第二十四射 巫女巫女カーニバル
あれから1日、というかその日の夜が明けた。
フェイト・アーウェルンクスに即死級の一撃を放ち見事撃沈、その結果として狙撃手『シックス』はすこぶるご機嫌でもあった。
例え狙撃手との戦闘を経て、戦闘力が著しく低下していた今回の敵一派だったが式神が誇る大多数かつ強力という面を全面に押しだし、そして狙撃手と戦闘をした故一回り成長した彼らに、ネギ・スプリングフィールドとその仲間達は苦戦を仕入れられた。
しかし、手負いは手負いであり、そこに狙撃主の弟子『龍宮真名』をはじめとする3−A武闘派衆が増援、彼女達だけでも過剰戦力とも言えたかもしれない。しかし更に最強の魔法使いエヴァンジェリンが乱入、唯一戦えると言っていいフェイト・アーウェルンクスは狙撃手により退場。
つまるところ負ける処がまったく無かったとも言えた。
「やぁ、皆さん。よく休めましたか?」
スーツを着込んだ少し老けめの男性が声をかける。
その男性はかつて『紅き翼』のメンバーの一人として戦場でリアル無双戦士を実現した最強の剣士『近衛詠春』という。
狙撃手が最も苦手とする一人である。
理由は言うまでもないが、音速級の弾丸を察知して叩ききるという行為をするためである。
遠距離、しかも実弾狙撃という限られた範囲ではすこぶる相性が悪い彼と狙撃手だったが思いのほか仲が良かった。その理由は……まぁ言うまでもないだろう。
「狙撃手は来ておらんぞ」
彼が声をかけた少女達の周りをキョロキョロと見回した詠春。
それに対して、京都を満喫しているエヴァンジェリンが何が目的かをしっかりと理解して答えた。
彼は『近衛木乃香』の父でありその護衛『桜咲刹那』から彼の存在を聞いていた。
結婚式にも一応招待したのだが返ってきたのは手紙一枚と祝いのつもりだろう物品一つ。
手紙には二行に一つ&テオドラ&という言葉が入るし、その送られた物品は高級近藤さん(大切な家族計画)だった。結構感謝した。
「そういえば長と知り合いでしたよね、どういう関係なんですか?」
残念そうにしている詠春に桜咲が聞いた。というのも、シックスは神鳴流のことを詳しく知っているし(情報戦のつもりだろう)剣士が相手では何事かと『詠春』と比較していたからだ。
結構深い、敵か仲間かよくわからないがそれなりの仲だということはわかっていた。
詠春は「後でわかります」と短く答え、彼女達の、否、ネギ・スプリングフィールドの目的である彼の父の、『紅き翼』の別荘へと案内した。
話を知っているオコジョとしては教えてもいいのだが自分がわざわざ言うことでも無いし何より詠春が説明するようなので大人しく黙っていることにした。
「あの?長さん、小太郎君や、あのお猿の人は?」
お猿?という疑問を頭に浮かべながら、詠春はネギ・スプリングフィールドの疑問に答えた。
「それほど重くはならないでしょうが…それなりの処罰があると思います。お猿……あぁ、天々崎千草のことですかな?彼女は………」
「死んだぞ」
口ごもった詠春に繋げるように答えたのはエヴァンジェリンだった。
ネギにとって予想外の結末だった。
詠春は内心エヴァンジェリンに感謝する。
どうして?というネギの疑問に答えたのも同じくエヴァンジェリン。彼女は&狙撃手&の名前を出さずにただ死んだ、としか言わなかった。
彼の使い魔であるオコジョはある程度予想、狙撃手が射殺したという予感はついていたが黙ってみていることにする。
わざわざ主を不安にさせたくはなかったからだ。
何よりも狙撃手が冷酷であることを一ファンとして知っていた。
「そんなことよりも、問題はあの白髪の餓鬼だ。狙撃手が撃退したが……あれはゴーレムなどと言ったほうが正しい存在だったぞ」
