第204話−次代
【五老星】
「全く面倒な事をしてくれたものだ」
「だが、奴の職務としては正当なものだ、責める事は出来ぬ」
「さよう、手遅れになって認めざるをえぬ状況となるより余程良い」
聖地マリージョアにある世界政府、その中枢。そこに集うは世界最高権力五老星。
その中で、ふうと1人が溜息をつきながら呟いた言葉に、他の者が口々に言う。
先だってのアラバスタ王国での事件はあちらこちらに大きな波紋を投げかけた。
王下七武海の一角クロコダイルによるアラバスタ王国の乗っ取り未遂事件。
何年もかけての大規模な蜂起計画はけれど、最後の最後でCP(サイファーポール)を率いる海軍本部中将アスラによってクロコダイルが討ち取られて終結した。
だが、問題はここからだった。
仮にも王下七武海の1人が死んだ。
まず、これを隠す事は不可能だった。世界三大勢力は世界政府・四皇・王下七武海とされている。少なくとも表向きには。その勢力バランスの崩れは世界に激震をもたらしかねない。
隠した所で後で面倒が雪だるま式に増えるだけの話だ。
明かしたら明かしたで、そうなると今度は「何故死んだのか?」という事になる。
海軍本部中将によって討ち取られた?何故?となる。
それが読めたが故に世界政府は最初から全てを公表するという決断を下した。
「元々、奴は調子に乗りすぎていた面もある。海賊への引き締めには十分役立とう」
「だが、どうする?王下七武海は世界を安定させる為の装置の一環だ。適当な者をつける訳にもいかんぞ」
問題はそれだった。
誰でもいい、という訳にはいかない。
知名度があれば尚良いが、まず最重要なのは実力。
原作で黒ひげが懸賞金額0でありながら、新たな王下七武海として認められたのは、何より「白ひげ海賊団二番隊副隊長」を長く勤め、『火拳の』エースを倒したという実力によるものが大きかった、というよりそれが全てだった。
広く知られた名などいらぬ。
高額の懸賞金もいらぬ。
ただ必要なのは力。それも四皇の名を冠する4人の大海賊達。彼らを抑える抑止力たる力があるかどうか、だ。
「まあ、焦る事はあるまい……」
「そうだな、確と見極め、最善の者を選ばねば……」
「して、あ奴はどうする?」
海軍本部中将にして世界政府の外交官にしてCP長官アスラ。
この内前2つに関しては問題はない。
問題なのはCP長官としての地位だ。
果たしてこのまま現在の地位を預けたままで良いのか……汚職でガタガタになった組織の立て直しという意味では今回のBW壊滅作戦は見事な戦果を上げた。立て直された実力を見事に示したと言え、無理を推して兼職させた役割を終えたとも言える。
しばし、5人は考えていたが……。
「……当面このままで良かろう」
「そうだな、変えるにしても適当な人材がおらぬ」
五老星達も先代CP長官の起こした事件を忘れてはいない。
単純に政治的要因だけで選ぶならば、CPの長を務められる人材はいるが、先代のスパンダインの二の舞となっては目も当てられない。彼が腐敗させたCPの立て直しにどれだけの金と時間がかかった事か!
その間に、どれだけ革命軍に出し抜かれたり、海賊による世界への被害が広がった事か……。
多少リスクがない訳ではないが、無能や腐敗されるよりは遥かにマシだ。そう結論を五老星は下した。
「ではとりあえず、王下七武海だが……」
「そうだな、ではあちらに関してはまず、下から推薦を上げさせよう」
「そうだな……それからで良かろう」
そうして、この後。
この話し合いの結果として命じられた海軍本部における王下七武海後任選定の為の話し合いの最中に1人の男が自分の売り込みを為してくる。
その男の名を……。
『黒ひげ』マーシャル・D・ティーチという。