邪魔よ邪魔!と集まっていた人間を足蹴にしてかき分けていくと…
「一体なんな…のよ?」
そこで美神が見たのは妖怪のような生き物を十二体連れて歩く少女(暫定)の姿だった。
エミは何か気づいたようで少し離れて傍観する。
「そこのあんた!他の人の迷惑でしょ!式神なんかしまいなさい!」
美神は誰であろうと関係あるか!と言った感じに問答無用な言い方をするが返ってきたのはのんびり間の抜けた声だった。
「あらあら〜でもこの子達は友達なのよ〜」
跨っている馬のような式神を撫でて言う。
「それでもよ!皆が引いてるでしょうが!」
「じゃああなたが友達になってくださる〜」
その少女(?)が目を潤ませて美神に詰め寄る。
言葉自体は勢いがないが自身は日ごろの彼女を知っている者からすればかなりの勢いで迫る。
「わ、わかったわよ。友達でも何でもなってあげるからとりあえず式神をしまいなさい」
今運命(苦労)の歯車は回り始めた。
「私、六道冥子っていうの〜これから宜しくね〜」
「え、ええ、私は美神令子よ。よ、よろしく」
どこまでもマイペースな冥子に戸惑いつつも差し出された手を握る美神。
「………六道冥子ってあの六道冥子か?」
霊感が告げる警告に従い、美人がいるにも関わらず微妙に距離を置いて様子を観ている横島が呟く。
もし美神がこの試験に合格すれば自分は美神の助手として雇われる事になっているので前もってライバルになりそうな人物はピックアップして記憶している横島はどうするか悩んだ。
(噂じゃ上位の式神を支配しながら暴走させるという器用なことをさせるらしいからな)
美人と見ると問答無用でナンパする横島だったが霊感でブレーキがかかり、情報で裏付けされて足が完璧に止まる。
「さすがに式神の暴走は受けたくないわー」
「あら、オタクはいつもと違うじゃない。どうしたワケ?」
「最初は霊感で止められて名前が聞こえたおかげで暴走を未然に回避することが出来たんすけど…」
「オタクの霊感はなかなかいいワケ、それによく知ってたわね。令子は手遅れっぽいけど」
ひたすら美神に戯(じゃ)れているように見える冥子を見ながらため息ひとつ。
ひょっとすると自分も変なことに巻き込まれないか憂いているのだ。
(だが、これでいいのか横島!美人とお近付きになれるチャンスを不意にして?!否、決して否!)
自分の顔をパンッと叩いて気合を入れて覚悟を決める。
「オタクは賢いのに馬鹿なワケ」
エミには横島のこれからの行動が読めたのか苦笑いを浮かべるが止はしない。
止めても留めれたとしても止まりはしないからだ。
「エミさん、骨ぐらいは拾ってくれたら嬉しいなー…では、逝って来ます」
「他の女を口説きに行く男の骨なんて残らず灰にしてあげる。逝ってらっしゃい」
それでも送り出しているエミはさりげない優しさを感じる。
そして横島は死地へと赴く
「初めまして!僕横島!突然だけど生まれる前から愛してました!」
「あの〜〜〜私前世の記憶なんて持ち合わせてないんですけど〜〜〜」
「いえ、心の何処かではきっと覚えているはず!これから一緒に思い出そう!」
色んな意味で興奮している横島は鼻息荒く両手を握り接近する。
「あの〜〜〜そんなに興奮してたら〜〜〜〜」
冥子の影から式神が現れて横島に襲いかかる。
「霊能力者がいっぱいでこのコたち気がたってるで〜〜〜危ないですよ〜〜〜」
「ぐおおおおおおお〜汝の掟を破り我に屈せよ!『離せ』」
黒いモコモコの式神にハムハムされながら、呪を込めて式神に言霊をぶつけて動きを一瞬だけ止める事に成功して離脱。
だが次に襲いかかってきたのは…
「ヨコシマクン?」
美神令子その人であった。
なぜか美神は怒っていた。
横島がナンパするのは遺憾なことだがいつものことであり、しかも美神自身どう扱ったらいいか困るような相手の気が逸れた事で助かったはずなのだがそれでも怒っていた。
「横島クン?生まれる前から愛してたってのはドウイウコトカシラ?」
「いや、その、えっと」
何がどう悪いのか横島には分からない、だが心には罪悪感でいっぱいだった。
