第一射 合い言葉はアミバ
早速だがみんなに教えたいことがある。
なんだと思う?ふっふー、実は俺一回死んだんだよ、すごいと思うのだが。疑問に思わないかい?
俺が今こうしてしゃべっていることに!
何を隠そう俺は転生っぽい憑依をしてしまったのだ!!
それにちゃんと神様にも会ったんだぜ?チートパワーをプラスして貰ったんだ!まぁ何処の世界に行くかわからないから役に立つかわからない。
俺としてはやはり元の現実世界へと転生したかったわけだよ。
「ゴボ!ゴボゴボボボ!ブボ!?アバババババ…アミバ!」
それにしてもおかしい、声が上手く出ない。最後なんか出たような気がするが。
なんということでしょう。周囲を見渡しても真っ暗で何も見えない。
感触からして俺はなにやら液体の中にいるような気がする。あぁこれは羊水っていう奴かな?はっはー、俺もどうやらマイマザーに愛されているようだぜ。
生ジジ応—認ガガッ電—置をビー動ビッ灯
機械的な声にブォンという音がしたかと思ったら何故か明るくなった。だがなんかフィルターがあるみたいで少し見にくい。
あれ?羊水の中かと思ったら…なんか古ぼけた部屋だ。
古ぼけた部屋、ところが俺が入ってる容器(?)は異様に近代風のいかにも科学です!な感じである。
灯りは…ランプ?なんで勝手に点くんだよ。当たりにまき散らされた本やら埃を被った机、何かのガラス細工が粉々に砕かれたかのような跡、そして何より視界が緑色。
緑色の液体が俺を包んでいるっぽい。それにしても変だ。呼吸してないはずなのに全然…あ、今苦しくなってきた。
残念、俺の旅はここで終わってしまった!おいどうにかしろよ。
腕やら脚やら上手く動かせなくて俺と液体が入っていると思われる容器のガラス(?)は砕けそうに無い。というか変な液体飲んじゃった。
—警—告—号ガッ—6号ガガガ体ジー応レベルの低—緊—措ビービ動
「モガっ!?」
どこからともなく伸びてきてカポッと擬音が似合うマスクが俺の口に取り付けられた。
マスクにはチューブが伸びている。ゴゴゴゴとチューブが俺の喉に入り込んだ液体を吸い寄せた。非常に気持ち悪い。というか俺なかなか死なないな。
呼吸出来ないはずなのに案外結構イケルかもしれない。潜水とか得意なのかな俺は。ふと気付くと普通に呼吸できるようになっていた。
このチューブから空気が送られているみたいだ。安心安心。
—ジジジ線体—応ガガッ定—後ギギッ定
ぷかぷかと液体が俺を揺らす。
さてこれからどうしようか?俺一人でここから出れる気配がまったくない。
神様からチートパワーを貰ったが…ちょっとやってみるか。
「ど…がい゛…」
声が出なかった。
アレだ、数週間の引きこもりから久しぶりに外に出てしゃべってみた感じだ。
おかしいな?というかここどこよ?何度でも疑問に思うぞこら。
ちなみにさっきは『同調・開始』と言おうとしたんだ。
あれだよ?衛宮んのあれだ。俺は実際現実世界に転生すると思っていた。だから剣やらなにやらを作り出すのではなくパソコンやら鉛筆の芯やら、日常生活最強を目刺していたわけなのだが。
そもそも俺が『同調・開始』で投影出来るかどうか知らない。俺は衛宮ん一人のための呪文だからな、俺は俺の呪文を考えよう。
さて、色々考えてみてもののどうすればいいのかわからない。
一応機械的な声から推測すると俺には今生命維持装置的なのがついているのだろう。
ドラゴンボールに出てきた回復装置か?ふむぅ…もしかして俺の今の肉体の保有者は死んだのか?だから生命維持装置は停止した…でも俺が憑依し一時的に命は復活。そして今に至る、もうね馬鹿かと。
「うぁ…あ」
出ない声、助けを求めるにしてもどうすれば?装置が起動したことを誰かが気付いてくれればいいのかもしれない。
さて、今の俺の状況から確認すると俺は現代社会、つまり俺が生きていた現実世界ではないということだ。
こんな科学力みたことないしあるわけがない。すると俺が来てしまったのは科学がある程度進んだ世界だ。本当にドラゴンボールってことはないだろうな?周りの古ぼけた様子からしてそれはないだろうが…。
タッタッタッタッタッタ
——ラ様!お——下さ—そ—へ行—いけ——ぬ!
