第一話
気づいたら知らない天井だった。
周りを見渡すと当然知らない部屋。
「でも……何処かで見たような?」
知り合いの部屋?……いや、知り合いって感じじゃないな。だって記憶にある知り合いにこんな部屋ない。
上京してからというもの知り合いの家に行ったことなんてないし、地元にこんな人工物で構成された部屋なんてない。大体は木造で、しかも床は畳かフローリング(と言えば格好がいいが、実情は板張り)だ。
それに比べてこの床は——!!
「クッションフロアだと?!一体ここの家賃いくらだ?!そして無駄に収納が多いな!壁一面とかリノベ物件じゃなくてガチなやつだ?!」
しかし、こんな部屋、本当に見たことないはずなんだけど……一体どこで見たんだろう。
「それに収納が多い割には中身がすっからかんとは……まるで空き家だな」
ゲームの勇者よろしく備え付けのタンスやクローゼットを漁るがそこからは何も発見できなかった。
え?いきなり家捜しするのは酷い?俺的にはスマホとパソコンを覗かなければ後はセーフ判定だ。あくまで俺基準だぞ?いい子は真似するならバレないようにしよう!
ちなみに真っ先に玄関……いや、家の構造からすると部屋の扉が正しいな……を開けようとはしたんだぞ?ただ、びくともしなかっただけだ。
「あそこにパソコンがある以上は誰かが住んでいるのは間違いないはずなんだけど……他にベッドとマット、枕と掛け布団程度しかないってのがなぁ」
普通は寝具一式を個別に数えるのが面倒だからまとめてベッドと言い表すところだけどこれを一纏めに表すと本当にパソコン以外には何もない。
「まさか監禁?いや、でも窓がガラスだから監禁というには中途半端だよな……なぜか鍵は開かないけど」
とりあえずガラスを割るとかしないと監禁状態であるのは間違いない————
「————は?」
改めて窓の外を眺めると、そこには見たことのない街並みが広がっていた。
……見たことがない……本当に見たことがない……空の向こう側に薄っすら街並みが存在する異様な光景がそこにはあった。
「んな馬鹿な。異世界とでも言う気か?」
ネット小説やラノベじゃあるまいし……ん?向かいにある車、アレも何処かで見たことがあるデザインだぞ。
………………ハァ、だめだ。全然思い出せない。
もう最後の選択肢、パソコンを起動してみるかな。
「見た目は俺のパソコンとそっくりなんだよなぁ。まさか本当に俺のパソコンか?なら相手が誰であろうとドッキリだったとしても戦争の覚悟があるぞ」
起動してみるとそこには——
『Gundam Death Game Online』
「ガンダム……デなんとかゲームオンライン?」
すまん、俺、英語苦手やねん。
『ガンダム デスゲーム オンライン』
「おっと勝手に表記が変わったぞ?!何処かで誰か見てんのか!!……って、ああ!!この部屋にあの車?!アムロの部屋とエレカーに似てるのか!!」
なるほどなるほど、納得納得……ってなるわけないだろ!なんでアムロの部屋?あ、外の空に見える街並みはここがコロニーだと言いたいわけか。一々芸が細かいな。
ドッキリにしても何にしてもとりあえず話に乗らないと先に進まない気がするのでエンターキーを押す。
『まず国を選んでください』
そして出てきたのは——
「地球連邦とジオン公国か、やっぱりこの手のゲームだと宇宙世紀からってのは鉄板だよな」
ただ、隅っこに書かれている開始時期に0075ってのが気になる。
この時期ってジオンはギリザクIが開発されてるぐらいの頃?連邦なんてMSなんて言葉すら知らない時期じゃね?
まさかガンダムのゲームで61式戦車とかセイバーフィッシュとかトリアーエズとかフライマンタとかファンファンを使えってのか?ギレンの野望基準だとセイバーフィッシュすらないぞ。パイロット基準だったら主力のマゼランとかサラミスなんかは操縦できない可能性があるし……いや、ジオンももしかしたらガトルスタートなんて可能性も?どんなクソゲーだよ。
「まぁどちらにしてもジオン一択だけどな!」
どうも連邦の量産モデルは好きじゃない。
連邦は大きく分けてガンダム、ガンキャノン、ジムのモデルしか存在しない。
ティターンズなんかはジオンの技術が応用されて少しマシになっているけどパチもん臭しかしない。
それに比べてジオンはザク、ドム、ゲルググ、ギャン、MAなど様々なモデルが存在するし、何よりクィン・マンサっていいよね!(別作品でも出てくるので察していただけるだろうが作者はクィン・マンサが大好きです)
キュベレイもいいよね!(別作品でも以下略)
一応連邦でも特徴がないことが特徴のジム・カスタムとかGP01フルバーニアンとかも好きだけど質が段違だ。
「…………あ、そういや、このゲームのタイトルってデスゲームって付いてなかったか?もしドッキリじゃなくてガチのデスゲームだったらジオンって死亡フラグじゃね?!」
元々の国力差だとジオンが圧倒的に不利で、実際最終的には負けてるわけで……敗戦国に所属して自分の力で勝利に導くって、ロマン的にはいいけどデスゲーム的にはかなり厳しい内容になりそうだよな。
「…………キャンセルはできないかー」
『これよりガンダム デスゲーム オンラインの説明を始めます』
茶番劇……だといいなぁ。
説明によると、上部に表示されている赤と青のゲージが国力ゲージで赤がジオンで青が連邦、そしてゲージが飛んだ方が敗北。ちなみにこのゲージ、目測で10倍ほどの差がある……どちらが多くてどちらが少ないかはお察しだろうと思う。
そして何より問題なのが戦力ゲージだ。
国力ゲージと戦力ゲージはなんとなく意味合い的に似ていて紛らわしいが、ぶっちゃけ国力ゲージより戦力ゲージが重要なのだ。
なぜかというとこの戦力ゲージは俺自身のライフゲージであり、ライフラインでもあるらしいからだ。
「まさか通貨的なものとライフが同一とか……シビアになりそうな設定だな」
つまり、この戦力ゲージが無くなれば俺は死ぬ。逆に言えば、ゲージがある限り死ぬことはなく蘇ることができるらしい。
そして同時に自身のMSや生活用品、食料まで戦力ゲージで支払う必要があるとのことだ。
「……ドッキリにしては……手の込んだ設定画面だなぁ」
一通り説明を終えると次は実践形式のチュートリアルモードに突入した。
右にメニュー、左にニュース、そして映画の最先端グラフィックなんて目ではない臨場感あふれる地球と月と——
「これがコロニーか……リアル過ぎる」
一年戦争の舞台の全てがリアルな映像になっていて感嘆が漏れる。
「……これって間違いなくドッキリじゃないな」
だって俺を騙すためにこんなもの用意するとは思えない。というよりこれって今の技術で再現なんてできるのか?と思ってしまうほどの質を感じる。
画面にある宇宙が画面の中に存在するとはとても思えない。むしろ窓からみた風景だと言われたほうが納得できる。ただ、そうであっても現実離れし過ぎてまた別の感想が浮かぶだけだろうけど。
「これがデスゲーム……これが俺の命か」
そうなると改めて戦力ゲージが重々しく感じる。
その戦力ゲージはゲージでありながらその下に695813と書かれているんだけど——
「多分これって俺の貯金と現金の合計だよな?確か貯金に65万で残りが手持ち……端数は怪しいけど大体……え、何?俺の命って金で出来てるの?」
くっ、こんなところでも金は物を言うのか?!