IF外伝 もしレッドが他の世界に行ったとしたら……part3
東方編
〜プロローグ〜
目玉だらけの謎空間を抜けると、そこは江戸時代かと思う位の日本家屋佇む村でした。
……ここ何処ですか?
村の入り口であろう門から中に入っても歩いている人は殆ど着流しだったり、着物だったりで洋服を着ている人は少ない。
俺は突然の状況に戸惑いながら村の中を歩いていく。
明らかに村人の視線が俺に集中しているが状況把握を優先するべく、刺すような視線をスルーしながら辺りを見回す。
どう考えても現代日本じゃないよな……どうしよう。
「本当にここは何処なんだよ一体……」
「ここは幻想郷の人里だよ、外来人」
「うわっ!?」
突然声を掛けられ驚いた俺はその場から跳び退って振り向いた。
そこには青い服、青い帽子で薄い水色の髪を持った女性が怪訝そうな表情で俺を見ていた。
あれ?……この人どっかで見た事ある様な気がするぞ?
「村の子供たちから見たことのない服を着ている者が村に入ってきたと言われ、見に来てみれば外来人の男性だったとは……てっきりルールを破って入ってきた妖怪かと思ったぞ」
「外来人? 妖怪?」
「あぁ、もう外に妖怪はいないに等しいのだったな。
とりあえず家に来るといい。
ここで暮らしていくなら幻想郷について教えておかなければならないことも幾つかある。
人里では余程のことが無い限り死に直結するような場所は無いが……」
「幻想郷と妖怪………まさか!?」
ここは東方の世界か!?
確かに転生した先がどう見ても現代日本だったから、15歳になるまで月型に出てくる街の名前探したり、リリなの的な街を探してみたりと思いつく限りの現代ファンタジー物に関係するもの探したけど見つからなかったから、てっきり管理者さんが勘違いしたのかなとか思ったんだが……そりゃ分からないよな。
情報どころか、その存在すら秘匿されている幻想郷が舞台の東方なんて分かるはずが無い。
あれ? そう言えば外来人って妖怪の餌にするためにここに連れてこられるんだよな……何で俺は人里の前に出されたんだ?
〜日常編〜
幻想郷に来て早半年。
流石にここでの生活にも慣れてきた。
慧音先生に空き家を紹介してもらった時は電気のない生活に絶望すら抱いたけど、慣れてしまえばどうにかなるものだ。
それに俺には温度調節をする手段があったしな。
一ヶ月程は慧音先生に色々とお世話になったけれど、今では一人でも何とか暮らせていけている。
さぁ今日もお仕事お仕事!
「いらっしゃいませ〜! 今日は何のご用でしょうか?」
「子供が熱を出してしまって……氷を譲っていただけませんか?」
「わかりました、少し待っててくださいね」
俺は一度店の奥へ入り、タライの中に‘こおりのつぶて’を落とす。
これと‘こごえるかぜ’に関しては外の世界でも夏場とかに重宝した技だから手加減も余裕だ。
因みに慧音先生にも自衛の手段的な意味合いで幾つかの技は見せたら、「妖精や弱い妖怪程度なら倒せるだろうが、それ以上が相手だと攻撃力に欠ける」とのコメントを頂きました。
まぁ見せた技の攻撃力が30以下だったというのもあるけど、俺自身最高でも威力60までしか試したことがないから、ぶっちゃけどの程度までなら退けられるか自分でもわからないんだが……どっちにしても基本そんな相手に出会ったら回避と素早さ上げて逃げることを優先するんだけどね!!
そんなことを考えながらタライに少なくない量の氷を落とし終えると、俺はそれを木製の台車に乗せてお客さんの元へと向かった。
「これくらいあれば大丈夫ですか?」
「はい! ありがとうございます!!
