第十一話
いやー、マジでギレンさん遠慮無さ過ぎて涙が止まらないんだが。
情報部のダイクン派洗い出しは難易度がルナティックではあるが重要性は理解できるからいいとしてサイド3全体のダイクン派の把握とか無理難題を押し付けてきた。
サイド3全体って……コロニー何基あると思ってんだ?そして1基に何億人がいると思ってんだ。それの意識調査だと?できると思ってんのか!
と怒鳴りたい気持ちを抑えてまだ卒業していない士官学校の信用できる奴らだけ召集した。ちなみにギレン閣下の命令書付きなんで拒否権はない。
もちろん諜報員として働いてもらう……のだが、士官学校は漏れなく佐官が保証されている関係で実働部隊というわけではなく部隊指揮を任せた。
そういえば特殊な記憶では士官というのは尉官からなんだが、この士官学校は上流階級のために作られた士官学校だから佐官にしかならない。
そもそも国防軍の現在の制度はわかりやすくまとめると将官は軍政、佐官が総指揮、尉官が部隊指揮という形になっている。
上流階級の人間を尉官以下に配属して万が一が遭った場合責任問題になってしまう。だから名誉を持たせつつ比較的安心な後方指揮という裏事情がある。
別に佐官全てが上流階級というわけではなく、軍学校から昇格すれば普通になれる。あくまで士官学校そのものが上流階級の裏口入学的なものなのだな。まぁ箱はともかく中身はしっかりと英才教育を施しているのだ問題はない……はずだ。
ちなみに後方指揮を任せたらやばそうな人物は卒業させないわけにはいかないので卒業と同時に窓際部署に配属されることになる。時代が変わって人間がやることは変わらないということだ。進歩しないねぇ。
あ、ちなみにギニアスはメンバーに入っていない。入れようとしたらギレン閣下から――
「やつの才能はそんなものに使うなんて非効率だ」
とダメ出しされた。
確かにギニアスは技術士官として採用が内定している。技術士官はその性質上、学生だろうが職に就こうが守秘義務は変わらないし研究予算も用意されるから差がない。
唯一の差は給料ぐらいだろうが技術屋というのは研究予算があればそれでいいという人間が多く、ギニアスも例外ではない。むしろ正式に士官となってしまえば就労義務が発生する……平たくいえばアイナと共にいる時間が減って――(以下略)
指揮官として有能なビッターさんは武人っぽい気質で諜報活動には向いている感じじゃなかったので誘っていない。そもそも今回の任務はジオン共和国をザビ家が支配する下準備だ。
デギン派、ダイクン派ではなく、スペースノイド派であるビッターさんにその手伝いをさせるのは忍びない。それにこういうことは禍根になりかねないので配慮しておいて損はない。
まぁだからといって問題ないメンツが揃ったかというとそうでもなかったりする。
「無闇に手を出すなと命令していたはずだが?」
諜報活動中にダイクン派である政治家を変死させた張本人に問うてみる。
「度が過ぎた懐古主義者に鉄槌を下したまでです」
そうのたまったのは如何にも映画で悪役が似合いそうな人相をしているキリングという男だ。
ちなみにこの男、姓はない。どうやら軍属になる際に家を捨てたらしいのだが、よほどいい家だったらしく、家を捨てたのにも関わらず士官学校に入れた稀有な存在だ。
ついでに言えばデギンさんではなくギレンさんの熱狂的なファン(を超越した何か)で、諜報活動をするにはちょっと……かなり?不適切な気もしたが、裏切らない、裏がないことだけは確かだったので採用した……まぁこの召集で呼ばなかったら恨まれるかもしれないと少し思ったりしたけどな。こういう輩は根に持つからなぁ。
それにしても懐古主義者って……まだジオン首相が亡くなって間がないんだからそのものいいは酷じゃないか?
「愚民……ゴホン、市民ならそれでもいいでしょうが重責を担ぐ人間が愚物ではあってはなりません!」
若いなぁ。若いがゆえに即断即決、白黒を鮮明にしたがる。(なお自身は17歳)
世には白黒でハッキリさせることができないことなど人が集まれば……いや、自分自身の中ですら存在している。
それが見えない、感じない、考えないのは若さとしか言いようがないだろう。頭は悪くない……はずだからな。
実際今回変死を遂げた政治家はダイクン派は自覚していないだろうが柱とは言わないが筋交いのような役割を果たしていた。
それをピンポイントで殺害し、その死も分かる者には分かる程度の変死でしかなく、実際なんの手回しもしていないのに警察は事故死で処理したことからも能力はある……だけどねぇ。
これが命令されてのことならまだいいんだ。職業上当然のことだ。しかし裏を返せば命令がない場合は必要以上のことをしてはいけないのが秩序を守る軍人だ。
……あいにく、今の国防軍はその秩序を乱すことに寛容なんだよなぁ。成果主義と言えば聞こえは良いが、結局は大多数が素人の寄せ集めでしかないということだろう。
「せめて事前に連絡をよこせ。万が一の場合フォローしないといかんのでな」
「そんな心配は御無用――「じゃないと――」――」
キリングの言葉を遮り――
「お前を撃つことになるぞ。後ろからではなく、堂々と前から」
殺気というものがあるのかどうか俺にはさっぱりわからないのだが真剣に伝えてみたが……どうやら一定の感情は伝わったようで、顔色が変化したのが見て取れる。
いつの時代のセンスしてんだよ、と言いたくなるサングラス(太陽の光は管理されているのになんで着けてんだ?)の奥にある瞳には怯えの感情が入ったのがわかったので上手く伝わったようで何よりだ。
ちなみ言った言葉自体は偽りなく100%本気だ。
「優秀なのは間違いない。だが基本を忘れるな」
「ハッ、この度は大変申し訳ございませんでした」
さて、この言葉が本気なのかその場しのぎなのか……それは追々わかることか。