第13話−主人公達
遂に大佐になった。
クザン中将づきの大佐も正式に将官に昇進した。
この1年半余り苦楽を共にした仲だけに、お互いの昇進を喜び、祝いあった。
……もちろん、クザン中将も祝ってくれたんだけどね。
この1年半は鍛錬と組織運営の勉強の積み重ねだった。
全く無茶な話だと思う。
自分の中身はともかく、表側は見た目20程度の若造だ。そんな若造に促成で元の世界で言えば、士官学校と軍上級学校の教育を3年程の期間で纏めて受けさせるっていうんだから……。
無論、足りない部分はまだまだある。日々これ勉強だが、とりあえず部隊運用は出来るようになった。
海軍に入って、はや3年余り。
原作開始まであと16年……。
「で、自分は何故ここにいるんでしょう?」
「わっはっはっは!お前さん、海軍に入って以来ずーーーっと仕事ばかりじゃったじゃろう?偶には休む事も必要じゃぞ!」
「ガープさんは何時も休んでるように見えますが」
「気にするな!儂は気にせん!!」
(いや、気にしましょうよ)
まあ、とはいえ、この航海自体は別段サボりでも、規則違反でもない。
大佐になった事で、正式に一艦任される事になった。
とはいえ、主要な人材(航海長とか)はベテランとはいえ、一般の海兵はまだまだ新人も混じっている。自分が艦長となったのに合わせて異動になった者も多い。というか、この艦自体が新造なので、クルーは一部クザン中将やサカズキ中将時代の艦から来てもらったものの、その大部分は他からの移籍組で構成されてるのだ。
なので、正式にセンゴク大将から。
『航海に慣れる為にも、一度適当な処まで好きに行って来い』
と、艦の人間同士のすり合わせも兼ねて、出航したのだ。
特に目的地は設定されていないので、決まった期日までに帰港すれば、何ら問題はないし、何しろグランドラインは何が起きるか分からない。如何に軍艦とはいえ、突発事態(海賊との戦闘や突発的な異常気象等等)で帰還が遅れる事も多々あるので、多少は帰還がずれ込んでも連絡さえ入れておけば融通も利かせてくれる。
……自分としては、これを機に一度高名な海賊、その中でも話の通じそうな……そう、白ひげとかと話してみたかったのだが……出航間際に乗り込んできたガープさんに東の海への出発を決定されてしまったという訳だ。
まあ、ガープ中将が乗り込んできた訳は分かっている。
……生まれたのだ、孫が。
すなわち。
漫画の主人公、後のモンキー・D・ルフィが。
そこで自分の試験航海がてら、自分が孫に会いに帰るから、乗せてけ。ついでにお前も孫に会っていけ!だから便乗させろ、という事らしい。
尚、ガープ中将の事を電伝虫を通じてセンゴク大将に伝えると、相変わらず疲れたような声を出してはいたが、どうやらきちんと今日までの仕事はガープ中将は片付けて来たらしい。無論、だからといって中将クラスが勝手に出歩くのはよろしくないのだが、その辺は諦められているらしい。
それに仕事を片付けたといっても、あくまで今日までの仕事で、これから帰ってくるまで、書類は溜まりまくっていくのだが……まあ、それで困るのはガープ中将だ、自分は知らない。
それに落ち着いて考えてみると、悪い話ではない。
東の海は原作通り最も平和な海だ。
新造艦の慣らし運転、乗組員同士の連携もまだまだこれからだ。
そうした状況下において、危険地域を処女航海とするよりは、安全な地域を動くのは良い方法だろう。
(……ひょっとしたら、その辺も考えてくれたのかな?)
アスラはもう、漫画の世界で見えていた姿が相手の姿の全てだとは思っていない。
思えば、ガープもまた、慕われていた人物だった。
それはきっと、気さくな人物というだけでなく、相手を思いやり、気持ちを考えて行動する上司であったからに違いない。元の世界でもよくある事だったが、些細な事でも相手に不快に感じていた、という事は多い。
やった当人は軽い気持ち……例えば、無造作に店の前に自転車を止めたら、その後で通った車椅子の人が酷く通りにくくて非常な迷惑を被った、という事があるかもしれない。ネットでだって、ほんの軽い気持ちの発言が、画面の向こうで相手を酷く怒らせるかもしれない。
人に慕われる、慕われ続けるというのはそれだけ難しい話なのだ。
(それに……)
会ってみたい、という気持ちがあるのも確かだ。
今はまだ1歳のモンキー・D・ルフィに。
そして、確か海賊王が亡くなって生まれるまでの日数を考えると……今大体4歳程度になったであろうポートガス・D・エースに。
海賊達、それも若くして億を越えるような者はこれまで出会ってきた者達は…アスラ自身が出会った者はいずれもまだ、少ないけれど、ひとかどの男達であり女達だった。
それはそうだろう。
ただ単に賞金がかけられるだけならば、犯罪を犯せばいい。
だが、海軍にかけられる賞金が億を越えてくるような輩は……危険人物と判断されるような人材はそれだけの人物ではない。
元の世界で言えば、1つの新たな会社を立ち上げ、それを成功させるような、そんな人物達だ。
そうして、そんな中には稀に、そうやって立ち上げた会社を大規模な、世界的に知られるような企業へと育て上げる人物も登場する。おそらくはそうした人物こそが、この世界では或いはドラゴンのような、或いはシャンクスのような人物なのだろう。
それに気になるのは原作における、ガープの子育ての方法だ。
海軍に入れたいと願いつつ、孫の幸せを願いつつ、行っている事はどうにもチグハグだった。
超英才教育といよりは、超スパルタ教育というべきか?
