第54話 相棒の顔見せ
「あぁ!
そう言えばアイガ!!」
「アイガ?」
俺は、ふと俺の使い魔のことを思い出す。
カトレアさんに紹介していないのもあったので、俺は部屋に行く前にアイガを連れてくることを提案した。
彼女としても俺の使い魔に興味があったらしく、部屋に向かうのを一時中断し、アイガが連れて行かれた場所を近くにいた使用人に聞いて、その場所へと向かった。
どうやら馬小屋の辺りに連れて行って、そこにいてくれるように頼んだらしい。
まぁアイガは普通に賢いから、そこにいるのだろう。
何分か歩いて、馬小屋に着いた俺とカトレアさんは、木にもたれ掛かって座っているアイガを見つけた。
それほど長い時間話していた訳ではないが、暇を持て余していたらしい。
周囲に少し岩が転がっている。
おそらく浮かばせて遊んでいたのだろう。
「アイガ!
話は終わったぞ!」
「……………ジ〜?」
反応が遅かったが、まさか……寝てたのか?
数秒周囲を見渡してたが、思考が徐々にしっかりしてきたのだろう。
俺の横にいるカトレアさんに首を向けて、首を少し傾げた。
「ジ?」
「あぁこの人がカトレアさんだ。」
「よろしくアイガちゃん」
「ジ」
アイガはカトレアさんからの挨拶に頷いて返事をした。
そのコミカルな動きにカトレアさんも無意識にしていた警戒を解いて、アイガへと徐々に近づいていく。
そしてカトレアさんはアイガの目の前で止まって、右手を差し出した。
「ジ?」
「カトレアさん?」
「アイガちゃん、私はカトレアって言うの。
よろしくね」
どうやら握手をしたいらしい。
アイガは分かってないようだけどね。
まぁ握手なんかしたことないから、しょうがないんだけど……。
「アイガ、カトレアさんは握手を求めているんだよ?」
「……ジ!」
俺の言葉でやっと理解したらしく、アイガもそっと右手を差し出した。
アイガには指がないから、しっかりとした握手は出来なかったけれど、カトレアさんがアイガの手を握ることで、握手は成立した。
握手を終えた二人はしばらく見つめ合っていたが、しばらくするとカトレアさんが俺の方を向いて「じゃアイガちゃんにも私のお友達紹介しなきゃね?」と言って、再び俺の腕を掴んで歩きだす。
因みにアイガの重量は軽くしておいたので、邸内に入っても大丈夫だろう。
一応「泥や石を邸内に持ちこんじゃ駄目だからな?」と言っておいたので問題ないはずだ。
カトレアさんの部屋は相変わらず、小さなムツ○ロウ王国成らぬカトレア王国だった。
ベッドの近くには大小様々な動物がカトレアさんを囲むように座っている。
アイガも最初は驚いていたようだが、俺とカトレアさんが動物たちの頭を撫でたりしていると、だんだん慣れてきたのか俺の隣に座り込んで動物たちをジッと見ている。
しばらくジッとしていると、アイガの方に一羽の鳥が飛んできて肩に止まる。
1羽止まると、それを境に5羽くらいの鳥がアイガの肩と頭に殺到した。
「アイガちゃんの肩に鳥が……ふふふ、気に入られちゃったみたいね?」
「良かったなアイガ」
「………ジ」
俺とカトレアさんはアイガの方を見ながら笑い、アイガ自身はどうすればいいか分からずオロオロしている様な気がする。
そんなアイガに諭すようにカトレアさんは、そっと話しかけた。
「もし嫌じゃないなら、そのままでいてあげて?
その子たちは貴方のことが気になっているみたいだから……」
「ジジ」
その言葉を聞いて次第に落ち着いてきたアイガは、そっと肩の方に手を近づけていく。
俺はビックリしてそれを止めようとしたのだが、カトレアさんに手で制されて見守ることに。
そのままアイガは手を肩へ近づいていき、肩に触れる直前で手を止めた。
すると一羽の鳥が首を一度傾げて、その手に乗り移った。
「あ……」
「ふふふふふ、すっかり気に入られてしまったみたい」
アイガは手に一羽の鳥を乗せたまま、その手を自身の顔の前へと持っていく。
そして目が合う一羽と一体。
そのまま数秒見合ってたかと思うと、ほぼ同時に首を傾げる。
その姿を見て、俺とカトレアさんもお互いを見合って、次の瞬間その場は笑いに包まれた。
しばらく笑い続けていた俺とカトレアさんが、やっとのことで落ち着くとアイガがジッと俺達を見ていた。
なんか不貞腐れたような空気を醸し出しながら……。
そんな空気に気付いたのでとりあえず、謝罪をすることにした。
「ごめんごめん、えらく微笑ましくて……」
「ごめんなさいね?
あまりにも貴方達が可愛らしくてつい……」
「ジ…………ジ!」
なんとか許してもらえたみたいだ。
その後も俺が熊のじゃれ合いに巻き込まれて押し倒されたり、アイガに群がる動物が増えたり、それを見ながらカトレアさんが笑ったりした。
そんな楽しい時間も終わり、俺が家に帰る時間がやってきた。
「もう帰ってしまうの?」
「えぇ……でもまた来ますから!」
「そう……ですよね。
じゃあ今度は泊りに来てくださいね!」
「え?!」
「まだまだ話したいことは、いっぱいありますから……」
「そ、そうですね。」
後ろから公爵夫人がジッと俺を見て………杖に手を!?
「そ、それじゃあ!また遊びに来ますので!」
俺は素早く馬車に乗り、馬を走らせた。
俺としても微妙に後ろ髪をひかれる思いがするが、後ろにいた公爵夫人の威圧感に耐えられず、玄関まで見送りに来てくれた公爵夫人とカトレアさんに、別れを告げて俺は公爵邸を後にする。