第8話−苦い経験
アスラです。
サカズキ大将の下に配属されました。
その際、コートを支給されたんですが、これってマントみたいな構造になって……というか、まんまマントとしても使えるようになっていました。成る程、だから漫画の海兵らは皆コートをきちんと着ずに羽織っていて、しかもずり落ちなかったのか。
などと関係ない事を考えているのは、多少現実逃避気味なのもあるだろう。
何て言うかね?
サカズキ大将があれだけ同僚にも問題視されるような行動を起こしておきながら、それでも大将へと昇進出来た理由がわかったような気がします。
黄猿大将はどうにも掴み所がないけれど、少なくとも青雉大将はまともな理性があった。
センゴク元帥も少なくとも恥だからと、LEVEL6からの大量脱走を隠そうとする世界政府に対して激怒するだけの……そう、言うなれば、『手段を問わず、恥を隠さず、平和に暮らす人々の生活を守る』という意志が見えた。
では、何故、そんな人達の中で、サカズキ中将が大将へ昇進出来たのか。
その答えが眼前で展開されています。
激烈な戦闘。
サカズキ大将……じゃない、中将の軍艦はとにかく戦闘が多い。しかも、戦果が多大だ。成る程、本人の実力と、他を上回る高い成績を持って、大将へと昇進した訳か……。
何しろ、サカズキ中将の船では兵士も必死だ。
なにしろ、戦闘によって、逃げたら原作の白ひげ戦でも出ていたが、『臆病で逃げたなんぞという不名誉を受けるぐらいなら〜』とかいう理由で殺されていたが、別段それは自身の指揮する船でも変わらない。
つまりは恐怖で支配してるんですよ!この人。
原作だと、金棒のアルビダ、元の世界でなら旧ソ連の政治委員……いや、スターリンとかの方が近いだろうか。
まあ、こっちは自分も最前線で戦ってるけど。
成る程、これならそりゃあ戦果も上がろうというものだ。
そして、海軍としては、きっちりと他を越える戦果を上げている以上、サカズキ大将の…じゃない、中将のやり方に文句を言うつもりはない、という訳だ……。
目の前の海賊三人を体から飛び出した水銀の槍で串刺しにしながら、自分はここに初めて来た時の事を思い出していた。
着任すれば、その船の責任者、ここではサカズキ中将に挨拶に行く事になったのは当然だろう。
普通は一介の少尉なんぞ、挨拶して、ろくに視線も向けられず他に気を取られながらの返事を受け、退出……なんてのだってアリだと思ってたんだが、今、自分は一対一で睨まれてます。いえ、ご当人は普通に見てるんでしょうけれど。
「……お前がアスラ少尉か」
「はい!よろしくお願い致します、サカズキ中将閣下!」
一応仕込まれた敬礼で挨拶を返す。
敬礼ってのは元々、いちいち複雑な礼儀を覚えなくても軍隊での挨拶全て、これ一つで簡略化させる為なのがそもそもの目的なだけあって、とにかく、こいつを覚えて相手の階級と名前間違えなければ、何とかなる。
「ああ、いい。楽にせい」
「はっ!」
と言っても、勝手に椅子に座ったりはしない。あくまでやすめ、の姿勢だ。
この辺は前世のサラリーマン時代の記憶が役に立つ。
『ああ、楽にしてください』と言われて、取引先の前でだらしない格好を見せる訳にはいかない……よく考えれば、社会人としては当たり前のような気もするが。
「とりあえず、お前は悪魔の実の能力者だそうだな……獲物を仕留める事は出来るのか?」
「はっ?あ、はい、それは可能ですが。島では狩りや身を守る為に能力を使っておりましたので」
いきなり悪魔の実の質問か……とはいえ、どんな能力か聞いてくるのかと思いきや、獲物を狩るのに使えたかどうか?一体何を考えてそんな質問をしてきたのだろうか。
もっとも、その答えをアスラはすぐ知る事になったのだが。
「よかろう、ついてこい」
そう告げ、サカズキ中将は部屋を出てゆく。
一体何かと思いつつ、その後をついて部屋を出る。
甲板へと上がったそこには海兵らが待っていた。全員がサカズキ中将の姿に緊張を隠せないでいる。
そのサカズキ中将が合図をすると、彼らの間から、5人の……おそらく、格好や容貌からして海賊なのだろう。そいつらが縛られた状態で俺達の前に放り出された。