しかし美神の表情はいつもの怒りモードの影で隠れてなぜか泣いているように横島には見えた。
そんな風に見えた横島の取る行動は………
「申し訳ございませんでした!」
ザ・土下座。
もうどれほどこれを使ったか…というか既に今日一日に既に一回使っているから価値が随分下がっているような気がするが…気にしない。
ついでに地面にゴンッと頭を打ち付けていたり地面が軽く割れているのに額は無傷という謎があったりするのは今は関係ない。
「フンッ」
「令子ちゃ〜〜〜ん、待って〜〜〜」
土下座をしている横島を置いて二人は会場へ入っていく。
「オタク、令子に何かしたワケ?オタクのその行動はいつもの事なのことでしょうに」
「いや〜照れるっす」
「褒めてないから照れなくていいワケ。で心当たりは?」
「それが分かったら苦労はしないですって…いつも通りだったと思うんすけど」
イマイチ美神が怒った理由といつまでも残る罪悪感の原因が分からず困惑する横島は首を傾げる。
そんな様子をみてエミも先程の行動を思い出してみてもやはりいつもと変わらない気がする。
そして一次試験が始まった。
だが、美神の不機嫌度は段々と増すばかりで霊力は不安定ながら周りの霊能力者を吹き飛ばすほど発して無事合格。
エミは無難に、冥子は美神よりも霊力のコントロールが不安定だったがさすがの六道家、持ち前の馬鹿みたいな霊力でギリギリ合格する。
「無事一次試験通過おめでとうございま〜す」
「これぐらい当たり前よ」
一次試験が始まる前の不機嫌さは何処へやら、今では上機嫌とまでは行かないもののいつもと変わりない。
試験中に何であんな事に苛立ったのかしら?と美神自身も疑問に思うと怒りは自然と治まった。
「こんなところで躓く程度なら無理して卒業してから受けるワケ」
本来六道女学院では卒業した後、年に二回あるこのGS試験…正確にはゴーストスイーパー資格取得試験は二月と九月に行われるのだが、二月の試験は受けずにプロのGSの助手として現場に慣れ、そして九月に試験に挑むのが通例となっている。
だが、通例はあくまで通例。
それに反し特例という言葉があり、美神とエミはその特例であった。
もっともかなり強引に校長に頼み込んだのだがせいで資格を取得した暁には自分の下で師事するという条件で参加を許された。
…実は取得出来なかった時の事を考えると足が笑うほどの緊張が襲う二人だったりするが今は忘れているので普通に過ごしている。
「家庭の味なんて久しぶりなワケ」
「癪だけどそれは同感ねーいつも私が作るか先生の男らしい料理のどっちかだし」
一次試験が終わるのは丁度お昼で今は横島持参の弁当(重箱仕様)を食べているところである。
横島の母親・百合子作である。
横島自身も料理は出来るのだが美神とエミは親の味とは縁遠い事を察して今回わざわざ母親に製作を頼んだのである。
「ちょっとオカンに頼むのに苦労したっすけど喜んでもらえたようで何より」
「こんなに手の込んだ弁当私に無理だわ」
「それに令子にはこの味は出せないワケ」
「なんですって〜!」
またいつもの喧嘩…というかじゃれ合いが始まる…かと思いきや乱入者現れる。
もっともこの乱入者はプレイ料金を100円ではなく10000円を突っ込みそうだが。
「あ〜〜〜令子ちゃ〜〜〜ん」
「「げ」」
妙に間延びした声は一回しか会っていない…いや遭っていない?のだが記憶に色んな意味で記憶(トラウマ)に刻み込まれてまだそんなに経ってはない。
「一緒に〜〜〜あちらでお食事しませんか〜〜〜?そちらの…」
美神を影にこっそり離脱を図ろうとするエミに向けての言葉だ。
その離脱も美神が服の一部をガッシリ掴まれて阻止されたので仕方なく自己紹介を始めた。
「小笠原エミ、よろしく」
「エミちゃんよろしね〜〜〜それでエミちゃんも一緒にどう〜〜〜?ついでに横島クンも〜〜〜一緒にどう〜〜〜あっちで準備してるから〜〜〜」
横島だけオマケ扱いで本人は気を悪く…するわけもなく、ついでとはいえ女性…しかも美人から食事に誘われたのだから気にするどころか有頂天である。
