第3話−原作遭遇
さて、あれから更に数年が過ぎた。
家族が増えたとて、生きる為の日々は変わらない。
ただ、チビ達が小さい頃は「家で帰りを待ってくれてる奴らがいる」というのは凄く嬉しかった。
無論、彼らは俺が持って帰ってくるご飯を楽しみにしている部分はあるだろうが、それだけじゃない。
家族として、ご飯が終わった後じゃれついてくる、ただそれだけの行為がどれだけ俺にとって嬉しかったか。
小さい頃は2匹が寝てから、そっと寝床に移してから修行していた。
ある程度大きくなると、2匹は俺の鍛錬を傍で見ているようになった。
そして、今では2匹もすっかり大きくなって、一緒に狩りにも2年前辺りからは行くようになった。
ただ……。
……最近、帰ってこなくなった日もあるのが寂しい。
いや、動物というのは成人が早い。
結局、俺が何時しか彼らに依存していたのだろうな……そう理解出来たのはある日の出来事だった。
その日、俺は……呆然としていた。
巨大な船。
大砲を揃えた、その船は無論漫画の世界とは異なっていたが、模様やら何やらに覚えがあった。
……既に生きる事に必死な日々だったせいで、原作はあれこれ忘れてしまっていたのだが。
海軍の軍艦。
実物はこんなのなんだ……と思うまでもなく。
俺は駆け出していた。
そこにいたのは……間違いなく、数年ぶりの人だった。
そうして森の中から飛び出した俺に……一斉に銃が向けられた。
SIDE ???
儂らはその時、偶々水の補給の為に近場の島に寄った。
本来ならば寄る予定なぞなかったのだが、少し前にやりあった海賊どもとの戦闘で軍艦の一部が破損。
運悪く、それが水タンクだった、という訳じゃな。
……かわされた儂の一撃が船を砕いたという見方もひょっとしたら出来るかもしれん。
海で真水という奴は貴重じゃ。
無論、海水を汲んで、それを蒸発させて、集めた水蒸気を冷やして……という方法がない訳じゃあないが、そんなもんは軍艦の全員の喉を癒せるようなもんじゃない。
どうしたもんかと海図を引っ張り出して艦長らと相談した結果、この島へと寄る事になったんじゃ。
無人島で、特筆する要素もない島じゃ。
水場はある。
天然の食材もそれなりに豊富。
だが、それだけ。
正規の航路からも若干離れているし、周囲の海流もあんまりよろしくない。何よりカームベルトのすぐ脇じゃ。ちょいと迷った海王類がこの島近辺に姿を見せる事もある。
何より危険な猛獣、毒を持った奴も多い。
まあ、つまりは危険を冒して開拓する程の島じゃない、って事じゃな。
じゃから、島の森からそやつが飛び出してきた時、部下達が銃を向けたのは仕方がない。
無人島とされておった、この島で森から飛び出してくるなぞ野生動物という可能性が高い、と判断するのは当然じゃからの。
それでも即撃たんかったのは飛び出してきた相手のサイズが人サイズじゃったからじゃ。
漂流者は、このグランドラインでは常に可能性がある。
グランドライン。
カームベルトに挟まれた東の海、西の海、北の海、南の海の四地域とは異なる異質の海。
カームベルトには巨大な、それこそ軍艦でも一呑みにしかねんような海王類がおるし、晴れ渡った空が突然に激しい嵐になる、などという天候の激変も珍しい話ではない。
伝説のようでいて、伝説じゃない現実の話なんぞもゴロゴロ転がっておる。
当然、運悪く、そういうのに巻き込まれて船が難破なんぞという例は幾等でも転がっておる。そんな中で偶然、運良く島に辿り着いたという例もあるし、或いは海賊に襲われて気紛れで無人島に放り出された、或いは海賊共が処罰の為に仲間を置き去りにしたとか、まあ色々じゃな……。
