第55話 久しぶりの学院
ついに学院長が俺の返事を聞きに来る日がやってきた。
「それであの時の返事を聞きに来たんじゃが……その返答や如何に!」
「まだ若輩ですが、その生徒を導く仕事、引き受けさせていただきたいと思います」
俺は結局学院で働くことにした。
やっぱり分からないところで物事が進むよりも、自分の見える範囲で進んだ方が対策を立てやすい。
それに、もしサイト君が召喚されなかったり、ガンダールヴじゃなかったら原作知識は役に立たなくなってしまう。
そういったイレギュラーがあった場合、学院にいた方がいいのではないかと考えた結果がこの答えだ。
「それではレッド・ド・ドリュウズ君の準備が出来次第、学院の方に来てくだされ。
新しい生徒が入学するまでに、教師の仕事を説明するのでの」
「はい」
そうして学院長は学院へと戻って行った。
両親には前日に俺がどっちを選ぶか決めたか伝えてあったので、この場に両親はいない。
因みにその時の両親の言葉は……。
「そうか……3年間頑張れよ」
「身体に気をつけてね?」
の一言だった。
「え、それだけ?」
「それだけもなにも、お前が決めたことだ。
俺は何も言うことは無い。
一つ言うなら、目立ちたくないなら召喚はするなよ?」
「私からは、とりあえず身体に気をつけて位しか言うことないわね。
レッドなら何でもそつ無くこなすでしょ?
頑張ってきなさい」
かなり信頼してもらってるようだ。
でも母さん俺そんな何でもできるキャラじゃないと思うんだけど……と昨日の夜に思ったり思わなかったりした。
結局荷物選びや、父さんと母さんに挨拶してたりしたら夜になっていたので、出発は翌日になってしまた。
そして俺は翌朝アイガと共に馬車に乗っていた。
アイガはある意味故郷ともいえる学院に行くのが楽しみなのか、少しそわそわしているようだ。
そうして学院に着いた俺は、とりあえず学院長に到着を伝えるために学院長室に向かったのだが……。
ノックして中に入った俺を待っていたのは3人の人だった。
「おぉ、レッド君かの?
開いとるから入って来なさい」
「久しぶりだね。
改めて自己紹介するけど、私の名前はジャン・コルベール。
これから同僚となるわけだけど、分からないことがあったらいつでも聞きに来ていいですよ?」
この二人は分かる。
今思えば俺がここにいた頃から、教師の仕事の説明とかしてたから多分その頃から俺を教師として連れてこようと考えていたんだろう。
問題はこの場にいるもう一人……。
「初めまして、私はこの度オールド・オスマンの秘書になりましたロングビルと申します。
今後会う機会が増えると思いますので、よろしくお願いします」
………この時点でいたのか、この人?!
ヤバいぞ、これは想定外だ。
俺表情に出てないよな……。
「あ……はぃ、レッド・ド・ドリュウズです。
これから3年間よろしくお願いします」
でもまぁ、現状何か起こるわけじゃないからスルーしておこう。
まだ原作が始まるまで二年以上ある。
それまで俺が目立たなければ大丈夫なはずだ……。
「それではここでのレッド君の仕事を説明するとじゃな、君には今年で自領に戻ってしまうミスト先生の代わりに水 魔法の講義をしてくれないだろうか?」
「水ですか……土じゃなくてですか?」
「土の授業はミス・シュヴルーズが担当しておるしの。
それに君は水の魔法も使えるんじゃろ?」
何処でバレたんだ?
この人の前で使った覚えは無いんだが……。
「いやの、ドリュウズ殿の邸宅へ行く前に小腹が空いて寄った村で魔獣の討伐をした水属性メイジの話を聞いたんじゃが、その話に出てきたゴーレムの容姿が君のアイガ君そっくりだったのでな……やはりそうだったか」
「(カマ掛けられたのか……やるなこの狸!)もし僕が水の魔法使えなかったらどうするつもりだったのですか?」
「その時はミス・シュヴリーズの助手という形を取るつもりじゃった」
「(うわぁ……そっちの方が目立たなくて楽だったなぁ)そうですか……今からそっちを選ぶというのは「もちろん駄目じゃ♪」ですよね……」
うぜぇ……この爺ウゼェ。
何にせよ俺の仕事は、水の魔法についての講義をしなければならないらしい。
まぁ教える内容は前にミスト先生がやった授業をやればいいらしいし、そのための資料も残していってくれたみたいだ。
ありがとうミスト先生……多分もう会うことないでしょうけどありがとう!
「お主の授業は新学期から始めてもらうことになるから、それまでにミスト先生が残してくれた資料をを読んでおいてくれ」
「はい」
「今日のところの話はこれくらいじゃな。
それでは解散するとするか」
学院長の解散宣言で初の顔合わせは終了した。
まぁギトーやシュヴリーズ先生との顔合わせは新学期になってからになるらしいけどね。
俺は学院長室を出て、そのまま真っ直ぐ使い魔用宿舎に向かった。
「アイガ……いきなり予定が崩れたよ」
「ジ?」
俺は自身が水メイジでもあることがバレた事、そしてその結果土の授業ではなくて、水の授業を受け持つことになってしまったことを告げた。
「俺の二つ名’石繰’なのに……絶対変わるんだろうなぁ。
っていうかあの場では聞かれなかったけど、コルベール先生も驚いてたなぁ。
そしてそれ以上にギトーがウザそうだ」
「ジィ〜」
なんかアイガに軽く肩を叩かれているが、慰められているのだろう。
俺はこれから起こるであろう面倒事を思うと胃が締め付けられる思いだった。
in学院教師編