「今度こそ…今度こそ出来たぞ!」
そう言って掲げたのは前回夢に終わった式神の依り代。
「今度こそは…朱雀召喚!」
これまた夢と同様煙が覆う。
「ル○ーシュ…○ル〜シュ〜」
変な服を着た茶髪で天パーの男が寝ぼけ眼で横島に迫る。
「うわ、近寄ってくんな!この腐女子の産物が…○ザク(「ス」か「ウ」かは任意)には…というか野郎には興味ない!」
「ル○〜シュ〜」
「寄るなというにっ!アッーーー!」
「おい…忠夫…忠夫…大丈夫か」
「ハッ!ゆ、夢か…どんな夢か覚えてないが…碌でもない夢だった気がする」
横島よ、思い出せないことを幸運に思え。
「で、今の状況に言う事はないか?」
「いや、別にない」
起きた拍子に自分の親である大樹の顔面に拳をめり込ませているがスルー。
それより念の為にと持ってきたテント…これが活躍すると言う事はどういうことか?
登山中のトラブルと言えば遭難もしくは…
「まさかあれほど吹雪くとはなぁ」
そう、天候悪化だ。
途中から視界がほとんどなくなったので野宿をするハメになった。
「で、今は?」
「ほれ、観てみろ」
外に広がるは快晴、山の天気は本当に変わりやすい。
「じゃあ、とっとと登って帰りに女の子でも引っ掛けてから帰るとするか」
「聞こえた?……了解伝えとくわ」
「忠夫君?一体何をしていたのかなぁ?」
後ろについてきている息子の不穏な話し声に振り向く大樹。
そこには携帯電話で誰かと話している横島の姿があった。
さて、ここで問題、電話の相手は誰でしょう?
正解はもちろん…
「母さんに報告してるに決まってるだろ」
「………貴様!父親の私を裏切ったな!というかなぜお前が携帯を持ってやがる?!」
「最近成績がいいから買ってくれた」(本当は勉強から逃げれないように猫に鈴)
猫の鈴なのに料金は自腹。
一応抗議らしきものをしようとしたのだが…視殺された。
「富士山でも場所によっては携帯が通じるのは前もって調べたからな、親父が変な行動起したら連絡するよう言われて——「だからといって普通親を売るかぁ?」——あのな〜もし俺と母さんを選ぶような事があったとしたら——「そりゃ百合子だな」——それが答えだ!」
「やかましい!納得できても納得できんのじゃあ!」
よく似た親子である。
それを自覚している大樹だがそれでも納得できないらしい。
「あ、母さんから伝言だけど…聞く?」
「………」
沈黙はしばらく続いたとさ。
「頂上だ!」
晴れ渡る青い空、最近じゃあまりお目にかかれない地平線。
そして…
「後は写真を撮って帰れば——「そこの君、私と一緒に下山しないかい?」——これでまた罪状が増えたな」
なぜ冬の富士山にいるか不明だが自分好みのお姉さんをナンパしている大樹に怨念を放ちながらデスノート…いや、ジャポニカ暗殺帳に書き込む。
「ん?おお!」
何処行ったかわからなくなった大樹を探しているとそこにはどう見ても現代人の格好ではない袴に着物の生地を半袖にした今の季節と場所的に考えられないような服、そして横島と同じようにバンダナ、手には小手(両方共に鱗っぽい物)を身に着け、何より頭には木の枝のような物が生えている女性が居た。
そしてもちろん横島はナンパをしてはいけないというという百合子の言いつけを守——「お茶しませんか!」——るわけがなかった。
こんな山頂何処でお茶をするのかは置いといて。
「………」
手を握って誘われている女性は唖然としているようで反応がない。
それを好印象と勘違いした横島は更に押す。
「あ、疲れてる?ならテントがあるんだけど一緒に——「私に無礼を働くと仏罰が下りますので注意してくださいね」——のわ!かすった!かすったっすよ?!神様がそんな事していいんすか!」
なんだか一部聞いたことがあるようなフレーズが…
「へぇ、手加減したとはいえ私の剣を避けれるとはなかなかやりますね」
更に聞き覚えがあるような…
「そりゃ『この程度』避けれないと(生きてられないわ!色んな意味で!)」
「へ、へ〜、そ、そうですか」
おっと何やら地雷を踏んだ感じ。
いくら手加減しているとはいえこの程度扱いされて彼女のプライドが傷つかないはずがなく、剣を握る手が震え、血管が額に浮きだし、俗に言う殺せる笑顔を見せる。
「ところでなんでこんな所に神様が?確かに富士山だから居ても不思議はないけど——「とうとう尻尾を出したな忠夫!」」
さっきまでナンパをしていたはずの大樹がいつの間にか近くに居た…そう、彼女の後ろに。
「なっ!いつの間に」
「チィ!いつの間に」
