その10 誇り -noblesse oblige-
避難した後。襲撃者がこちらに向かっていると言うことで、交代部隊の面々は敵の元に赴いていた。
避難場所でロングアーチの皆と座り込んだ状態で、首元の相棒に問いかける。
(……ロイ、状況は?)
(………かなり悪い、いいえ、あえて言うなら『最悪』です。………全滅しました)
(………そうか。脱出は出来そう?)
(不可能です。ガジェットの包囲はかなり厳重です。……マスターのレアスキルをもってしても、突破は難しいかと)
ライトニングの二人が間に合うかどうか。原作だと間に合わなかった。だけど今は、
(俺が、いる……………)
立ち上がった俺を、ヴィヴィオは不安そうに見上げた。
「………れーぇ?」
「ごめん、ちょっとトイレ」
「……うん」
涙目で頷くヴィヴィオ。可愛いな。
……守ってやらなきゃ、な。
「じゃ、じゃあ私も一緒に……」
言いかけるシャーリーさんを手で制する。
「近くだから大丈夫ですよ、いざとなったらソニックムーブで逃げますし」
不安そうな顔のヴィヴィオに笑いかける。
「大丈夫、側にいるから」
「………うん」
………ごめん、ヴィヴィオ。嘘ついた。
………ホントは、側にはそんなに長いこといられそうにない。
堅い靴が床を叩き、寂しげに響く。
がれきが散乱する床を成人状態になって歩く俺は、さっきと同じように相棒に問う。周りに誰もいないので今回は念話ではなく普通の会話だ。
「なあ、ロイ」
『なんでしょう』
「………何分、保たせられそう?」
『まだ戦っていないので不明です』
「……そうだったな。……頼みがあるんだけど」
『何でしょう?』
「記録映像、残しといて。多分負けるだろうけど、戦闘データは後で戦う六課の皆の参考になるかもしれない。出来れば後で渡してあげて」
『……わかりました。しかしマスター』
「ん?」
珍しいな、こいつがこっちに反論なんて。まあいいことだと思うけど。
『なぜ負けるとわかっていてそこまで戦おうとするのですか? 単体でなら脱出も可能でしょうに。マスターを呼んだなのはさんもそれを望んでいたと思いますよ?』
………確かに。
実のところ俺は、昨日家に帰った時点で理解していた。
なのはさんのあのときの言葉はあくまで「子供を心配する親の言葉」で、あのお願いにも裏の意味……脅迫の意図は無かったということに。
あの時は単純に巻き込まれる事態のヤバさに追いつめられて焦ってたから、なのはさんの言葉が脅しのように聞こえただけだ。
だから昨日の間でも断ることは出来たはずだし、今ロイが言った通り逃げても良かった……否、逃げた方が良かった。そうした方が少なくとも六課の皆が「民間人を危険な目に遭わせた」という責任問題に悩まずに済んだはずだ。でもそれはどうしても出来なかった。
……それは。
「……ああ、それね。うーん、上手く表現できるかどうかわからないんだけど」
そういって一息。
「……ヴィヴィオの友達だから、かな。多分だけど、ここで逃げても誰も俺を責めないと思う。でも、ここであいつを見捨てて俺だけ逃げて、それでもあいつの友達を名乗るなんて俺には出来そうにない。もしそんなことをしたら……多分、一生自分を責め続ける。そんなのはごめんだ。それだけの、ただのワガママだよ」
『………なるほど』
勿論それ以外にも理由はある。
あえて言うなら罪悪感に近い。こうなることは原作を知っている以上わかっていたはずだ。でも俺は自分の身可愛さに口をつぐんでしまった。それ以外で出来る限りのことはした……という、贖罪と言い訳の混ざったような態度を示そうとしたというのもある。誰に対しての言い訳かって? 無論、自分の良心に対してだ。
以前のエリオとの会話の時に感じていた罪悪感 を思い出す。きっと俺は、いつの間にか皆を「物語に登場するキャラクター」としてでなく、「自分の友達、仲間」として見るようになっていたのだろう。事情をわかっていながら沈黙していた時、胸が痛んだのはそのせいだ。
それに………。
と、やや遠くから小さな靴の音が聞こえた気がした。
「まあ……」
正面に、紫の髪の少女と、その召喚獣が現れる。……さて、考え事は終了だ。
「せいぜい前線メンバーが戻ってくるまで保たせられたら、それに越したことはないんだけど」
『そうですね』
俺は、身構えた。
「悪いけど、ここから先は通行止めだ」
声が震えそうになるのは、どうにか押さえ込むことができた。
「………邪魔」
『Protection』
言葉とともに少女の手から紫色の魔力弾が放たれた。特有の高い音を立てて迫るそれを防御魔法でどうにか逸らす。
「通りたきゃ……」
そして、俺は同じように指先を相手へ向けた。
狙いは紫の少女の眉間。
「俺を倒してからにしてもらおうか!」
『Blaze Bullet High-speed』
炎熱変換した緋色の高速直射弾が一直線に走り、近くにいた召喚獣の手で受け止められた。ブスブスと手から煙が上がる。
その隙に俺は、
『Sonic Move』
一気に近づき、召喚獣の懐に飛び込む。コンボを組み立てようにも多分パワーが違いすぎてすぐ崩される。
ならば、
(狙うは一撃!)
