第17話−海賊
SIDEエース
アスラ大佐。
そう名乗る爺さんの部下(?)に連れられて軍艦に乗る事およそ半月。
連れて来られたのは、ある町……だったもの。
「「……何だよ、こりゃあ……」」
サボと2人して呟いてしまう。
そこにはきっと以前は賑やかな町が広がっていたんだろう。
けれど、今は廃墟と化した町。
あちらこちらに、或いは斬り殺されたと思われる死体が転がっている。
コツン、と足に当たったものがあって、一瞬木かと思ったら、黒焦げになった人の腕だったのに気付いて、2人して喉の奥からこみ上げるものが……出る前に、傍にいた別の海兵が袋(船酔いした奴用らしい)をくれたので、その中に吐いてしまった。
あちらでは、動かなくなった子供を抱えた母親と思われる人が半狂乱になって子供を今も揺さぶり続けている。
あっちでは、弱弱しい動きで、腹から溢れた自分の臓物を自分の腹に戻そうとしてる奴がいる。
あっちでは、びりびりに裂かれた服を着た虚ろな表情の女の子が……あれって……そりゃ確かに男と女がいりゃ起きる事かもしれないけど……っ!
真っ青になっている俺達に、横で顔色さえ変えずに部下に指示を出していたアスラ大佐が、俺達に言う。
「ここは、少し前に海賊の襲撃にあった町だ」
「……海賊の?」
「そうだ。海賊達に奪われ犯され殺され焼かれた町だ。……よく見ておけ」
ぐるり、とアスラ大佐は周囲を見回して、言った。
「これがお前達が憧れた海賊が、今も世界の海のどこかで、ごく当たり前に行っている事だ」
SIDEアスラ
俺はこいつらに、この光景を見せたかった。
……通常はこの町サイズなら、ここまで酷い事にはならない。
ただし、それは海賊がここを襲った連中より優しいから、なんかじゃない。ただ単に、町も警戒しているから、通常は海賊船が発見され、有志による守備部隊が動き、更に海兵に連絡がいく。後は海兵が来るまでどれだけ粘れるか、だ。
ここを襲った連中は、そこら辺を熟知していた。
既に襲った連中は分かっている。
懸賞金1000万ベリー『狂賢』のジャゼル、東の海ではなかなかの額の海賊だ。
今回は、奴は事前に部下を町へ別の町からの定期便を使って送り込み、襲撃と時間を合わせて見張りと通信設備を逸早く制圧。結果、町は見事なまでの奇襲を受ける事になった。
予備というか、町長の家に裕福な人間のステータスとして置かれていた電伝虫からかろうじて、近隣の町へと連絡がいき、そこから海兵に連絡がいき、駆けつけた時には、しかし既にジャゼルは姿を眩ました後だった。
……海賊の中にも無論、漢気のある奴はいる。
原作の白ひげや赤髪なんかがその代表例だが、実の所大部分の海賊はこういう普通に暮らしている人達を襲撃して、その財貨を奪う奴らだ。
子供がアウトローに憧れるのは世の常とも言える事だ。この辺は親とかに規則で縛られている反動って面もあるんだろう。
だが、原作のエースはやがて、こういう言い方は何だが、『立派な』海賊になる。
だからこそ、その前にこいつには憧れと現実って奴をしっかり見せておいてやりたかった。傍で、エース達が『俺達は海賊になっても、こんな事しない!』って喚いてる。
……甘いな。
「お前、仲間を作るつもりはあるか?それとも、お前達2人だけでずっと航海するのか?」
「?そりゃあ、仲間を集めるつもりだけど……」
「なら、そいつらを食わせるのはどうするつもりだ?他の海賊を襲うか?襲えなかった時はどうするんだ?海の上で偶然他の海賊に遭遇して、そいつらが自分達が倒せる程度の相手で、尚且つそいつらが自分達の腹を満たすのに十分な食料や財貨を持っている……どれだけの低確率なんだろうな?」
現実はそんなものだ。
これが白ひげ並の大海賊ともなれば、幾つものシマを持ち、そこに他の海賊からの庇護を与える代わりに上納金を得るなんて事も出来るが、そんな事が可能なのは、その旗を見ただけで他の海賊がびびるような大物だけだ。