…誰かが来たようだ。ようやく俺も解放される時が来たか。
それにしても、一体どういうことだ?平和な世界だといいのだがなぁ。まぁ極めれば衛宮んクラスの投影まで辿り着けるように設定してもらったのに平和を求めるなんて馬鹿げたことだと思うけど。そもそもこういう回復装置(?)の技術があるという時点で何かのフラグのような気がする。
「うぉ!なんじゃここは!?って誰かおるのじゃ!」
来たのはチビッ娘だ。
褐色に…角?角が生えてら、どこかで見たことあるような気がするぜ。さて何だっけな?
それにしても角っ娘か。いいね、そういう世界なんだろ。
後ろにはゼェゼェ言ってるローブを着た人がいる。
それにしてもこの角っ娘、なんか偉そうな格好しているな。時々見えるおへそがなんとも言い難いキュートなんだろうか。
それにしてもこの出会いは最悪だろうな。俺裸だし。
「おお…、こいつは…生きおるぞ」
コンコンと俺が入っている容器を叩く。
無論割る気なんかないのだろう。
その様子を見ていたローブの人—声からして女性かな?—はなんか焦っていた。
「近づいては駄目です!テオドラ様速く離れて!!」
そう言ったフードの女性はテオドラと呼ばれた…テオドラ?あぁなるほどテオドラ様ね。あぁはい、あの帝国の皇女様だろ?なんでここに…あぁ、神様よ。なんという場所に俺を行かせたのだろうか。この皇女様がまだロリっている様子からすると原作開始まで時間があることは明確だな。
さて、話を戻すがそローブの女性はテオドラを守るかのように前に立った。そしてまぁ俺を睨み付けながら杖を構えるじゃないか。
さてどう答えるものか、まぁ声でないんですけどね
ゴボンッ
「見ろ!やはり生きておるぞこやつ!」
空気を上手く吸い込んでマスクの間から出してみた。今の俺にはこれしか反応できる動作が無い。
あれ?瞬きできねぇ。なんでだろ?あぁ…俺目開いてなかったわ。それなのに周りの様子がわかっていたのか。
さてどういうことだろうか。目蓋を開く感覚を思い出せ。…目蓋を開く動作がこんなにも大変だとは!?さぁいけ俺!!
「テオドラ様危ない!」
「うぉ!起きたのじゃ」
目を開くことが出来た。
先程とは違ってフィルターをかけたような感じではなくハッキリクッキリと見える。ついでに変なオーラが見えた…かと思ったらすぐに消えた。なんだ今のは?
やはり褐色角っ娘だ。見事にテオドラ様です本当にありがとうございました。
「貴様は何者だ!?」
従者の人だろう。なんせテオドラは皇女だからな。一人二人や百人いてもおかしくはない。
いやさすがに百人はないか。
さて俺にどうしろと?
ゴボゴボッ
とりあえず出来る反応をしてみた。がそれでもやはり警戒の様子は解けない。
あぁ俺はきっとここで『魔法』で木っ端微塵の微塵切りにされてしまうのか。
折角チートパワー貰ったのに。まぁ貰った理由も『最新パソコンとか作れるんじゃね!?』が大まかな理由だ。
今考えると現代に転生するとも憑依するとも一言も言ってなかった。
ガーーーー!!!!
