第二射 出席番号36
〜36号の概要、及び詳細〜
まず最初に決定する事項を書す。
一つ、単騎による軍隊撃破を可能にする戦闘能力の保有。
一つ、寒帯熱帯乾燥地帯あらゆる環境において100%の力を持った行動が可能であること。
一つ、潜入暗殺情報収集に関する高い能力の保有。
一つ、潜在魔力及び気の上昇。
一つ、魔法適性の向上。一つ、特殊技能の会得。
一つ、人間の形であること。以上を踏まえ36号の開発に至る。
本個体は既存の実験体0〜35号の失敗を踏まえた上において改良を加える。
素体の本来の名称は不明。
ナンバリングされた戦闘ホムンクルス、通称エックスはホムンクルス技術の応用とキメラの合成技術を用いた生体戦闘兵器である。なお既存のホムンクルスの基礎生体の作製において必要であった血液に高い能力を保有していた拳闘士を使用。優勝経験が多数であるため基礎能力の高さは期待できる。そして素体であった名称不明の人間を『吸わせ』基礎生体を成長させる。
本来ホムンクルスの成長において外部から栄養その他を送り込むが既存の方法を脱した方法、素体である『生身の人間』を直接吸わせることにした。なおこの開発において人間が保有する生存エネルギーは非常に効果が高いことを確認。
キメラ技術を使用し更にこの36号の強化を図る。
使用した素体として、魔狼、妖狐、多数の龍種、そして『鬼神兵』。趣味で猫も追加した。なお追加の途中に古龍・龍樹の皮膚を入手し組み込ませる。
『レシピ』は別所に詳しくのせておこう。ケラベラス渓谷の魔獣の入手は失敗、とても残念だ。
研究者として拘る必要があるが何しろ私には時間が無かった。そして多くの人間を集め各属性の適性を入手、これをキメラとして36号に吸収させる。そして多数の魔法術式を綿密かつ繊細に丁寧に組み込ませ『人間』の形を維持するようにする。
私は専門ではないため非常に難航。しかし結果として色素を失うという事態にはなったが許容範囲である。
そこに至る間に私はとあることを閃いた。
技術の継承は可能か、否か。とりえあず適当な手練れを手配させてもらった。様々な戦闘タイプの達人、さすがに数は少なく10にも満たなかったが、知識と経験の合成は私の古くからの夢でもあり心躍る。
独自に開発した術式を脳に直接埋め込み知識や経験たる存在を抽出、それを36号に埋め込む。なおその時点において36号は自我に目覚めており非常に苦しんでいた。昇華には痛みがあるものだ、少しは我慢して欲しいものである。
基本素体の作製には成功した。問題なのは次の段階である。
全身を兵器と化すため全身に術式を組み込んだ。36号が五月蠅いので喉を潰そうかと配慮したが瞬時に回復。笑いが止まらなくなった。
肉体の皮膚薄皮筋肉神経あらゆる存在を自身の肉体を守る鎧とし、筋密度を上昇。従来のエックスの三倍ほど圧縮してしまったが肉の本来の柔らかさを出すのは苦労した。おかげで強靱かつ柔軟な動きが可能。
さすが私だ、こんな私を捨てようとする帝国が悪いのだ。
少々私感を含めてしまったが今回の開発は上手くいきそうである。
本来のエックスは術式を組み込む時点において多数死亡してしまい、生き残ったエックスも謎の死去。
どれもこれも素体の貧弱さが疑える。しかし今回のエックスは開発全てに至る段階で生きていた。
あとは数日にかけてじっくりと身体を馴染ませる。この36号が出てきたときこそ私の始まりでもあるのだ
〜とある研究者の日記より〜
その場にいた帝国の重鎮達は頭を抱えた。
読めば読むほど研究者の狂気が疑える。人体実験を料理のようにレシピと言い張り、どれもこれも自身が失敗するなどと微塵も思っていない。
何が彼をここまで狂わせたのか想像だに出来なかった。
「そして一度36号は死亡、例の男が躍起になったところで発覚し逮捕しました」
「しかし36号は復活した、あのじゃじゃ馬も厄介なものを見つけてくれたものだ」
とある老人が呟いたことに一同はうなずく。
狂気が産んだ狂気の卵である36号を以後どうするか?それが今の会議の主題である。
開発記録によれば生命体の形を成していることが理解出来ないほどの高密度な異常であることがわかる。
実験のどれもこれも行き当たりばったりで何故成功したか理解できない。だが今36号がここに保護されているのだ。
