第一話
生まれつき……じゃなかったか、俺という意識がはっきりした時から変な記憶が俺にはある。
知らないことを知っていたり、よくわからん習慣があったりして子供ながらかなり困ったのは今となってはいい思い出だ。当時はマジで困ったけどな。
とはいえ助かったことも結構ある。
目立って受けている恩恵は計画性の大事さと大人の見識だ。
子供にはわからない大人の見方や感情がわかるというのは色々と便利だ。そして計画性、これに関しては別に俺が真面目って話じゃなくてな?むしろ不真面目だからこそ効率良く物事を片付けて遊びたいって話だ。
「あら、ユーリ。また洗い物してくれてるの?ありがとう」
とこのように心象を良くしていくことができ、多少余計に遊んでも注意されることはない。
ああ、ちなみにユーリという名前ではあるが俺は男だからな?勘違いするなよ。
ただ……まぁ……恩恵よりも実害の方が多いというのがなぁ。
それを大まかに言うと、まず俺の記憶にあるのが旧時代のアースノイドの人間のものであることだ。
「スペースノイドだってのになぁ」
全人類が地球にいた時代なんてもう200年は昔の話だろ?宇宙移民自体は60年以上経ってるが宇宙にコロニーができたのはもっと前だ。
そんな昔の価値観をこんな時代に、しかもスペースノイドにアースノイドの価値観なんて本当に誰得なのか。
コロニーに蚊取り線香とか売ってないからな?空気は有料だからタバコとかアホみたいに高いからな?具体的に言えばタバコ1本とビール1本が同等ぐらいだ。
1箱じゃないぞ?1本だからな?
ああ、そう言えば1番の違和感は発酵食品だ。
発酵というのは特定の菌を増殖させて行われるだろ?これ、宇宙でやると大変なことになるから発酵食品は宇宙に持ち出すことを禁じられてるんだぜ。
つまりヨーグルトやチーズなんかは駄目なんだが……まぁ代用食品があるから問題ないかな。
結構味が違うから代用になってるか疑問だがね。
まぁ……1番の実害というか弊害は大人のような思考があるのに子供のように振る舞わないといけないことなんだがな。
俺の家は富裕層に位置する。
どれぐらいの金持ちかって話は具体的には言いづらい……というか俺も把握できてないけど少なくても3階建ての屋敷から遠くに見える街の境までが私有地らしい。ただし親が言っていたことなので本当かどうかまでは保証しかねるが少なくともそう聞いている。
ついでに言えば他のコロニーにも土地を所有していると聞いている。
凄いな俺んち。
更に加えると地球にも土地を持つ……というかそっちが我が家の発祥で、経営している会社の本社もそちらにあるらしい。
もっとも父からすると地球はオワコンだから本社を移したいが手続きが面倒なんだ、そうだ。
本当にこう言ったわけじゃなくて俺の意訳だ。
そんなわけで家は金持ちである。そして親戚や知り合いも大体は金持ちだ。
となると行われるのがパーティーだ。うん、妙な記憶でそうなっていたけどこれは正しい。
社交界デビューは年齢が6歳にした。
そこで初めて金持ち喧嘩せずという言葉の意味を理解できた気がした。
これの意味は喧嘩なんて損しかないから利に聡い金持ちは喧嘩しない、という意味だと思っていた。
もちろんそれも多分に含まれているのは間違いない。
しかし、俺の感じたのはそうじゃなかった。
金持ちが金持ちと喧嘩してしまえば、他の誰と付き合えるのか。
金持ち、権力者というのは貧困層と一般層から比べて圧倒的少数で、身近に置く存在は大体において下の人間だ。
下の人間というのはどうしても嫉妬、僻み、おこぼれ狙い、遠慮など、主に負の感情が発生しやすい。もちろん全員が、全てがそうだとは言わないが多いのは間違いないだろう。
そうなると社交界での付き合いというのは商売人としてのものだけでなく、ほぼ対等である人間同士が親睦を深めるという目的でもあるということだ。