これで両手に華どころか視界いっぱいに華や〜!とか叫ぶといつものように美神から肉体言語的鋭いツッコミを貰い沈黙。
あっち、というのは野外で快適に食事が出来る用にと日除け傘、専属のシェフらしきものが野外キッチンが設置されている。
「また無駄に豪華な…弁当でもどっかの店に入る訳でもなく野外ですか…」
最近小金持ちになった横島でも次元の違いを痛感する…というか引く。
つまり招待を受ければ一流のシェフによるディナーが約束される、がそれと同時にいつ爆発するか分からない爆発物と一緒に食事をしないといけないということだ。
(こんな弁当ならいつでも食べれるし、美神さんとエミさんなら受けるだろうけど…俺はどうしよう?美神さん達が受けるからには是が非でもご相伴にあやかりたい…とは思うけど弁当を残すのもなー)
「お断りよ」
「断るワケ」
「え〜〜〜〜なんで〜〜〜??」
横島の予想を裏切り断りを入れる二人に冥子が不満で頬を膨らます。
「このお弁当が私達が作ったのなら受けてもいいけどこれは横島クンが用意してくれた物なの、それを多少豪華な食事が出るからってほっぽって行くなんて出来ないわよ」
「私も同意見なワケ」
『多少豪華な』とはいうが相手は六道家の一人娘、恐らく多少ではないだろうが断る事に変わりはないだろう。
理由を聞いても納得できない冥子は更に頬を膨らます。
「別にいいんじゃないっスか?これぐらいの事はいつでも用意出来るし、何よりもう冷めてる。それにどうしてもっていうならこの季節なら痛むこともないだろうし夕食に回したらいいと思うんすけど?」
横島的にはかわいい女の子と食事が出来る、しかも料理は極上が期待出来るとなれば多少地雷原を走ることになろうと選択の余地など無い。
「ハァ、弁当を用意した本人にそんな事言われたら断るに断れないじゃないの…絶対食べるから置いておきなさいよ」
「私もお願いするワケ」
校長の娘である冥子からの誘いをあまり断りたくないのも確かなので横島の案を採用した。
「嬉しいわ〜〜〜すぐに用意するわね〜〜〜」
子供のようにはしゃぎながらシェフに追加を伝える。
突然追加注文したにも関わらず、程なくイタリア料理が出てきた所から察するに誘いに来た段階で冥子の付き人の誰かが既に手配していたようだ。
早々に数々の色とりどりな料理がメイドによって並べられる。
その際に横島が「メイド?!生メイドや?!」と叫んで美神とエミからツッコミを受け、冥子が驚いていた。
こうして多少フライング気味に騒ぎがあったが食事会はスタートした。
「こらうま!こらうま!」
そしてやはり始めの一声は横島だった。
日頃、母親が手抜きなどしない為外食など全くとせずにずっと小学校の給食や友達の家で食べた食事以外では家庭料理で育った横島にとっては食事の革命と言っても良かったかも知れない。
それに比べ美神達は…
(そりゃ不味くはない…というか美味しいんだけど…不思議と横島クンのお母さんの料理の方がこう…よかったわ)
(なんていうか所詮『仕事』の延長線なワケ…)
二人が欲しているのは普通においしい料理である事はもちろんではあるが使い古されている言葉だが温もり、愛情が大切なのだ。
しかも家庭の味を少し食べた後での高級料理なのでジャンルが違う美味さのギャップで余計イマイチなのだ。
それでも美味しいのには違いはなく、危惧していた冥子の暴走は美神とエミの多少の労力を払うことで難を逃れた。
「『普通の時』はわりといい子だったわね」
「良くも悪くも裏表がない子みたいだったし…『普通の時』は…ね」
やはり思った感想も似たり寄ったりだった。
「最初からクライマックスだったような気がするけどやっとここからが本番ね」
「ここから先は容赦しないワケ」
「あら、今まで手加減してたとでも?」
「私は令子のレベルに合わせてあげてたワケ」
「私だってそうよ」
美人同士の一触即発の雰囲気に周りはタジタジであった。
「…で令子、アレ注意しないワケ?」
「…エミこそアレを止めてきなさいよ」