「わ!」
「テオドラ様!?」
このじゃじゃ馬皇女がそこら辺にあった変なスイッチを押したようだ。なんというお約束事。スイッチがあったら押す、それはある意味人類の本能だ。
まぁテオドラは人間じゃないけど。
人間型の亜人だったっけ?角生えてるし、あぁもうかわいいなぁ!
ゴボゴボゴボ!!
足下から大量の気泡が浮き上がる。水中故の浮遊感が無くなっていく。液体が無くなっていってるようだ。液体無しに俺は生きていけるかどうか不明だが…まぁなんとかなるべ。液体が全て排出されマスクが取れる。俺は自分で体を支えることも出来ずに透明に容器にガツン!とぶつかった。あんまり痛くなかった。そして先程まであったはずの透明のガラスのようなものが突然消えさり、俺は床にぶちまけられる事になった。
「テオドラ様下がって!!何者か不明ですので」
「おい!こやつを速く治療してやるのじゃ!」
そんな声を聞きながら視界が暗くなっていく。以後何があったのかまったくわからなった。
ただ願うことは例えこの世界であろうとも俺は生きていければそれでいい。
まぁ戦争前ならば間違いなく巻きこまれるだろう。その前にこの投影と『幸運を引き寄せる力』をコントロール出来るようにしなくてはならない。
まぁ幸運を上手く引き寄せることが出来るようになればラッキーマンの如く誰にも負けることはないだろう。勝つことは出来ないにしろ…、勝つ必要性もあるかどうか。
○
「し……ら…」
知らない天井だ、とお約束の言葉をいってみる(言えてない)。
どうでもいいが英語で何だっけ?学校で英語を習うが正直あれは駄目だ。
英語ってのはフィーリングなんだよフィーリング!そんなに英語力つけさせたいなら英会話方式で学ばさせろよ!?
さて、俺は目を覚ましたわけだが一体ここはどこだろうか?
流れ的には帝国だろう。微妙に高級な部屋の感じがするのは気のせいだ。
ふと思うと俺は普通に上半身を起きあがらせることが出来た。
これもあれも治療の『魔法』の御陰だろう。体の調子は…うむ、良くわからない!投影が使えるからといってすぐに解析出来るわけでもないし何より俺の呪文を見つけていないわけで、幸運は…どうすればいいのかわからないが感覚でやってみよう。
ESPカードで練習してみるか?サイコロでもいいかもしれない。サイコロやESPカードで考えてみると幸運=確率変動とも言えるかもしれない。やばくね?無茶な話であるが幸運にも相手が攻撃を避けなかった!なんてこともあるかもしれない。うわぁお。
「目を覚ましたようだな」
ふと気付くといつの間にか扉から入ってきたのかローブの人が話かけてきた。
従者の人とは別の人だ。まぁどうでもいいのだが。この人が俺を治療してくれたのかもしれない。
「うぁ?…あ、ご、こ…は?」
「随分と長く話していなかったようだな。喉の筋肉が弱り切っていた。治療してなんとかしはしたが、まぁすぐに喋れるようになるだろう。あぁちなみにここはヘラス帝国のとある部屋だ。それ以上は話せぬ」
なるほど、やはり治療してくれたのか。
それにしてもねぇ『ヘラス帝国』とは…。あの世界では間違いないようだ。
問題は時代だが…なんとかなるだろ。俺の状態を説明したら、下働きぐらいはさせてもらうかもしれない。
説明といっても気が付いたらあそこにいた、以上。なのであるが、さてどうしたものか。
「あ゛…あ、り…が、と」
「礼には及ばない。それにな、その…なんだ、こういう言葉は慰めにもならんだろうが、もう大丈夫だ」
な
ん
の話だ?