お代の方はコレでも大丈夫でしょうか?」
「全然大丈夫ですよ? では今後とも何でも屋‘ぐれいぶ’をよろしくおねがいします!」
俺がそう宣伝するが、お客さんは子供の容態が気になるのか足早に店から出て行ってしまった。
微妙に無視されたようで切ない気分になるが、親が子を心配する気持ち故にしょうがないとため息一つついて、受付の椅子に腰を下ろす。
「さて、今日は何人のお客様が来るかな?」
この店‘ぐれいぶ’は先程言ったとおり何でも屋だ……‘ぐれいぶ’は初代ポケモンのグリーン・レッド・イエロー・ブルーの頭文字から付けている。
何でも屋と言っても妖怪退治とかはやってないけど、俺としてはかなり幅広くやってるつもり。
子守や掃除、屋根の修理などの日常生活のお手伝いから、ボディーガードの真似事やさっきみたいなものまで割と何でも請け負っている。
お客さんは少なくても一日3人、多いときは10くらい来るときもある。
まぁここら辺は先生の御陰だな。
慧音先生が寺子屋で子供たちに俺の仕事のことを説明してくれたために、それが親に伝わり、そこから少しずつ客が増え始めたのだから、彼女には色々と借りが出来てしまった。
因みにさっきお客さんが代金として置いていったのは大根・人参・牛蒡をそれぞれ二本。
コレは俺が善人だからとか言う理由じゃなくて、正直娯楽以外に外の世界でオタク趣味にガッツリはまっていた俺にとってここじゃ金の使い道なんてそうあるものでもないので、この店での支払いはお金でも現物でもいいって店の正面に張り紙してあるのだ。
今日来たお客さんは農家の人だったから野菜を置いていったけど、大工さんなら小物一個タダとか、飲食店だったら一食無料とかのこともある。
ただし慧音先生の場合はタダで請け負っている……恩を返し終えたらたら代金を受け取ろうと決めてるからな。
俺は本をめくりながら具体的にどうやって恩を返そうか考えていると、突然店の戸が勢いよく開かれた。
「たのも−!!」
「はい、いらっしゃ……えっと、妖精さんが何しに来たのかな?」
「アンタ、氷出せるんでしょ!」
「氷がほしいのかい?」
「違う!」
「じゃあこの店に何をしに来たんだい?」
「アンタ、あたいと勝負しろ!」
うん……コレは想定外。
慧音先生以外の原作キャラは見かけることはあっても自分からは話しかけなかったので関係が出来ることがなかったけど、まさか⑨妖精と評判のチルノがここに来るとは思ってなかった。
驚きから少し硬直してしまったけど、戦いたくない。
スペルカードは慧音先生に言われるがままに作ったけど、弾幕勝負なんてしたことないし、空を飛ぶのだって慣れてない。
ここは何とか戦わない方向に話を持って行かないと!!
「俺が氷を出せるなんて誰に聞いたんだい?」
「森で手から氷を出してるのを大ちゃんが見たって言ってたんだ。
凄い早さで出せるんでしょ。
だからあたいとどっちが最強か勝負だ!」
森で氷って事は50Lv以下の氷系のポケモンを6体装備して‘こおりのつぶて’を撃ったらどうなるかって実験したときのやつか……嫌な場面を見られたな。
「えっとな、俺は弾幕を出せないんだ。
だから勝負はできな「嘘だ!」は?」
「知ってるんだぞ!
あの青い帽子被った人が「‘ぐれいぶ’の店主はスペルカードを持っているから、もし私が居ないところでいざとなればあの人を頼りなさい」ってみんなに言ってたんだからアンタが弾幕勝負出来ないはずがない!!」
慧音先生……勘弁してください。
いくら里に戦闘出来る人が少ないからって、俺だって戦闘経験なんて無いようなモンなんですよ?
いや、まぁ弾幕に興味がないわけじゃなかったから人のいないところで練習だけはしてたけど、いきなり実戦は辛いぞ!
もう受けるしかないか?
だとしても今すぐは不味い。
なんとか……何とかしないと!
