第4話−さらば、島よ
SIDEガープ
結局、あやつの言っておる事は本当じゃった。
この数年間で補修したのじゃろう、しっかりとした作りの建物からは日記の他、彼の言葉を裏付けるものも見つかった。
悪魔の実の事も記してあったので、確認してみた所、矢張り喰ったらしい。
まあ、この島で気付いた当初は何の心得もない素人であったというし、それでは悪魔の実でも食わんと生き延びれんじゃろうなあ。
で、とりあえずは現在は……それなりに鍛錬を積んだというので腕試しをしてみておる。
「馬鹿もん!それは鉄塊ではないわ!」
「ぐっ!」
こやつなかなかのものじゃのう。
実の所、六式こそ相手がおらんかったせいか荒削りじゃが、既に四式までは一応修得しておる。
剃、月歩、嵐脚、紙絵。
特に紙絵は評価しても良い。
こやつの悪魔の実は、超人系でありながら、その実、防御能力は自然系に近い。液体状故に殴っても斬っても突いても効果がなく、向こうの一撃一撃は例外なく重い。まあ、幸いなのは、自然系程常識外の攻撃能力はない、という事な訳じゃが。
ただ、悪魔の実で自然系の能力者にほぼ一貫しておる事じゃが、連中防御が甘い。
確かに、覇気でダメージを受ける事はあっても、致命傷になるかはまた別問題じゃし(単純に量とか質の問題でもあるが)、結局どこかで『自分には攻撃は効かない』と油断しておるんじゃろうな。じゃから、実力的には下の相手にも攻撃喰らったりするんじゃ。
そうした中、こやつは余計な攻撃はきっちりかわそうとしておる。その点は評価してやってもよかろう。
鉄塊と指銃はまあ、確かに鉄塊を修得せねば、指銃は会得出来んし、鉄塊は自分の能力と区別がつけづらいじゃろうしな……。
しかし、あの拳による一撃じゃったか、あれは凄い。
する事がなかった。
それ故に一日一万本の突きを毎日やってきたらしい。
一万本。
言うは易し、行うは難し、じゃな。感謝して正拳突きを放つ。一回に五秒かかったとして、一万だと五万秒、おおよそ十四時間。その間ひたすら正拳突き。考えるだけで気が遠くなる話じゃな……。
何時の間にか覇気すら纏うようになったらしいが、あの一撃は避けられんかった。本気で放てば、果たしてどれ程のもんになるのか……帰ったら、クザン辺りに受けさせてみるか。
ガープがそうニヤリと笑った際、どこかでサボリの常習犯がゾクリと背中に怖気が走ったかは定かではない。
SIDE主人公
ガープ中将と組み手をやっております、アスラです。
余り日本人らしくない名前と思いますが、むしろ当然。何故か名前が出てこなかったのです、自分の日本人だった頃の名前が。
日本でやってた事ははっきり思い出せるのに、何故か名前は出てこない。
名乗った後、こちらの名前も聞いてきたガープ中将が、俺の様子を見て、名前も忘れてしまっておるのか、と思ったらしく、二人で相談して新たにつけた名前だからだ。
いや、当初は孫が生まれたらつけようと思っていた名前じゃ、とか言ってルフィって名前を上げた時にはちょっと惹かれたけど、さすがに原作のあのイメージが強いんで、それは「じゃあ、お孫さんが生まれるまで取っておいてあげてください」って断った。
最終的にふっと思い浮かんだ阿修羅から、名前を取った。
俺の武術の腕だが……駄目だな。
それなりに自信はあった。
実際、動物達には十分有効だったし、海兵達にも効いた、が、ガープ中将には全然効かなかった。
とはいえ、むしろ安心した。
俺は日本では普通のサラリーマンだった。なのに、この世界に来てからというもの、幾等する事がなくて、加えてサバイバル生活強要されてる状態なせいという事もあったが、鍛えれば鍛える程上限なしに上がっていくように感じられる状況に怖くなっていたんだ。
それが、上には上がいる。
それを実感出来て、少しほっとした。まあ、俺がやってたのが所詮教本と武芸を行わない動物レベルだったのに留まっていたのも大きいとは思うんだが。