「紫電、一閃っ……!」
炎を纏った拳を腹に叩き込んだ。鈍い打撃音が辺りに響く。まともに喰らったのか、召喚獣は数メートル吹き飛んだ。
「ガリューを、よくも……許さない」
そこにさらに紫の少女の魔力弾が迫る。バック転で回避したところに今度は召喚獣……ガリューが腕から爪を生やして襲いかかる。腹部の装甲が、先ほどの炎のダメージが通ったのか、赤熱していた。
『Protection』
とっさに展開したものの、容易く貫通される。回避行動をとりながらであったため、左腕に浅い裂傷を負うだけで済んだ。
「ぐっ………!」
さらに来る追撃に対して俺は蹴り一発。相殺しきれずに吹き飛ばされる。
凄まじい音を立てて壁に激突。若干壁面を抉ったようだ。衝撃で意識が明滅する。
ガリューが近づいてくるのを見て俺は唇をゆがめそうになった。どうにか立ち上がったところをまた襲いかかってきて………
その攻撃は鋭く風を斬る音とともに空を切ることとなる。
「え………?」
転移した先は紫の髪の少女の上空。
上を向き、何の反応も出来ずに目を見開いて固まっているところを……以前スバルさんとの戦いで失敗した技を炎熱変換を加えて用いる。空中で既に体勢はとれていた。
「紫電一閃!」
『Version Rolling Thunder』
頭を蹴飛ばして意識を奪おうとして……
離れた場所から凄まじい勢いで飛び込んで来たガリューにまたしても邪魔された。
俺に攻撃を仕掛けて主を巻き込むことを恐れたのか、ガリューは回り込んでガード体勢をとっていた。だが、ガードを抜いて相当なダメージをこれで与えたはず。
しかし、そんなこと構いもしないのか、そのまま飛び上がり飛び蹴りをかましてきた。
(しまっ…………!)
右腕に、衝撃。
「が、ぁっ……………!」
防御をする暇もなかった。
胃液を吐きながら吹き飛ばされる。右腕がイヤな音を立てて折れたことを告げる。あばらも何本も持っていかれた。
何度も壁や床に叩きつけられ、最後は床に這いつくばった。全身が激痛を訴える。
呼吸することすら困難になる。
「げほっ、ゴフッ!」
思いっきり吐血した。目の前の床に赤い粘性の液体が張り付く。
『マスター!』
「だい、じょうぶ」
『そんなはずありません。もう抵抗をやめてくだ……』
「やめられ、るかよ」
口を無理矢理笑みの形に歪ませる。
確かに戦う理由には罪悪感とかもある。でもそれ以上に、
「約束、したんだ」
床に手を付いて無理矢理立ち上がろうとして、また紫色の魔力弾が飛んでくる。防御はしたが吹き飛ばされた。
「……なのはさんが帰ってくるまで、ずっと側にいるって」
がれきに頭から突っ込んだ。でも、咄嗟に張った緩衝用の魔法のおかげでまだなんとか動ける。
「寂しがらないように、側にいてあげるって………ッ!」
激痛に歯を食いしばる。たちあがろうともがく。
「それにっ………、何より、ウチは騎士の家系、俺は騎士になるつもり、ないけど」
敵を睨みつける。少し、紫の少女の瞳が揺らいだ気がした。
怖いし痛いし苦しい。もう体を動かすのもすごく億劫だ。
けど。
「お姫様、ほっぽり出して、逃げ出す、なんざ、出来るかよ……!」
そうだ。まだ指は動かせる。意識は明滅してるけど消えてない。
だったら、今出来る全てを、やるだけだ……………ッ!