森から飛び出してきたのが人である事を確認すると、儂は部下らを制し、歩み寄った。
……儂と比較すれば小柄に見えるが、まあ、普通の成人男性としてはそこそこ大柄の部類に入るじゃろう。
大体170〜180といった所か?とはいえ、まだ若いの。二十歳にもなっておるまい。
「さて……お前さん誰じゃ?」
「……お……おレ……ハ」
ふむ、こいつは結構な間、この島に一人でいたようじゃな……そうすると、この島に来た当初は子供の可能性が結構高い……となれば海賊という可能性は低いか。
そう判断する。
人というものは、長らく一人で生活していると会話相手がいないせいか、必然的に話をする事がなくなる。
会話がなくなると……次第に話す事自体が困難になってくるんじゃよ。
「ああ、無理に話さんでいい。こちらからの質問に頷いてくれれば、のう?」
SIDE主人公
ああ、良かった。
本当にそう思った。
長年話をしてない事がこれ程までに話す事を難しくしてるなんて……使わないから、全然気付かなかった。
目の前にいるのは結構な大柄の筋肉質な……黒髪に白いものが混ざりだしている髭面の男性。
当たり前の話だが、漫画顔や体型とは異なる、普通の人間だから、薄ぼんやりとした記憶を探っても誰か分からん。というか、そもそも時代が分からんし。
果たして、今は原作の何時頃なのか。
既に原作は始まっているのか。
或いは原作の未来なのか。
逆に原作の過去なのか。
「まず確認するが……お前さん、海賊か?」
首を横に振る。
「ふむ、じゃあ、漂流者かの?」
首を傾げる。
向こうもよく覚えていないと思ったのか……。
「ふむ?分からんと……お前さんもう長い事、この島におるのか?」
頷く。
しかし、これではラチがあかないと思う。話す事は難しいが、書く事なら問題はない。何時かに備えて練習していたからだが…今、紙はない……何しろ貴重なのだ、自分には紙なんて作れないし。
だが、幸いここには書くものが幾等でもある。
SIDE???
ふむ?
しゃがんだと思ったら、砂浜に文字を書き出した。成る程、ここなら問題あるまい。
『気付いたら、ここにいた。もう何年にもなるが、それ以前は覚えていない』
「ふうむ、この島にいる前の事は覚えておらんのか……?」
確認すると頷く。
ふむ、何らかのショックで記憶を失ったか?海賊にでも襲われたりして、頭でも殴られたのだろうか?
「しかし、よく生きられたの?」
『昔、ここに住んだ人が遺してくれた資料があった。残ってた日記によると、政府のCPって組織の人が、仕事に疲れて逃げたって書いてあった』
なんじゃと!?CP……サイファー・ポールの人間が……。
むう、それは後で確認せねばなるまい……しかし、そうか。特殊工作員として彼らは厳しい訓練を受けている。こうした島でのサバイバル訓練も彼らは十分なものを持っている筈じゃ。逃げたとしても、生きていくのに十分な装備を整えてから逃げた筈……ふむ、残っていたものがあれば、何もないよりはるかにマシ、か……。
「後で確認の為、案内して欲しいんじゃが……ええかの?」
頷いた。
まあ、これぐらいなら書くより早いからの。
「ふむ、すまんの。代わりといっては何じゃが、お前さんの身柄は海軍で責任を持って引き取ろう。仕事は……まあ、良ければ海軍に入るか?」
しばらく考えていたが、頷いた。
まあ、この島で長らく暮らしていた上に、島の外の記憶がない以上、まともな働き先がないのは推測がつく。そういう意味では、選択肢がなかったんじゃろうな……。
まあ、儂が紹介出来る所なんぞ、そこぐらいしかないし、この海賊時代、悪い選択ではないと思う。
『一つ聞いていいですか?』
ん?なんじゃ?