もう少し、やりようとかがあるのではないか、そう思うのだ。もし、そのやり方を本当にやっているのならば……。
(それを変える事で、或いは原作の原点を変えられるかもしれない)
そう思う。
もし、エースが海軍に入っていたら……それはきっとセンゴク元帥とて原作のようにばらす必要はなかった筈なのだ。若くして、海賊達という荒くれ者達の中で頭角を現し、1つの海賊団を立ち上げ、白ひげというグランドラインでも最強クラスの大海賊の配下の中でも、僅か16名しかいない隊長クラスの1人となった。
そんな人物ならば、きっと海軍内でも頭角を現すだろうし、もし、海賊王ロジャーの息子たる事がばれたとしても、それは上層部の秘匿事項として海兵である限りは沈黙が守られる事だろう。
……目の前に、未来において世界最悪の犯罪者として知られる人物を息子に持ちながら、堂々と海軍の英雄として海軍中将をしていた人が目の前にいる事だし。
加えて、ココヤシ村にも立ち寄れる可能性がある。
今の時代なら、もうベルメールはコノミ諸島のココヤシ村に帰っている筈だ。
コノミ諸島はルフィ自身がそうであったように、目的地であるフーシャ村からグランドラインへと通るコースの通り道となりうる。それはまた逆もしかり。
そして、フーシャ村への航海コースは艦長たるアスラの権限だ。
そんな思惑も乗せつつ、軍艦は海を進んでいた。
(くぁ)
密かに気合を入れるアスラの背後で、そんな彼をじっと見詰めていたアリスが大きく伸びをして、丸まった。
……今日もいい、天気だ。
遂に大佐になった。
クザン中将づきの大佐も正式に将官に昇進した。
この1年半余り苦楽を共にした仲だけに、お互いの昇進を喜び、祝いあった。
……もちろん、クザン中将も祝ってくれたんだけどね。
この1年半は鍛錬と組織運営の勉強の積み重ねだった。
全く無茶な話だと思う。
自分の中身はともかく、表側は見た目20程度の若造だ。そんな若造に促成で元の世界で言えば、士官学校と軍上級学校の教育を3年程の期間で纏めて受けさせるっていうんだから……。
無論、足りない部分はまだまだある。日々これ勉強だが、とりあえず部隊運用は出来るようになった。
海軍に入って、はや3年余り。
原作開始まであと16年……。
「で、自分は何故ここにいるんでしょう?」
「わっはっはっは!お前さん、海軍に入って以来ずーーーっと仕事ばかりじゃったじゃろう?偶には休む事も必要じゃぞ!」
「ガープさんは何時も休んでるように見えますが」
「気にするな!儂は気にせん!!」
(いや、気にしましょうよ)
まあ、とはいえ、この航海自体は別段サボりでも、規則違反でもない。
大佐になった事で、正式に一艦任される事になった。
とはいえ、主要な人材(航海長とか)はベテランとはいえ、一般の海兵はまだまだ新人も混じっている。自分が艦長となったのに合わせて異動になった者も多い。というか、この艦自体が新造なので、クルーは一部クザン中将やサカズキ中将時代の艦から来てもらったものの、その大部分は他からの移籍組で構成されてるのだ。
なので、正式にセンゴク大将から。
『航海に慣れる為にも、一度適当な処まで好きに行って来い』
と、艦の人間同士のすり合わせも兼ねて、出航したのだ。
特に目的地は設定されていないので、決まった期日までに帰港すれば、何ら問題はないし、何しろグランドラインは何が起きるか分からない。如何に軍艦とはいえ、突発事態(海賊との戦闘や突発的な異常気象等等)で帰還が遅れる事も多々あるので、多少は帰還がずれ込んでも連絡さえ入れておけば融通も利かせてくれる。
……自分としては、これを機に一度高名な海賊、その中でも話の通じそうな……そう、白ひげとかと話してみたかったのだが……出航間際に乗り込んできたガープさんに東の海への出発を決定されてしまったという訳だ。
まあ、ガープ中将が乗り込んできた訳は分かっている。
……生まれたのだ、孫が。
すなわち。
漫画の主人公、後のモンキー・D・ルフィが。
そこで自分の試験航海がてら、自分が孫に会いに帰るから、乗せてけ。ついでにお前も孫に会っていけ!だから便乗させろ、という事らしい。
尚、ガープ中将の事を電伝虫を通じてセンゴク大将に伝えると、相変わらず疲れたような声を出してはいたが、どうやらきちんと今日までの仕事はガープ中将は片付けて来たらしい。無論、だからといって中将クラスが勝手に出歩くのはよろしくないのだが、その辺は諦められているらしい。
それに仕事を片付けたといっても、あくまで今日までの仕事で、これから帰ってくるまで、書類は溜まりまくっていくのだが……まあ、それで困るのはガープ中将だ、自分は知らない。
それに落ち着いて考えてみると、悪い話ではない。
東の海は原作通り最も平和な海だ。
新造艦の慣らし運転、乗組員同士の連携もまだまだこれからだ。
そうした状況下において、危険地域を処女航海とするよりは、安全な地域を動くのは良い方法だろう。
(……ひょっとしたら、その辺も考えてくれたのかな?)