詠春はフェイト・アーウェルンクスについてエヴァンジェリンに&嘘&の報告をする。
あの白髪が本当に&アーウェルンクス&ならば、それは自分達『紅き翼』が対処せざるを得ないからだ。
エヴァンジェリンはその嘘の報告には特に興味も無かったようで、鼻で笑い別荘へと足を向けた。
「すごーい、本がたくさん」
虫みたいな触角のアホ毛を持つ少女が素直に驚嘆する。その少女はある意味本好きなためこういう場所が好きなようだ。
もっとも彼女が&ここ&にいるというのは場違いでもある。それは彼女だけでは無いのだが……
「ここに、父さんの……」
ラピ○タを発見した某息子のごとく感動するネギ・スプリングフィールド。
天井まで奥抜け、三階建ての別荘は日光が燦々と振り、白く明るく過ごしやすい場所と言えるだろう。
&部外者&である少女達が本をあさくっているのを横目にネギは詠春に彼の父のことを聞く。詠春は、もとより話す気だったため、彼の関係者を集めた。
「この写真は……?」
詠春が見せたのは一枚の古ぼけた写真。
その写真には六人の人物が写っていた。
サウザントマスターと、その戦友達である。
正面にナギ、その左前にはゼクト。ナギの右後ろにはアルビレオ、左後ろのは詠春。の真後ろには褐色の大男ラカンが映っており、詠春の後ろには真横を向いた渋いおっさんのガトウ。
20年前の写真のため詠春が今までにないくらい若く映っている。その場に狙撃手がいたのならば、適当におちょくっていただろう。
「こっちのは何ですか?」
「あぁ、それですか」
戦友達の写真の横にある何か。同じサイズの写真立てっぽい奴だが、上から布が被さってその正体は見えない。
詠春は「これも同じく、戦友であり宿敵で、そして大切な友の写真ですよ」と懐かしむような表情でその布をとった。
「わぁ、かわいいなぁこの子」
同じく古ぼけた写真、違うのは映っている人物はたったの二人、男と少女だ。
少女はその男にもたれかけ、見るものを魅了する満面の笑みを浮かべていて、男のほうは無表情に、その真っ赤な目をこちらへと向けていた。
シックスとテオドラである。
角が生えているが、特にそういうもんだろ、と慣れきった生徒達だったが一番驚いたのは後ろに映る男についてだった。
「彼女は魔法界のヘラス帝国第三皇女テオドラ、そして後ろの彼は彼女の護衛であり帝国最強の大英雄『ダブル・シックス』です、彼らは私たち『紅き翼』の協力者でした、まぁそれ以前はその男とよく、その……殺し合った仲ですが」
「よく見ておけよ貴様達、生きる伝説がそこにいるのだからな」
あはははは、と結構重いことを誤魔化す詠春と、まぁ私もだがな!わははは、と高笑いをするエヴァンジェリンだったが彼女たちは特に気にしなかった。というのも、その写真にはお姫様が写っていて、今回の修学旅行に護衛としてやってきた彼がその護衛で、しかも帝国とか魔法界とかいう話が出てきて、さらに『紅き翼』に所属していた彼が胸を張って大英雄と言ってのける人物だということに口がふさがらなかったせいでもあった。
「シックスの旦那は有名だぜ兄貴、旦那に対する意見が真っ二つだったり、なにより旦那はそのお姫様のためしか動かない鉄壁だからなぁ」
真っ二つ?という疑問を口に出したのは桜咲刹那だった。
『紅き翼』と並ぶ英雄であるのに意見が真っ二つというのはどういったものか、答えは簡単だった。
彼は正義でも悪でも無く、ただ一人のために戦う。ただそれだけだった。
「私は彼のあり方は素晴らしいと思っています、しかし実際実行出来るかどうか……だからこそ彼は誰よりも強いのでしょう」
オコジョもうんうんと唸る。