横島と女性は大樹が後ろに立っている事を驚いているが、二人のそれのレベルが違うのは女性の正体が分かった人なら分かるだろう。
大樹の気配の消し方が凄いのか、横島に気を取られていた女性がうっかりなのかは分からないが。
「そんな青二才なんかほっといて私と一緒に——「とりあえずくたばれクソ親父!」——おっと!」
肩に手を回そうとする大樹にヤクザキック、だがそれを軽く身を捻り躱す。
「何なんですか!どうやらお二人は親子のようですが親子揃って何を考えてるんです!」
「「そりゃ〜…逢引き?」」
最近ちょっと落ち着いたように傍からは見えていたとしてもやはりそこは横島、ちょっとした緩みで元に戻る。
「そこへ直りなさい、貴方達に道徳と言うものを叩き込んであげます」
そんな台詞言うあんたは何様だよとツッコミを入れる所だが生憎相手は神様、本当に偉いんです。
もっともそんな事を知っててもこの親子なら「それがどーした」というレベルだろうが。
「それより——「あ、そこはっ!」——へ?」
大樹は何を考えたのか腰に腕を回す…だったら良かったんだが何を狙ったのか腰よりずっと上、つまり腰に手を回す事が狙いではなく、初対面にも関わらず胸を狙ったようだ。
それが運の尽き。
女性の身体から突如蛇のような姿になり、咆哮。
「■■■■■■■■ーーーー!」
「ゲッまさか竜神?!て事は逆鱗か?!」
前世に読んだ書物と現代で学んだ知識と照らし合わせた結論、そして嫌な予感が止まらない
原作では直接触れていたので服の上から触って竜になるかは不明ですがこの作品ではなります。
「た、忠夫、アレは何なんだ?!リュウジンってなん——「んな事言ってる場合か!」——ぐほっ!何しやが——」
鋼鉄をも溶かさんほどの炎が二人を襲う、それに全く気づいていない大樹を思いっきり(怨念を込めて)殴り飛ばし、横島自身も素早く跳んで避ける。
「とりあえず逃げるぞおや——」
戦場で足を引っ張るのは敵ではなく無能な味方。
一瞬だった。
大樹を気にするあまり注意を怠った。
竜の尾がゴミ屑を払う箒のように横島親子を薙ぎ払われ星となる。
「「バイバイキ〜ン!」」
それでもふざけていられるのは横島親子。
二人が星となって消えても富士ではしばらく竜の咆哮は鳴り止まなかったらしい。
正気を取り戻した彼女は心底落ち込んだそうな。
不幸中の幸いか暴走を見られたのは親友の覗き趣味の神族だけだったとか。
「この糞親父!余計な事しやがって、もう少しでナンパ成功しそうだったのに!」
「馬鹿かお前は?いや、馬鹿だなお前は!」
派手に吹っ飛ばされたにも拘らず怪我一つしていないのは横島(ギャグキャラ)所以だろうか。
辺りは先ほどとは打って変わって木々が青々としているここはどこでしょう?
ヒントは自殺の名所と言われている場所。
正解は………そう、富士の樹海。
正式名、青木ヶ原。
もっとも自殺の名所とは言われているが本当はただの森で磁気でコンパスが狂うなんて言うのは俗説である。(コンパスは胸の位置で計らないと多少狂うとかも?)
「にしても困った事になったな」
「ああ…まさか鞄が耐えられず消し飛ぶとは思わなかったな」
鞄が消し飛んで自分達は無傷とかどんな身体してんだ。
「とりあえず帰宅より生存優先?」
「いや、普通に帰宅でいいだろ」
「ラジャ〜とりあえず…この水源でも辿っていけば何とかなるか」
「だな」
こうして無計画な二人は…
「おい、親父」
「なんだ息子よ」
「何でバ○コンガがいるんだよ」
「知らねーよ!」
尻尾に茸を生やしたピンク色の巨大な猿と出会った。
「てか…これ喰えるかな?」
「そりゃ…喰えるだろ」
ビクッと猿が野生の勘が何かを訴え怯む。
二人は野生のモンスターすら警戒するほど殺気を纏い、ハンターと化す。
「「上手に焼けました!」」
後日、ヘンテコな武装をして歩く人間を見たという事でメディアが軽く賑わしたらしい。
〇〇月××日
やっと帰って来た。
あれから2日も迷ってたからな。
家に帰ったら母さんが鬼の形相で仁王立ちしてたのには腰が抜けたわ。
どうやら親父の浮気相手から連絡があったらしい。
帰って早々親父は母さんにどっかに連れて行かれた。
〇〇月××日
美神さんに無事(?)帰還した報告を兼ねて新年の挨拶。
久しぶりに会ったのでルパンダイブ。
いや〜これが失敗失敗。
まさかエミさんと早食い競争して食べ過ぎて気分が悪い上に負けて機嫌が悪いなんて死亡フラグにもほどがある。
とりあえず一回死んだな俺。
あ、ちなみに何処かの従者みたく後10回ぐらいなら死ねるかな?