猿轡はされていないので、彼らは中将に卑屈に笑って命乞いをしているが、サカズキ中将はその嘆願にもそよ、とも反応を見せない。どころか、平然とした、或いは当たり前のように言った。
「アスラ少尉、こいつらをお前の能力で殺せ」
……一体何を言われたのだろうか。
瞬間、頭が理解する事を拒んだ。
俺が呆けている間に、サカズキ中将は平然と告げる。
「こいつらは町を襲い、そこに住む人々を多数殺害した連中だ。死刑は確定している。アスラ少尉はまだ誰かを殺した経験はないそうだな。民間人だったという事だから、それは大変結構な事だ。だが、海兵となるならば、ここでこいつらを殺せ。お前自身がこれから生き残る為にな!」
のろり、と彼らに視線を向ける。
彼らは絶望に満ちた表情で、俺に命乞いの叫びと必死の懇願を込めた視線を向けてくる。
成る程、さっき獲物を狩れるか聞いたのはこの為か。確かに悪魔の実の能力で、猛獣とかでもしとめられるなら、人間相手の攻撃力としてはお釣りがくる。
しかし……。
この無抵抗な状態の彼らを、5人を殺す、のか?自分が?
周囲の海兵らに思わず視線を向けてしまう。
幾人かはサカズキ中将同様の厳しい視線を向けてきていたが、殆どの兵士は気の毒そうな視線を向けてきた。けれど、誰からもサカズキ中将にとりなしの言葉を発する者はいない。
そして、サカズキ中将はといえば、仁王立ちでこちらを睨むように見詰めている。
……どうやら、やるしかない、らしい。
だが……。
改めて、拘束された5人を見る。
そうして、今度はサカズキ中将を見る。
……現実は変わらない。
背中に冷たい汗が出てくる。
「命令だ、やれ」
震えながら、彼らに手を向ける。
それだけで、恐怖に駆られたのだろう、5人が必死に後ずさって逃げようとする……逃げ場などどこにもないのに。それでも、生存本能が後押しするのか、逃げようともがく。
その姿に躊躇する俺を後押しするかのように。
「やれ!」
サカズキ中将の声が周囲を震わせるかの如き大音声で響き。
気付けば、自分の手から伸びた銀の槍が、彼らの1人を貫いていた。
「どうした。まだあと4人おるぞ。きちんと目を逸らさず、相手を見て仕留めるんじゃ。そいつらを殺すのはお前じゃとしかと認識して相手を殺せ」
そうして、俺は5人を、自らの悪魔の実で殺した。
その夜、初めて人を殺した事で眠れなかった俺をサカズキ中将は自室に呼んで、酒を出してくれた。
確かに、それは有難かった。
確かに、あれは必要だったのかもしれない。何時かは自分は人を殺さなければならなかっただろう。この世界では……。
あれは必要な事なのだと、海賊は滅ぼさないといけないのだと語るサカズキ中将に、だけど、俺はどうしても感謝の念を持つ事は出来なかった。
理解はしよう、けれど、納得は出来なかった。
そうして、あれからどれだけの日々が過ぎたのか。
サカズキ中将と共に先陣を切る事の多くなった俺は、必然的に殺した数も増えた。
自然系悪魔の実の能力者であるサカズキ中将、防御に関しては自然系並と謳われる超人系悪魔の実の能力者である俺の2人が最前線に立てば、海兵の被害は大きく減らす事が出来る。
加えて、俺自身の能力の制御も、サカズキ中将という悪魔の実の中でもマグマという、不定形の物質を操る点では俺と同じ経験豊富な能力者の指導と実戦によって急速に磨かれていった。
幾つかの考えていた技も可能になってきた。
そうして、現在、また新たな海賊を潰すべく戦闘に突入している。
自身の背後に伸びる九本の尾にも見える水銀の塊が蠢き、或いは味方へと向けられた銃撃を防ぎ、或いは海賊を取り込み、或いは砲弾を防ぐ、これが俺の考えていた能力の一つ、『九尾』だ。
当初は『ヤマタノオロチ』なんてのも考えたんだが、造形を簡略化する事で操る本数の方を増やしてみたものだ。
海軍大尉『銀虎』のアスラ。
それが今の俺の呼び名だった。
アスラです。
サカズキ大将の下に配属されました。
その際、コートを支給されたんですが、これってマントみたいな構造になって……というか、まんまマントとしても使えるようになっていました。成る程、だから漫画の海兵らは皆コートをきちんと着ずに羽織っていて、しかもずり落ちなかったのか。
などと関係ない事を考えているのは、多少現実逃避気味なのもあるだろう。
何て言うかね?