それを見ていたツインテールの少女神楽坂明日菜は彼らが映る写真を手にとってじっくりねっぷりと見た。
彼女は何故か、後ろの男が懐かしく感じたからだった。
修学旅行で見たスーツの彼よりも、龍宮真名彼氏疑惑の時の彼よりも、懐かしくそして……
「なんでこの人がこんなにムカツクのかしら?」
「生理的嫌悪って奴だろう神楽坂明日菜、そいつは相手が子供だろうが大人だろうが正義悪関係無く、そのお姫様に仇なす存在ならば軽く引き金を引く男だからな」
周りの少女達は驚愕する。
詠春の顔を見ても、それが事実だと、そう言っているのがわかっていた。つまるところ、彼、シックスは殺すのだ、人を。それが子供だろうが関係無く。
ネギ・スプリングフィールドは理解出来なかった。
なぜ、なぜこんな人間か自分の父と同じ英雄と呼ばれる存在なのかと。
彼には&人間の心&が無いのか、ただ疑問としてそう思った。だが、その疑問には詠春は答えなかった。その場の空気は重苦しくのっかかる。
「……そうでもしなければな、守れなかったんだよ餓鬼共」
だが、そこでエヴァンジェリンが言った言葉で流れが変わった。
「ええ、彼女はまぁ、じゃじゃ馬と呼ばれてましたが、いえだからこそ帝国民には人気で。さらに英雄シックスが護衛として側にいるということで」
「継承者争いということですか?」
エヴァンジェリンの従者が口を開いた。
エヴァンジェリンも詠春も首を縦に振って肯定する。
テオドラとしては、継承者としての格を上げるつもりは無かったが彼女を持ち上げてくる存在はいるものだった。
それは彼女が公の場にで宣言したとしても、なりは潜めるがそれは続く。まぁ、彼女に媚を売って『その後』のことを考えていたのだろう。
「ドロドロだったそうだぞ、決定的だったのが狙撃手が連合に嫌われているという点だ。実に幸いだったな」
彼を率いるテオドラが上につけば勿論連合とは色々厄介なことになるのである。
お偉い人たち自分の命大事なのか、それともただ平和を噛みしめたいのか、結局テオドラ継承争いは有耶無耶なまま自然消滅した。
いつの世だって、人は上を目指すものである。それはシックスでも否定はせずむしろ肯定の意を出した。
もっともシックスは「あぁそう?じゃさよなら」と、上を目指す故の壁と自ら成り、そして俗に言う汚れ仕事を自身が引き受けたのだ。
ぶっちゃけそういう面もあり帝国内でも狙撃主の名はいよいよ広まることになるのだが…。
「ぼーや、これが覚悟だ。お前が父の後を追おうが悪の魔法使いになろうが……必要なことだ」
説教する気はなかったのだがな、面倒だから。とエヴァンジェリンは鼻で笑いながら詠春からもぎ取った一枚の布を再び彼らが映る写真へと被せた。
この写真、シックスは非常に否定していたのだが彼の愛する例のお姫様が押してその結果としてここにあるわけである。
皇族になると、二人で映るということが極端に少ないせいかもしれない。
「ゴホン、ナギ・スプリングフィールドの話ですが……」
詠春はネギに彼のことを話す。
ナギ・スプリングフィールド、魔法界における英雄であり知らぬものはいない魔法使い。
彼は公式上1993年に死亡となっている。
今からおよそ10年前、忽然と姿を消しそれから一切表には出なくなったのだ。しかし、その彼に出会ったものがいるのだが…それはネギのことである、今はどうでもよいことであるので省略しよう。
○
「で?何か用かジジイ?」
京都から真っ直ぐと我が家(偽)に帰ってきた俺であったが帰ってきた瞬間学園長のジジイに呼び出されることになった。
金は振り込むことになっているし、わざわざ会う理由が見つからない。
全員五体満足で無事だったわけだし、任務失敗ということもない。では何故か?そもそもジジイからしかかってこない俺の携帯を壊そうかと悩んでいる最中なのだがな。
