第十七話
女性を部屋に招くというのは前世でも経験しているし、それが想い人であったことは多々ある。
ならなぜ緊張しているのか、それは……犯罪臭がするからだ。
私は前世では48まで生きていた。そして今生の14を加えれば62歳となる。
それに比べ、アナベルは今年で16、誕生日自体はまだ迎えていないので15歳。ただの15歳なのだ。
わかるだろうか、このとてもいけないことをしているかのような背徳感。前世の価値観だとどう考えても事案だろう。
それに惚れているというだけでも問題が……いや、身体の年齢で言えば違和感はない。しかしその事実も更に混迷化させ——
「うむ、素晴らしい。厳選された爽やかな素材の甘み、それを支えるように目立たないさっぱりとした甘味料、丁寧に処理をされたことがわかる舌触り、奇をてらわない方向性……見事だ」
アナベルが綺麗な所作に見惚れてしまう。……ただ、声色がお茶をしている雰囲気ではなく、まるで美術品の感想を言っているかのようだ。
表情を見れば喜んでもらえているのはわかるからいいのだけど。
(ちなみに作者的にアナベルの容姿のイメージは戦場のヴァルキュリアのセルベリア・ブレスを髪をもう少し短くしてポニーテールで胸囲を控えめに、CVは皆川純子(キャラはコードギアスのコーネリアかブラッククローバーのメレオレオナ)です)
「先生、このような上等な物を本当にありがとうございます」
「それだけ喜んでもらえたら誘ったかいがあったというものだ。こちらも美味い茶を提供してもらっているしな」
それにこの高級和菓子、正直に言えばどのあたりが高級かわからないというのもある。
前世のコンビニで売られている和菓子よりはいいものであるのはわかるのだが、和菓子屋で購入したものと差が感じられない……もしかしてこういうところにもスペースノイドとアースノイドの格差があるのか?それともただただ近所にあった和菓子屋が実は名店だったとか?
「それにしてもさすが先生です。連邦の卑劣な工作員を始末するとは」
初めてだな。ナショナリズムを感じる発言は。
もう少し早くこの手の言葉を聞くと思っていたが……思ったよりもナショナリズムに感化されていないのか——
「口惜しい。私も早くジオン公国のお役に立ちたい」
……そうか、一応弁えてはいるのか、自身の情熱は他人と共有できないことが。
起こした派閥は女性ばかり、人数が増えたとはいえそれでも私が紹介したスラムの子供達が多い。
スラムの子供達は生きるために、生活のために軍人になっている。それなのにナショナリズムを説いても無駄とは言わないが響かないことを理解し、新しく入ってきている人材もそれほど熱意がある存在は私が見た限りいない。
そのあたりを察することはできる能力はあるようだ。いい上官になれそうだ——ん?ならなぜ私に?国に忠誠なんか誓っていないことぐらい知っているはずだが?……まぁ流れ的にそんなものか。
おい、ギレン。いいかげんにしろ。
企業への仲介で繋がりもでき、資金に余裕ができたことで私の名義で下請け工場を設立したり、社員寮を構えてスラムの子供達を働き口を構えられたり(違法)と順調に過ごして0071年になったのだが——
「優性人類生存説……もしかして一周回ってバカの類か?」
なんだ、このサイド3に住む人間こそが選ばれた優良人種って……あからさま過ぎる。せめてサイド3ではなく、スペースノイドにして——まさか他のサイド取り込みが苦戦しているからか?
わからなくはない。ジオン共和国だった頃から比べるとザビ家一色のサイド3は前時代的で、地球連邦の圧政よりも危険な香りがする。
とはいえ、こんなものを発表したところで喧嘩を売っているだけで何の意味がある。せめて内側だけでも固めようっていうのか?このまま喧嘩を売って勝てるとでも?
そしてこれに民衆が踊らされてしまっているというのがなんとも——
「さすがギレン閣下だ!」
そして、ここにも1人、踊っている人物がいる。何を隠そうアナベル・ガトー一等兵候補生である。
優性人類生存説の発表によって民衆に熱意が高まり、軍人にもそれが移り、アナベルのナショナリズムにも共感しやすい環境になった。
その思想を正す……ようなことはしない。
非常に残念なことにジオン公国は本当に……本当に戦争まっしぐらなようなので軍人に向いている思想を正して苦痛を与えるような非道なことを私はしない。
人道など教えて人殺しに苦痛を覚えるぐらいなら非人道的で人殺しに戸惑わない方がいい。
例え外道に堕ちようと……そもそも人殺しなどスラムでは珍しいことではない。道徳や人道というのは余裕がある人間が説く、食事で言うとデザートのようなものなのだ。
ちなみに主食は秩序、おかずがお金、水が家族だ。
アナベルの一等兵候補生になったのは熱い熱い愛国心を書いたレポートによって忠義を評価されてのものである。
まさか読書感想文的なもので階級が上がるとは思いもしなかった。
火に油を注ぐように連邦軍はセイバーフィッシュなる戦闘機を開発したそうだ。これは開発部で得た情報なのでまだ巷には出回っていないが、時間の問題……というよりおそらく隠さずに暴露して戦意を煽るだろう。
それにしても最近開発部も慌ただしい。どうやら新兵器の開発が本格化したようなのだ。
どうも新機軸のものらしいのだが……もしかしてこれがギレンの強気の要因だったりするのだろうか?
それと企業側と頻繁にやり取りしているのだが、何匹か無害そうだったので泳がせていた連邦スパイ以外のスパイも増えているあたりどうも間違いない……というか新兵器の開発とか極秘中の極秘なのに連邦に嗅ぎつけられているあたり、ジオン公国がザルと言えばいいのかさすが連邦と褒めればいいのか悩む。
また少佐にチクって何匹か刈り取っておくか……いや——
「少佐殿、またネズミの報告なのですが……」
「む、またかね」
「そこで相談なのですが、差し出がましいかもしれませんが今度は中尉方に持って行った方がよろしいでしょうか」
つまりギレン派の少佐殿だけでなく、ドズル派やキシリア派にも手柄を挙げさせておいた方がいいのではないかという相談だ。
組織では大事なホウレンソウ、私の上司は少佐であるため勝手に動くわけにはいかないができればドズル派やキシリア派との関係も良好にしておくべきだろうと考えての行動だ。
「……わかった。中尉達に話を持っていくといい。ただ話に応じなければもう1度私に持ってきてくれると嬉しい」
「もちろんです」