その辺りは黙って、指摘してやると、エースもサボも悔しげな様子で俯いた。
町を歩きながら、部下達に命令を下しているが、時折崩れた瓦礫の中にまだ人がいるって時は水銀で持ち上げるのを手伝ったりもする。
ただ、俺自身の提案による実験部隊が俺の船にはいるから、基本はそいつらが対応する。ああ、もちろん、他の海兵達も手伝うんだが。
本来、船には船医が乗っているが、その数は限られたものだった。
それを、サカズキ中将に直訴する形で、海賊の襲撃を受けた町などで救護活動を行なえるよう、医療部隊を拡充したのだ。
更に、クザン中将の時には無論ちゃんと説明もしたし、『やっていい』という承認も得たが、ドクターベガパンクにも伝手を貰って頼みこみ、レスキュー部隊を道具込みで創設した。
無論、そんなに大勢の医者はいないし、道具もまだまだ数も少ないので、一部の船に試験的に積まれてる状態だが、提唱者の俺の船には当然積まれている。まあ、こうした積荷を載せると、どうしてもその分武装だの他の所に皺寄せが行くんで、嫌がる海兵も多いって実情があるんだが。
だが、この編成はこうした町での救援活動には有効だ。
というか、まんま前の世界での災害救助部隊を元に考えたんだけど。実際、医療部隊の所に、町の殆どの場所からはっきり見える高いポールの上に掲げられている旗はまんま赤十字の旗だ。
普通の海兵が走り回って、怪我人で歩ける奴は旗の所に行くようにメガホンで叫んでいる。
もちろん、その途中で歩けないような重傷者とか見つけたら、担架を持った海兵を呼んで、運んだりしている。
……さっき吐いたばかりなのに、先程担架に乗せて運ばれていった死体……目が飛び出して舌共々でろんと垂れ下がった拷問にあったと思しき死体を見て、またエース達は吐きそうな様子になっている。
無理もないか、こいつらはまだ4歳だ。俺だって初めて人を殺した時も、人が無惨な死体になって転がっている時も気分が悪くなって吐いちまった。
それでも……こいつらには見せておくべきだと思ったんだ。
そうして……。
こんな事をやらかした海賊がどんな目に遭うのか、をな。
「アスラ大佐。ジャゼルの足取りを確認致しました」
そこへ待ち望んでいた連絡が来た。
……ジャゼルの誤算は、抑えたと思った他の所へ通じる電伝虫を、1つ、町長の所にあったものを逃した事だ。
だから、思う存分ここで遊んでいた所へ海軍発見の報を受けて、慌てて逃げ出す羽目になった。
そうなると、問題が生じる。……そう、食料や水だ。特に水は積み込むのが面倒な上に、必須の物資だ。
周辺の町や村に可能な限り、連絡をして、水場に関する連絡をお願いしていた……そこらにしても、どのみち近くの町が襲撃受けたって話を聞いてたから、海賊への警戒を強めるついでだ。快く了承してくれた。
……そして、その内の1つから連絡が入った。
……さあ、それじゃ狩りの時間といくかね……。
SIDEエース
アスラ大佐。
そう名乗る爺さんの部下(?)に連れられて軍艦に乗る事およそ半月。
連れて来られたのは、ある町……だったもの。
「「……何だよ、こりゃあ……」」
サボと2人して呟いてしまう。
そこにはきっと以前は賑やかな町が広がっていたんだろう。
けれど、今は廃墟と化した町。
あちらこちらに、或いは斬り殺されたと思われる死体が転がっている。
コツン、と足に当たったものがあって、一瞬木かと思ったら、黒焦げになった人の腕だったのに気付いて、2人して喉の奥からこみ上げるものが……出る前に、傍にいた別の海兵が袋(船酔いした奴用らしい)をくれたので、その中に吐いてしまった。
あちらでは、動かなくなった子供を抱えた母親と思われる人が半狂乱になって子供を今も揺さぶり続けている。
あっちでは、弱弱しい動きで、腹から溢れた自分の臓物を自分の腹に戻そうとしてる奴がいる。
あっちでは、びりびりに裂かれた服を着た虚ろな表情の女の子が……あれって……そりゃ確かに男と女がいりゃ起きる事かもしれないけど……っ!