「こんな術式を組み込んで36号は何故生きているのだ?何かわかったか?」
周りよりも少し若い初老の男性はフードの男に聞いた。
このフードの男こそ36号を治療をした本人である。最も治療する場所は喉以外なく本来の目的は推測できるように36号を調べるためであった。
彼の良心が痛んだが帝国に身を預けた存在として背くわけにもいかず、何より36号が敵対することに恐怖を覚えた一人であった。
「詳細は不明です、体液等を解析してみましたが理解不能の一言に尽きます。正直に申し上げると彼はもう人間でなく人間の形をした『何か』ですね。魔力や気の存在値も…まぁ計測器がいかれましたね。魔法の適性ですが影の属性以外全てありませんでした。恐らく影に喰われたかと」
「そいつは危険すぎる!早急に処分するべきだ!」
毛深い獣人が机を叩き叫ぶ。
その声に賛同する声も多数あった。
しかし
「いや、これほどの戦闘力が確実に得れるのだぞ?来るべき戦争に備え訓練を施すべきだ。なぁに死んでも所詮ホムンクルス…おおっと、開発者はエックスと呼んでいたな」
「いや訓練の必要性もあるかどうか。これによれば知識と経験の継承もしているはずだ。成功かどうかは載っていないがな」
戦闘に利用、この意見も最もな理由である。
あの研究者がこの帝国のために働いてくれたのだ。
敵意の矛先は全て研究者である男であり、自分たちは可哀想なエックスを保護した。
それだけであった。
「こんな外道な開発をしたことを外部に晒してみろ!それこそメガロメセンブリアの害虫どもがにこやかに魔法を撃ってくるのだぞ!」
「その魔法も36号なら払い落としてくれるだろうさ。我々は36号を狂った研究者からただ保護しただけだ。その御礼として働いてくれるのだよ」
「その36号が我々に牙をむいたらどうなる!?我々が負けるとは思えぬが巨大な被害を被るぞ!?その時にこそあの害虫共が…!」
怒号が行き渡る会議室。
しかしその一角には不思議と静かな場所があった。
無論、熱くなっている重鎮達はそれに気付いていなかった。
36号を兵士として育てる左翼と処分すべきだと右翼。そしてその真ん中には穏健派…36号をただ一つの生命として生きて貰う。そういう考えを持った人たちがいた。
ヘラス帝国はメガロメンセブリアを主体とする連合とよく区別される。というのも南部北部もあるせいか帝国には亜人が多く住んでいた。この帝国を治める皇族も亜人の一つである。
人間は昔から同じ姿をした別の存在を忌み嫌ってきたのだ。故に亜人たちは昔からよく追い立てられた。なにか事故があったらまず亜人が怪しまれる。それほどひどいものであったのだ。
そんな彼らは同じ人外であり人の姿を持つ36号のことを思わずにはいられなかった。
勝手に作られ勝手に彼の将来を決めようとする。
なんと愚かなことであろうか。
かつての人間の所業を恨み通し今度は彼ら自身がそれを振るう。
「…護衛、はどうだ?」
そんな中ポツリと声が上がった。
その声に何かを感じた重鎮たちは見る間に静まりかえっていく。
ゴクリと喉をならす音が聞こえた
「じゃじゃ馬に責任を取らせるのだ。発掘したモノは発掘者のモノ、だ」
帝国の皇女を罠にはめようとするその画策に誰一人とも反対することはなかった。
彼女が彼を制御できれば御の字、彼がもし何かすれば皇女の責任だ。いくら皇女といえども多大な被害を出した存在を預かる責任ぐらいはある。
最後の砦『おまえにまかせた!』作戦が発動した。
本当にみっともない。
お前等人間じゃねぇ!(種族的な意味で)
○
おっすオラ36号!なんだかよく知らねぇーが今ヘラス帝国ってとこに世話になってんだ!働く必要もないし本当にニートって最高だな!最高に最低でクール!って奴だ。
「調子はどうじゃ?」
「悪くは、ない」
起きたらあの皇女様がわざわざ俺の処にきたんだぜ。
暇なのかどうか知らないがその優しさに俺感動。声もまだまだぎこちないが出るようになった。
そういえば俺の姿をさっき始めてみたんだけどよ?なんでかアルビノだったぜ。日光とかヤバくね?と思ったがここは魔法がある世界だったな。なんとかなるっぽい。ヒリヒリすることもなく安定している。
「そうじゃ!お主名前は…覚えておらんか?」
