第206話−アスラの失敗アスラの事情
「……待て、ルフィ。何故お前が空島の事を知っている?」
普通の海軍軍人は空島の事など知らない。
だが……。
「え?アスラが以前言ったじゃんか」
「……なに?」
記憶にない。
が、ルフィが言うには……。
〜回想〜
それは、まだルフィが子供の頃の話だった。
アスラは当時、仕事に追われ、この時も家にまで仕事を持ち帰り処理を続けていた。
そして、この時たまたまルフィは本を読んでいて、アスラの部屋へと入り込んでいたのだった。その時に手にしていた本の名を『うそつきノーランド』という。
「なあなあ、アスラ。こいつ悪い奴なのか?」
「……いや」
「でも、皆を騙したのって悪い奴じゃないのか?」
「嘘をついていないからな」
……繰り返すようだが、この時アスラは非常に忙しかった。
とにかく、こうしてルフィの問いに返事を返すのも殆ど反射的なもので、目の前の書類以外頭が働いていなかった。
「じゃあ、黄金郷ってどっかにあるのか!」
「ああ、空に吹っ飛んで空島に引っ掛かったからな……」
「へ〜空島ってのがあるのか」
「ああ」
〜以上回想終了〜
「……って言ってたじゃんか」
ルフィの思い出を聞いて、アスラは頭を抱えたくなった。
正直、全く記憶にない。
(……他にもやばい事洩らしたりしていないだろうな……)
そう思い、念の為にと聞いてみたが、どうやら他にはないようだった。
その点にはほっとしつつも、考え込んだ。
(……どうする。そんなものは存在しない、子供の夢を壊さない為だ、と否定するのは簡単だが……原作ではこの時期エネルがスカイピアを支配していたはず……ルフィは奴の天敵だ。今のルフィならば、原作以上に優位に戦えるはずだ)
ちらり、と視線をやる。
それに、と考える。
元々、原作でも真っ当な連中、或いは干渉次第で何とかなる相手に対しては交渉してきた。
アマゾン・リリーなどはその成果の1つであり、実の所原作のジャヤにも準備を行なってきた結果、やっと周辺の国家からも賛同を得て、世界政府からも『相手が受け入れた場合』ではあるが、許可を得た事柄がある。
問題は空島に行った上で対処せねばならない相手がエネル1人ではない事だ。
……神官とかいう連中がいたはずだが、その全員の事などもう覚えていない。何か玉のようなものに乗ったようなのがいたのと、うっかりのボケ頭がいたのは覚えているが……はて、他のはどんなのがいたか。
一応、空島の事は調べてはいた。
何かの役に立つ可能性がないでもないからだ……それに、珍しい貝というか、本当に貝か?というのがあった。
「……ルフィ、他の連中も行くのか?」
「ん?ああ、コビーとヘルメッポとウソップも行くぞ。ナミも誘ったら、面白そうって言ってたけど」
ふむ、ナミは海図作りの為、って所か?それなら可能性は……あるか。
だが、行く方法が限られている。果たして上手くいくかどうか……。
かといって……。
「……とにかく、全員に話をしてからだ。海兵がついてきてくれるかも問題だからな」
とはいえ。
海兵にも色んな奴がいる。中には……こういう事に興味を持つ奴もいる。
一応、センゴク元帥らにも話はせねばなるまいが……。
(……途轍もなく厄介な事になりそうな気がしてきたな。BWが片付いてる分だけマシか)
もっとも、まだ逃走中のMr.2。生きたまま捕えられた連中、ニコ・ロビンらの事が残っているのでそう長い事出撃が出来る状況ではないのだが……。
(まあ、分かっていて、このまま放置するのも気が引ける)
何しろ、このままいけば確実に神エネルによって、スカイピアとそこに生きる人々は殺されるのだ。
あくまでルフィらが説明を聞いた上で尚行くと決めた場合ではあるが……助けられるものならば助けたい。
内心でルフィが確実に行くと言うのを確信しつつ、アスラは他の者も呼ぶよう手配を命じた。