「ちょ、ちょっとまってくれ!
確かに俺は氷も出せるし、弾幕も少しは出せる」
「だったら「だが!」……なにさ」
「俺にも予定というものがある。
一週間、一週間後ならその勝負受けよう」
「一週間かぁ……一週間って何日?」
「あ〜〜……7日だよ」
「わかった、七回寝たらまた来るからその時は勝負だ!!」
そう言い残して青い妖精は里から飛び去った。
その後ろ姿を見送った俺は一先ず慧音先生に相談すべく、店の戸に休憩中という張り紙をして寺子屋へと向かった。
〜バトル編〜
期日通り、店まで迎えに来たチルノに連れられて森に入ってしばらく歩くと、小さな湖が見えてきた。
遠くに赤い洋館が見えることから、ここがチルノの縄張り……東方紅魔館における2ndステージなのだろう。
流石に緊張してきたな……慧音先生との訓練では「下手を打たなければ大丈夫だろう」との言葉をもらったけど、慧音先生の弾幕に当たりまくった身としては自信なんてあるわけがない。
少し肌寒い位なのに額に汗が浮かぶ。
そんな俺の緊張を知ってか知らずか、チルノが湖の手前で俺の方に振り返った。
「ここで勝負だ!
ここなら涼しいからアンタも氷出しやすいでしょ?」
「いや、俺は何処でやっても変わらないんだけど……」
「そうなの? あたいは出しやすくなるんだけどな……ま、いいや!
大ちゃん、合図お願い」
いつから隠れていたのか、大妖精こと大ちゃんが木の陰から顔だけ出して首を縦に振る。
いい加減覚悟を決めなければいけない。
俺は事前にフーディンを装備し、空を飛ぶ準備をする。
慧音先生との訓練で体に変化を起こさずに空を飛ぶ方法を考えて、その結果がこれだ。
‘サイコキネシス’で空を飛ぶ。
コレならば自分を自由自在に飛ばせるし、‘ねんりき’でも空を飛べるから使用回数に不安もない。
別の方法としては飛行系のポケモンを装備して羽で飛ぶっていうのがあったんだけど、目立つし高レベルの飛行系はドラゴンだったり、伝説だったりする場合が多いから自重した。
俺が自身に‘サイコキネシス’を掛けたのとほぼ同時に、大妖精が頭の上まで上げた腕を勢いよく振り下ろした。
「
「それを言うなら
合図とほぼ同時に青い弾幕がばらまかれる。
チルノの弾速は決して遅くないが、三次元的に見ると隙間は大きく避けやすい。
対して俺の弾幕は……遅く、連射が出来ず、唯一のメリットは弾が少し大きいこと。
俺には霊力や魔力が一般人ほどしかないらしく、無駄に連射なんて出来る余裕はない。
弾が大きいのだって制御が下手くそだから勝手にこの大きさになっているだけ。
正直通常弾だけの勝負なら全く勝てる気がしない。
そんな俺がなぜ尻尾巻いて逃げなかったのかというと、弾幕はしょぼくてもスペルカードには結構自信があるからというのが大きい……まぁ慧音先生との訓練を無駄にしたくなかったって言うのと、一度受けた約束を反故にするのは気が引けたって言うこと、そして何より弾幕勝負じゃ死ぬことは少ないっていうのもあるけどな。
何故スペルカードに自信があるかと言えば、スペルカードにポケモンの技を入れることが出来たからだ。
流石にステータス上昇系の技はカードに入れられなかったけど、それは事前に掛けておけば問題ない……今は万が一の時に備えて特防と防御を上昇させる技を数回積んでいる。
故に俗に言うグレイズという擦るようにギリギリで避けても(狙ってやってることじゃないけど)、痛みは感じない。
チルノの弾幕を避け続けて二分ほどが経過した。
「むぅ……当たんない」
「そりゃ避けてるからね、当たったら痛いし」
死にはしなくても痛いんだよ。
一回慧音先生の弾幕に見とれて被弾したときは、野球のボールぶつけられたと思うほどの衝撃があったし……別にこの勝負は負けても良いんだけど、出来ることなら当たりたくない。
だがチルノにとってこの勝負は絶対に勝ちたいものらしく、早くも懐から一枚のカードを取り出した。
「普通のじゃ駄目ならスペルカードだ!!