…なんだろう、その程度じゃ無意味な気が…
〇〇月××日
そういやもうすぐGS試験だ。
もちろん俺は出んぞ。
痛いの嫌だ!
死ぬの嫌だ!
面倒なの嫌だ!
親にばれるのが嫌だ!
けど、美神さんが出るから応援行くけどな!
と言う訳で当日。
「美神さ〜ん」
会場で待ち合わせしていた横島は人ごみの中で美神を発見して呼びかける。
一瞬こちらを見て、足早に離れていく。
つまり他人の振り。
そりゃこんな大勢の人がいる中で自分の名前を呼ばれたら無視もしたくなると言うものだ。
「みか——「はいはい、ちょっと静かにするワケ」——ふぐ!んごふごんぐほもふ!(エミさん!今日は一段と美しい!)」
再び美神を呼ぼうとする横島の口を塞いだのはいつの間にかやってきていたエミだ。
その格好はいつもの制服ではなく、戦闘用の衣装である例の怪しいなんとも言えない儀式服だ。
横島の霊力が若干上がったのも仕方ない事だ。
「まったくオタクはもうちょっと考えて動いた方がいいと思うワケ。計算とかは出来るくせに配慮が足りないワケ」
「面目ない」
昔から比べると落ち着いている横島だがまだまだ落ち着きが足りない。
「とりあえず合流するワケ」
美神が姿を消した方向へ遠回りして追っていると。
「あでっ!」
いきなり後ろから小突かれた。
「あんたはもう少し場所を弁えるようにしなさい」
美神である。
「うっす。申し訳ありませんでした!」
横島の究極の一である土下座を綺麗に決める。
だが、その行動はエミや美神が注意している事をまったく無視している結果である事は本人は気づいていない。
「だからそれがいけないって言ってるでしょうが!」
「んっ!」
地面とキス…と言うには激しすぎるほどにアスファルトを砕いて陥没する。
「令子、それ横島以外にしない方がいいワケ。普通は死ぬワケ」
「俺でも死ねるわ!」
いや、現に生きているではないか。
「それに、また注目されてるワケ」
「「………」」
周りを見渡すと何十という瞳がこちらを見ているのがハッキリと分かった。
「……行くわよ」
とりあえず逃げる事にした。
「ここなら大丈夫かしら」
「まったく、オタク等人目を気にしないであんな事するからこんな事になるワケ」
「…今回は否定しないわ」
言われている事が正しいから否定しない訳ではない。
ただ単に今日と明日の事を考えればこれ以上無駄な労力を使いたくないだけである。
「あ、美神さん達の為にお守りを作ってきました!」
ポケットから取出し二人に渡す。
「あら、気が利くじゃない」
「ってなんで安産祈願なのよ!」
すかさずツッコミでアッパー、そして宙を舞う横島。
「私は縁結びなワケ」
空気の読めなさはさすが横島。
いや、逆に読めているのか?
決して私生活に余裕がなく、出来れば今回の試験で合格しておきたい二人は若干表情が固かったが、今ではいつも通りの表情だ。
「ほ、ほんの冗談だったのに…これが本命っス」
今度取り出したのは神社などで売られているようなカラフルな既製品のお守りではなく、真っ白な布を袋にしてあるだけの物。
見るからに手作りだと分かる。
中に何が入っているのかは触感からは分からない。
「まったく、最初からこっちを出しなさいよ…にしてもこれあんたが作ったの?無駄に手が込んでるというかなんというか」
「へ〜一丁前に呪い(まじない)までしてあるなんて気がきくワケ」
「それなりに費用がかかってるんでそこそこの効果は期待できると思うっすよ。過度の期待は困るっすけど。」
「お守りに期待するようじゃプロなんてなれるわけないじゃない」
ですよね〜と笑っていると出入り口付近で屯(たむろ)している名もない受験者達がザワザワと何やら騒いでいる。
「?何かしら?」
騒ぎに気づいた美神が歩き出す。
それについていくように横島とエミを向かう。
これが美神にとって良い意味でも悪い意味でも数少ない友が出来る切欠となる。