第十話
『亡きジオン・ズム・ダイクンの後を継ぐこととなったデギン・ソド・ザビである。皆、立国の英雄を失い不安に思うところだろう。しかし、ジオンは皆に志という希望を残した。そして私はその希望実現のために身を粉にして働く所存です――スペースノイドの未来のために』
以上がデギンさんが首相となった時の演説の一部だ。
いやー、大変だった……一部訂正、だったと過去形にするほど今が楽というわけではないが。
手始めに士官学校の大半を掌握していたことを利用して生徒を篩(ふる)いに掛けるのは難しくなかった。
問題は教師達だ。
社会的地位からするとただでさえ俺達は生徒で教師からしたら下の立場な上に士官学校ということで現場の教師は等しく現役軍人であることからデギン派が多い。
ただ、あくまで大半が、であって当然ジオン派も存在していた。しかし現役軍人というだけあって忠誠心というか反骨心というか頑固者というか、とりあえず説得に苦労した。特に先に言ったようにこちらが格下というのも説得に苦労した点だ。
学生相手なら通じる脅しや飴なども本職にはなかなか通じない。文字通り児戯としか取られない。そしてやりすぎれば反感、反発必至と面倒なことこの上ない。
仕方ないので狙う教師達と繋がりがありそうなギレンさんに紹介をしても恥じない程度の生徒達の家に協力を頼み、無事取り込みを完了した。
報酬はギレンへの紹介という責任こそあれ支払う労力は最低限のもので済んだのは行幸だ。
まぁ取り込んだ奴らはしばらく監視する必要はあるだろうがな。ゲームではないのだから取り込んで褒美をあげれば寝返らない、なんて簡単な仕組みではできていない。どんなに手厚くもてなしても裏切る時は裏切る。
ああ、そういえば最近ジオン派の名称がダイクン派に変更になった。首相が変わってしまい、国はジオン共和国のままである以上、ジオン派と名乗っていると政府を支持しているように聞こえてしまうので誰かは知らないが『ダイクン派』と言い始め、それが浸透した結果、デギン派ジオン派問わずに『ダイクン派』で統一することになった。
こんなところで一致団結する必要はないと思うんだけどねぇ。まぁ確執になるよりはいいか。
さて、俺は……なんか知らんが士官学校を卒業させられた。
予定では来年予定だったのだが、デギンさん(公の場以外ではこのままで通す)、ギレンさんに成績足りてんだからとっとと卒業して現場を経験してこい(こき使ってやる)との一声で早期卒業となった。解せぬ。
色々と政治的に動いたりしていたが、まだ学生でいるつもりでいたんだがなぁ。
ちなみに以前言っていたギレンさんからの報酬は今回の動きで更に上乗せされることとなった。
普通なら士官学校卒業後は准佐、問題なければ1年ほどで少佐へ。もしくは成績優秀なものならいきなり少佐で2年ほど中佐となる。
ところが俺の場合、何を考えたのかいきなり中佐からスタートになってしまった。
あの出っ腹と眉なし……あ、出っ腹の方は眉もなかったな……は何を考えてんだよ。マジで。
入隊早々に特別扱いで中佐なんて会社で言えば入社したての新社員が係長を飛び越えて課長になるみたいなもんだぞ。上から下まで嫉妬されて仕事に支障が出る、とまで言わないが関係構築のハードルが上がったのは間違いないぞ。いい加減繰り上げ卒業自体コネを疑われかねないというのに……。
更に――
「なんでこんな重要なプロジェクトを俺に関わらせるかねぇ~」
いや、信用してもらっているってのはわかるからいいんだけどさ。
よりにもよって新設されたての警備隊を任せられるとか……まぁその新設された目的がサイド3におけるギレンさん……いや、今は眉なしでいいか……の護衛が主な任務だ。
もしかして俺、こんな感じでずっと飼われる感じか?
「心配せんでも貴様には重要なポストを考えている」
「それはよかった。まさかこのまま護衛と称して5割がなぜか美人秘書から回されてくる書類を片付けさせられ続けるのか心配だったんだ」
それに残り5割も明らかに警備隊の仕事じゃないからな。
例えば、とある人物の身辺調査、情報の真偽確認などなど……幸い、サイド3内の任務だが、どう考えても情報部の仕事だろ。
「情報部は今は信用ならん」
まぁ政権交代して間もないからまだ完全に信用はできないだろう。
何より世間ではジオン元首相の死はザビ家の暗殺ではないかという噂が流れているが、当事者のザビ家としては死活問題らしい。
もしザビ家がジオン元首相が暗殺したというなら問題なかったが、そうではないと本人達は言っている。そしてそれが事実である場合、ジオン元首相を暗殺することができたならザビ家の人間も暗殺できる可能性が高く、そしてそれを望み、実行できるであろう強大な組織に心当たりがある。
だからこそ信用できる者を身近に置きたい、使いたいってのはわからんでもないがね。おかげで嫉妬の眼差しを熱く厚く受けることになっているが!それに選ばれたことは光栄なことではあるが!
「それにやはりお前はなかなか有能だな。新兵とは思えん」
「まぁやってることは士官学校でやってたこととそう変わりませんからね」
これがサイド3外となれば別のノウハウがいるだろうけどな。物理距離が開けば開くほど情報の受け渡しが難しくなるから。