ちなみに、俺は悪魔の実の能力で、水銀を固めた武器を作り出す事も出来るが、これらは本部に戻ってから、武器を扱う連中に紹介してくれる、って事になった。
……未来を考えると、矢張りこうした武器を使った戦闘や素手も鍛えておきたい。
特にヤミヤミの実。
悪魔の実の能力を封じるとはいえ、白ひげにはやられていた所を見ると、あくまでティーチの奴の力は悪魔の実の効果を封じるだけなんだろう。それなら武芸を鍛えれば……特にまだルフィが生まれていないって事を知る事が出来た事から色々話を聞いて、今が原作の19年前だと知る事が出来た(海賊王の処刑からまだ3年って聞いたのが決定打だった)。
今から鍛えておけば……きっとそれなりに上へと行ける筈だ。
何時起きたのか覚えていない事や、何時から始まるのか分からないような事例もある。だが……原作の不幸の一部だけでも止めたいとは思う。
如何に漫画の世界で悲劇が起きていても、所詮は漫画の世界。
どんなに腹の立つ悪役がいようが、クズがいようが、彼らを倒せるのは漫画の主人公だけだ。
だが、俺は今、そいつらをぶちのめせる世界へと来た。
正義を背負う海軍だから、悪を未然に止めてみせる、なんて事は言わない。ただ単に……俺がやりたいからやる!スパンダムの顔面にパンチをぶち込んでやるとか考えたら爽快じゃないかね。
その為には海軍に入るのは、いい手だ……後は……きちんと情報を集めないとな。
忘れてました、じゃお話にもならない。
そうして、遂に島を離れる日がやって来た。
というか、軍艦はとっくに離れる準備は出来てたんだけど、俺の修行とか資料の回収とかまあ、細々した事があったのと、海兵とはいえ矢張り偶には地上に足を下ろしたい、って事もあり、しばらく休暇の如く交代で上陸していた訳だ。
すっかり大きくなった家族を連れて、砂浜に出る。
始めて見せた時は驚かれたが、今ではすっかり皆了解してるから、銃を向けられたりする事はない。
何でも、グラン・タイガーと呼ばれる種だとかで、余り人に慣れる種ではないらしい……強さに関してだが、体格だけなら上回る種は結構いるが、その俊敏さと破壊力はかなり高い方に分類されるものだという。
知らんかった。
そうして、砂浜から軍艦に向って歩き出したが……ふと気付いた。
片方は一緒についてきているのだが、もう片方がついてきていない。
森から出てきた所でじっと座り込んでいる。
「どうした?」
声を掛ける。
もう1頭も不思議そうに首を傾げている。
と。
森からもう1頭のグラン・タイガーと子供達が出てきた。
「あ……」
そうか。
お前には新しい家族が出来てたのか。
そうだよな、もう自分がこの世界に来て、お前達と始めて出会ってから、もう何年も過ぎているんだ。お前だってもう小さな子供じゃないんだもんな……。
うぉう…
そう傍らのついてきてくれた兄弟も寂しそうに鳴いたが、でも引き止めようとも、戻ろうともしない。
一声吼えると……あいつはそのまま家族と共に森へと姿を消してた。
その姿が木々に完全に隠れるまで、俺ともう1頭は見送っていた。
姿が見えなくなると、俺は軍艦の傍で、様子を見てた筈だが黙って見ていてくれたガープ中将の所まで歩いていった。
「お世話になります」
「……いいんじゃな?」
何を、とは問い返さない。ガープ中将が言いたい事は理解出来ている。というか、さっきのアレ以外にはあるまい。
寂しさを押し殺して、黙って頷く。この数日で、大分元通りに会話が出来るようになったが、こみ上げるものがあって、声が出ない。
始めてあいつを拾った時から、これまで……1人と2頭でずっと生きてきた。
でも、今日からはそこから1頭が抜ける。
けれど、それは悲しい別れじゃない。新しい家族をあいつは得たんだ。それならあいつの、これまでの家族としては喜んでやるべきだ。
そうして、俺は軍艦に乗り……マリンフォードを目指す事になった。