アスラはもう、漫画の世界で見えていた姿が相手の姿の全てだとは思っていない。
思えば、ガープもまた、慕われていた人物だった。
それはきっと、気さくな人物というだけでなく、相手を思いやり、気持ちを考えて行動する上司であったからに違いない。元の世界でもよくある事だったが、些細な事でも相手に不快に感じていた、という事は多い。
やった当人は軽い気持ち……例えば、無造作に店の前に自転車を止めたら、その後で通った車椅子の人が酷く通りにくくて非常な迷惑を被った、という事があるかもしれない。ネットでだって、ほんの軽い気持ちの発言が、画面の向こうで相手を酷く怒らせるかもしれない。
人に慕われる、慕われ続けるというのはそれだけ難しい話なのだ。
(それに……)
会ってみたい、という気持ちがあるのも確かだ。
今はまだ1歳のモンキー・D・ルフィに。
そして、確か海賊王が亡くなって生まれるまでの日数を考えると……今大体4歳程度になったであろうポートガス・D・エースに。
海賊達、それも若くして億を越えるような者はこれまで出会ってきた者達は…アスラ自身が出会った者はいずれもまだ、少ないけれど、ひとかどの男達であり女達だった。
それはそうだろう。
ただ単に賞金がかけられるだけならば、犯罪を犯せばいい。
だが、海軍にかけられる賞金が億を越えてくるような輩は……危険人物と判断されるような人材はそれだけの人物ではない。
元の世界で言えば、1つの新たな会社を立ち上げ、それを成功させるような、そんな人物達だ。
そうして、そんな中には稀に、そうやって立ち上げた会社を大規模な、世界的に知られるような企業へと育て上げる人物も登場する。おそらくはそうした人物こそが、この世界では或いはドラゴンのような、或いはシャンクスのような人物なのだろう。
それに気になるのは原作における、ガープの子育ての方法だ。
海軍に入れたいと願いつつ、孫の幸せを願いつつ、行っている事はどうにもチグハグだった。
超英才教育といよりは、超スパルタ教育というべきか?
もう少し、やりようとかがあるのではないか、そう思うのだ。もし、そのやり方を本当にやっているのならば……。
(それを変える事で、或いは原作の原点を変えられるかもしれない)
そう思う。
もし、エースが海軍に入っていたら……それはきっとセンゴク元帥とて原作のようにばらす必要はなかった筈なのだ。若くして、海賊達という荒くれ者達の中で頭角を現し、1つの海賊団を立ち上げ、白ひげというグランドラインでも最強クラスの大海賊の配下の中でも、僅か16名しかいない隊長クラスの1人となった。
そんな人物ならば、きっと海軍内でも頭角を現すだろうし、もし、海賊王ロジャーの息子たる事がばれたとしても、それは上層部の秘匿事項として海兵である限りは沈黙が守られる事だろう。
……目の前に、未来において世界最悪の犯罪者として知られる人物を息子に持ちながら、堂々と海軍の英雄として海軍中将をしていた人が目の前にいる事だし。
加えて、ココヤシ村にも立ち寄れる可能性がある。
今の時代なら、もうベルメールはコノミ諸島のココヤシ村に帰っている筈だ。
コノミ諸島はルフィ自身がそうであったように、目的地であるフーシャ村からグランドラインへと通るコースの通り道となりうる。それはまた逆もしかり。
そして、フーシャ村への航海コースは艦長たるアスラの権限だ。
そんな思惑も乗せつつ、軍艦は海を進んでいた。
(くぁ)
密かに気合を入れるアスラの背後で、そんな彼をじっと見詰めていたアリスが大きく伸びをして、丸まった。
……今日もいい、天気だ。