名前?前世の名前も忘れちゃったしな。さてどうするか。
正直36号という俺の番号があるがそれを名乗ってもいい。
この36号が受けた実験の数々はそりゃひどいものだった。まさか俺が思い出してしまうとはな。実感ないからマシだ。例えるならば過去に習った数学の公式『あぁ、こんなんあったね。はいはい』な感じなのだ。
「サーティシックス…いや、ダブルシックスでいいか」
「む、そんな名でいいのか?いやお主がそれでいいと言うのならばそれでいいのじゃが」
6の二乗は36。なんかコードネームみたいで正直かっこいいと思った。
それにこの世界は厨二病が許される世界でもあるのだ!(多分)ならば大丈夫だろう。
別に今ココでまじめな名前を考えるのも面倒だ、何より考える気になれない。
忘れている本来の名前だが感覚として俺の名前はそうである!なわけでコードネームみたいなほうが良い。
ただそれだけだぞ?
「そうか!じゃシックス!妾はテオドラ…む、長いのは別によいか。テオで良いぞ!」
無茶言うなこの角っ娘。
突然皇女様を呼び捨てとかまじ難易度高いっす。
小心者(笑)な俺には到底無理な話である。
まぁ無難な方でいくか、そういえばシックスとか呼ばれるとどこぞの怖いおっさんがアババババ
「無理無理、善処はしますよテオドラ様」
むー、とほっぺを膨らませていかにも不機嫌ですよ?な感じを出すテオドラ様。いや、俺を萌え殺す気か。俺の今の肉体の耐久度がなかったら負けていたぜ。
そんなテオドラ様の攻撃を受け流していた時に扉から誰かが入ってきた。
従者の人か?…なんかオッサンだった。しかもすごく偉そうな
「テオドラ様、例の件に関して…」
「む、そうか。ではシックスまた来るぞ」
そう言って出て行った。例の件とか気になる言い回しだが…ぶっちゃけ俺のことだと思う。帝国にしてみれば爆弾抱えているようなものだ。
俺の概要は単騎による大軍撃破。
戦闘に関する知識と経験も継承…されているらしい。
魔法の適性とかは良くわからない、まぁ言うと俺はただのホムンクルスではなく戦闘兵器エックスだということだ。
エックスにシックス。どこかの兵器のディーラーも真っ青だ。
とにかくそんな奴がここにいるんだ。俺の(肉体)製作には人間とは思えないような狂気の数々が詰め込まれている。メガロメセンブリアの元老院どもに見つかったらそれこそ攻め込まれるきっかけを与えてしまう。
まぁどうせ戦争起きるんだけどね。
俺一人になったため部屋は静まりかえる。
場所が場所…帝国の城の高い処にあるせいか騒音もない、もしかしたら防音の魔法が使われているのかも。
ちょうど誰もいなくなったし投影の魔法(魔術と言うと色々厄介なのでこう言う)の練習、呪文を探すか。『同調・開始』ではなく俺の、俺だけのも呪文を…。
「…『歯車・起動』」
ガチャンと壁一面の歯車がガタガタ動き出す。
何かが流れる感じがした。
成功?だろうか…これが魔力かどうかはわからないが、なにはともわれ呪文は決定したことだ。
何か適当なものを投影してみよう。
そういえば俺の属性はなんなんか、衛宮んは剣だからな。
向こうの世界とここの世界の属性には違う点が多くあるが…まぁなんとかなるだろ。
知識を漁ってみる。
さすがに宝具はないがありとあらゆる武器の設計図が…俺にはわかる。
これ以外の表現が見つからないので読者の皆様は混乱するだろう…変なこと言った?作り出すのは一発の銃弾。
ダムダム弾っておい!ちなみにダムダム弾とは鉛部分を剥き出したで非常に痛い弾丸である。
最も今では規制されているし、何より最新鋭の銃では剥き出しの鉛が溶けてしまう。
「俺の属性は…銃、か?」
なんとなくだ、なんとなくしかわからないが銃っぽいような気がする。
剣や槍、斧など設計図を片っ端から引っ張ってみたがどれもこれもしっくりこない。
弓や暗器普通、かな?飛び道具関連かもしれない。
投合の武器は当てはまらないようだ。
それにしても銃か…どこかの軍人が言っていたが殺す感触を覚えなくていいな。
スナイパーシックスになろう。うん…ってなんで俺は戦うことを前提に考えているのか。
ジャッカルとか454カスールとかもじゃんじゃん出てくる。
魔力(?)の問題はどうなんだろうか?