サカズキ大将があれだけ同僚にも問題視されるような行動を起こしておきながら、それでも大将へと昇進出来た理由がわかったような気がします。
黄猿大将はどうにも掴み所がないけれど、少なくとも青雉大将はまともな理性があった。
センゴク元帥も少なくとも恥だからと、LEVEL6からの大量脱走を隠そうとする世界政府に対して激怒するだけの……そう、言うなれば、『手段を問わず、恥を隠さず、平和に暮らす人々の生活を守る』という意志が見えた。
では、何故、そんな人達の中で、サカズキ中将が大将へ昇進出来たのか。
その答えが眼前で展開されています。
激烈な戦闘。
サカズキ大将……じゃない、中将の軍艦はとにかく戦闘が多い。しかも、戦果が多大だ。成る程、本人の実力と、他を上回る高い成績を持って、大将へと昇進した訳か……。
何しろ、サカズキ中将の船では兵士も必死だ。
なにしろ、戦闘によって、逃げたら原作の白ひげ戦でも出ていたが、『臆病で逃げたなんぞという不名誉を受けるぐらいなら〜』とかいう理由で殺されていたが、別段それは自身の指揮する船でも変わらない。
つまりは恐怖で支配してるんですよ!この人。
原作だと、金棒のアルビダ、元の世界でなら旧ソ連の政治委員……いや、スターリンとかの方が近いだろうか。
まあ、こっちは自分も最前線で戦ってるけど。
成る程、これならそりゃあ戦果も上がろうというものだ。
そして、海軍としては、きっちりと他を越える戦果を上げている以上、サカズキ大将の…じゃない、中将のやり方に文句を言うつもりはない、という訳だ……。
目の前の海賊三人を体から飛び出した水銀の槍で串刺しにしながら、自分はここに初めて来た時の事を思い出していた。
着任すれば、その船の責任者、ここではサカズキ中将に挨拶に行く事になったのは当然だろう。
普通は一介の少尉なんぞ、挨拶して、ろくに視線も向けられず他に気を取られながらの返事を受け、退出……なんてのだってアリだと思ってたんだが、今、自分は一対一で睨まれてます。いえ、ご当人は普通に見てるんでしょうけれど。
「……お前がアスラ少尉か」
「はい!よろしくお願い致します、サカズキ中将閣下!」
一応仕込まれた敬礼で挨拶を返す。
敬礼ってのは元々、いちいち複雑な礼儀を覚えなくても軍隊での挨拶全て、これ一つで簡略化させる為なのがそもそもの目的なだけあって、とにかく、こいつを覚えて相手の階級と名前間違えなければ、何とかなる。
「ああ、いい。楽にせい」
「はっ!」
と言っても、勝手に椅子に座ったりはしない。あくまでやすめ、の姿勢だ。
この辺は前世のサラリーマン時代の記憶が役に立つ。
『ああ、楽にしてください』と言われて、取引先の前でだらしない格好を見せる訳にはいかない……よく考えれば、社会人としては当たり前のような気もするが。
「とりあえず、お前は悪魔の実の能力者だそうだな……獲物を仕留める事は出来るのか?」
「はっ?あ、はい、それは可能ですが。島では狩りや身を守る為に能力を使っておりましたので」
いきなり悪魔の実の質問か……とはいえ、どんな能力か聞いてくるのかと思いきや、獲物を狩るのに使えたかどうか?一体何を考えてそんな質問をしてきたのだろうか。
もっとも、その答えをアスラはすぐ知る事になったのだが。
「よかろう、ついてこい」
そう告げ、サカズキ中将は部屋を出てゆく。
一体何かと思いつつ、その後をついて部屋を出る。
甲板へと上がったそこには海兵らが待っていた。全員がサカズキ中将の姿に緊張を隠せないでいる。
そのサカズキ中将が合図をすると、彼らの間から、5人の……おそらく、格好や容貌からして海賊なのだろう。そいつらが縛られた状態で俺達の前に放り出された。
猿轡はされていないので、彼らは中将に卑屈に笑って命乞いをしているが、サカズキ中将はその嘆願にもそよ、とも反応を見せない。どころか、平然とした、或いは当たり前のように言った。
「アスラ少尉、こいつらをお前の能力で殺せ」
……一体何を言われたのだろうか。
瞬間、頭が理解する事を拒んだ。
俺が呆けている間に、サカズキ中将は平然と告げる。
「こいつらは町を襲い、そこに住む人々を多数殺害した連中だ。死刑は確定している。アスラ少尉はまだ誰かを殺した経験はないそうだな。民間人だったという事だから、それは大変結構な事だ。だが、海兵となるならば、ここでこいつらを殺せ。お前自身がこれから生き残る為にな!」
のろり、と彼らに視線を向ける。
彼らは絶望に満ちた表情で、俺に命乞いの叫びと必死の懇願を込めた視線を向けてくる。
成る程、さっき獲物を狩れるか聞いたのはこの為か。確かに悪魔の実の能力で、猛獣とかでもしとめられるなら、人間相手の攻撃力としてはお釣りがくる。
しかし……。
この無抵抗な状態の彼らを、5人を殺す、のか?自分が?