氷符『アイシクルフォール』!」
スペルカードの発動と同時にチルノは高度を上げ、上から俺の方に身体を向けると、そのまま弾幕の雨を降らせた。
通常弾幕に比べて真上に位置取られている上に、弾速が先程よりも速い。
必死に避けるが、完全には躱しきれずに服の一部が凍り付く。
「このままじゃ氷のオブジェが出来上がってお終いになりそうだ……仕方ない、確実に当たるところで使いたかったけど、俺も一枚目のカードを切ろう。
霰符『こおりのつぶて』」
俺のスペルカードが発動すると眼前に迫った氷の弾幕が俺の生み出した氷の弾幕で相殺されていく。
効果範囲ではチルノのスペルに敵わないが、先制攻撃が出来る技は伊達じゃない。
彼女のスペルの弾幕生成速度よりも俺のスペルの方が僅かに速く、少しすると彼女の居るところまでの一歩道が出来上がった。
しかしチルノもそのままジッとしているほど馬鹿じゃない。
「コレが大ちゃんの言ってた氷のつぶて……確かに速いわね。
でもあたしはその速さすら凍らせる!!
スペルブレイク、続いて凍符『パーフェクトフリーズ』!」
「二枚目のスペルカードか。
速さを凍らせるって言うのはどういう……っ!?」
全ての弾幕が……止まってる!?
俺の周囲には先程のスペルで放たれたチルノの弾幕が乱雑に残っており、身動きを取るのも大変だ。
……劣化版ザ・ワールドか。
この限られた移動空間で新たに放たれる彼女の新たな弾幕は俺には躱し切れそうにない。
「なら俺も二枚目使おう。
球符『アイスボール』」
俺を包み込むように大きな氷の球体が出来上がっていく。
正直このスペルは逃走兼耐久用のスペル的な意味合いが強い。
このまま転がり回るだけだから、まず相手に当たることはない……相手浮いてるしね。
だが短い間でも弾幕を無視して移動できるというのは非常に大きい。
先程の様に躱しきれないときにはかなり役立つスペルだ。
俺はそのまま相手のスペルがブレイクするまで転がり続けた。
そして俺のスペルがついにブレイクすると、チルノは氷玉から出てきた俺を指差した。
「なかなかやるわね……でもこれで決めるわ!
雪符『ダイアモンドブリザード』!」
チルノの身体の大きさと同じ位の弾幕が無数に俺に向かって飛んでくる。
正直今までの弾幕とは大きさ、速度、密度……そのどれもが桁違い。
だが俺に残されたスペルも今までのスペルとは違い、攻撃特化型だ。
ここまで来たらもう勝つことしか考えない……真正面からぶち抜いてやる!!
「俺もコレがラストスペルだ。
虹符『オーロラビーム』!」
俺は地面にしっかりと足を付けて、上空にいるチルノ目掛けてスペルカードを向ける。
するとカードからオーロラが現れ、それがドンドンと球形に収束していく。
まるで発泡スチロールが擦れるような音と共に徐々に小さくなっていく虹色の球体。
そして球体の収縮が終わった瞬間、そこから虹色に輝く一本の光線が放たれた。
その光線はまるで貪欲な竜のように進行方向にあった弾幕を飲み込みながらチルノ目掛けて一直線に突き進む。
「あぁ……悔しいなぁ」
そう一言呟いてチルノはオーロラの奔流に飲み込まれた。
エル・プサイ・コングルゥ
厨二病万歳!!