真っ青になっている俺達に、横で顔色さえ変えずに部下に指示を出していたアスラ大佐が、俺達に言う。
「ここは、少し前に海賊の襲撃にあった町だ」
「……海賊の?」
「そうだ。海賊達に奪われ犯され殺され焼かれた町だ。……よく見ておけ」
ぐるり、とアスラ大佐は周囲を見回して、言った。
「これがお前達が憧れた海賊が、今も世界の海のどこかで、ごく当たり前に行っている事だ」
SIDEアスラ
俺はこいつらに、この光景を見せたかった。
……通常はこの町サイズなら、ここまで酷い事にはならない。
ただし、それは海賊がここを襲った連中より優しいから、なんかじゃない。ただ単に、町も警戒しているから、通常は海賊船が発見され、有志による守備部隊が動き、更に海兵に連絡がいく。後は海兵が来るまでどれだけ粘れるか、だ。
ここを襲った連中は、そこら辺を熟知していた。
既に襲った連中は分かっている。
懸賞金1000万ベリー『狂賢』のジャゼル、東の海ではなかなかの額の海賊だ。
今回は、奴は事前に部下を町へ別の町からの定期便を使って送り込み、襲撃と時間を合わせて見張りと通信設備を逸早く制圧。結果、町は見事なまでの奇襲を受ける事になった。
予備というか、町長の家に裕福な人間のステータスとして置かれていた電伝虫からかろうじて、近隣の町へと連絡がいき、そこから海兵に連絡がいき、駆けつけた時には、しかし既にジャゼルは姿を眩ました後だった。
……海賊の中にも無論、漢気のある奴はいる。
原作の白ひげや赤髪なんかがその代表例だが、実の所大部分の海賊はこういう普通に暮らしている人達を襲撃して、その財貨を奪う奴らだ。
子供がアウトローに憧れるのは世の常とも言える事だ。この辺は親とかに規則で縛られている反動って面もあるんだろう。
だが、原作のエースはやがて、こういう言い方は何だが、『立派な』海賊になる。
だからこそ、その前にこいつには憧れと現実って奴をしっかり見せておいてやりたかった。傍で、エース達が『俺達は海賊になっても、こんな事しない!』って喚いてる。
……甘いな。
「お前、仲間を作るつもりはあるか?それとも、お前達2人だけでずっと航海するのか?」
「?そりゃあ、仲間を集めるつもりだけど……」
「なら、そいつらを食わせるのはどうするつもりだ?他の海賊を襲うか?襲えなかった時はどうするんだ?海の上で偶然他の海賊に遭遇して、そいつらが自分達が倒せる程度の相手で、尚且つそいつらが自分達の腹を満たすのに十分な食料や財貨を持っている……どれだけの低確率なんだろうな?」
現実はそんなものだ。
これが白ひげ並の大海賊ともなれば、幾つものシマを持ち、そこに他の海賊からの庇護を与える代わりに上納金を得るなんて事も出来るが、そんな事が可能なのは、その旗を見ただけで他の海賊がびびるような大物だけだ。
その辺りは黙って、指摘してやると、エースもサボも悔しげな様子で俯いた。
町を歩きながら、部下達に命令を下しているが、時折崩れた瓦礫の中にまだ人がいるって時は水銀で持ち上げるのを手伝ったりもする。
ただ、俺自身の提案による実験部隊が俺の船にはいるから、基本はそいつらが対応する。ああ、もちろん、他の海兵達も手伝うんだが。
本来、船には船医が乗っているが、その数は限られたものだった。
それを、サカズキ中将に直訴する形で、海賊の襲撃を受けた町などで救護活動を行なえるよう、医療部隊を拡充したのだ。
更に、クザン中将の時には無論ちゃんと説明もしたし、『やっていい』という承認も得たが、ドクターベガパンクにも伝手を貰って頼みこみ、レスキュー部隊を道具込みで創設した。
無論、そんなに大勢の医者はいないし、道具もまだまだ数も少ないので、一部の船に試験的に積まれてる状態だが、提唱者の俺の船には当然積まれている。まあ、こうした積荷を載せると、どうしてもその分武装だの他の所に皺寄せが行くんで、嫌がる海兵も多いって実情があるんだが。
だが、この編成はこうした町での救援活動には有効だ。
というか、まんま前の世界での災害救助部隊を元に考えたんだけど。実際、医療部隊の所に、町の殆どの場所からはっきり見える高いポールの上に掲げられている旗はまんま赤十字の旗だ。
普通の海兵が走り回って、怪我人で歩ける奴は旗の所に行くようにメガホンで叫んでいる。
もちろん、その途中で歩けないような重傷者とか見つけたら、担架を持った海兵を呼んで、運んだりしている。
……さっき吐いたばかりなのに、先程担架に乗せて運ばれていった死体……目が飛び出して舌共々でろんと垂れ下がった拷問にあったと思しき死体を見て、またエース達は吐きそうな様子になっている。
無理もないか、こいつらはまだ4歳だ。俺だって初めて人を殺した時も、人が無惨な死体になって転がっている時も気分が悪くなって吐いちまった。
それでも……こいつらには見せておくべきだと思ったんだ。
そうして……。
こんな事をやらかした海賊がどんな目に遭うのか、をな。
「アスラ大佐。ジャゼルの足取りを確認致しました」
そこへ待ち望んでいた連絡が来た。
……ジャゼルの誤算は、抑えたと思った他の所へ通じる電伝虫を、1つ、町長の所にあったものを逃した事だ。
だから、思う存分ここで遊んでいた所へ海軍発見の報を受けて、慌てて逃げ出す羽目になった。
そうなると、問題が生じる。……そう、食料や水だ。特に水は積み込むのが面倒な上に、必須の物資だ。
周辺の町や村に可能な限り、連絡をして、水場に関する連絡をお願いしていた……そこらにしても、どのみち近くの町が襲撃受けたって話を聞いてたから、海賊への警戒を強めるついでだ。快く了承してくれた。
……そして、その内の1つから連絡が入った。
……さあ、それじゃ狩りの時間といくかね……。