考えている内に向こうが砂浜に新たに文字を書いていた。
『貴方の名前は?』
おお、いかん。
そういえば、まだ名乗っておらなんだな。
「ああ」
一つ頷くとニヤリと笑い、答えた。
「儂は海軍中将、モンキー・D・ガープじゃ!」
さて、あれから更に数年が過ぎた。
家族が増えたとて、生きる為の日々は変わらない。
ただ、チビ達が小さい頃は「家で帰りを待ってくれてる奴らがいる」というのは凄く嬉しかった。
無論、彼らは俺が持って帰ってくるご飯を楽しみにしている部分はあるだろうが、それだけじゃない。
家族として、ご飯が終わった後じゃれついてくる、ただそれだけの行為がどれだけ俺にとって嬉しかったか。
小さい頃は2匹が寝てから、そっと寝床に移してから修行していた。
ある程度大きくなると、2匹は俺の鍛錬を傍で見ているようになった。
そして、今では2匹もすっかり大きくなって、一緒に狩りにも2年前辺りからは行くようになった。
ただ……。
……最近、帰ってこなくなった日もあるのが寂しい。
いや、動物というのは成人が早い。
結局、俺が何時しか彼らに依存していたのだろうな……そう理解出来たのはある日の出来事だった。
その日、俺は……呆然としていた。
巨大な船。
大砲を揃えた、その船は無論漫画の世界とは異なっていたが、模様やら何やらに覚えがあった。
……既に生きる事に必死な日々だったせいで、原作はあれこれ忘れてしまっていたのだが。
海軍の軍艦。
実物はこんなのなんだ……と思うまでもなく。
俺は駆け出していた。
そこにいたのは……間違いなく、数年ぶりの人だった。
そうして森の中から飛び出した俺に……一斉に銃が向けられた。
SIDE ???
儂らはその時、偶々水の補給の為に近場の島に寄った。
本来ならば寄る予定なぞなかったのだが、少し前にやりあった海賊どもとの戦闘で軍艦の一部が破損。
運悪く、それが水タンクだった、という訳じゃな。
……かわされた儂の一撃が船を砕いたという見方もひょっとしたら出来るかもしれん。
海で真水という奴は貴重じゃ。
無論、海水を汲んで、それを蒸発させて、集めた水蒸気を冷やして……という方法がない訳じゃあないが、そんなもんは軍艦の全員の喉を癒せるようなもんじゃない。
どうしたもんかと海図を引っ張り出して艦長らと相談した結果、この島へと寄る事になったんじゃ。
無人島で、特筆する要素もない島じゃ。
水場はある。
天然の食材もそれなりに豊富。
だが、それだけ。
正規の航路からも若干離れているし、周囲の海流もあんまりよろしくない。何よりカームベルトのすぐ脇じゃ。ちょいと迷った海王類がこの島近辺に姿を見せる事もある。
何より危険な猛獣、毒を持った奴も多い。
まあ、つまりは危険を冒して開拓する程の島じゃない、って事じゃな。
じゃから、島の森からそやつが飛び出してきた時、部下達が銃を向けたのは仕方がない。
無人島とされておった、この島で森から飛び出してくるなぞ野生動物という可能性が高い、と判断するのは当然じゃからの。
それでも即撃たんかったのは飛び出してきた相手のサイズが人サイズじゃったからじゃ。
漂流者は、このグランドラインでは常に可能性がある。
グランドライン。
カームベルトに挟まれた東の海、西の海、北の海、南の海の四地域とは異なる異質の海。
カームベルトには巨大な、それこそ軍艦でも一呑みにしかねんような海王類がおるし、晴れ渡った空が突然に激しい嵐になる、などという天候の激変も珍しい話ではない。
伝説のようでいて、伝説じゃない現実の話なんぞもゴロゴロ転がっておる。
当然、運悪く、そういうのに巻き込まれて船が難破なんぞという例は幾等でも転がっておる。そんな中で偶然、運良く島に辿り着いたという例もあるし、或いは海賊に襲われて気紛れで無人島に放り出された、或いは海賊共が処罰の為に仲間を置き去りにしたとか、まあ色々じゃな……。