「せめて………、一太刀、浴びせるぞ。付き合え、相棒 。俺に夢想 を、見せてくれ」
『…………Yes , my master !』
俺の言葉に力強く応え、相棒は即座にサポートを開始した。
『Physical Boost』
デフォルトのものより強い、さらなる肉体強化。今は体が上手く動かないから、魔力でどうにかフォローさせて動かす。
「……悪いが」
俺は構えて、敵に不敵に笑いかけた。
「もう少しだけ、付き合ってもらうぞ…………!」
「…………!」
再びガリューが突っ込んでくる。もうふらふらだったから、相手からこっちに来てくれるのはラッキーだ。
腕から生やされた、生体武装の刃が迫る。
俺はそれを、
脇腹 で、受け止めた。
「ゲホッ……!」
体の中で鈍い音が響き、激痛とともにまた口から血が溢れ出る。ガリューの体に血が降り掛かる。でも俺の表情を形作るのは……
凄絶なまでの、笑みだ。
「……つかまえた………!」
『Counter Bind』
ロイの声とともにガリューの全身に緋色の鎖が巻き付く。紫の少女もこの位置なら援護は難しいはずだ。
左手で相手の右腕を掴む。右手を抜き手の形にしながら、歌うように一言、口にする。
「フルドライブ」
『Ignition』
抜き手を魔力が覆い、魔力刃を形成。炎熱変換により、炎が渦を巻く。
これは捨て身。大きな賭けの一撃。必倒を誇るわけでもないし、全力全開とは言いがたいけど。
それでも。
残りの魔力も体力も、下手すりゃ命すらも全てくれてやるんだ。
だから。
「乾坤 っ、一擲 ぃっ………!」
(それ相応の代償は、払ってもらうぞ………!)
左手で掴んだガリューの右腕を、そのまま強く引き寄せる。右腕を無理矢理動かし、アインハルトが練習していた断空拳を真似て、一撃を叩き込む!
撃ち込むは、さっき攻撃を叩き込んで装甲にダメージを与えている場所………、すなわち、腹部!
これはヴィータさんとシグナムさん、二人から学んで完成した技。
あえて新たな名前を付けるならば……
「桜花 、狂咲 っ………!」
『Version Blaze』
肉を貫く特有の嫌な感触とともに魔力刃が突き刺さり、砕け、一度目の爆炎が花開く。緋色の魔力の欠片が花びらのように舞い散る。
砕け散った魔力刃が敵の体の内部、様々な方向へと突き刺さる。
そして、
魔力刃の欠片が二度目の緋 い爆炎の花を咲かせた。
「…………………!」
ガリューが無言ながらも苦悶に身をよじらせている。
俺はそれを見ながら倒れていく。
最後の力で、映像にメッセージを残して。
(すみません、なのはさん、六課の皆。後、頼みます……)
そうして、俺は。
失血と魔力切れで、今度こそ意識を失ったのだった。
避難した後。襲撃者がこちらに向かっていると言うことで、交代部隊の面々は敵の元に赴いていた。
避難場所でロングアーチの皆と座り込んだ状態で、首元の相棒に問いかける。
(……ロイ、状況は?)
(………かなり悪い、いいえ、あえて言うなら『最悪』です。………全滅しました)
(………そうか。脱出は出来そう?)
(不可能です。ガジェットの包囲はかなり厳重です。……マスターのレアスキルをもってしても、突破は難しいかと)
ライトニングの二人が間に合うかどうか。原作だと間に合わなかった。だけど今は、
(俺が、いる……………)
立ち上がった俺を、ヴィヴィオは不安そうに見上げた。
「………れーぇ?」
「ごめん、ちょっとトイレ」
「……うん」
涙目で頷くヴィヴィオ。可愛いな。
……守ってやらなきゃ、な。
「じゃ、じゃあ私も一緒に……」
言いかけるシャーリーさんを手で制する。
「近くだから大丈夫ですよ、いざとなったらソニックムーブで逃げますし」
不安そうな顔のヴィヴィオに笑いかける。
「大丈夫、側にいるから」
「………うん」
………ごめん、ヴィヴィオ。嘘ついた。
………ホントは、側にはそんなに長いこといられそうにない。
堅い靴が床を叩き、寂しげに響く。
がれきが散乱する床を成人状態になって歩く俺は、さっきと同じように相棒に問う。周りに誰もいないので今回は念話ではなく普通の会話だ。
「なあ、ロイ」
『なんでしょう』
「………何分、保たせられそう?」
『まだ戦っていないので不明です』
「……そうだったな。……頼みがあるんだけど」
『何でしょう?』
「記録映像、残しといて。多分負けるだろうけど、戦闘データは後で戦う六課の皆の参考になるかもしれない。出来れば後で渡してあげて」
『……わかりました。しかしマスター』
「ん?」
珍しいな、こいつがこっちに反論なんて。まあいいことだと思うけど。