衛宮みたいな異常な投影にしてもらったがそれは『固有結界』から来ているもので俺は実際どうなのだろう。
試しに魔力(?)を抜いてみたが壊れる気配はない。
俺にも『固有結界』が使えるのか?そこまで狂ってないと思う。
これについはおいておくほかないな。
「撃ってみたいな。心湧き踊る。」
人ん家(城)でぶっ放す莫迦はいないからしないけどな。しかし俺の感だとこのまま戦争に参加させられそうだ。
俺が帝国の軍人なら俺みたいな喉から手が出るほど欲しい兵器はいない。訓練させて参加させる。
それこそ安住や戸籍を振りかざして…覚悟するしかないのか?俺の体にこのチートパワーがあるから死ぬなんてことは…わからん。いやチートパワー貰ったのに肉体もチート化とか、どれほど『幸運』なことであろうか。
「…『歯車・停止』」
床に散らばった弾丸や銃を消す。
それにしても俺の属性が重火器もカバーしているとは…もしかしてミニガンとか汚物消毒用火炎放射とかメタルストーム砲とかいけるかもしれない。
そう思うとだんだん投影したくなってきた。コレが若さか!?
「シックス…話があるのじゃが」
ガチャっと扉を開けて入ってきたのは我らがテオドラ様。
なにやら暗い顔をしているが俺の処遇が決まったのだろうか。
そもそも俺の処遇についてかわからないのだけども。
「どうぞテオドラ様…俺の処遇、ですか?」
「!?」
ダウト、いや違うかここはビンゴ!が正解か。
俺は処分されるのか?もしそうだとしたら速攻で逃げ切る。
自信は…あまり無いがこの肉体のスペックに期待しよう。
北の連合軍の範囲まで行けば利用されるだろうが殺されることはない…はずだ。
「…お主は妾の護衛として働くのじゃ。何が責任じゃ。押しつけただけじゃろうが」
震えながらそう言うテオドラ様。さて俺を押しつけられて残念に思ってるのはしょうがないが…さすがにショックだな。
俺は完全にバケモノになっているのだからか。護衛か、守ることは出来るかもしれない。バケモノの命を使えばそれなりにはなるだろう。
「あ、いやお主のことが嫌いなわけじゃないぞ?ただ、妾の護衛ということはいつか戦闘する時がくるのじゃ…お主には戦って欲しく、ないのじゃ」
安心した。
あそこまで露骨に拒否されると化け物ハートにも傷がつくよ?それよりなんで戦って欲しくないのか…俺の目的は戦闘だろ?いや戦いたいわけじゃないのだが。
「俺が戦闘を目的としたホムンクルス…エックスだからか?」
「お、思い出したのか?」
涙目になった顔を上げ俺のほうを見てくるテオドラ様。
思い出した、というより知識だろうな。
何度も言うが他人事にしか感じないものだが。俺はコクンと頷いて答えた。
護衛、か。まぁやれるだけはやるさ。どうせ戦う力はあるのだ。せめて俺を助けてくれた女性を、守ることはするさ。
一応男なもんで
「テオドラ様」
「な、なんじゃ…?」
「俺には戦うことしか出来ません。けれども…貴方だけは守ってみせます」
ベットから起きあがり知識としてしか知らない敬意を表す。ギクシャクしているかもしれないが精一杯やってるから見逃して欲しいモノだ。
というか憑依して一日後に偉い人の護衛とか俺運が良いのか悪いのか。
…あ、俺幸運を拾う力貰っているんだった。俺の忠誠を受け取ってくれたのか漫画通りの笑顔を見せてくれたテオドラ様であった。
「早速命令じゃ。二人の時はテオと呼ぶのじゃシックス」
「……」
それは反則だろ。
To be continued