SIDEガープ
結局、あやつの言っておる事は本当じゃった。
この数年間で補修したのじゃろう、しっかりとした作りの建物からは日記の他、彼の言葉を裏付けるものも見つかった。
悪魔の実の事も記してあったので、確認してみた所、矢張り喰ったらしい。
まあ、この島で気付いた当初は何の心得もない素人であったというし、それでは悪魔の実でも食わんと生き延びれんじゃろうなあ。
で、とりあえずは現在は……それなりに鍛錬を積んだというので腕試しをしてみておる。
「馬鹿もん!それは鉄塊ではないわ!」
「ぐっ!」
こやつなかなかのものじゃのう。
実の所、六式こそ相手がおらんかったせいか荒削りじゃが、既に四式までは一応修得しておる。
剃、月歩、嵐脚、紙絵。
特に紙絵は評価しても良い。
こやつの悪魔の実は、超人系でありながら、その実、防御能力は自然系に近い。液体状故に殴っても斬っても突いても効果がなく、向こうの一撃一撃は例外なく重い。まあ、幸いなのは、自然系程常識外の攻撃能力はない、という事な訳じゃが。
ただ、悪魔の実で自然系の能力者にほぼ一貫しておる事じゃが、連中防御が甘い。
確かに、覇気でダメージを受ける事はあっても、致命傷になるかはまた別問題じゃし(単純に量とか質の問題でもあるが)、結局どこかで『自分には攻撃は効かない』と油断しておるんじゃろうな。じゃから、実力的には下の相手にも攻撃喰らったりするんじゃ。
そうした中、こやつは余計な攻撃はきっちりかわそうとしておる。その点は評価してやってもよかろう。
鉄塊と指銃はまあ、確かに鉄塊を修得せねば、指銃は会得出来んし、鉄塊は自分の能力と区別がつけづらいじゃろうしな……。
しかし、あの拳による一撃じゃったか、あれは凄い。
する事がなかった。
それ故に一日一万本の突きを毎日やってきたらしい。
一万本。
言うは易し、行うは難し、じゃな。感謝して正拳突きを放つ。一回に五秒かかったとして、一万だと五万秒、おおよそ十四時間。その間ひたすら正拳突き。考えるだけで気が遠くなる話じゃな……。
何時の間にか覇気すら纏うようになったらしいが、あの一撃は避けられんかった。本気で放てば、果たしてどれ程のもんになるのか……帰ったら、クザン辺りに受けさせてみるか。
ガープがそうニヤリと笑った際、どこかでサボリの常習犯がゾクリと背中に怖気が走ったかは定かではない。
SIDE主人公
ガープ中将と組み手をやっております、アスラです。
余り日本人らしくない名前と思いますが、むしろ当然。何故か名前が出てこなかったのです、自分の日本人だった頃の名前が。
日本でやってた事ははっきり思い出せるのに、何故か名前は出てこない。
名乗った後、こちらの名前も聞いてきたガープ中将が、俺の様子を見て、名前も忘れてしまっておるのか、と思ったらしく、二人で相談して新たにつけた名前だからだ。
いや、当初は孫が生まれたらつけようと思っていた名前じゃ、とか言ってルフィって名前を上げた時にはちょっと惹かれたけど、さすがに原作のあのイメージが強いんで、それは「じゃあ、お孫さんが生まれるまで取っておいてあげてください」って断った。
最終的にふっと思い浮かんだ阿修羅から、名前を取った。
俺の武術の腕だが……駄目だな。
それなりに自信はあった。
実際、動物達には十分有効だったし、海兵達にも効いた、が、ガープ中将には全然効かなかった。
とはいえ、むしろ安心した。
俺は日本では普通のサラリーマンだった。なのに、この世界に来てからというもの、幾等する事がなくて、加えてサバイバル生活強要されてる状態なせいという事もあったが、鍛えれば鍛える程上限なしに上がっていくように感じられる状況に怖くなっていたんだ。
それが、上には上がいる。
それを実感出来て、少しほっとした。まあ、俺がやってたのが所詮教本と武芸を行わない動物レベルだったのに留まっていたのも大きいとは思うんだが。
