毎度、お待たせして申し訳ありません。
研修を終え、某社SEに配属となった真尋です。
もうチョイ更新ペースをあげたい所ですが………。
四十二話
さて、キャノンボール・ファスト当日だ。
確か原作だと、亡国機業が来るんだったよな。
もう相当こっちで改変しちゃってるから、実のところ何とも言えないけど。
なんて、メタなことをピット内で考えていたのだが、
「あーちくしょー、耳赤くなってるし」
「箒さん、強く引っ張り過ぎですわ」
「ふん、一夏がぼんやりしているのが悪いんだ」
箒とセシリアと一夏が例によって例のごとくの痴話喧嘩(?)を続けている。
亡国機業が襲ってきた時の対応を考えながらも、呼吸するように会話に爆弾を投げ込んでみた。
「ぼんやりと言えばラウラ、お前なんでそんなぼんやりしてるんだ? 昨日一夏にされたお姫様だっこでも思い出していたか?」
「なっ………! ちがっ………! これは瞑想で……!」
「「「「…………へぇ?」」」」
よーし、修羅場発生。あとは眺めているだけでよし。
二年生のレースを見つつ、修羅場を眺め、さらに機体の調整をするという無駄に洗練された無駄のない無駄なマルチタスクの練習をしつつ。
居心地を悪そうにしている簪の方を見てみる。
『簪、なじめなさそうだけど大丈夫かな』
「確かにそう思ってたけど声に出して言わなくたっていいだろ!?」
ふと見ると簪がこっちを見ている。
どうやらこっちの会話に気付いたらしい。手を振ってみると、簪は手を振りかえした後に顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「「「「「…………ほほう」」」」」
「おい一夏ハーレム女子ズどうした」
振り返ると、なぜか五人がニヤニヤしていた。
「心の中のあだ名で呼ばないでくれる?」
「意外と隅におけないわねえ。布仏さんに、あの夏の臨海学校の女の人もいるんでしょ?」
「顔はいいしな、顔は」
と、シャル、鈴、箒。
ちょっとイラッと来た。
「少なくとも本音さんやナタルは告白できないお前らとは違うし、俺はちゃんと好意は認識はしているぞ、一夏と違ってな」
「「「「「……がふっ」」」」」
どうやら「つうこんのいちげき」だったらしい。
なにやら俺がヒロインズを撃沈させたことを察したらしい一夏は、慌てて強引に話を切り替えた。
「そ、それにしても! 鈴のパッケージなんかごついな」
「ふふん、いいでしょ」
「女っ気がないって意味じゃないのか?」
茶々を入れるのはもはや性分である。
「そうなの、一夏!?」
「い、いやいや! 本当にキャノンボール・ファスト仕様なんだなと思っただけだって!」
迫る鈴に必死で一夏が言い訳する。
どうやらそれをじゃれていると見たらしい箒が鼻を鳴らした。
「ふん、戦いは武器で決まるものではないということを教えてやる」
「戦いとは流れだ。全体を支配するものが勝つ」
ラウラが言った言葉に俺が乗っかる。
「で、全体を支配するのに必要なのは武器と技術。だから勝つのは俺だ」
思いっきり勝利宣言したら睨まれたよ女子に。
一夏が眼を白黒させる中、腹黒シャルは上手いことフォローをした。
「みんな、全力で戦おうね」
しかし俺はそこで終わらせられないのである。
「よし、何だったら賭けでもするか。そっちの方がやる気出るし」
「か、賭け事なんて良くないよ!」
「それに、何を賭けるというのだ? 金銭だと織斑教官に殺されるぞ」
かかった!