大丈夫?はい何の話でしょうか?あれか、トリッパーにはお約束の悲しい過去(笑)でもあるのだろうか。そして俺には隠された殺人衝動が…ないな。さて一体何の話か不明だ。
もしかしたら俺があの容器の中にいたことに関係しているのだろうか。一体どういうわけか。まぁ記憶喪失(爆)でなんとかなるだろう。
「な、なん…の、は、な…し、です…か?」
少しずつだが声が出るようになってきた。
こんなに速くなるものなのか、さすが回復魔法だ。
「まさか、覚えていないのか?…いやそちらのほうが良いかもしれん」
相当暗い話のようだ。まさかそこまで酷い状況だったのか俺は。まぁ実際『俺』が受けたわけじゃないしそんな記憶も無い。元の持ち主には悪いとは思う。だが何も思わないのはしょうがないことだ。
「今は休め」
そういったフードのおっさんは杖を取り出してなにやら霧を出してきた。あれか?眠りの霧ってやつ…か。
○
「チッ」
フードの男は冷静にしていたようで内心怒りに燃えていた。
この帝国に魔導師として働く彼としてはこの帝国の黒い話をたびたび耳にすることはあったが、どれもこれも嘘か誠かわからないようなものばっかりだ。
魔法で寝た少年を見やる。色素が完全に抜けきったため絵の具をぶち負けたかのような白い髪の毛、血のような真っ赤な目、それが彼を『不完全』ということを表していた。
「まさか…『ホムンクルス』とはな。しかも、戦闘を目的とした」
フードの男は拳を握りしめた。
先程の彼の様子からして実験の途中は覚えていないのだろう。
見つかった隠し部屋に合った所謂記録書、それが今回の事件を物語っていた。
戦闘を目的とし単騎による大軍撃破を目的とした生物兵器。それが彼の…36号が作られた目的であった。記録によると彼が作られたのはおよそ半年前、そして『死亡』したのは二日前。
そう記録には36号…彼は死亡しているはずなのである。しかし見てのとおり彼は生きていた。
「願わくは…彼に幸が多からんことを」
そう言いフードの男は退室した。部屋に残ったのはスースーと息を立てる白い彼だけであった。
そもそも彼を発見したのはとある一人の男がつかまったことから始まる。
その男は研究者であった。
この帝国につとめる所謂技術開発部門の、来るべき戦争にそなえ強力な戦艦、鬼神兵、といったものの開発研究を目的とした一団の中の一人であった。
情報によれば彼は上手い評価を貰うことが出来ずに所謂クビ寸前であったという。
逆転をしようと思いホムンクルスという作る難易度が高い存在に、大軍撃破というまさに夢のような力をつけさせようとしたのだ。
結果は惨敗、それは保護された生き残りである彼の36という番号が表していた。
彼は僅か数年という間に多くの人間を『土台』にして非道で外道な方法をとっていたらしい。
まぁ見事に見つかりつかまったのだ。そして何を血迷ったのか、じゃじゃ馬第三皇女がその研究者の秘密部屋に入り込み、そして冒頭へと繋がる。
「お主!あの、ほ、ホムンクルスはどうじゃった?」
噂の皇女がフードの男に話しかけた。フードの男はまぁ予想していたのか、日常茶飯事だったのか突然のことにも特に驚くことなく答える。
「様態は急速に回復しています。異常な速度で…。会話の件についても数日、いえ明日には問題無くなるでしょう。そんなことよりこんなところにいてよろしいので?」
笑みを浮かべながら暗にさっさと帰れ!の意味を含めていたのだが皇女は気付かないのかいつもの元気さをどこかへおいて返答する
「そうか、よかった。妾もあの…記録のことを見てしまったからの」
「今は魔法で寝かせています。ただ、実験のことは何も覚えていないようで」
その言葉に口を大きく開けて驚いた皇女、しかしその口もすぐに塞ぎ呟いた
「これで良いのじゃろうか?自分が作られた、しかも殺す目的で、そうだと知ったらあやつはどう思うじゃろうか…」
その皇女の呟きに何も答えることは無かったフードの男であった。どこか重い空気が漂う廊下。作られた体に乗り移った少年はさて…一体どういう足跡を残すのだろうか?その偽りの物語の上で。
「……クシュン!…だれ、か…がおれの、う、わさを」
魔法抵抗が強く数分で起きてしまったのは本人しか知らないことである。特に知っても何も無いのだが
To be continued