第207話−空を目指す者達
改めてアスラは集まった面子を見た。
ルフィ。
ウソップ。
コビー。
ヘルメッポ。
そしてナミ。
いずれも原作とは大幅に異なる道を歩んだ。
ルフィは幼い頃より海軍の島マリンフォードで育ち、今では海軍大佐だ。
ウソップも元より原作でも器用な男だったが、Dr.ベガパンクの技術に惚れ込み、技術班へ移籍。
技術を実地で活かすという趣旨の元、技術班で開発した様々な武装を現場へと持ち込んでいる。ベガパンクの弟子候補の1人として、ルフィの船にもアレコレと改造を(無論許可を得てだが)加えているらしい。
コビーはまだ原作に近い。
だが、覇気を戦争のショックで自然と覚えた事から素質があるとアスラがガープに相談した結果として、早期に覇気に目覚め、見聞色はほぼ完璧。武装色もある程度使いこなせるようになってきている。まあ、さすがに覇王色までは無理だったが。
ヘルメッポに至っては何と悪魔の実の能力者だ。
何の実の、かは話が進めば明らかになるだろう。原作同様ククリに似た2本のナイフを用いた戦闘術には変わりない。
そして、ナミは風を読み、天気と話す力はもう能力の域と言っていい。
原作ではクリマタクトを手に入れるまでまともな戦闘力を持っていなかったが、今の彼女は棒術でそれなりの戦闘力を持っている……とはいえ、先に述べた男性一同に比べれば大分劣るのだが。
ちなみにナミの髪は現在肩を越えて背中で波打っている。どうも、ハンコックの綺麗な長い髪に憧れたらしい。
アスラからすれば何かしらの縁で繋がっていると感じる一堂だ。
特に引き合わせた訳でもないのに、ルフィもウソップもコビーもヘルメッポも……出会い、友となった。
とりあえず、この面々ならば原作並と行くかは分からないが、それなりの相手でも何とかなるだろう、そう判断し、アスラは口を開いた。
「さて、空島を目指すという事だが……まず言っておく。空島は実在する」
アスラという世界政府でも最も情報に長けた人物に断言された事で、ルフィ以外の面々にどこかあった不安感が消えたのが分かった。何しろ、ルフィが聞いたと言っても小さい子供時代の話。しかも、語られた大元は有名な絵本。興味はあっても、半信半疑だったのだろう。
「『うそつきノーランド』、そういう童話を知っているな?」
北の海では知らぬ者のない有名な童話だ。
マリンフォードでも知っている者は多い。そして今回の話をルフィがするにあたって持ち出していた事もあり、皆頷いた。
「あの主人公として描かれているモンブラン・ノーランド。彼の遺したという航海日誌を分析すると、他の海の住人ならば荒唐無稽と取るかもしれないが、グランドラインの住人が読めばその正確さは目を見張るものがある」
つまり、あれが荒唐無稽な嘘をつく『嘘つき』とされたのは黄金郷の話が直接の引き金となったのは確かだが、同時にグランドラインを知らぬ者達の地で広まったお話であった事も大きかったという事。
「そして、彼のお話で語られた黄金郷だが……それは空の上。ノックアップストリームに吹き飛ばされ、空島に引っ掛かり、今も空を漂い続けている」
「ノックアップストリーム?」
嫌な単語を聞いたとばかりに、ナミが顔を顰める。
気持ちは分かる。誰だってあんなものに好き好んで関わりたくはあるまい。だが、今回はそうはいかないのだ。
「空島へと行く方法は2つ。1つはハイウエストの頂から至る方法だ」
天空高く伸びる頂ハイウエスト、その天を貫く山は空島と時折接する。その時、空島へと至るのだ。
だが、これは時間もかかるし、何よりまず全員は到達出来ない。
「なら、駄目だ」
それを聞くなり、きっぱりと言い切ったのはルフィだった。
全員で到達出来なければ意味はない、そう言い切るルフィのその態度は軍人としては未熟とも言える。優れた軍人とはどれだけ効率よく味方も含めて人を殺せるかに尽きる。味方1人の犠牲で10人の敵を倒せたなら、それは実に優れた軍人の証なのだ。
だが、船長としてならば、そして人としてならばそれは正しい。
だからこそ、ナミもウソップらもルフィを単なる海軍から任命されたというだけではなく、本当の意味で船長として認めているのだろう。
「では、もう1つの方法だな。それが突き上げる海流——ノックアップストリームに乗る事だ」
「ちょっと待って!でも、あれは……」
疑問符を浮かべるルフィらとは別に、この中では唯一それを知るナミが血相を変える。
突き上げる海流、ノックアップストリーム。
それは本来、災害だ。
下手に飲み込まれれば空へと打ち上げられ、空島が上空になければ海へと落ちてきて叩きつけられる。空島があったとて、海流に乗り損ねれば矢張り一環の終わり。
「ああ、だから行くのならお前の、ナミの腕が必須だろう」
アスラのその言葉に、ナミの顔が変わった。
「その上で問う。ノックアップストリームで空島へ至る道は0か100か。成功すれば全員が行ける、だが、失敗すればおそらくたすか……いや、まあ、ベガパンクの技術で改造された船だと1……いや、10ぐらいは助かる可能性があるかもしれんが、死ぬ可能性も十分以上にある。それでも行くのか?」
最後の確認だった。
もっとも……。
「行く」
ルフィは揺らがない。
腕を組み、笑顔で断言した。
その様子に、他一同はと言えば、苦笑しつつも止める者や行くのを止める者はいない。
「いいだろう、ならば行こう」
「あれ?アスラも行くのか?」
「ああ……ノックアップストリームの起きる海を知り尽くしている男達、お前達が空島へ行くのならば絶対その協力が必要な男達……猿山連合軍の大ボス、そして『うそつきノーランド』の子孫……モンブラン・クリケットに会いにな」
今の彼らはこんなものです
ヘルメッポとウソップに関しては、疑念もあるかもしれませんが、この世界ではこういうものだと思って頂ければ……
なかなか時間が取れないのが最近の悩みの種です
ワンピース総集編で、改めて空島編を読み直しましたが……懐かしいですねえ