ちなみに、俺は悪魔の実の能力で、水銀を固めた武器を作り出す事も出来るが、これらは本部に戻ってから、武器を扱う連中に紹介してくれる、って事になった。
……未来を考えると、矢張りこうした武器を使った戦闘や素手も鍛えておきたい。
特にヤミヤミの実。
悪魔の実の能力を封じるとはいえ、白ひげにはやられていた所を見ると、あくまでティーチの奴の力は悪魔の実の効果を封じるだけなんだろう。それなら武芸を鍛えれば……特にまだルフィが生まれていないって事を知る事が出来た事から色々話を聞いて、今が原作の19年前だと知る事が出来た(海賊王の処刑からまだ3年って聞いたのが決定打だった)。
今から鍛えておけば……きっとそれなりに上へと行ける筈だ。
何時起きたのか覚えていない事や、何時から始まるのか分からないような事例もある。だが……原作の不幸の一部だけでも止めたいとは思う。
如何に漫画の世界で悲劇が起きていても、所詮は漫画の世界。
どんなに腹の立つ悪役がいようが、クズがいようが、彼らを倒せるのは漫画の主人公だけだ。
だが、俺は今、そいつらをぶちのめせる世界へと来た。
正義を背負う海軍だから、悪を未然に止めてみせる、なんて事は言わない。ただ単に……俺がやりたいからやる!スパンダムの顔面にパンチをぶち込んでやるとか考えたら爽快じゃないかね。
その為には海軍に入るのは、いい手だ……後は……きちんと情報を集めないとな。
忘れてました、じゃお話にもならない。
そうして、遂に島を離れる日がやって来た。
というか、軍艦はとっくに離れる準備は出来てたんだけど、俺の修行とか資料の回収とかまあ、細々した事があったのと、海兵とはいえ矢張り偶には地上に足を下ろしたい、って事もあり、しばらく休暇の如く交代で上陸していた訳だ。
すっかり大きくなった家族を連れて、砂浜に出る。
始めて見せた時は驚かれたが、今ではすっかり皆了解してるから、銃を向けられたりする事はない。
何でも、グラン・タイガーと呼ばれる種だとかで、余り人に慣れる種ではないらしい……強さに関してだが、体格だけなら上回る種は結構いるが、その俊敏さと破壊力はかなり高い方に分類されるものだという。
知らんかった。
そうして、砂浜から軍艦に向って歩き出したが……ふと気付いた。
片方は一緒についてきているのだが、もう片方がついてきていない。
森から出てきた所でじっと座り込んでいる。
「どうした?」
声を掛ける。
もう1頭も不思議そうに首を傾げている。
と。
森からもう1頭のグラン・タイガーと子供達が出てきた。
「あ……」
そうか。
お前には新しい家族が出来てたのか。
そうだよな、もう自分がこの世界に来て、お前達と始めて出会ってから、もう何年も過ぎているんだ。お前だってもう小さな子供じゃないんだもんな……。
うぉう…
そう傍らのついてきてくれた兄弟も寂しそうに鳴いたが、でも引き止めようとも、戻ろうともしない。
一声吼えると……あいつはそのまま家族と共に森へと姿を消してた。
その姿が木々に完全に隠れるまで、俺ともう1頭は見送っていた。
姿が見えなくなると、俺は軍艦の傍で、様子を見てた筈だが黙って見ていてくれたガープ中将の所まで歩いていった。
「お世話になります」
「……いいんじゃな?」
何を、とは問い返さない。ガープ中将が言いたい事は理解出来ている。というか、さっきのアレ以外にはあるまい。
寂しさを押し殺して、黙って頷く。この数日で、大分元通りに会話が出来るようになったが、こみ上げるものがあって、声が出ない。
始めてあいつを拾った時から、これまで……1人と2頭でずっと生きてきた。
でも、今日からはそこから1頭が抜ける。
けれど、それは悲しい別れじゃない。新しい家族をあいつは得たんだ。それならあいつの、これまでの家族としては喜んでやるべきだ。
そうして、俺は軍艦に乗り……マリンフォードを目指す事になった。