『なぜ負けるとわかっていてそこまで戦おうとするのですか? 単体でなら脱出も可能でしょうに。マスターを呼んだなのはさんもそれを望んでいたと思いますよ?』
………確かに。
実のところ俺は、昨日家に帰った時点で理解していた。
なのはさんのあのときの言葉はあくまで「子供を心配する親の言葉」で、あのお願いにも裏の意味……脅迫の意図は無かったということに。
あの時は単純に巻き込まれる事態のヤバさに追いつめられて焦ってたから、なのはさんの言葉が脅しのように聞こえただけだ。
だから昨日の間でも断ることは出来たはずだし、今ロイが言った通り逃げても良かった……否、逃げた方が良かった。そうした方が少なくとも六課の皆が「民間人を危険な目に遭わせた」という責任問題に悩まずに済んだはずだ。でもそれはどうしても出来なかった。
……それは。
「……ああ、それね。うーん、上手く表現できるかどうかわからないんだけど」
そういって一息。
「……ヴィヴィオの友達だから、かな。多分だけど、ここで逃げても誰も俺を責めないと思う。でも、ここであいつを見捨てて俺だけ逃げて、それでもあいつの友達を名乗るなんて俺には出来そうにない。もしそんなことをしたら……多分、一生自分を責め続ける。そんなのはごめんだ。それだけの、ただのワガママだよ」
『………なるほど』
勿論それ以外にも理由はある。
あえて言うなら罪悪感に近い。こうなることは原作を知っている以上わかっていたはずだ。でも俺は自分の身可愛さに口をつぐんでしまった。それ以外で出来る限りのことはした……という、贖罪と言い訳の混ざったような態度を示そうとしたというのもある。誰に対しての言い訳かって? 無論、自分の良心に対してだ。
以前のエリオとの会話の時に感じていた
それに………。
と、やや遠くから小さな靴の音が聞こえた気がした。
「まあ……」
正面に、紫の髪の少女と、その召喚獣が現れる。……さて、考え事は終了だ。
「せいぜい前線メンバーが戻ってくるまで保たせられたら、それに越したことはないんだけど」
『そうですね』
俺は、身構えた。
「悪いけど、ここから先は通行止めだ」
声が震えそうになるのは、どうにか押さえ込むことができた。
「………邪魔」
『Protection』
言葉とともに少女の手から紫色の魔力弾が放たれた。特有の高い音を立てて迫るそれを防御魔法でどうにか逸らす。
「通りたきゃ……」
そして、俺は同じように指先を相手へ向けた。
狙いは紫の少女の眉間。
「俺を倒してからにしてもらおうか!」
『Blaze Bullet High-speed』
炎熱変換した緋色の高速直射弾が一直線に走り、近くにいた召喚獣の手で受け止められた。ブスブスと手から煙が上がる。
その隙に俺は、
『Sonic Move』
一気に近づき、召喚獣の懐に飛び込む。コンボを組み立てようにも多分パワーが違いすぎてすぐ崩される。
ならば、
(狙うは一撃!)
「紫電、一閃っ……!」
炎を纏った拳を腹に叩き込んだ。鈍い打撃音が辺りに響く。まともに喰らったのか、召喚獣は数メートル吹き飛んだ。
「ガリューを、よくも……許さない」
そこにさらに紫の少女の魔力弾が迫る。バック転で回避したところに今度は召喚獣……ガリューが腕から爪を生やして襲いかかる。腹部の装甲が、先ほどの炎のダメージが通ったのか、赤熱していた。
『Protection』
とっさに展開したものの、容易く貫通される。回避行動をとりながらであったため、左腕に浅い裂傷を負うだけで済んだ。
「ぐっ………!」
さらに来る追撃に対して俺は蹴り一発。相殺しきれずに吹き飛ばされる。
凄まじい音を立てて壁に激突。若干壁面を抉ったようだ。衝撃で意識が明滅する。
ガリューが近づいてくるのを見て俺は唇をゆがめそうになった。どうにか立ち上がったところをまた襲いかかってきて………
その攻撃は鋭く風を斬る音とともに空を切ることとなる。
「え………?」
転移した先は紫の髪の少女の上空。
上を向き、何の反応も出来ずに目を見開いて固まっているところを……以前スバルさんとの戦いで失敗した技を炎熱変換を加えて用いる。空中で既に体勢はとれていた。
「紫電一閃!」
『Version Rolling Thunder』
頭を蹴飛ばして意識を奪おうとして……
離れた場所から凄まじい勢いで飛び込んで来たガリューにまたしても邪魔された。
俺に攻撃を仕掛けて主を巻き込むことを恐れたのか、ガリューは回り込んでガード体勢をとっていた。だが、ガードを抜いて相当なダメージをこれで与えたはず。
しかし、そんなこと構いもしないのか、そのまま飛び上がり飛び蹴りをかましてきた。
(しまっ…………!)