ラウラの言葉に思わずほくそ笑む。この賞品であれば、女子なら誰もが乗ってくる。
「一夏に何でも命令出来る権利を」
俺がそういった瞬間、女子(簪除く)が獲物を狙う猛禽の眼になった。
「賭け事は良くないけど、今回は例外だよね」
手のひらを返したシャルを筆頭に。
「確かに、いつも以上の力が出せそうだ……!」
「絶対に負けない………特に和人には」
「この方だけは勝たせる訳にはいきませんわ」
「勝つ! 私は………勝つ!」
ヒロインズの殺気に震えが止まらないです。
けしかけたのは俺だけど。
「どんな命令をされるんだ俺………!? あれ、俺が勝ったら?」
「知らん」
それが一番シラけるパターンだな。むしろそれだけは回避したい。
元々の確率が低そうだけど。
「あの、私が勝っても使い道ない」
参加するつもりだったんですか簪さん。
そこでどうやら妙なことを思いついたのか、一夏は人の悪い笑みを浮かべた。
「なら、カズにも何でも命令できる権利を」
『いいですね!』
「お前に参加権はないぞ!?」
「ん………がんばる」
妙なやる気を出さないで頂きたい簪さん。
おいヒロインズ「日頃の報復のチャンス!」じゃねえよふざけんな。
「どっちか一つにしよう、な!? そうしないと男子が不公平だから」
「自分のこと棚に上げてないか、おい」
一夏の言葉なんて聞こえない。
スラスターに火を入れる。
カウントがスタート。某国民的土管業者のレーシングゲームみたいにスタートダッシュをかますつもりでいく。
初っ端から瞬時加速は全員が入れるだろう。一夏は知らないが。
スペックと性格から見て、セシリア、鈴あたりが最初に仕掛け、シャルとラウラが機を窺い、更にその後ろで虎視眈々と狙うのが簪。箒は絢爛舞踏と展開装甲次第だが、一夏と同じで不慣れだから最初は様子見だろう。そのまま一夏と潰し合ってくれると非常に俺は嬉しい。
俺はシャルの後ろにでもつけておくとするかね。
『ふと思ったんですが、女の子の金魚の糞を男がするって気持ち悪いですよね』
「ふと思うってAIにそんな機能ねーだろーが!」
俺の思考回路が読みやがった。長いこと一緒にいると流石に人の思考の解析も進むんだろうか。
そして、
『3………2………1………Go ahead』
珍しく真面目なエーネのカウントで加速。
周りの景色が一瞬加速するがVFに比べれば対したことはない。
慣れた速度でそのまま、想定通りシャルの後ろへつく。
こっちに実体弾が放たれるがフォートレスで全て逸らす。具体的には、箒あたりに。
「むっ……!」
刀でどうにか弾いたものの、箒は速度をやや落とす。
一方その頃、前の方では最初に先頭を取っていたセシリアとそれを追う鈴、争う二人に対して漁父の利を得る形でラウラが首位に立った。
どうやら俺がついているシャルもそれを追っかけるらしい。なら俺もそれについていくだけだ、今の所はな。
「シャルに、カズも先に行くのかよ!?」
「キャノンボール・ファストはタイミングが命だからね。それじゃ」
「じゃ、お前がどういう命令を受けるのか楽しみにしてるよ」
さくっと一夏を見捨てて速度を上げる。
スリップストリームを利用して抜くのはもうちょい後。
シャルがラウラに肉薄してからだ。それまでは盾兼風よけになって貰う。
と、思ってた矢先、ラウラに後ろから飛んで来たミサイルが直撃した。
簪の打鉄弐式、マルチロックオンミサイルだ。
「そう簡単には、いかせない」
「ぐっ……!」
ラウラは急激に速度を落とす。衝突を危惧したシャルは速度を落とそうとするが、逆に俺は好機と見た。
前にもやった、出力を落とさず速度を落とすブレーキでシャルとラウラを躱し、後ろから速度を上げて迫る簪から逃げるべく、即座に速度を戻す。
そうして、俺と簪のデッドヒートが始まりそうになった時、
「っ!」
突然の|警告《アラート》。上からのロックオン反応がきた。
とっさに予想される攻撃の方向に向けて盾を展開、ビーム射撃を防御。追いついてきていた簪に上手くタイミングを合わせ、どうにかかばうことが出来た。が、少し位置を下げたシャル、ラウラ2人にはタッチの差で手が届かず、ビームが直撃。そのままコースアウトしてしまう。
そして俺は、予想射撃地点を逆算するまでもなく、敵の姿を発見する。
今となってはもはや忌々しいとすら感じるIS、サイレント・ゼフィルスがまるで悪夢のように空から俺達を睥睨していた。
「くそっ!」
思わず吐き捨てる。もう試合どころではない。腰につけていた二機のフォートレスも外し、ラウラとシャルの防御へと向かわせる。
が、悪夢はこれだけでは終わらなかった。
何らかのつながり故か、ISのレーダーかは知らないが、遥か遠くから超音速で迫り来る飛行物体の反応を拾い、思わず歯がみをする。
とりあえず、打てる対策を打てるだけ打とうとしたときに、一夏からの通信が入ってきた。
『おい和人! 大丈夫か!?』
『ああ。簪も無事だな?』
『うん。ありがとう』
簪の感謝に優しく答えるほどの余裕を今の俺は持ち合わせていなかった。
『気にするな。それより問題なのはシャルとラウラだ。一応防御はしているが、急げ』
『分かった』
通信しながら弾丸の雨を潜ってシャルとラウラの基に向かう一夏に、俺は背後から声をかけた。
『それと、サイレント・ゼフィルスはお前らに任せる』
『は!? 何を……』
『悪いが、俺には別の相手がいるみたいだ』
発した言葉には、自分が思っていたよりも遥かに冷たく、静かで………ドロドロした何かが籠っていた。
見上げた先。サイレント・ゼフィルスの背後から迫るもの。
それは、かつて俺が造り上げ、そして奪われた翼。
VFが、あざ笑うように空を舞っていた。