周囲の海兵らに思わず視線を向けてしまう。
幾人かはサカズキ中将同様の厳しい視線を向けてきていたが、殆どの兵士は気の毒そうな視線を向けてきた。けれど、誰からもサカズキ中将にとりなしの言葉を発する者はいない。
そして、サカズキ中将はといえば、仁王立ちでこちらを睨むように見詰めている。
……どうやら、やるしかない、らしい。
だが……。
改めて、拘束された5人を見る。
そうして、今度はサカズキ中将を見る。
……現実は変わらない。
背中に冷たい汗が出てくる。
「命令だ、やれ」
震えながら、彼らに手を向ける。
それだけで、恐怖に駆られたのだろう、5人が必死に後ずさって逃げようとする……逃げ場などどこにもないのに。それでも、生存本能が後押しするのか、逃げようともがく。
その姿に躊躇する俺を後押しするかのように。
「やれ!」
サカズキ中将の声が周囲を震わせるかの如き大音声で響き。
気付けば、自分の手から伸びた銀の槍が、彼らの1人を貫いていた。
「どうした。まだあと4人おるぞ。きちんと目を逸らさず、相手を見て仕留めるんじゃ。そいつらを殺すのはお前じゃとしかと認識して相手を殺せ」
そうして、俺は5人を、自らの悪魔の実で殺した。
その夜、初めて人を殺した事で眠れなかった俺をサカズキ中将は自室に呼んで、酒を出してくれた。
確かに、それは有難かった。
確かに、あれは必要だったのかもしれない。何時かは自分は人を殺さなければならなかっただろう。この世界では……。
あれは必要な事なのだと、海賊は滅ぼさないといけないのだと語るサカズキ中将に、だけど、俺はどうしても感謝の念を持つ事は出来なかった。
理解はしよう、けれど、納得は出来なかった。
そうして、あれからどれだけの日々が過ぎたのか。
サカズキ中将と共に先陣を切る事の多くなった俺は、必然的に殺した数も増えた。
自然系悪魔の実の能力者であるサカズキ中将、防御に関しては自然系並と謳われる超人系悪魔の実の能力者である俺の2人が最前線に立てば、海兵の被害は大きく減らす事が出来る。
加えて、俺自身の能力の制御も、サカズキ中将という悪魔の実の中でもマグマという、不定形の物質を操る点では俺と同じ経験豊富な能力者の指導と実戦によって急速に磨かれていった。
幾つかの考えていた技も可能になってきた。
そうして、現在、また新たな海賊を潰すべく戦闘に突入している。
自身の背後に伸びる九本の尾にも見える水銀の塊が蠢き、或いは味方へと向けられた銃撃を防ぎ、或いは海賊を取り込み、或いは砲弾を防ぐ、これが俺の考えていた能力の一つ、『九尾』だ。
当初は『ヤマタノオロチ』なんてのも考えたんだが、造形を簡略化する事で操る本数の方を増やしてみたものだ。
海軍大尉『銀虎』のアスラ。
それが今の俺の呼び名だった。