけた音です。
「何やってるのかな〜?」
「おお、純白にフリ———ガフ!グゲ!」
何を言いかけているのか分かり、顔を赤くしつつ踏みつけていた足を一旦のけて横から蹴りを一発、そして顔が横向いているうちに再び踏みつける。
「イデデデデデ、堪忍や〜仕方なかったんや〜綺麗な足が眼に入ってつい出来心で——割れる割れる!」
「こういうのってなにって言うか知ってる?セクハラって言うのよ?今ではセクハラで裁判も出来るって話だし…逝っとく?」
「以後気をつけます!」
「そこでもうしませんって言わないあたり本音が見えるわね。はぁ…まあ、いいわ…全然よくないけど…はい、破かないように注意しなさい。破いたら弁償ね」
案外、心の広い美神…ではなく、精神が成熟しきっていないので知らず知らずのうちに軽くではあるが前世の影響を受けて照れているのである。
「あ、あいさ〜」
そして横島が見たものは…
(うわ、なんじゃこの霊符!訳分からん)
そこには複雑怪奇の霊符があった。
(なんでこんな意味がちぐはぐの言霊じゃ式が起動しないんじゃないか?てかこの解釈間違ってね?あ、そうかずっとこれでやってきたから言霊も宿るか…にしてもマジでこんな物が市販されてんか?)
自分の記憶にある霊符の式と比べると粗雑過ぎるそれを市販されている事が信じられずにいる。
「ち、ちなみにこれいくらするんスか?」
「それは200万ぐらいかしら?」
横島の顔に汗が流れる。
(マジか?!これが200万?!)
材質こそそこそこ良い物で作っているのはわかるが自分の知っている術式と違いすぎる…あまりにも劣化し過ぎている。
(なんでこんなぼったくりしてんだろ?)
今まで自分の取り柄と言ったら遊びに関しての事かスカート捲りや覗きぐらいしかない…つまり他の人が羨む才能なんて一部の人達以外には価値がない程度のものでしかなく、『学校』で評価される才能が全く無く、『自分の価値』が極端に低い横島にとって自分の手に入れた記憶の方が凄いと思いもよらなかったのである。
(お、この式って霊力増幅させるのか?これはこっちの方が上か…パクろ…にしても)
「これって何か外国の術式まで入ってます?見たことの無い字があるんすけど」
「へ〜それが分かるんだ。それは国際化が進んで良い物を取り込んだからよ。そのせいで製造側がかなり苦労したみたいね」
「美神さんは霊符作らないんですか?」
「今は作ってるけど、そんなに一杯は作ってないわ。手間が掛かるし何より100万クラス以上になるとそこそこの規模の設備とそれなりの材料を揃えないといけなくなるから元が取れるか微妙だし数十万程度だから効果は薄いし」
「は〜なるほど」
「霊符に興味があるみたいね。じゃあまずは陰陽師入門書からいっとく?」
「うっす!」
最初こそセクハラ漫才(?)をしていたが、それ以降、休憩の時にお茶を入れに行った後のイスの残り香を嗅いでいた事が見られて折檻され、鉛筆が落ちたと言ってスカートの中を覗こうとして折檻、これってどういう意味ですかと質問して美神が本を覗いている時に耳に息を吹きかけて三途の川を半ばまで泳いだり(船賃がなかった)など色々とあったが概ね順調に勉強は進んでいった。
「やってる事が馬鹿(変態)だけど飲み込み自体はいいわね」
「そうですか、それでどうですか?横島クンとは仲良くやっていけそうですか?」
「…………………まあ、ただの馬鹿じゃなかった事が唯一の救いね」
「質問に答えてないような気がしますが…横島クンも貴方が気になって仕方ないようですよ」
ただ欲情に任せてセクハラしているだけなら唐巣神父も教えるのを辞めるつもりだったが。
(どうやらコミュニケーションが変化…いえ、この場合は混同でしょうか…をしているようですね)
「わかってるわよ。そんな事…」
と顔を少し赤くしてプイッと顔を逸らす。
これを見た唐巣神父はこの二人は大丈夫そうだと一安心する。
「それに折檻って良いストレス解消になるし!」
何か果てしなく間違った方向へ行こうとしているのを感じた唐巣神父が新たな悩みが増えたのは言うまでもない。