「まずはシックス殿、此度の件感謝しますぞ。まぁなにやら焦臭い出来事もあったようじゃが……木乃香が無事でよかったわい」
「任務はこなす、で?本件は?」
俺が急がす、というかムカツいてくるがジジイは手を置いて俺の言葉を静止してくる。
いかんいかん、少し焦りすぎたな。
狙撃手たるもの常に冷静で落ち着いてなくてはいけないのだ。
一撃必殺を確実にするための必要事項でもあるぞ。
「責任がどうのこうを言ってたのじゃが……まぁこれはもういいじゃろう、全員無事、これ以上のない成果じゃ。本件はな、フェイト・アーウェルンクスと君の今後についてじゃ」
責任うんぬん言われたら今すぐ出て行こうかと思ったが、ここは金の払いがいいからひとまずは落ち着ける。で、アーウェルンクスについてなんだというのだ。
俺の今後って、帰っていいのか。帰っていいなら今すぐ「貴方に会いに行きます」状態になるのだがなぁ。
「彼と君たちの関連ぐらいはぶっちゃけ知っておる。『紅き翼』と共に戦った君だからこそ聞きたい……彼を完全に消滅させる気は?」
「ない」
シリアス調丸出しだが俺は無い、まったく無い。
俺はテオドラのために戦うのだから、わざわざ『紅き翼』が残した絞り滓をお掃除するなんてゴメンだ。もっとも、アーウェルンクスがテオドラに対して危険行動をとれば、誰よりも速く潰してみせようホトトギス、もといバシレイア。
そもそも完全に消滅って、造物主は未だに生き残っているっぽいし、あいつの他には20年前と10年前にナギが潰している。つまり、何体いるのかわからない。
俺が破壊した三番目も下手をしたらまだ起動しているかもしれない。あそこまでバラバラにしたが…なんとも言えない。相手は反則造物主が作ったお人形さんだからね。
「そうか、まぁお主の行動を決定するつもりはない、で」
まだ何かあるのか、と俺は答える。
それにジジイには意外と口ごもって何んやら言いにくいみたいだが俺が部屋を出ようとすると早急に口を開いて言葉を言った。
俺としては早くからそうして欲しかったが、なにしろジジイだ。病気か何かだろう。そのまま死ねばいいのにな。
「3−Aの龍宮真名君がお主の弟子という報告があってな……マジ?」
「あぁ、本当だ」
汗をだらだらと流す莫迦ジジイに、俺は冷酷とも言える一言で返す。
思えばそうだろう、自身を褒めるつもりはないが…帝国の英雄である。
そんな俺の弟子がこんな汚い麻帆良で学生、あまつさえ傭兵としてコキ使っているっていう。
ぶっちゃけ莫迦弟子自身がいいのなら俺は一向に構わんのだが。英雄の弟子とも言えば報酬も上がりそうだ、それにまほネットで大いに騒がれることだろう。
「莫迦弟子の意向だ、俺は関与せん」
俺の言葉に安心したのか、イスにもたれかかるジジイ。なんでも腰が痛いそうだ。
エヴァンジェリンの封印の件で判子をずっと押し続けていたらしい。ざまぁみろ。
もう少し早く準備しておけば判子を押す間隔の時間も増えたであろうに。
責任者のくせに問題を先送りにしたのがバチに当たったな。まぁ莫迦(ナギ)が作った問題だから先送りにする気持ちもおおいにわかる。ただしジジイ、テメーはダメだ。
「どうじゃ?そのままネギ君を弟「ガチャン」……oh」
何やら腐った生卵クラスの臭さを感じたが気のせいにしておこう。
教えるという行為は非常に嫌いだ。故に俺が莫迦弟子を連れ回したときも見て覚えろ撃って覚えろだったから。あとは歌を覚えていたがそれはまったく関係ないので止めて欲しかった。
「いいかジジイ?俺は銃しか撃たない」
それは死神が林檎を食べるのと同義なのだよ。
To be continued