と悟ってからはパーティーの過ごし方が変わった……か?正直そこまで考えは至ったが俺のパーティーに望む姿勢は楽しく美味しく騒がしく……いや、もしかしたら生きる姿勢もか?もちろん限度を見極めてだが、そんな感じで過ごしてきた。
そして12になった7月のあるパーティーで運命、なんて言いたかないが間違いなくこの後の人生を大きく変わる、変えられた出会いがあった。
「これはこれはデギンさん、お久しぶりです」
「久しいな。元気にしていたか」
父の声が耳に入り、そして続く声が聞き覚えのないものだったので話していた出席したパーティーに毎度いる友人に断りを入れて父さんの側に控える。
父さんが知らない人と話す場合、俺を紹介しやすいようにできる限り側にいることにしている。
顔を覚えてもらっていると後々効いてくるらしい。
顔を覚えておくのは多少面倒ではあるがこれも後で楽をするためと思えば苦ではない。
声に聞き覚えがなかったのは間違いないが、相手の顔は知っていた。
確かジオン共和国の首相ジオン・ズム・ダイクンの側近でいつも傍らに控えている人だ。
ジオン首相が目立ってあまり声を聞く機会がなく忘れていた。
「そちらは息子さんか、大きくなったな」
どうやら記憶にないが会ったことがあったようだ。
つまり俺が俺になる前の話か……そんなん覚えてないわ。俺という意識ができたのは2歳後半ぐらいの時だぞ。
「ユーリ・ケラーネです。お会いできて光栄です」
既に顔合わせしている以上、家名までつける必要はないような気もするが、一応初めましてのていで挨拶をしておく。
「ユーリ、デギンさんは遠縁に当たるんだよ」
マジか、しかも遠縁であっても子供の顔を見せるぐらいには親しい間柄ということか。ウチの繁栄の裏側だったりするんだろうか?
「ふむ、少々変わった感じを受けるが良いご子息ではないか……ギレン、少しみてやれ。私は話がある」
「はい。父上」
どうやらデギンさんは父さんと話があったようで、息子さん?に私の面倒を押し付けて2人は離れていった。
そして残されるギレン?と私。
「知っているかどうかはわからんから紹介しておこう。私はデギン・ザビの子、ギレン・ザビだ」
それにしてもなかなか個性溢れる人だな。
眉毛ないし、身長高いし、普通に喋ってるだけなのに偉そうだしな。
「僕はユーリ・ケラーネです。よろしくお願いします」
「遠縁とはいえ親戚で、その上子供だ。遠慮する必要はない」
と子供に言う台詞ではないものを投げかけられた。
なかなかの難物だな。
青年。
……まぁ俺も特殊性では負けていないがな。
しばらくは世間話をしていると段々と踏み込んだ話をするようになった。
どうやらギレンさんは父親のデギンさんの手伝いを本格的にしているようで欲しい情報がスラスラ出てくる。
……いや、手伝い云々以前によくそんなに覚えていられるなと思わせる情報量に感心する。
「ふむ、まだまだ幼いのになかなかの見識だ。将来が楽しみだ」
22歳にしてこの貫禄ある発言である。なんか将来顎で使われる気がする。
しかも無茶振りでな。
「ということがあったんだよ」
「へー」
明らかにどうでもいいという感じの声で返事をするのはスクールが同じで家も3件ほど隣(物理的には遠い)のサハリン家の長男、ギニアス・サハリン。年は1個下だ。
ちなみに俺がぞんざいに扱われているわけではなく、こいつは7つ下の妹に首ったけ……つまり重度のシスコンなのだ。
普通の11歳なら多少は気にするだろうが遊ぶこともする。だがこいつは割と四六時中妹のアイナを眺めている。暇さえあれば眺めてる。
「変態か?」
「愛だ」
テキトーに返事しているようでちゃんと聞いているのもある意味たちが悪い。
そして今がこれで大丈夫か、9歳児。そのうち何か大事をしでかしそうでちょっと心配だぞ。
「そういえばこの前のパーティーも来なかったな」
「アイナが熱っぽかったからな」
本当に大丈夫だろうか……アイナの方向を向いているせいでギニアスの表情は俺からは見れないので余計に不安になる。