二人の緊張した雰囲気は実は仮初のものでいつもやりあってる雰囲気を見ていた者なら気づいただろうぐらいに軽いものだった。
その若干和らげている要因は客席にある。
問題なのはこの会場に似つかわしくない横断幕である。
でかでかと『頑張れ美神令子!頑張れ小笠原エミ!負けるな六道女学院の星』などと書かれた横断幕が掲げられていた。
また横島の仕業…ではなく、今回のこれは美神達の同級生と下級生達が合同で作った物だ。
これが横島による物だったら問答無用で取り外させただろうが同級生と下級生の好意を無下にするわけにもいかなかった。
それに対抗してか『六道冥子お嬢様ファイト!貴方はやれば出来る娘だ!』というなんだか微妙な横断幕が飾られていた…恐らく冥子の側にいた執事かメイドの仕業だろう。
「さすがにあれは恥ずかしいわね」
「同じく」
幸いなのは横島が特に何もしていないことだろう。
いや、何もしていないというのは語弊がある、美神達の応援は何もしていない。
なら現在は何をしているのかというと…その同級生、下級生をナンパしては撃退され、そしてまたナンパ…を繰り返している。
美神からの折檻によって対霊力防御が高くなっていて彼女達の攻撃では一時しのぎ程度にしかならなかった。
碌でも無い成長である。
二人はこの後すぐに試合なので抑えに向かうわけにも行かないので、この試合が終わったらすぐに向かうことを誓う。
「あいつも懲りないんだから」
「そういえば令子、一次試験が始まる前は何であんなに怒ってたワケ?」
今横島がナンパしている様子を見てもあれほどの怒りは感じ無い。
「それが私自身分からないのよねー」
なんでだろ?とエミに返して私が知る訳ないじゃない!と美神へ返ってきた。
「ま、私はどうでもいいけど弟弟子君が気にしてるかも知れないワケ」
「あいつはそんな玉じゃないわよ」
実はエミが美神に心理戦を仕掛けたのだが美神は分かっているので効果なし。
そもそもそんな事を気にするような間柄では良くも悪くもないのだから。
そんなやりとりをしていると二人のコールがかかる。
「せいぜい油断して足元すくわれないよう気をつけることね」
「そっちこそ」
お互い不敵に笑い合って別れた。
「これでは俺の存在が薄い…薄すぎる!」
一通りナンパも終え、美神達を応援しようと考えたのだが、声援を送ろうにも隣で応援している女子高生の黄色い声に押しつぶされる。
横島はどうにか自分が目立とうと考えを巡らす。
「よし、これだ!」
取り出したのは最近かなり作り慣れして大量生産して厄珍堂に卸し始めた式神用霊符だ。
ちなみに卸値12枚セット一組で100だ。
もちろん100円ではなく100万円、ちなみに店頭に並ぶとアラ不思議100万が500万に化けてるではありませんか?!
こんな値段でも厄珍堂では人気商品の一つだ。
というのも裏稼業、つまりフリーの霊能力者達が助手を雇うに雇えず、この式神用霊符で助手とする人が多くなったのだ。
それにしては高くない?と思う人もいるだろうがこの式神は一日12時間稼働で戦闘無しという設定ならば30日間も稼働することが保証されている。
閑話休題。
式神用霊符に起動用霊力を込めて放り投げると何時ぞやのSDサイズの横島、ボンノウレンジャーが現れた。
「よし、今回は指令は『美神さんとエミさんと冥子ちゃんの応援』だ」
「「「「「了解…(ハァ…またくだらんことを…)」」」」」
以前合宿の際に戦っていたボンノウレンジャーと中身…記憶や性格はそのままある。
ついでにボンノウレンジャーの服が学ラン仕様で白手袋、鉢巻、と襷(たすき)が標準装備となっているのはお決まりという奴である。
そしてレッドだけ団旗を掲げる。
「では、勝つぞ—!」
「「「「「「勝つぞ—!」」」」」
「ファイトー美神!イッケイケイケーエ〜ミ」
「「「「「「ファイトー美神!イッケイケイケーエ〜ミ」」」」」
周りが応援に式神を使っている横島を白い目で見ていることなど気にすることもなく、美神達が一試合目が終えるまで横島応援団は止まることはなかった。