森から飛び出してきたのが人である事を確認すると、儂は部下らを制し、歩み寄った。
……儂と比較すれば小柄に見えるが、まあ、普通の成人男性としてはそこそこ大柄の部類に入るじゃろう。
大体170〜180といった所か?とはいえ、まだ若いの。二十歳にもなっておるまい。
「さて……お前さん誰じゃ?」
「……お……おレ……ハ」
ふむ、こいつは結構な間、この島に一人でいたようじゃな……そうすると、この島に来た当初は子供の可能性が結構高い……となれば海賊という可能性は低いか。
そう判断する。
人というものは、長らく一人で生活していると会話相手がいないせいか、必然的に話をする事がなくなる。
会話がなくなると……次第に話す事自体が困難になってくるんじゃよ。
「ああ、無理に話さんでいい。こちらからの質問に頷いてくれれば、のう?」
SIDE主人公
ああ、良かった。
本当にそう思った。
長年話をしてない事がこれ程までに話す事を難しくしてるなんて……使わないから、全然気付かなかった。
目の前にいるのは結構な大柄の筋肉質な……黒髪に白いものが混ざりだしている髭面の男性。
当たり前の話だが、漫画顔や体型とは異なる、普通の人間だから、薄ぼんやりとした記憶を探っても誰か分からん。というか、そもそも時代が分からんし。
果たして、今は原作の何時頃なのか。
既に原作は始まっているのか。
或いは原作の未来なのか。
逆に原作の過去なのか。
「まず確認するが……お前さん、海賊か?」
首を横に振る。
「ふむ、じゃあ、漂流者かの?」
首を傾げる。
向こうもよく覚えていないと思ったのか……。
「ふむ?分からんと……お前さんもう長い事、この島におるのか?」
頷く。
しかし、これではラチがあかないと思う。話す事は難しいが、書く事なら問題はない。何時かに備えて練習していたからだが…今、紙はない……何しろ貴重なのだ、自分には紙なんて作れないし。
だが、幸いここには書くものが幾等でもある。
SIDE???
ふむ?
しゃがんだと思ったら、砂浜に文字を書き出した。成る程、ここなら問題あるまい。
『気付いたら、ここにいた。もう何年にもなるが、それ以前は覚えていない』
「ふうむ、この島にいる前の事は覚えておらんのか……?」
確認すると頷く。
ふむ、何らかのショックで記憶を失ったか?海賊にでも襲われたりして、頭でも殴られたのだろうか?
「しかし、よく生きられたの?」
『昔、ここに住んだ人が遺してくれた資料があった。残ってた日記によると、政府のCPって組織の人が、仕事に疲れて逃げたって書いてあった』
なんじゃと!?CP……サイファー・ポールの人間が……。
むう、それは後で確認せねばなるまい……しかし、そうか。特殊工作員として彼らは厳しい訓練を受けている。こうした島でのサバイバル訓練も彼らは十分なものを持っている筈じゃ。逃げたとしても、生きていくのに十分な装備を整えてから逃げた筈……ふむ、残っていたものがあれば、何もないよりはるかにマシ、か……。
「後で確認の為、案内して欲しいんじゃが……ええかの?」
頷いた。
まあ、これぐらいなら書くより早いからの。
「ふむ、すまんの。代わりといっては何じゃが、お前さんの身柄は海軍で責任を持って引き取ろう。仕事は……まあ、良ければ海軍に入るか?」
しばらく考えていたが、頷いた。
まあ、この島で長らく暮らしていた上に、島の外の記憶がない以上、まともな働き先がないのは推測がつく。そういう意味では、選択肢がなかったんじゃろうな……。
まあ、儂が紹介出来る所なんぞ、そこぐらいしかないし、この海賊時代、悪い選択ではないと思う。
『一つ聞いていいですか?』
ん?なんじゃ?
考えている内に向こうが砂浜に新たに文字を書いていた。
『貴方の名前は?』
おお、いかん。
そういえば、まだ名乗っておらなんだな。
「ああ」
一つ頷くとニヤリと笑い、答えた。
「儂は海軍中将、モンキー・D・ガープじゃ!」