右腕に、衝撃。
「が、ぁっ……………!」
防御をする暇もなかった。
胃液を吐きながら吹き飛ばされる。右腕がイヤな音を立てて折れたことを告げる。あばらも何本も持っていかれた。
何度も壁や床に叩きつけられ、最後は床に這いつくばった。全身が激痛を訴える。
呼吸することすら困難になる。
「げほっ、ゴフッ!」
思いっきり吐血した。目の前の床に赤い粘性の液体が張り付く。
『マスター!』
「だい、じょうぶ」
『そんなはずありません。もう抵抗をやめてくだ……』
「やめられ、るかよ」
口を無理矢理笑みの形に歪ませる。
確かに戦う理由には罪悪感とかもある。でもそれ以上に、
「約束、したんだ」
床に手を付いて無理矢理立ち上がろうとして、また紫色の魔力弾が飛んでくる。防御はしたが吹き飛ばされた。
「……なのはさんが帰ってくるまで、ずっと側にいるって」
がれきに頭から突っ込んだ。でも、咄嗟に張った緩衝用の魔法のおかげでまだなんとか動ける。
「寂しがらないように、側にいてあげるって………ッ!」
激痛に歯を食いしばる。たちあがろうともがく。
「それにっ………、何より、ウチは騎士の家系、俺は騎士になるつもり、ないけど」
敵を睨みつける。少し、紫の少女の瞳が揺らいだ気がした。
怖いし痛いし苦しい。もう体を動かすのもすごく億劫だ。
けど。
「お姫様、ほっぽり出して、逃げ出す、なんざ、出来るかよ……!」
そうだ。まだ指は動かせる。意識は明滅してるけど消えてない。
だったら、今出来る全てを、やるだけだ……………ッ!
「せめて………、一太刀、浴びせるぞ。付き合え、
『…………
俺の言葉に力強く応え、相棒は即座にサポートを開始した。
『Physical Boost』
デフォルトのものより強い、さらなる肉体強化。今は体が上手く動かないから、魔力でどうにかフォローさせて動かす。
「……悪いが」
俺は構えて、敵に不敵に笑いかけた。
「もう少しだけ、付き合ってもらうぞ…………!」
「…………!」
再びガリューが突っ込んでくる。もうふらふらだったから、相手からこっちに来てくれるのはラッキーだ。
腕から生やされた、生体武装の刃が迫る。
俺はそれを、
「ゲホッ……!」
体の中で鈍い音が響き、激痛とともにまた口から血が溢れ出る。ガリューの体に血が降り掛かる。でも俺の表情を形作るのは……
凄絶なまでの、笑みだ。
「……つかまえた………!」
『Counter Bind』
ロイの声とともにガリューの全身に緋色の鎖が巻き付く。紫の少女もこの位置なら援護は難しいはずだ。
左手で相手の右腕を掴む。右手を抜き手の形にしながら、歌うように一言、口にする。
「フルドライブ」
『Ignition』
抜き手を魔力が覆い、魔力刃を形成。炎熱変換により、炎が渦を巻く。
これは捨て身。大きな賭けの一撃。必倒を誇るわけでもないし、全力全開とは言いがたいけど。
それでも。
残りの魔力も体力も、下手すりゃ命すらも全てくれてやるんだ。
だから。
「
(それ相応の代償は、払ってもらうぞ………!)
左手で掴んだガリューの右腕を、そのまま強く引き寄せる。右腕を無理矢理動かし、アインハルトが練習していた断空拳を真似て、一撃を叩き込む!
撃ち込むは、さっき攻撃を叩き込んで装甲にダメージを与えている場所………、すなわち、腹部!
これはヴィータさんとシグナムさん、二人から学んで完成した技。
あえて新たな名前を付けるならば……
「
『Version Blaze』
肉を貫く特有の嫌な感触とともに魔力刃が突き刺さり、砕け、一度目の爆炎が花開く。緋色の魔力の欠片が花びらのように舞い散る。
砕け散った魔力刃が敵の体の内部、様々な方向へと突き刺さる。
そして、
魔力刃の欠片が二度目の
「…………………!」
ガリューが無言ながらも苦悶に身をよじらせている。
俺はそれを見ながら倒れていく。
最後の力で、映像にメッセージを残して。
(すみません、なのはさん、六課の皆。後、頼みます……)
そうして、俺は。
失血と魔力切れで、今度こそ意識を失ったのだった。