第154話−平穏と激動
「「「「「ああああああああああ!?」」」」」
残念ながらと、後ろ髪を引かれつつブルックと別れての航海を再開……し始めた途端に巨大な鯨が出現、エース達は船ごと飲み込まれた。
幸いというべきか、歯鯨ではあったが、別に船を食べるつもりで飲み込んだ訳ではないらしく、噛み砕かれたりしないままではあったが、気持ちのいいものではない。
やがて、巨大な空間に彼らは到着した。
原作ではクロッカスが治療の過程で内部をアレコレと弄っていた為に明るかったし、空の色になっていたが、現在はまだそこまで変えられておらず、光がない為に暗く、星も見えなかった。
「……止まったみたいだな」
「ここ、どこだ?」
広大すぎるだけでなく、暗い。お陰で、端が全然見えない。
「素直に考えれば、胃だろうな」
確かに飲み込まれたものが到着するのは胃だろう。
とすると……。
「じゃ、じゃあ、このままだと胃液で溶かされちゃうんですか!?」
と、なる。
「よし、それじゃあさっさと中から焼いて」
そう、エースが腕まくりしたが、それを止めたのはサボだった。
飲み込まれる直前に見えたが、自分達を飲み込んだのは巨大な鯨だった。それだけならいいのだが、問題はブルックが待っていた仲間というのが巨大な鯨だという事だ。もし、この鯨がブルックが待っていたという仲間ならば……もし、中からこの鯨を攻撃して、結果として殺してしまえば、おそらく次はブルックと戦う事になるだろう。
それは避けたい。
「……待つか」
皆にも否はない。
幸い然程待つ必要もなく、迎えが来た。
前方より、小船が1隻。明かりを灯し、ブルックとクロッカスがやって来たのだ。やはり、この鯨はブルックの待っていたラブーンだったらしく、エースは焦って焼いたりしなかった事にほっとしたものだった。
後は簡単だ。
明かり代わりにエースが炎を灯し、外へ出た。
飲み込まれたという事は船が通るに十分な大きさがあるという事。
何ら工夫もいらない。ラブーンがお腹と海が並行になるように口を開けていてくれれば、広々とした洞窟を通過するのと大差ない。無事外へ出た一同は改めてラブーンに紹介される事になる。
翌日、出航するストルツ・フランメ号の船上にはブルックの姿が、そしてその傍らにはラブーンの姿があった。
その頃、アスラは海軍本部へと帰還していた。
自らの執務室へ向かう途中で、1人の中佐が自然に歩み寄り、書類を手渡しながら、特殊な発声法でアスラにのみ聞こえる声で「長官」と呼びかける。
その声に、アスラも僅かに眉が動くが、特に顔色も変えずに書類に目を落とし、「詳しい話を聞きたい、執務室で話そう」と告げ、中佐と共に入っていった。
その態度はごく自然な様子であり、誰も違和感を感じる事はなかった。
この中佐の名前はジャグラー中佐。
だが、彼の身分証明は偽造であり、同時に本物でもある。
海軍本部にジャグラーという名の中佐は存在しない。そういう意味では彼の身分証は偽物だが、身分証は世界政府の正式な発行品であり、海軍が認めたものだ。そういう意味では本物だ。
彼の本名はジャブラ。
もうお分かりだろう、今身につけている身分証はCP9の為に用意されている偽装なのだ。
ただ、ジャブラは大抵の場合、報告は家でしている。早い話が、サンダーソニアに会いに来るので、その際に聞いている。そこでなら割と突っ込んだ感想も聞きやすい。
逆に言えば、アスラが家に戻るまで待っていられない重要な事だという事。
執務室に入るのを待って、アスラは問いかけた。
「何があった」
いちいち回りくどい物言いはしない。真っ向から切り込んできた問いかけに、ジャブラもまた回りくどい言い方はしなかった。
「世界政府の役人が殺された。アラバスタ王国正規軍の軍人によって」
自らの席に座ったアスラは「現状分かっている部分の報告を」と、未来の義兄弟の立場からではなく、CP長官とCP9の一員という上司と部下としての立場から命じた。
アスラも何かしら、クロコダイルの重要な部分が動き出したと感じたからだ。
事実、満を持して、というべきかこの後、BW(バロックワークス)の行動は活発化。
アスラとクロコダイル。
2人の戦いは原作を待つ事なく、急激に加速していく事になっていくのだった。
エース達に新たな仲間が加わり、平穏な旅が始まる一方、激動も始まります
次回は、今回とは逆に前半がアスラ編、後半がエース編になります
次回後半からのエース達版のウイスキーピークをお楽しみに